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「砂漠の虎」作戦 Ⅳ

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 「虎白さんたちは、剣で戦うんですか?」

 激しい稽古が一段落し、桜が虎白に聞いた。
 桜は石神本家の話は聞いてはいる。
 尋常では無い剣技を持つ集団ということだ。
 それでもこれから一緒に戦うにあたり、いろいろ聞いておきたかった。
 それと、石神から「とにかく逆らうな」と厳命されていた。

 「おう! 俺らって、これしかねぇからな!」
 「銃とかミサイルとか、どうすんですか?」
 「あ? ああ!」

 虎白が大笑いした。

 「じゃあ、観てみるか?」
 「はい?」

 桜に、小銃を借りて来いと言った。
 桜はすぐに走って、米軍からアサルトライフルM16を借りて戻る。
 こういう時に走らないといけないことは、とっくに分かっていた。
 
 「おし! 撃て!」
 「はい?」
 「早くしろ!」
 「はい!」

 桜は2メートル先の虎白を撃った。
 単発だ。
 虎白は僅かに身体を移動させて避けた。

 「連射しろ!」
 「はい!」
 
 3点バーストで連射した。
 それも虎白が余裕で避ける。

 「スゴイですね!」
 「まーなー!」

 虎白が豪快に笑った。

 「ミサイルも大丈夫なんですか?」
 「ああ! お、丁度いいや!」

 数日前から、ロシアの偵察機が飛んできている。
 「ウラール」によれば、S70オホートニクという機種らしい。
 丁度今も飛んできていた。
 虎白が剣を構え「雲竜」と叫んだ。
 刀身から見えない何かが伸び、見事にオホートニクを撃墜した。

 「おお! スゴイです!」
 「まーなー!」

 高空を飛んでいるものも斬れるらしい。
 確かに現代の戦闘でも有効な剣技だ。
 さっきも銃弾を避けていたが、離れていても斃す技があるのだ。
 
 「いよいよだな」

 虎白が東の方を向いて言った。

 「そうですか」

 もう、桜には虎白たちが相当な実力者であることは分かっていた。
 戦場の空気を感じている。
 「ウラール」は、まだ妖魔を感知していない。
 判明している敵戦力は、ロシア兵4万と、後続2万。
 機甲師団と歩兵師団の混成がほとんどだ。
 そして恐らく戦略爆撃機と戦闘機、戦闘ヘリが後から来る。
 ミサイル部隊もいるだろう。

 ジェヴォーダンが20頭、バイオノイドと思われる兵士が5000程。
 これらは本隊とは別なルートで進軍している。
 米軍と桜たちも明日には進軍し、M国の国境を出た砂漠地帯が会戦場になるはずだ。

 「じゃあ、最後の仕上げをすっかぁー!」
 「え、まだやるんですか!」
 「たりめぇだぁ!」

 桜たちは苦笑いして立ち上がった。
 明日に備えて休むことはないようだ。
 まあ、桜たちはこの数日の鍛錬で格段に強くなったことを自覚していた。
 特に羽入の成長が目覚ましかった。
 最初に羽入に目を付けた虎白の眼力もまた尊敬出来た。

 夕方までやりこみ、ようやく解散となった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「羽入、風呂から上がったらまたマッサージをしてやろう」
 「ああ、頼むぜ。本当にヘトヘトだ」
 「そうだろうな」
 「紅は大丈夫か?」
 「私は問題ない」
 「初日はぶっ倒れたじゃねぇか」
 「ああ、すまなかった。重かっただろう?」
 「大事な女を運ぶのに、重いことなんかねぇよ!」
 「そうか」

 紅が嬉しそうに微笑んだ。
 体重は200キロある。

 「今日は私が食堂を借りて何か作ろう」
 「いいよ、ここの飯も結構美味い」
 「私が作るよりか?」
 「そういう意味じゃねぇよ! 紅のが最高だ! でも、お前も休んでおけよ。風呂も一緒に入るか?」
 「いや、遠慮しておく」
 「なんだー」
 「なんで残念がるんだ」
 「だってよー」

 紅はまた笑い、やはり食堂で作って来ると言った。
 俺はその間、少し眠った。

 30分後、豪華な膳を持って紅が戻った。

 「おい、すげぇな」
 「栄養のバランスを考えた。お前の好きなものをとも思ったんだがな」
 「いや、ありがとう! じゃあ、頂くぜ!」
 
 俺は美味いと言って、どんどん食べた。
 全て平らげ、風呂に入った。
 紅が背中を流しに入って来て、喜んだ。

 「おい、こっちを見るな」
 「いいじゃんか!」
 「恥ずかしいのだ」
 「アハハハハハ!」

 紅が恥ずかしがるので、俺は喜んだ。
 アンドロイドではあるが、自分に特別な感情を抱いてくれることが嬉しかった。
 風呂から出て、紅のマッサージを受ける。

 「気持ちいいよ」
 「そうか」

 30分もマッサージされ、本当に楽になった。

 「お前はまた強くなったな」
 「紅もな!」

 二人で笑う。
 石神家本家の鍛錬は半端なく厳しかったが、その分得るものも多かった。
 今後は「カサンドラ」で戦うことの多くなる俺は、特に有難かった。

 紅が少し酒を飲んでおけと言った。
 鍛錬で酷使した神経をほぐすためだ。

 「じゃあ、一緒に行こうぜ!」

 紅は断ろうとしたが、俺がどうしてもと言うと、一緒に出掛けた。
 将校用のバーがある。
 二人が入ると、石神家の人間たちが飲んでいた。

 「よう! お前らも来たのか!」

 虎白さんたちに呼ばれ、挨拶に行く。
 そのままテーブルに座らされた。

 「いよいよ明日だな!」
 「はい」
 「おう、緊張はしてねぇな」
 「はい、こいつがいますからね」

 紅を見る。

 「そうか! この人は最高だよな。常にお前を護る動きを取ろうとする」
 「はい」
 「お前もな。いいコンビだ」
 「はい!」

 俺も紅も笑った。
 紅が人間扱いしてもらえることが、一層嬉しかった。

 「お前ら、高虎に組まされたか?」
 「そうです」
 「こんな美人さんだ。最初から惚れたか?」
 「アハハハハ! 最初はいがみ合ってましたよ」
 「お前、病気か?」
 「そんなことは」

 自然と虎白さんたちには、俺たちの関係を正直に話した。

 「紅が俺を大嫌いでね。初っ端から喧嘩を売られました」
 「私は別にお前のことは……」

 紅が赤くなった。

 「何とか引き分けましてね」
 「いや、あれはお前の勝ちだ」

 虎白さんが大笑いした。

 「もういいよ! お前らがアツアツなのは分かったからよ!」

 俺は虎白さんたちがウイスキーを飲んでいたので、水割りを2杯だけ飲んで帰った。
 紅と一緒に、夜空を見上げた。
 星が煌めいている。

 「やっぱり日本の空とは違うな」
 「そうだな」
 
 紅が俺に手を絡めていた。

 「いいムードだな」
 「なんだ?」

 紅の顔を両手で挟み、キスをした。
 紅は抵抗しなかった。

 「お前、溜まっているだろう?」
 「おい! ムードを壊すようなことを言うな!」
 「良かったら、手でしてやろうか?」
 「だから! 折角のムードがよ!」

 紅が笑った。
 こいつなりの照れ隠しなのだと分かった。

 「明日から暴れるぞ!」
 「ああ、存分にな」

 もう一度キスをした。





 綺麗な星空だった。

 「口でさ」

 紅に胸を叩かれた。
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