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《セイント・ペニー》
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2月中旬の金曜の朝。
「なにこれ!」
アンジーが聖雅の手を掴んで叫んでいた。
俺が見ると、聖雅が握っているもので騒いでいるようだ。
「どうした?」
「セイガが、ヘンなペニー(1セントのコイン)を握っているの!」
「なんだ?」
俺が近付いて見ると、アレだった。
「おお! 出て来たかぁ!」
「なーに?」
「いいものだぁ! トラが来るぞ!」
「え、トラが?」
アンジーが訝しがるが放っておいてスージーに電話した。
「俺のスケジュールはどうなっている?」
「今の所は特段。4月の初旬にはアラスカで合同演習がありますので、ボスにも同行願いますが」
「じゃあ、それまではヒマだな!」
「いいえ、会社にはいらして下さいね!」
「ワハハハハハハ!」
まあ、トラが来なけりゃな。
聖雅からペニーを取り上げると、不満そうな顔をした。
「よく見つけてくれたな!」
俺が笑いながら抱き上げると、機嫌を直して笑い出した。
「お前は最高の息子だぁ!」
俺が首の周りで回してやると喜んだ。
「あなた、危ないって!」
「ワハハハハハハ!」
床に立たせて、俺はペニーを眺めた。
リンカーンの頭に向かって亀裂が入っている。
そのために、リンカーンに角が生えたように見える。
「またトラと戦場に立てるかぁ」
《セイント・ペニー》
トラがこのコインをそう呼んだ。
俺にとって、最高の幸運をもたらすものだ。
俺が上機嫌でペニーを眺めているので、アンジーがコーヒーを持って来て微笑んで聞いた。
「ねぇ、なんなの、それ?」
「ああ」
俺は笑って話してやった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お前は仕事を失敗した。だから1セントだって払えねぇぜ!」
「ふざけんな! ジャンニーニ!」
でも俺は退き下がるしか無かった。
ジャンニーニ一家に仕事を貰い、スラムのギャングを始末した。
リーダーだけは生かして連れて来いという命令に従ったが、ジャンニーニの部下が勝手に殺しやがった。
それで報酬はおじゃんだ。
「チクショー!」
暴れれば、今後の仕事に傷がつく。
それにジャンニーニ一家はでかい組織だ。
ジャンニーニを殺しても、必ず揉め事になる。
だから引っ込んだ。
悔しくて泣いた。
俺はトラと違って頭が悪い。
喧嘩しか出来ない。
「トラ、俺はどうすればいいんだよ」
チャップの傭兵派遣の仕事をしばらくしてから、俺は独立してフリーの傭兵になった。
そんな時、トラから自分の会社を持てと言われた。
「聖はセンスがあるよ。会社を起こせばきっと成功する」
「ほんとか!」
トラが言うことだ、間違いはないだろうと思った。
トラがいろいろ手伝ってくれて、俺は「セイントPMC」を設立した。
チャップも協力してくれた。
最初は俺一人の社長兼傭兵だった。
だからやることはこれまでと同じだった。
でも、会社組織にしたことで、様々な税金対策が出来た。
これまで収入の全てに掛かっていた税金が、会社の必要経費をガンガン差し引いて随分と安くなった。
トラに感謝した。
だから今度の失敗はトラに申し訳なかった。
俺のバカは治らない。
トラの顔に泥を塗ってしまった。
自分のアパートへ戻った時、入り口でコインを拾った。
「あんだ、ペニーかよ」
汚いペニーだった。
しかも傷がついている。
ナイフか何かでついたか、切れ込みが入っていて、裏面のリンカーンの額に角が生えたように見える。
無理矢理亀裂を入れたせいか、全体が歪んでいた。
「ジャンニーニ、取り敢えず1セントは貰ったぜ」
そう自分で言いながら、また情けない気持ちになっていた。
手に握りしめながら、部屋へ入った。
電話が鳴った。
「聖!」
「トラか!」
さっきまでの落ち込みが嘘のように消えた。
トラが電話してくるなんて滅多に無い。
「もうすぐ夏休みでさ。3週間はそっちにいられそうなんだ」
「ほんとかよ! 絶対来いよな!」
「アハハハハハ! それでな、もしもお前の仕事を手伝えそうなら、また一緒にやろうかと思って」
「そうか! じゃあ何か探しておくよ」
「楽しみだぜ!」
「俺もだぁー!」
俺はすぐに仕事を探し、ソマリアの海賊拠点の島を制圧する仕事のオファーを受けた。
2週間後にトラが来た。
迎えはいらないと言うので、アパートで待っていた。
本当は少しでも早くトラの顔が見たいので、空港へ迎えに行きたかった。
我慢していた。
3時頃にチャイムが鳴り、急いでドアを開けるとトラが笑って立っていた。
「よう! 来たぜ!」
「トラぁー!」
抱き着こうとすると腹にパンチを入れられた。
中へ入れて、コーヒーを淹れた。
トラが。
俺たちはしばらく近況を話し合った。
情けなかったが、ジャンニーニの仕事の話もした。
「なんだと! 報酬を払わなかったのかよ!」
「ああ。でもしょうがねぇよ。俺、バカだから」
「お前はバカなんかじゃねぇ!」
トラに怒鳴られて驚いた。
いつも俺をバカと言っているのはトラじゃん。
「お前は仕事に関しては超絶優秀な奴だ! ヘマなんか絶対にしねぇ! 俺はそのことを誰よりも知ってるぜ!」
「でも、トラ……」
「だからニカラグアでいつだって背中を任せられたんだ! お前は俺が危ない時には絶対に守ってくれると信じているからだぁ!」
「!」
トラがそんな風に自分を信頼してくれていたとは思わなかった。
嬉しくて涙が出た。
「仕事に関しちゃ、お前ほど真面目で優秀で信頼出来る奴はいねぇ。だから会社を創れっていったんじゃねぇか。おい! 泣いてんじゃねぇ!」
「そうだったのかぁ」
トラが立ち上がった。
「絶対に許さねぇ」
「おい、トラ!」
「聖、ガンはあるか?」
「あ、ああ」
「アサルトライフルは?」
「M16が1丁ならすぐに」
「おし! それはお前が持て。俺はサイドアームとナイフがあればいい」
「トラ、何すんの?」
「ジャンニーニ・ファミリーにカチコミを掛ける!」
「なんだとぉー!」
俺は必死で止めた。
相手はニューヨークを締めている大きな一家だ。
でも、俺がそう言うと、トラが獰猛に笑った。
「それがどうした? 俺と聖が突っ込んで、出来ねぇことがあるってか?」
「トラ!」
「俺とお前だぞ! 何だって出来る!」
「!」
感動した。
トラが出来ると言っているんだ。
どうしてそれが出来ないわけがあるか。
俺は急いで準備した。
タイガーストライプのコンバットスーツに着替える。
ニカラグア時代から、二人でこれを着て来た。
あの日、あの時に戻った。
俺はそのことが、一番嬉しかった。
「なにこれ!」
アンジーが聖雅の手を掴んで叫んでいた。
俺が見ると、聖雅が握っているもので騒いでいるようだ。
「どうした?」
「セイガが、ヘンなペニー(1セントのコイン)を握っているの!」
「なんだ?」
俺が近付いて見ると、アレだった。
「おお! 出て来たかぁ!」
「なーに?」
「いいものだぁ! トラが来るぞ!」
「え、トラが?」
アンジーが訝しがるが放っておいてスージーに電話した。
「俺のスケジュールはどうなっている?」
「今の所は特段。4月の初旬にはアラスカで合同演習がありますので、ボスにも同行願いますが」
「じゃあ、それまではヒマだな!」
「いいえ、会社にはいらして下さいね!」
「ワハハハハハハ!」
まあ、トラが来なけりゃな。
聖雅からペニーを取り上げると、不満そうな顔をした。
「よく見つけてくれたな!」
俺が笑いながら抱き上げると、機嫌を直して笑い出した。
「お前は最高の息子だぁ!」
俺が首の周りで回してやると喜んだ。
「あなた、危ないって!」
「ワハハハハハハ!」
床に立たせて、俺はペニーを眺めた。
リンカーンの頭に向かって亀裂が入っている。
そのために、リンカーンに角が生えたように見える。
「またトラと戦場に立てるかぁ」
《セイント・ペニー》
トラがこのコインをそう呼んだ。
俺にとって、最高の幸運をもたらすものだ。
俺が上機嫌でペニーを眺めているので、アンジーがコーヒーを持って来て微笑んで聞いた。
「ねぇ、なんなの、それ?」
「ああ」
俺は笑って話してやった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お前は仕事を失敗した。だから1セントだって払えねぇぜ!」
「ふざけんな! ジャンニーニ!」
でも俺は退き下がるしか無かった。
ジャンニーニ一家に仕事を貰い、スラムのギャングを始末した。
リーダーだけは生かして連れて来いという命令に従ったが、ジャンニーニの部下が勝手に殺しやがった。
それで報酬はおじゃんだ。
「チクショー!」
暴れれば、今後の仕事に傷がつく。
それにジャンニーニ一家はでかい組織だ。
ジャンニーニを殺しても、必ず揉め事になる。
だから引っ込んだ。
悔しくて泣いた。
俺はトラと違って頭が悪い。
喧嘩しか出来ない。
「トラ、俺はどうすればいいんだよ」
チャップの傭兵派遣の仕事をしばらくしてから、俺は独立してフリーの傭兵になった。
そんな時、トラから自分の会社を持てと言われた。
「聖はセンスがあるよ。会社を起こせばきっと成功する」
「ほんとか!」
トラが言うことだ、間違いはないだろうと思った。
トラがいろいろ手伝ってくれて、俺は「セイントPMC」を設立した。
チャップも協力してくれた。
最初は俺一人の社長兼傭兵だった。
だからやることはこれまでと同じだった。
でも、会社組織にしたことで、様々な税金対策が出来た。
これまで収入の全てに掛かっていた税金が、会社の必要経費をガンガン差し引いて随分と安くなった。
トラに感謝した。
だから今度の失敗はトラに申し訳なかった。
俺のバカは治らない。
トラの顔に泥を塗ってしまった。
自分のアパートへ戻った時、入り口でコインを拾った。
「あんだ、ペニーかよ」
汚いペニーだった。
しかも傷がついている。
ナイフか何かでついたか、切れ込みが入っていて、裏面のリンカーンの額に角が生えたように見える。
無理矢理亀裂を入れたせいか、全体が歪んでいた。
「ジャンニーニ、取り敢えず1セントは貰ったぜ」
そう自分で言いながら、また情けない気持ちになっていた。
手に握りしめながら、部屋へ入った。
電話が鳴った。
「聖!」
「トラか!」
さっきまでの落ち込みが嘘のように消えた。
トラが電話してくるなんて滅多に無い。
「もうすぐ夏休みでさ。3週間はそっちにいられそうなんだ」
「ほんとかよ! 絶対来いよな!」
「アハハハハハ! それでな、もしもお前の仕事を手伝えそうなら、また一緒にやろうかと思って」
「そうか! じゃあ何か探しておくよ」
「楽しみだぜ!」
「俺もだぁー!」
俺はすぐに仕事を探し、ソマリアの海賊拠点の島を制圧する仕事のオファーを受けた。
2週間後にトラが来た。
迎えはいらないと言うので、アパートで待っていた。
本当は少しでも早くトラの顔が見たいので、空港へ迎えに行きたかった。
我慢していた。
3時頃にチャイムが鳴り、急いでドアを開けるとトラが笑って立っていた。
「よう! 来たぜ!」
「トラぁー!」
抱き着こうとすると腹にパンチを入れられた。
中へ入れて、コーヒーを淹れた。
トラが。
俺たちはしばらく近況を話し合った。
情けなかったが、ジャンニーニの仕事の話もした。
「なんだと! 報酬を払わなかったのかよ!」
「ああ。でもしょうがねぇよ。俺、バカだから」
「お前はバカなんかじゃねぇ!」
トラに怒鳴られて驚いた。
いつも俺をバカと言っているのはトラじゃん。
「お前は仕事に関しては超絶優秀な奴だ! ヘマなんか絶対にしねぇ! 俺はそのことを誰よりも知ってるぜ!」
「でも、トラ……」
「だからニカラグアでいつだって背中を任せられたんだ! お前は俺が危ない時には絶対に守ってくれると信じているからだぁ!」
「!」
トラがそんな風に自分を信頼してくれていたとは思わなかった。
嬉しくて涙が出た。
「仕事に関しちゃ、お前ほど真面目で優秀で信頼出来る奴はいねぇ。だから会社を創れっていったんじゃねぇか。おい! 泣いてんじゃねぇ!」
「そうだったのかぁ」
トラが立ち上がった。
「絶対に許さねぇ」
「おい、トラ!」
「聖、ガンはあるか?」
「あ、ああ」
「アサルトライフルは?」
「M16が1丁ならすぐに」
「おし! それはお前が持て。俺はサイドアームとナイフがあればいい」
「トラ、何すんの?」
「ジャンニーニ・ファミリーにカチコミを掛ける!」
「なんだとぉー!」
俺は必死で止めた。
相手はニューヨークを締めている大きな一家だ。
でも、俺がそう言うと、トラが獰猛に笑った。
「それがどうした? 俺と聖が突っ込んで、出来ねぇことがあるってか?」
「トラ!」
「俺とお前だぞ! 何だって出来る!」
「!」
感動した。
トラが出来ると言っているんだ。
どうしてそれが出来ないわけがあるか。
俺は急いで準備した。
タイガーストライプのコンバットスーツに着替える。
ニカラグア時代から、二人でこれを着て来た。
あの日、あの時に戻った。
俺はそのことが、一番嬉しかった。
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