上 下
1,839 / 2,808

「砂漠の虎」作戦 Ⅵ

しおりを挟む
 「虎白さん!」

 「ファブニール」から飛び出して行く石神家の剣士たちに、桜は慌てて叫んだ。
 作戦も何もあったものではない。
 敵影を視認した瞬間に、18人が一斉に飛び出して行った。

 「桜さん!」
 「お、俺たちも行くぞ! 4マンセル(4人一組)だ!」
 「はい!」

 100名の戦士たちにそれだけを命じ、桜は羽入と紅に命じた。

 「お前たちはまだここに残れ。この指揮車両を守ってくれ」
 「分かりました」

 桜は「ウラール」からの情報を確認している。
 ジェヴォーダン16、バイオノイドと思われる歩兵1000。
 ライカンスロープ3体。

 桜は、ライカンスロープの少なさに警戒していた。
 
 「ロシアで出て来た超長距離タイプはいないようです!」
 
 通信担当の剣持が言った。
 それは朗報だった。

 石神家の剣士たちは、とにかく迫りくるジェヴォーダンに襲い掛かる。
 「カサンドラ」をロングソードにし、猛然と斬り掛かって行く。
 高速移動するジェヴォーダンだったが、どういう理屈か、剣士たちがその巨体を斬り裂いて行くのを、桜は驚嘆して見ていた。

 「デュール・ゲリエはまだ動かさない。必要ないようだ」

 ロシア軍の航空戦力に対応するためにも、デュール・ゲリエが必要だった。
 今は温存し、予測外の事態に備えた。

 「虎」の軍の戦士たちも、バイオノイドと交戦していく。
 バイオノイドも高速移動をするが、4人一組での連携で、次々に撃破していった。
 しかし集団でぶつかった場所で、押されて行く。
 桜は随時、デュール・ゲリエをそうした戦線に応援に行かせた。

 「順調ですね」
 「ああ、だが油断するな」

 参謀となった元マリーンのジェイに桜が言う。
 ジェイの方が戦闘には慣れており、指揮は巧みだ。
 だからこそ、今回は桜の指揮能力の教導で一緒にいる。

 「ライカンスロープはどうしている?」
 「後方で様子見ですね」
 「虎白さんたちは?」
 
 ジェイが石神家の剣士たちを観測しているモニターに向く。

 「あー、無茶苦茶です」
 「なんだ?」

 ジェイが笑ってモニターを示す。
 そこでは嬉々として「カサンドラ」縦横無尽に振るう姿が見えた。

 「楽しんでるな!」
 「そうですね!」

 何人かが、「カサンドラ」ではなく、日本刀でバイオノイドを斬り伏せている。
 虎白はジェヴォーダンにも日本刀で襲い掛かっている。
 しかも、それが通じていた。

 「「ワハハハハハハ!」」

 桜とジェイが爆笑した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「虎白! 俺にもやらせろ!」
 「おう! やれやれ!」

 「カサンドラ」では味気ないと見た石神家の剣士は、腰の日本刀に切り替えた。
 ジェヴォーダンに向かって行く。

 「連山!」

 60メートルのジェヴォーダンに奥義で挑む。
 巨体の脇腹に、大きな穴が空いて行き、やがてジェヴォーダンが沈黙する。

 「出来るな!」
 「ガハハハハハハ!」

 「虎」の軍の戦士たちが離れた場所で唖然として見ていた。

 「虎白! 後ろの連中!」

 戦闘に参加しようとしない、3体のライカンスロープを指差して剣士の一人が言った。

 「あいつらもやっちまうか」
 「待て、結構強いぞ」
 「ビビッたか!」
 「なんだと!」

 誰かが3体に向けて「雷電」を飛ばした。
 「花岡家」と過去に衝突した際に、「轟雷」を石神家の剣技に吸収した技だった。
 雷電を避けて3体が散開し、猛スピードで移動を始めた。

 「ばかやろう! あれは俺の獲物だぁ!」

 虎白は、既にこの戦場の最大戦力があの3体だと見抜いていた。
 図体のでかいジェヴォーダンはそれほどの脅威ではない。
 他の剣士たちも、同様に3体の強さを感じていた。
 争うように、剣士たちが3体に向かう。

 「桜さん! 戦線が乱れた」
 「あははは」

 石神家の剣士の戦線に穴が空いた。

 「デュール・ゲリエ! ジェヴォーダンを駆逐しろ!」

 桜が命じ、100体の殲滅戦装備のデュール・ゲリエが空中に上がる。
 残った6頭のジェヴォーダンを駆逐した。

 「デュール・ゲリエはそのまま戦士たちとバイオノイドを攻撃させろ」
 
 バイオノイドは予想以上に強かった。
 特殊部隊の猛者にも軽々と勝利する「虎」の軍の戦士が苦戦している。
 桜が4マンセルにしたことは正しかった。
 人間の動きではない。
 しかも速い。
 重武装の戦士たちが強力な砲撃で遠ざけつつ、包囲されることなく戦っているので、何とか相手になっている。
 そしてデュール・ゲリエが空中から攻撃を始めたことで、やっと安定して戦えるようになった。

 「俺たちもまだまだだな」
 「しょうがないですよ。あの人らは化け物なんだから」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「うぉっと!」

 石神家の剣士の一人が飛び退いた。

 「なんか飛ばして来るぞ!」
 
 腿を浅く切られていた。

 「こいつ、油断しやがった! ギャハハハハハ!」

 他の剣士が爆笑する。

 「痛ってぇ!」

 笑った剣士が肩を切られた。

 「ギャハハハハハ!」

 腿を切られた剣士が大笑いした。

 「バカ! 遊んでんじゃねぇ!」

 虎白が接近して斬り掛かった。
 身長3メートル。
 長い銀髪が腰まで伸び、横にも膨らんでいる。
 額に二本の角と、四つの目。
 その他は逞しい肉体である他は人間と変わらない。
 身体を覆うものはなく、全裸だった。

 虎白の刀が首に当たって折れた。

 「このフルチンがぁ!」

 虎白は距離を取る。
 ライカンスロープはその後ろへ下がる以上のスピードで虎白へ迫った。

 「煉獄!」

 虎白は折れた刀で奥義を繰り出した。
 ライカンスロープの胸が幾重にも切り裂かれ、逆へ飛んだ。

 「虎白!」
 「刀で斬れるぞ!」

 『おう!』

 全員が怒号で応え、各自ライカンスロープに迫った。
 ライカンスロープが余裕を持って笑った。
 迫りくる剣士に身構える。
 日本刀の攻撃を侮っていた。
 待ち構えて余裕を見せている。

 全員が瞬時に日本刀を捨て、「カサンドラ」を握って斬り掛かる。
 ライカンスロープが斬り刻まれ、肉塊と化した。

 『ばーか!』

 全員で嘲笑った。




 虎白は他の戦場を見た。
 
 「高虎の兵隊も結構やるな」
 
 その時、高速で飛翔する気配を感じた。

 「ヤバいぞ!」

 他の剣士も気付いた。
 ソレは桜たちのいる指揮車両へ向かっていた。
 剣士たちが全員で走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...