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シロクマの子守歌 Ⅱ
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週明けに出勤しようとすると、シロクマが門の前にいた。
「おい、邪魔だからどいてくれ!」
こっちを見ている。
エンジン音が珍しいらしい。
亜紀ちゃんが出て来た。
「あ、すいません! シロちゃん!」
「シロちゃん?」
「ほら、邪魔だからこっちへ来なさい!」
シロクマが大人しく亜紀ちゃんの方へ移動した。
「タカさん、どうぞ!」
「おう……」
とにかく出掛けた。
すっかり仲良しだ。
病院から気になって電話した。
皇紀が出る。
「おい、シロクマがうろうろしないように、柵か何か作っとけ」
「分かりましたー!」
庭や家屋を荒らされても困る。
いつものように、一江から報告を受ける。
「おい、昨日シロクマが庭に来たんだ」
「宇宙人よりインパクト無いですね」
「……」
みんなうちの異常に慣れ過ぎてる。
まあ、俺もいつも通りに仕事をしたが。
家に7時過ぎに戻った。
気になって庭を見ると、高さ1メートルのステンレス製のフェンスが出来ていた。
シロクマは大人しくその中にいる。
プールも出ていた。
亜紀ちゃんがいた。
「タカさーん!」
「おう、大丈夫か?」
「はい! いい子にしてますよ!」
「そ、そうか」
シロクマが俺の方へ近づこうとした。
「シロちゃん! め!」
亜紀ちゃんに言われると、慌てて亜紀ちゃんの隣に伏せた。
なんでこんなに懐いているのか。
「……」
言うことを聞いたので、亜紀ちゃんが頭を撫でている。
シロクマが気持ちよさそうな顔をしていた。
俺は家の中に入った。
すぐに双子が俺の食事を用意する。
「おお、生姜焼きか!」
双子が作ったものは美味い。
鷹に秘伝のタレを教わっている。
「シロクマにも餌をやっているな?」
「うん! 牛肉20キロも食べるんだよ!」
「野菜なんかもあげた」
「俺より豪華だな」
「「ワハハハハハハ!」」
うちだから平気だが、普通の家ではそんなエサは無理だろう。
皇紀が、警察はまだ何も言って来ないと俺に伝えた。
「使えねぇ!」
双子が寄って来た。
「亜紀ちゃんが気に入ってるね」
「そうだなぁ」
「あれじゃ食べられないね」
「最初から喰う気はねぇ!」
ロボは全然気にしていない。
一度庭にも出たようだが、ちょっと見て好きなようにしていたそうだ。
大物だ。
風呂上がりにまたウッドデッキに出ると、亜紀ちゃんが歌を歌っていた。
♪ おどみゃ島原の おどみゃ島原の ナシの木育ちよ 何のナシやら 何のナシやら 色気なしばよ しょうかいな 早よ寝ろ泣かんで オロロンバイ ♪
『島原の子守歌』だった。
なんで?
シロクマが目を閉じて伏せていた。
亜紀ちゃんが頭をポンポンとしている。
そっと家の中へ入った。
亜紀ちゃんは毎日シロクマと一緒にいるようになった。
大学から帰ると、すぐに庭のシロクマと遊んでいる。
柳が庭で鍛錬していると、シロクマと一緒に眺めているそうだ。
双子がシロクマの着ぐるみを見つけて来て、亜紀ちゃんにやったら喜んでいた。
数日を経て木曜日の晩。
柳と酒を飲んでいたら、亜紀ちゃんが来て一緒に飲んだ。
「おい、シロクマは寝たのか?」
「はい! 子守唄を歌うと大人しく寝るんですよ」
「そうか」
どうでもいいが。
「すっかり仲良しだな」
「はい!」
「でも、亜紀ちゃん、クマ殺しじゃん」
アラスカの山で山の神の熊を瞬殺している。
「あ、亜紀ちゃんはいい子ですよ!」
柳と笑った。
「まあ、いいけどよ。そろそろ何とかしないとな」
「……」
亜紀ちゃんも分かっている。
動物園も、今はどこも大変だ。
引き取る様子は無かった。
「また運んでやるか」
「はい……」
「ここで飼うのは可哀想だぞ」
「分かってます……」
俺は早い方がいいだろうと、明日の金曜の夜に運ぶと言った。
「分かりました」
その日、亜紀ちゃんは着ぐるみを着てシロクマと一緒に寝た。
「タイガーファング」を呼んだ。
「飛行」でも運べるが、シロクマの巨体を覆う「Ωケース」が無かった。
青嵐たちが驚いていた。
「まあ、いろいろあってな」
「クロピョン」がやっただけだが。
事前に調べさせて、アラスカのバーター島へ向かった。
亜紀ちゃんはずっとシロクマにくっついていた。
シロクマを乗せて、10分で着いた。
「着いたぞ」
「タイガーファング」のハンガーを開き、亜紀ちゃんがシロクマを外へ出した。
シロクマが途中から走り出す。
「シロちゃん! 待って!」
亜紀ちゃんが追い掛けた。
白い浜辺にシロクマが向かう。
波打ち際でうずくまった。
「シロちゃん、ここでいいの?」
シロクマが亜紀ちゃんを見た。
亜紀ちゃんが抱き締めた。
「じゃあ、ここにするね?」
「ガォー!」
亜紀ちゃんが『島原の子守歌』を歌った。
シロクマが目を閉じて聴いていた。
「亜紀ちゃん、行くぞ」
「はい」
亜紀ちゃんが離れると、シロクマが亜紀ちゃんを見ていた。
亜紀ちゃんがもう一度駆け寄って抱き締めて泣いた。
家に戻り、亜紀ちゃんと飲んだ。
柳も呼ぶ。
「元気出せよな」
「はい、すみませんでした」
柳にアラスカのバーター島へ送ったと話した。
柳に話し掛ける態で亜紀ちゃんを慰めた。
「いい場所だったよ。あそこならきっと幸せにやってくさ」
「そうですか」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんも無理して笑った。
「ところで、何で『島原の子守歌』だったんだ?」
「お母さんがよく歌ってくれていたんです」
「「!」」
そう言えば、奥さんは島原の出身と聞いていた。
「そうだったか」
「他に子守歌って知らなくて」
俺は地下からギターを持って来て、三人で歌った。
俺たちの歌声が聞こえたか、上から皇紀と双子が降りて来た。
「おう、お前らも一緒に歌えよ!」
「「「はい!」」」
三人とも歌詞を知っていた。
「お前ら、こういういい歌はもっと早く俺に言え!」
「「「「はい!」」」」
もう一度、みんなで歌った。
「シロちゃんも歌うかな」
「んなわけねぇだろう!」
みんなで笑った。
「まあ、また確認しに行こう」
「はい!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
「おい、邪魔だからどいてくれ!」
こっちを見ている。
エンジン音が珍しいらしい。
亜紀ちゃんが出て来た。
「あ、すいません! シロちゃん!」
「シロちゃん?」
「ほら、邪魔だからこっちへ来なさい!」
シロクマが大人しく亜紀ちゃんの方へ移動した。
「タカさん、どうぞ!」
「おう……」
とにかく出掛けた。
すっかり仲良しだ。
病院から気になって電話した。
皇紀が出る。
「おい、シロクマがうろうろしないように、柵か何か作っとけ」
「分かりましたー!」
庭や家屋を荒らされても困る。
いつものように、一江から報告を受ける。
「おい、昨日シロクマが庭に来たんだ」
「宇宙人よりインパクト無いですね」
「……」
みんなうちの異常に慣れ過ぎてる。
まあ、俺もいつも通りに仕事をしたが。
家に7時過ぎに戻った。
気になって庭を見ると、高さ1メートルのステンレス製のフェンスが出来ていた。
シロクマは大人しくその中にいる。
プールも出ていた。
亜紀ちゃんがいた。
「タカさーん!」
「おう、大丈夫か?」
「はい! いい子にしてますよ!」
「そ、そうか」
シロクマが俺の方へ近づこうとした。
「シロちゃん! め!」
亜紀ちゃんに言われると、慌てて亜紀ちゃんの隣に伏せた。
なんでこんなに懐いているのか。
「……」
言うことを聞いたので、亜紀ちゃんが頭を撫でている。
シロクマが気持ちよさそうな顔をしていた。
俺は家の中に入った。
すぐに双子が俺の食事を用意する。
「おお、生姜焼きか!」
双子が作ったものは美味い。
鷹に秘伝のタレを教わっている。
「シロクマにも餌をやっているな?」
「うん! 牛肉20キロも食べるんだよ!」
「野菜なんかもあげた」
「俺より豪華だな」
「「ワハハハハハハ!」」
うちだから平気だが、普通の家ではそんなエサは無理だろう。
皇紀が、警察はまだ何も言って来ないと俺に伝えた。
「使えねぇ!」
双子が寄って来た。
「亜紀ちゃんが気に入ってるね」
「そうだなぁ」
「あれじゃ食べられないね」
「最初から喰う気はねぇ!」
ロボは全然気にしていない。
一度庭にも出たようだが、ちょっと見て好きなようにしていたそうだ。
大物だ。
風呂上がりにまたウッドデッキに出ると、亜紀ちゃんが歌を歌っていた。
♪ おどみゃ島原の おどみゃ島原の ナシの木育ちよ 何のナシやら 何のナシやら 色気なしばよ しょうかいな 早よ寝ろ泣かんで オロロンバイ ♪
『島原の子守歌』だった。
なんで?
シロクマが目を閉じて伏せていた。
亜紀ちゃんが頭をポンポンとしている。
そっと家の中へ入った。
亜紀ちゃんは毎日シロクマと一緒にいるようになった。
大学から帰ると、すぐに庭のシロクマと遊んでいる。
柳が庭で鍛錬していると、シロクマと一緒に眺めているそうだ。
双子がシロクマの着ぐるみを見つけて来て、亜紀ちゃんにやったら喜んでいた。
数日を経て木曜日の晩。
柳と酒を飲んでいたら、亜紀ちゃんが来て一緒に飲んだ。
「おい、シロクマは寝たのか?」
「はい! 子守唄を歌うと大人しく寝るんですよ」
「そうか」
どうでもいいが。
「すっかり仲良しだな」
「はい!」
「でも、亜紀ちゃん、クマ殺しじゃん」
アラスカの山で山の神の熊を瞬殺している。
「あ、亜紀ちゃんはいい子ですよ!」
柳と笑った。
「まあ、いいけどよ。そろそろ何とかしないとな」
「……」
亜紀ちゃんも分かっている。
動物園も、今はどこも大変だ。
引き取る様子は無かった。
「また運んでやるか」
「はい……」
「ここで飼うのは可哀想だぞ」
「分かってます……」
俺は早い方がいいだろうと、明日の金曜の夜に運ぶと言った。
「分かりました」
その日、亜紀ちゃんは着ぐるみを着てシロクマと一緒に寝た。
「タイガーファング」を呼んだ。
「飛行」でも運べるが、シロクマの巨体を覆う「Ωケース」が無かった。
青嵐たちが驚いていた。
「まあ、いろいろあってな」
「クロピョン」がやっただけだが。
事前に調べさせて、アラスカのバーター島へ向かった。
亜紀ちゃんはずっとシロクマにくっついていた。
シロクマを乗せて、10分で着いた。
「着いたぞ」
「タイガーファング」のハンガーを開き、亜紀ちゃんがシロクマを外へ出した。
シロクマが途中から走り出す。
「シロちゃん! 待って!」
亜紀ちゃんが追い掛けた。
白い浜辺にシロクマが向かう。
波打ち際でうずくまった。
「シロちゃん、ここでいいの?」
シロクマが亜紀ちゃんを見た。
亜紀ちゃんが抱き締めた。
「じゃあ、ここにするね?」
「ガォー!」
亜紀ちゃんが『島原の子守歌』を歌った。
シロクマが目を閉じて聴いていた。
「亜紀ちゃん、行くぞ」
「はい」
亜紀ちゃんが離れると、シロクマが亜紀ちゃんを見ていた。
亜紀ちゃんがもう一度駆け寄って抱き締めて泣いた。
家に戻り、亜紀ちゃんと飲んだ。
柳も呼ぶ。
「元気出せよな」
「はい、すみませんでした」
柳にアラスカのバーター島へ送ったと話した。
柳に話し掛ける態で亜紀ちゃんを慰めた。
「いい場所だったよ。あそこならきっと幸せにやってくさ」
「そうですか」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんも無理して笑った。
「ところで、何で『島原の子守歌』だったんだ?」
「お母さんがよく歌ってくれていたんです」
「「!」」
そう言えば、奥さんは島原の出身と聞いていた。
「そうだったか」
「他に子守歌って知らなくて」
俺は地下からギターを持って来て、三人で歌った。
俺たちの歌声が聞こえたか、上から皇紀と双子が降りて来た。
「おう、お前らも一緒に歌えよ!」
「「「はい!」」」
三人とも歌詞を知っていた。
「お前ら、こういういい歌はもっと早く俺に言え!」
「「「「はい!」」」」
もう一度、みんなで歌った。
「シロちゃんも歌うかな」
「んなわけねぇだろう!」
みんなで笑った。
「まあ、また確認しに行こう」
「はい!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
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