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「砂漠の虎」作戦 Ⅴ

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 翌朝4時。
 全軍が基地を出発する。
 歩兵たちは軍用トラックに分乗し、装甲車もある。
 戦車の機甲師団は速度が遅いので、先に出発している。
 桜たちと石神家の剣士は高機動戦闘装甲車「ファブニール」に乗り込み、羽入と一部の人間が4台の大型バイク「レッドオーガ」に乗った。
 紅は羽入の後ろに乗っている。

 監視衛星と無人偵察機が逐次ロシア軍の進路を見張っている。
 予定通り、M国の国境を出た砂漠地点で戦闘になるはずだ。

 「随分と乗り心地がいいな」

 虎白が言い、桜が笑った。

 「石神さんが作ったものですからね」
 「俺らも石神だけどな!」
 「アハハハハハ!」

 「ロボットみてぇなのが大勢いたけどよ?」
 「ああ、デュール・ゲリエですね」
 「ありゃなんだ?」
 「戦闘用のアンドロイドです。強いですよ!」
 「へぇー。でも一緒に来ないのか?」
 「はい。飛行ユニットを装着して、飛んできますから」
 「なんだよ、そりゃ!」
 「自分ら、もしかしたらいらないかもしれません」

 虎白が怒鳴った。

 「おい! わざわざこんな砂漠まで来たんだ! ぜってぇやらせろ!」
 「はい、分かりました」

 数日の付き合いだったが、石神家本家の剣士たちは戦闘狂であることは分かっていた。
 戦況がどう展開するかは分からないが、恐らくデュール・ゲリエだけで片付くとは桜も思っていない。

 「デュール・ゲリエは米軍の補佐もしてもらう予定です」
 「おう! そっちに回せよ!」

 戦いたくて仕方が無い虎白たちに、桜は笑う。

 「あちらさんも、こっちの動きは見張っているはずです。まずは航空戦力で叩こうとすると思います」
 「そうか」
 「米軍も空軍が来てますが、敵の航空戦力を壊滅させてから出て来る予定です」
 「へぇー、自信があんだな?」
 「はい、その時はモニターでお見せしますよ」
 「まあ、こっちがドンパチしてなけりゃな」
 「はい!」

 「ファブニール」には大きなモニターが付いている。
 作戦指揮を執りながら移動出来るようになっていた。

 平均時速400キロで進みながら、20時間後に戦場に着いた。
 ジェヴォーダンとバイオノイドの軍勢が敵になる。
 まだ敵影は見えないが、虎白たちは「戦場」になることを既に確信していた。
 
 「あと2時間だな」

 虎白が獰猛に笑い、他の剣士たちも同じく笑っていた。




 「「デュール・ゲリエ」、5体が到着しました!」

 衛星通信を備えた指揮車両の中で、新たに派遣されたアンドレイ陸軍大将は通信兵からの報告を受けた。
 体長5メートルの殲滅装備のデュール・ゲリエと、大型のトレーラーが5台。
 トレーラーには、デュール・ゲリエの特殊兵装が積んであると聞いていた。
 
 「よし! まずは敵の航空戦力を叩くぞ! 「虎」から任せるように言われている」
 「はい!」

 アンドレイ大将は参謀2人と周辺の地形を再確認し、部隊の配備を進めていた。
 後続の機甲師団200両はあと2時間で到着する。
 ロシア軍の機甲師団500との交戦になるが、こちらは機甲師団の到着と共に攻撃ヘリ部隊100が同時に届くはずだった。
 敵からも航空戦力が来るはずだが、それをデュール・ゲリエが撃破する。
 どのような攻撃かは実際には見ていないが、無人のドローンのようなものを使うとは聞いている。
 無人機での攻撃は最新の戦闘のスタイルだが、「虎」の軍は恐らく相当高度な装備を備えているのだろうと考えられた。

 「レーダーに感! ロシア空軍の戦闘機部隊が来ます! 数、300!」
 「随分と多いな!」
 「はい!」
 「アンドレイ将軍! 我々も空軍の要請をした方が」
 「待て。一応スクランブルの準備だけ要請しろ」
 「はい!」
 
 ここにいるデュール・ゲリエは僅か5体。
 殲滅装備と聞いているが、流石に敵機の数は不安だった。
 トレーラーの後部が開いた。
 荷台の屋根が両側に割れ、無数の何かが飛び出して行く。
 近くで見ていた兵士は、それが50センチほどの円錐のようなものを視認した。
 どのような推力なのかは分からないが、空中に高速で飛び出して行く。

 「レーダーに無数の飛翔体! まるでジャミングです!」

 レーダー係は余りにも多数の飛翔物体に、敵影すら読み取れなくなっていた。

 「あれが「虎」が言っていた《guêpes(スズメバチ)》か……」

 アンドレイ大将は自分たちの知る無人機とは全く異なる姿と運用に呆然としていた。

 展開した《guêpes(スズメバチ)》は総数10万体。
 それが一斉にロシア空軍の戦闘機スホーイSu-57に襲い掛かる。
 最高速度マッハ2で飛行するスホーイに対し、マッハ3以上の高速で迫り、未知のエネルギーで機体を撃破していった。
 無数の《スズメバチ》を制御していると思われる5体のデュール・ゲリエに対し、空対地ミサイルが発射されたが、それらは瞬時に《スズメバチ》もしくは地上のデュール・ゲリエによって破壊された。

 戦闘開始からわずか4分で全てのロシア軍戦闘機が撃墜された。
 戦闘の途中で退避し引き返そうとする機体も、全て墜とされた。

 「なんという……これが「虎」の軍か……」

 アンドレイ大将たちは言葉を喪っていた。
 《スズメバチ》は再び格納庫へ戻って行く。
 展開した他の兵士たちも、驚異的な戦闘を見て呆然としていた。

 「本当に我々など要らなかったのだな」
 「そのようですね」
 「ゴールドマンの失敗は予想以上に重い」
 「はい。「虎」の軍に敵対するなど、愚の骨頂でした」
 「その通りだ。だが我々も軍人だ。やるべきことをやるぞ」
 「はい!」

 アンドレイ大将たちは、部隊の展開を指示していく。
 衛星の情報とリンクし、的確な配備をしていく。
 
 「センリョウ大佐から入電!」
 「繋げ!」
 
 「アンドレイ将軍、念のためにデュール・ゲリエはそのまま残します」
 「かたじけない!」
 「米軍の戦闘には邪魔にならないようにしますが、必要であればいつでも使って下さい!」
 「分かった」
 「特に、通常戦力ではないジェヴォーダンなどが来た場合には、即応しますので」
 「了解した! 協力を感謝する!」

 通信が切れた。

 「敵軍の進行が停止しました!」
 「航空戦力が撃滅したので警戒しているのだな」
 「空軍を要請します」
 「戦闘機と爆撃機で攻撃だ」
 「はい!」

 地上部隊にもそれなりの対空戦力はあるだろうが、それでも空軍の攻撃は壊滅的な効果をもたらすはずだった。
 アンドレイ大将は、もう勝敗は決したと考えた。
 「虎」の軍の驚異的な攻撃力のお陰だ。

 20分後、対峙したロシア軍に向かって、F16を主軸とした戦闘機50とノースロップ爆撃機が10機到着し、ロシア軍に向かって襲い掛かった。

 ロシア軍の地上からも対空ミサイルが発射される。
 だが、空軍が断然優勢だった。
 
 「後方より巨大な反応あり! ジェヴォーダンと思われます! 数は4!」
 「やはりこちらにも来たか!」
 「時速300キロで移動中! 間もなく到着します!」
 「ミサイル部隊に攻撃させろ! センリョウ大佐に連絡! デュール・ゲリエの出動を要請!」

 作戦指揮車両で即座に指示が飛ぶ。
 ミサイル部隊がジェヴォーダンに向けてレイセオンを発射する。
 しかし、最高速500キロで移動するジェヴォーダンに当たらない。
 
 「やはり、今の技術では無理か」

 F16からも攻撃があるが、無駄だった。

 「デュール・ゲリエ、空中に上がりました!」

 5体のデュール・ゲリエが殲滅装備のまま飛行した。
 
 「ジェヴォーダン、被弾!」

 1頭のジェヴォーダンが頭部を大きく割られて沈黙した。
 残り3頭も身体を爆散させつつ撃破された。

 ロシア軍が後退を始めた。

 「全軍掃討戦開始! 全て平らげろ!」

 アンドレイ大将はそう命じたが、勝利の感覚は無かった。
 
 「もう我々の戦場は過去のものになったか」

 そこにいた参謀たちは何も言えなかった。
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