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「砂漠の虎」作戦 Ⅵ

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 「虎白さん!」

 「ファブニール」から飛び出して行く石神家の剣士たちに、桜は慌てて叫んだ。
 作戦も何もあったものではない。
 敵影を視認した瞬間に、18人が一斉に飛び出して行った。

 「桜さん!」
 「お、俺たちも行くぞ! 4マンセル(4人一組)だ!」
 「はい!」

 100名の戦士たちにそれだけを命じ、桜は羽入と紅に命じた。

 「お前たちはまだここに残れ。この指揮車両を守ってくれ」
 「分かりました」

 桜は「ウラール」からの情報を確認している。
 ジェヴォーダン16、バイオノイドと思われる歩兵1000。
 ライカンスロープ3体。

 桜は、ライカンスロープの少なさに警戒していた。
 
 「ロシアで出て来た超長距離タイプはいないようです!」
 
 通信担当の剣持が言った。
 それは朗報だった。

 石神家の剣士たちは、とにかく迫りくるジェヴォーダンに襲い掛かる。
 「カサンドラ」をロングソードにし、猛然と斬り掛かって行く。
 高速移動するジェヴォーダンだったが、どういう理屈か、剣士たちがその巨体を斬り裂いて行くのを、桜は驚嘆して見ていた。

 「デュール・ゲリエはまだ動かさない。必要ないようだ」

 ロシア軍の航空戦力に対応するためにも、デュール・ゲリエが必要だった。
 今は温存し、予測外の事態に備えた。

 「虎」の軍の戦士たちも、バイオノイドと交戦していく。
 バイオノイドも高速移動をするが、4人一組での連携で、次々に撃破していった。
 しかし集団でぶつかった場所で、押されて行く。
 桜は随時、デュール・ゲリエをそうした戦線に応援に行かせた。

 「順調ですね」
 「ああ、だが油断するな」

 参謀となった元マリーンのジェイに桜が言う。
 ジェイの方が戦闘には慣れており、指揮は巧みだ。
 だからこそ、今回は桜の指揮能力の教導で一緒にいる。

 「ライカンスロープはどうしている?」
 「後方で様子見ですね」
 「虎白さんたちは?」
 
 ジェイが石神家の剣士たちを観測しているモニターに向く。

 「あー、無茶苦茶です」
 「なんだ?」

 ジェイが笑ってモニターを示す。
 そこでは嬉々として「カサンドラ」縦横無尽に振るう姿が見えた。

 「楽しんでるな!」
 「そうですね!」

 何人かが、「カサンドラ」ではなく、日本刀でバイオノイドを斬り伏せている。
 虎白はジェヴォーダンにも日本刀で襲い掛かっている。
 しかも、それが通じていた。

 「「ワハハハハハハ!」」

 桜とジェイが爆笑した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「虎白! 俺にもやらせろ!」
 「おう! やれやれ!」

 「カサンドラ」では味気ないと見た石神家の剣士は、腰の日本刀に切り替えた。
 ジェヴォーダンに向かって行く。

 「連山!」

 60メートルのジェヴォーダンに奥義で挑む。
 巨体の脇腹に、大きな穴が空いて行き、やがてジェヴォーダンが沈黙する。

 「出来るな!」
 「ガハハハハハハ!」

 「虎」の軍の戦士たちが離れた場所で唖然として見ていた。

 「虎白! 後ろの連中!」

 戦闘に参加しようとしない、3体のライカンスロープを指差して剣士の一人が言った。

 「あいつらもやっちまうか」
 「待て、結構強いぞ」
 「ビビッたか!」
 「なんだと!」

 誰かが3体に向けて「雷電」を飛ばした。
 「花岡家」と過去に衝突した際に、「轟雷」を石神家の剣技に吸収した技だった。
 雷電を避けて3体が散開し、猛スピードで移動を始めた。

 「ばかやろう! あれは俺の獲物だぁ!」

 虎白は、既にこの戦場の最大戦力があの3体だと見抜いていた。
 図体のでかいジェヴォーダンはそれほどの脅威ではない。
 他の剣士たちも、同様に3体の強さを感じていた。
 争うように、剣士たちが3体に向かう。

 「桜さん! 戦線が乱れた」
 「あははは」

 石神家の剣士の戦線に穴が空いた。

 「デュール・ゲリエ! ジェヴォーダンを駆逐しろ!」

 桜が命じ、100体の殲滅戦装備のデュール・ゲリエが空中に上がる。
 残った6頭のジェヴォーダンを駆逐した。

 「デュール・ゲリエはそのまま戦士たちとバイオノイドを攻撃させろ」
 
 バイオノイドは予想以上に強かった。
 特殊部隊の猛者にも軽々と勝利する「虎」の軍の戦士が苦戦している。
 桜が4マンセルにしたことは正しかった。
 人間の動きではない。
 しかも速い。
 重武装の戦士たちが強力な砲撃で遠ざけつつ、包囲されることなく戦っているので、何とか相手になっている。
 そしてデュール・ゲリエが空中から攻撃を始めたことで、やっと安定して戦えるようになった。

 「俺たちもまだまだだな」
 「しょうがないですよ。あの人らは化け物なんだから」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「うぉっと!」

 石神家の剣士の一人が飛び退いた。

 「なんか飛ばして来るぞ!」
 
 腿を浅く切られていた。

 「こいつ、油断しやがった! ギャハハハハハ!」

 他の剣士が爆笑する。

 「痛ってぇ!」

 笑った剣士が肩を切られた。

 「ギャハハハハハ!」

 腿を切られた剣士が大笑いした。

 「バカ! 遊んでんじゃねぇ!」

 虎白が接近して斬り掛かった。
 身長3メートル。
 長い銀髪が腰まで伸び、横にも膨らんでいる。
 額に二本の角と、四つの目。
 その他は逞しい肉体である他は人間と変わらない。
 身体を覆うものはなく、全裸だった。

 虎白の刀が首に当たって折れた。

 「このフルチンがぁ!」

 虎白は距離を取る。
 ライカンスロープはその後ろへ下がる以上のスピードで虎白へ迫った。

 「煉獄!」

 虎白は折れた刀で奥義を繰り出した。
 ライカンスロープの胸が幾重にも切り裂かれ、逆へ飛んだ。

 「虎白!」
 「刀で斬れるぞ!」

 『おう!』

 全員が怒号で応え、各自ライカンスロープに迫った。
 ライカンスロープが余裕を持って笑った。
 迫りくる剣士に身構える。
 日本刀の攻撃を侮っていた。
 待ち構えて余裕を見せている。

 全員が瞬時に日本刀を捨て、「カサンドラ」を握って斬り掛かる。
 ライカンスロープが斬り刻まれ、肉塊と化した。

 『ばーか!』

 全員で嘲笑った。




 虎白は他の戦場を見た。
 
 「高虎の兵隊も結構やるな」
 
 その時、高速で飛翔する気配を感じた。

 「ヤバいぞ!」

 他の剣士も気付いた。
 ソレは桜たちのいる指揮車両へ向かっていた。
 剣士たちが全員で走った。
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