上 下
1,831 / 2,806

シロクマの子守歌 Ⅱ

しおりを挟む
 週明けに出勤しようとすると、シロクマが門の前にいた。

 「おい、邪魔だからどいてくれ!」

 こっちを見ている。
 エンジン音が珍しいらしい。
 亜紀ちゃんが出て来た。

 「あ、すいません! シロちゃん!」
 「シロちゃん?」
 「ほら、邪魔だからこっちへ来なさい!」

 シロクマが大人しく亜紀ちゃんの方へ移動した。

 「タカさん、どうぞ!」
 「おう……」

 とにかく出掛けた。
 すっかり仲良しだ。




 病院から気になって電話した。
 皇紀が出る。

 「おい、シロクマがうろうろしないように、柵か何か作っとけ」
 「分かりましたー!」

 庭や家屋を荒らされても困る。
 いつものように、一江から報告を受ける。

 「おい、昨日シロクマが庭に来たんだ」
 「宇宙人よりインパクト無いですね」
 「……」

 みんなうちの異常に慣れ過ぎてる。
 まあ、俺もいつも通りに仕事をしたが。

 家に7時過ぎに戻った。
 気になって庭を見ると、高さ1メートルのステンレス製のフェンスが出来ていた。
 シロクマは大人しくその中にいる。
 プールも出ていた。
 亜紀ちゃんがいた。

 「タカさーん!」
 「おう、大丈夫か?」
 「はい! いい子にしてますよ!」
 「そ、そうか」

 シロクマが俺の方へ近づこうとした。

 「シロちゃん! め!」

 亜紀ちゃんに言われると、慌てて亜紀ちゃんの隣に伏せた。
 なんでこんなに懐いているのか。

 「……」

 言うことを聞いたので、亜紀ちゃんが頭を撫でている。
 シロクマが気持ちよさそうな顔をしていた。
 俺は家の中に入った。
 すぐに双子が俺の食事を用意する。

 「おお、生姜焼きか!」
 
 双子が作ったものは美味い。
 鷹に秘伝のタレを教わっている。

 「シロクマにも餌をやっているな?」
 「うん! 牛肉20キロも食べるんだよ!」
 「野菜なんかもあげた」
 「俺より豪華だな」
 「「ワハハハハハハ!」」

 うちだから平気だが、普通の家ではそんなエサは無理だろう。
 皇紀が、警察はまだ何も言って来ないと俺に伝えた。

 「使えねぇ!」

 双子が寄って来た。

 「亜紀ちゃんが気に入ってるね」
 「そうだなぁ」
 「あれじゃ食べられないね」
 「最初から喰う気はねぇ!」

 ロボは全然気にしていない。
 一度庭にも出たようだが、ちょっと見て好きなようにしていたそうだ。
 大物だ。

 風呂上がりにまたウッドデッキに出ると、亜紀ちゃんが歌を歌っていた。

 ♪ おどみゃ島原の おどみゃ島原の ナシの木育ちよ 何のナシやら 何のナシやら 色気なしばよ しょうかいな 早よ寝ろ泣かんで オロロンバイ ♪

 『島原の子守歌』だった。
 なんで?

 シロクマが目を閉じて伏せていた。
 亜紀ちゃんが頭をポンポンとしている。
 そっと家の中へ入った。

 


 亜紀ちゃんは毎日シロクマと一緒にいるようになった。
 大学から帰ると、すぐに庭のシロクマと遊んでいる。
 柳が庭で鍛錬していると、シロクマと一緒に眺めているそうだ。
 双子がシロクマの着ぐるみを見つけて来て、亜紀ちゃんにやったら喜んでいた。
 
 数日を経て木曜日の晩。
 柳と酒を飲んでいたら、亜紀ちゃんが来て一緒に飲んだ。

 「おい、シロクマは寝たのか?」
 「はい! 子守唄を歌うと大人しく寝るんですよ」
 「そうか」

 どうでもいいが。

 「すっかり仲良しだな」
 「はい!」
 「でも、亜紀ちゃん、クマ殺しじゃん」

 アラスカの山で山の神の熊を瞬殺している。

 「あ、亜紀ちゃんはいい子ですよ!」

 柳と笑った。

 「まあ、いいけどよ。そろそろ何とかしないとな」
 「……」

 亜紀ちゃんも分かっている。
 動物園も、今はどこも大変だ。
 引き取る様子は無かった。

 「また運んでやるか」
 「はい……」
 「ここで飼うのは可哀想だぞ」
 「分かってます……」

 俺は早い方がいいだろうと、明日の金曜の夜に運ぶと言った。

 「分かりました」

 その日、亜紀ちゃんは着ぐるみを着てシロクマと一緒に寝た。




 「タイガーファング」を呼んだ。
 「飛行」でも運べるが、シロクマの巨体を覆う「Ωケース」が無かった。
 青嵐たちが驚いていた。

 「まあ、いろいろあってな」

 「クロピョン」がやっただけだが。
 事前に調べさせて、アラスカのバーター島へ向かった。
 亜紀ちゃんはずっとシロクマにくっついていた。
 シロクマを乗せて、10分で着いた。

 「着いたぞ」

 「タイガーファング」のハンガーを開き、亜紀ちゃんがシロクマを外へ出した。
 シロクマが途中から走り出す。

 「シロちゃん! 待って!」

 亜紀ちゃんが追い掛けた。
 白い浜辺にシロクマが向かう。
 波打ち際でうずくまった。

 「シロちゃん、ここでいいの?」

 シロクマが亜紀ちゃんを見た。
 亜紀ちゃんが抱き締めた。

 「じゃあ、ここにするね?」
 「ガォー!」

 亜紀ちゃんが『島原の子守歌』を歌った。
 シロクマが目を閉じて聴いていた。

 「亜紀ちゃん、行くぞ」
 「はい」

 亜紀ちゃんが離れると、シロクマが亜紀ちゃんを見ていた。
 亜紀ちゃんがもう一度駆け寄って抱き締めて泣いた。




 家に戻り、亜紀ちゃんと飲んだ。
 柳も呼ぶ。

 「元気出せよな」
 「はい、すみませんでした」

 柳にアラスカのバーター島へ送ったと話した。
 柳に話し掛ける態で亜紀ちゃんを慰めた。

 「いい場所だったよ。あそこならきっと幸せにやってくさ」
 「そうですか」
 
 「そうですよね!」

 亜紀ちゃんも無理して笑った。

 「ところで、何で『島原の子守歌』だったんだ?」

 「お母さんがよく歌ってくれていたんです」
 「「!」」

 そう言えば、奥さんは島原の出身と聞いていた。

 「そうだったか」
 「他に子守歌って知らなくて」

 俺は地下からギターを持って来て、三人で歌った。
 俺たちの歌声が聞こえたか、上から皇紀と双子が降りて来た。

 「おう、お前らも一緒に歌えよ!」
 「「「はい!」」」

 


 三人とも歌詞を知っていた。
 
 「お前ら、こういういい歌はもっと早く俺に言え!」
 「「「「はい!」」」」

 もう一度、みんなで歌った。
 
 「シロちゃんも歌うかな」
 「んなわけねぇだろう!」

 みんなで笑った。

 「まあ、また確認しに行こう」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼馴染はとても病院嫌い!

ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。 虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手 氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。 佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。 病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない 家は病院とつながっている。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...