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シロクマの子守歌

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 成人式の後、私は夕飯までご馳走になった。
 石神家特製バーベキュー大会だ。
 柳さんも戻って来て、また一緒に写真を撮ったりした。
 今日は石神さんが亜紀さんのために、お肉を焼いていた。
 亜紀さんが嬉しそうに食べ、私も呼ばれて一緒に頂いた。
 本当に美味しい。
 石神さんは何をやっても凄い。
 ステーキももちろんだが、伊勢海老や鮑なども頂いた。
 ロボさんも石神さんにいろいろなものを焼いてもらい、唸りながら食べていた。

 「柳、お前も来い!」
 「はい!」

 柳さんも呼ばれた。

 「柳の成人式は何もしなかったからな」
 「いいんですよ!」
 
 柳さんも嬉しそうに食べていた。
 石神さんは優しい。

 「真夜、美味いか?」
 「はい! こんなの食べたことないですよ!」
 「そうか。一杯食べてくれよな」
 「ありがとうございます!」
 「いや、礼を言うのは俺の方だ。亜紀ちゃんといつも仲良くしてくれてありがとう」
 「そんな! 亜紀さんの傍にいられるのは私こそ嬉しいんです!」

 石神さんが嬉しそうに笑った。
 亜紀さんもニコニコしている。

 「真夜! この鮑をもっと食べなよ!」
 「「「エェー!」」」

 石神さんと柳さんと私で驚く。

 「なに?」
 「おい、今、亜紀ちゃんが他人に食べ物を譲ったぞ!」
 「はい、初めて見ましたよ!」
 「亜紀さん、大丈夫ですか?」
 「なによー!」

 有難くいただいた。
 いつ攻撃が来るかと緊張した。
 石神さんと柳さんが、私が食べ終えるまで身構えてくれていた。

 本当に美味しい物をたくさんいただいた。
 みんなでデザートにパンプキンプリンを食べ、コーヒーを飲んだ。



 パシッ(キャッチ)
 そろそろ~
 トン
 「ガォー!」



 「「「「「「!」」」」」」

 突然、空からシロクマが降って来た。

 「おい!」
 「タカさん!」
 「なんですかぁー!」

 シロクマがこっちを見ている。
 立ち上がった。
 2メートルくらいある。

 「おい、またかよー。勘弁してくれ」

 石神さんが頭を抱えた。
 柳さんが、昨年突然にペンギンが来たのだと教えてくれた。
 意味が分からない。

 「こないだペンギンが来たけどよー! ちくしょー! 「クロピョン」だったか!」

 何か太い黒い触手みたいなのがちょっと見えた。
 「クロピョン」という妖魔のことは、亜紀さんから聞いたことがある。

 「道理で次々にヘンなものがうちの庭に来るはずだぜ」

 シロクマが両手を拡げて威嚇している。

 「ガォー!」

 亜紀さんが近づいて行った。

 「亜紀さん!」
 
 誰も止めない。
 まあ、大丈夫か。

 「ガォー!」
 「えい!」

 亜紀さんがシロクマの顎を殴った。

 「お! カンガルーパンチか!」

 石神さんが言った。
 シロクマは後ろに引っ繰り返り、ワンバウンドした。

 「「「「オォー!」」」」

 石神さんたちが拍手した。

 「アレ? 起きないよ?」

 ハーちゃんが近付く。
 大きなシロクマのお腹をツンツンする。

 「あ、口から血が出てる!」
 「え?」

 亜紀さんが頭に近づく。

 「亜紀ちゃん! やり過ぎだよ!」
 「え?」
 「カワイソウじゃん!」
 「な、なんで……」

 ハーちゃんが両手をシロクマにかざした。
 ルーちゃんも来て一緒にやる。
 シロクマが目を覚ました。

 「がぉ」

 亜紀さんを見て脅える。

 「ほら! 怖がってるじゃん!」
 「だって、みんなも……」
 「亜紀ちゃん! 謝って!」
 「え」
 「ほら!」

 「ごめんな」
 
 「もう!」

 ハーちゃんが残っていた海産物をシロクマに持って来た。
 
 「亜紀ちゃんがあげなよ」
 「え、うん」

 亜紀さんが大エビをシロクマの口に近づけた。
 シロクマは脅えていたが、亜紀さんが頭をはたくと慌てて食べた。

 「よし!」
 
 亜紀さんがどんどん食べさせる。
 やがてシロクマも警戒せずに食べて行った。

 「なんか可愛くなって来た!」
 
 亜紀さんが喜んだ。
 シロクマの頭を撫でてやる。

 「がぉー」

 なんか仲良くなった。

 「真夜も来なよー」
 「え、結構です」

 絶対に嫌。
 亜紀さんがシロクマに餌をやり、皇紀さんや双子ちゃんは片づけに入った。

 「あの、みなさん、アレは……」
 「亜紀ちゃんに任せておけばいいよ」
 「石神さん?」
 「俺は関わらねぇ」
 「そんな!」

 石神さんはとっとと中へ入ってしまった。

 「よし! お前を舎弟にしてやるからな!」
 「がぉ」

 亜紀さんがシロクマの肩を叩いて嬉しそうに言っていた。
 そうなったらしい。
 私はそっと挨拶して帰った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「タカさん、シロクマどうすんの?」
 「知るか!」
 「ペンギンは可愛かったのにねー」
 「臭かったよ!」

 冗談じゃねぇ。
 「クロピョン」の奴、何の目的でいつもあんなもんを庭に置いてくんだ!

 「おい、とにかく警察だ。俺は知らんからな!」
 「えぇー! タカさん!」
 「うるせぇ! こないだ散々な目に遭ったんだぁ!」
 「もうー」

 ルーが警察に電話した。
 30分後に3人の警官が来た。

 「石神さん、またですかー」
 「……」
 「すいませんが、これは流石に預かれませんね」
 「……」
 「また動物園とか聞いてみますから」
 「……」
 「じゃあ、そういうことで」
 
 「よう」
 「はい?」
 「危険だろ?」
 「まあ、そうですね」
 「どうして置いてくんだよ!」
 「いや、とても運べませんよ!」
 「どうして!」
 「危険じゃないですか!」
 「おい!」

 うちなら大丈夫と知っている。
 3人の警官は帰ってしまった。

 「凄い税金を払ってるのによ!」

 ルーとハーがシロクマの飼い方を検索していた。

 「取り敢えず、気温は大丈夫っぽい」
 「餌もさっきみたいのでいいね」
 「海水は、こないだのがまだあるし」
 「プール買っといて良かったね!」

 「……」

 早乙女に電話した。

 「こないだはペンギンが来たけどよ」
 「ああ、そうだったな!」
 「シロクマが来てさ。早乙女さんのお宅はどちらですかって聞くんだよ」
 「……」
 「早乙女に会いたいって言ってるんだ」

 いきなり電話を切られた。
 あの野郎、学習してやがる。

 ウッドデッキに戻った。
 亜紀ちゃんがシロクマと肩を組んでいた。

 「……」

 「タカさーん!」
 「おう」
 「こいつ、焼いたのも好きみたいですよー」
 「良かったな」
 「はい!」

 スゴイ仲良しになってた。
 もう、勘弁して欲しい。
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