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「砂漠の虎」作戦 Ⅷ

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 「虎白さん、大丈夫ですか?」
 「今てめぇにやられたんだぁ!」
 「ワハハハハハハ!」

 状況は大体把握出来た。
 目の前にいる白い怪物から、これまで感じたことの無い強烈なプレッシャーが来ている。
 そいつは俺を一つ目で睨んでいる。
 「虎王」が、強敵であることを俺に伝えていた。

 「地獄から呼び出されたんだよ。一体何千人犠牲にしたやら」
 「そうですか」

 虎白さんが俺に説明してくれた。

 「前にもご先祖が対峙した。何にも出来なかったそうだ」
 「そいつは?」
 「幸いにも時間切れだったみたいでな。当時の剣士40人のうち、残ったのは3人だ」
 「相当ですね」

 こいつにもタイムリミットがあるのかは分からない。

 「周囲5メートルに結界を敷いている。触れれば死ぬぞ」
 「分かりました」
 「拡がるかもしれねぇ、気を付けろ」
 「はい!」

 流石に虎白さんは必要なことを全て捉え、簡潔に俺に伝えてくれた。
 俺は「虎王」を構えて近づいた。
 「虎王」は、俺に結界の位置を教えてくれていた。
 その結界が迫って来た。
 白い怪物は動いていない。
 やはり、虎白さんが言った通り、範囲を拡げられるのだ。
 「虎王」で結界に斬りつけた。
 激しい電光を拡げながら、結界が破壊されていく。
 白い怪物が苦しそうに身を動かした。

 俺は「虎王」を振るいながら白い怪物に迫った。
 右手の「五芒虎王」を頭部に振り下ろす。
 白い皮膚のようなものの上で、「虎王」が止まった。
 何らかの力でレジストされたのだ。
 顔の脇の裂け目が開く。

 「高虎! 攻撃が来るぞ!」

 でかい両手が俺を向いた。
 俺は「虎王」を振るって「極星結界」を纏いながら怪物の背中へ回避した。
 白い怪物の前方の地面が激しく爆発した。
 その方向にいた石神家の剣士たちが吹っ飛んで行く。

 「てめぇ!」

 白い怪物が高速移動した。

 「動けんのかよ!」

 俺から距離を取ったので、また裂け目が開いた。

 「紅! あいつの周辺に炸裂弾を撃て!」
 
 両足を喪った紅が、羽入に支えられながら「バハムート」の砲撃を開始した。
 砂塵が舞い上がる。

 攻撃が無かった。
 大気以外を吸い込みたくないのだろう。
 予想通りだ。

 「続けろ!」

 紅が連射する。
 炸裂弾が尽きると、ありったけの武装で周囲の地面を破壊して行った。
 紅も俺の意図を把握していた。

 俺は白い怪物に迫った。
  
 「夢想煉獄!」

 高速で「虎王」の連撃を繰り出して行く。
 白い怪物の体表に傷が無数に刻まれ、すぐにそれが大きく拡がるようになった。
 身に纏った強力な結界が弱まっているのだ。

 「龍牙連星!」

 両手で無数の突きを白い怪物の巨大な眼球に撃ち込む。
 白い怪物が地面に崩れた。
 俺は怪物の体内に高熱の発生を感じて空中に舞い上がった。

 「伏せろぉー!」

 怪物の周囲10メートルで火柱が上がった。
 俺は虎白さんの傍に降り立つ。
 50メートル以上離れているが、ここまで高熱を感じた。

 「仕舞いか」
 「そうですね」

 全員で燃え続ける火柱を眺めた。





 桜が損耗を俺に報告した。

 「剣持が戦死しました。石神さんへの救援要請を完遂するために」
 「そうか」
 「自分に向かって笑って逝きました」
 「そうか」
 「デュール・ゲリエ33体が我々を救うために特攻。紅が両足破損。石神家の剣士の方1名が戦死。3名が重傷です」
 「……」

 虎白さんが言った。

 「死んだのは虎葉だ」
 「あの方ですか」
 「俺よりも年上でな。真っ先に行ったよ」
 「そうですか」
 
 石神家に行った時に、俺も会っている。
 70代だったはずだが、壮健で優しく笑う人だった。

 「高虎、地獄はあるんだよ」
 「はい」
 「そこじゃとんでもなく強い連中がいる。互いに喰らい合いをやっている奴らだ。強い奴しかいない」
 「はい」
 「この世界に来ることは稀だ。相当な人間の命を捧げないといけないからな。それに儀式の方法を知らなきゃ出来ねぇ」
 「はい」
 
 虎白さんが俺を見ていた。

 「おい、お前の敵よ、とんでもねぇ奴だな」
 「お世話になります」

 虎白さんが笑った。

 「おう!」





 1時間後、全てのジェヴォーダンとバイオノイドを駆逐し、桜たちの戦闘は終了した。
 ロシア軍との戦闘も、デュール・ゲリエたちの活躍で圧倒的な勝利に終わった。
 M国のロシア軍基地は殲滅装備のデュール・ゲリエ30体によって壊滅し、M国は米軍の侵攻と共に全面降伏した。
 軍事政権は崩壊し、占領米軍が統治しながら民主政権が生まれる。
 しばらくは米軍が駐屯するが、恐らく今後は旧宗主国のフランスと連携して傀儡政権が続くだろう。
 
 ロシアはアフリカ大陸での拠点を喪った。
 今後中東の資源を狙うことは難しくなった。
 ロシア政府は米軍の侵攻作戦と非難し、アメリカと険悪な雰囲気になる。
 しかし、今更のことだ。
 とっくにロシアは欧米各国から見限られ、友好的な国は少ない。
 軍事的に正面から敵対する体力も無い。
 国内の一層の締め付けと奪い合いが激化するだろう。
 一つの懸念は中国との接近だ。
 中国は今の国際情勢に則って、覇権を考え始めている。
 欧米が外交努力をしているが、果たしてどうなるかは分からない。





 俺たちは「ファブニール」でアラブ首長国のフランス軍基地へ戻った。
 俺は「タイガーファング」を呼んで、両足を喪った紅と同じく右の大腿骨を骨折した羽入を蓮花研究所へ運んだ。

 「お前、よく足を失くすよなぁ」
 「申し訳ありません」
 「羽入が大怪我だって知らなかったぜ」
 「必死でしたので」
 「お前、こんな足で紅を支えてたのかよ」
 「はい、必死で」

 「まあ、みんな必死だったよな!」

 俺が笑うと、二人も苦笑した。

 「生きてて良かった」
 「「はい!」」

 「じゃあ、頑張った二人に俺からプレゼントをやろう」
 「とんでもない! 大した働きが無かったばかりか、こんな負傷までしてしまい」
 「そんなことはねぇよ。羽入が紅を支えて砲撃してくれなきゃ、俺も大変だった」

 紅が俺をじっと見つめた。

 「石神様、あれは必要ありませんでしたよね?」
 「あ?」
 「石神様は、私などの支援が無くとも、あの怪物を撃破していらっしゃいました」
 「そうじゃねぇよ」
 
 俺は紅の頭を撫でた。

 「そうじゃねぇ。俺はお前たちに感謝しているんだ」
 「……」

 「それでな。蓮花には手配させているんだよ」
 「はい、どのような?」
 「紅に生殖器を着ける」
 「!」

 紅が真っ赤になる。

 「羽入、良かったな!」
 「は、は、はい」
 「羽入!」

 紅が羽入を怒鳴った。

 「紅、俺がやることに文句があるのか?」
 「い、いいえ、そういうことではないのですが!」
 「そうか、ならいいや」
 「あの、石神様!」

 「ワハハハハハハ!」

 羽入と紅を蓮花研究所に降ろし、俺は家に戻った。
 プラトニックな関係に収めようと思っていたが、戦闘前夜の二人の会話を蓮花が聴いていた。
 手か口でしようかと言う紅が微笑ましかったと蓮花が俺に言って来た。

 まあ、今後はプライベートのデータ保存は控えてやるか。
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