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影 Ⅴ

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 ハーが寝るベッドを響子の部屋へ運んだ。
 部屋がベッドだらけだ。
 まあ、広い部屋なので、圧迫感はそれほど無い。
 響子が大喜びだった。
 六花たちは響子からぬいぐるみを一つずつ貸してもらって喜んでいた。
 もちろん、吹雪も一緒にいる。

 鷹が俺に寝るように言った。
 
 「鷹のパンツを探しに行かないと!」
 「もう! いい加減にして下さい!」

 みんなが笑った。
 俺は仕方なく下着になってベッドに潜り込んだ。

 「俺のパンツ、貸そうか?」
 「結構です。寝て下さい」

 響子が俺の隣に潜り込む。
 嬉しそうだ。

 「ハーが分からないのに、タカトラはどうして分かったの?」
 
 響子が聞いた。

 「多分な、俺が「虎王」の主だからだ」
 「そっかー!」

 響子も、他の人間も驚く。
 「虎王」は握っていれば妖魔の位置とその能力などを俺に伝える。
 俺が「虎王」の主となり、更に修練を続けて来たので、「虎王」の力が俺に宿りつつある。

 「今は持ってないけどな。俺と「虎王」はもう繋がっているから」
 「なるほどね!」
 
 敵はもう、俺を襲わないだろう。
 俺が感知できると分かったからだ。
 そしてここには俺がいるし、何しろレイが守っている。
 俺の家には柳のハスハや早乙女のモハメドがもういるし、タマやタヌ吉の結界もある。
 蓮花研究所も同様で、風花には野薔薇。
 麗星たち道間家にはハイファがいる。
 御堂家にはオロチやニジンスキーたち。

 この防備の中で、敵は誰を襲うのか。
 それは俺が死なれては困る人間のはずだ。
 
 ならば……




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「御堂総理! 石神さんから連絡があったでしょう!」
 「はい?」
 「今、恐ろしい敵が狙って来ているって!」

 官房長官の大渕さんが、出掛けようとする僕を引き留めた。

 「ああ、大丈夫ですよ。石神の許可も取っています」
 「え!」

 今日は御堂グループの象徴となる、「御堂タワー」の建設予定地の視察が予定にあった。
 しかし、石神からの連絡を受けて、外出は控えるものだと大渕さんは考えていた。

 「大渕さんは引き続き事務次官たちが作成した閣議資料の確認をお願いします」
 「いえ! 総理もどうかここに!」
 「大丈夫です。僕にはダフニスとクロエが付いていますからね」
 
 大渕さんは慌てて石神に確認すると言った。
 電話を掛けている間、僕は出発の準備を整えた。
 大渕さんが残念そうに僕を見た。

 「御堂総理、石神さんの許可は確認しました」
 「本当だったでしょう?」
 「ええ、まあ。信じがたいのですが」
 「あいつは僕のことで絶対に間違えませんよ!」
 「それはそうなのですが」

 僕の身を案じてくれる大渕さんはまだ不満そうだったが、これ以上引き留めることは出来ない。

 「現地での警戒を強化させます」
 「大丈夫ですって」
 「いいえ、やらせて下さい!」

 僕は笑って「お願いします」と言って出て行った。
 後ろで大渕さんは現地での警備責任者を呼び出し、警備体制の強化を指示していた。

 「日本はあの人を絶対に喪っちゃいけないんだ……」

 そう叫んでいる声が聞こえた。 
 大渕さんが窓から僕の乗ったセンチュリーが出て行くのを見ていた。
 そして両手を合わせて祈っているのが見えた。
 心配させて申し訳ないと思うが、石神からの依頼だった。





 「木村さん、今日もお願いしますね」
 「はい! お任せ下さい!」

 木村さんは石神の暴走族時代の後輩だった。
 運転が上手いのと、実直で信頼出来る人間ということで、僕が勧められ秘書として雇った。
 大手都市銀の融資担当をしていた経歴を持つ。
 暴走族時代には、「ルート20」の金庫番を任されていたそうだ。

 「木村さんみたいな人が来てくれて、本当に良かった」
 「そんな! 自分はトラさんに散々お世話になりましたからね! その上で御堂総理の秘書だなんて、もう最高ですって!」
 
 明るく気さくで、真面目な木村さんのことは、すぐに信頼出来た。
 昔から石神に憧れ、勉強法なども教わっていたと木村さんは言っていた。
 そのお陰で良い大学にも進学し、大手都市銀行にも就職出来た。
 出世も早く、給料面でも高収入だったが、石神に誘われて二つ返事で転職した。
 収入は3倍になり、驚いていた。

 「俺が誘ったんだ。前よりも悪くは出来ないよ」
 「トラさん!」

 木村さんは石神に言われて感激していた。
 いつも、僕の車での移動は木村さんが担当した。
 秘書としても優秀で、その上で銀行時代に培った金融面での知識が有難かった。
 それに伝手も多く、僕は木村さんに常に感謝するようになった。




 「総理! もうすぐ着きますよ!」

 足立区の広大な土地を購入した。
 いずれ新たに幹線道路を通し、また地下鉄とJRの駅が乗り入れる。
 都内の新たな中枢の一つの街として発展していくはずだ。

 「石神がね、亜紀ちゃんたちの両親であった山中たちが住んでいた土地を中心に買い取ったんだ」
 「はい! 聴いてますよ!」
 
 石神はずっと、亜紀ちゃんたちを引き取った時に、山中たちが住んでいた貸家も購入しておけば良かったと言っていた。
 最初は、いつまでも山中たちの死に引きずられないようにという考えだったようだ。
 しかし、後からあの子たちの思い出が詰まった場所を残して置けなかったことを悔やんでいた。
 購入を決意した時には、もう取り壊されてアパートになっていた。
 石神が日本経済の中で統合された巨大組織を作ろうとした時に、その中枢となる超高層ビルを山中たちが住んでいた土地に建てようと考えた。
 僕は、石神のどこまでも大きな愛に感動した。




 ボーリング会社が地盤の調査をした。
 何故か亜紀ちゃんたちも見に来た。

 「私たちの方が早いのに」
 「?」

 石神に話すと、大笑いされた。

 「あいつらさ。レイが死んで俺が落ち込んでいると思って、隣の土地に温泉を掘ろうとしたんだよ」
 「ああ! 虎温泉か!」
 「そうそう。最初はボーリング会社に掘削を頼んでいたらしいんだけど、全然進まないんで、自分たちで掘り出したんだよ」
 「えぇ!」
 
 石神が楽しそうに話していた。
 亜紀ちゃんたちが自分のために頑張ってくれていたので、それが嬉しいのだ。

 「ガンガン進んでさ。温泉は出たんだけど、硫黄臭くてとても使えるものじゃなかった」
 「ああ」
 「結局はでかい風呂になっちゃったんだけどな。でも嬉しいよ、あいつらが俺のためにやってくれたんだ」
 「そうだね」

 石神はまた笑った。

 「それでよ。途中で出て来たものが、小判と金の鉱脈とオリハルコンだったんだよ」
 「!」
 「なんか「クロピョン」が仕込んでいたらしいんだよな。その後に庭を亜紀ちゃんの友達の真夜が掘ったら、あのレッドダイヤモンドよ! 焦ったぜぇ!」
 
 二人で大笑いした。

 「じゃあ、今回も亜紀ちゃんたちに頼めば早いのかな?」
 「絶対に辞めろよな! また何が出て来るか分かったもんじゃねぇ!」
 「アハハハハハ!」



 高い囲いに覆われた土地に着くと、警備員がゲートを開いた。
 既に入り口から警察官が立っている。
 木村さんが車を中に入れ、駐車スペースで僕を降ろした。
 ダフニスが先に出て、クロエは上空から警戒している。
 ダフニスが安全を確認して僕を呼んだので、僕は車から降りた。
 警官隊が車を囲んでいる。
 厳重警戒だった。




 しかし、僕はその中で襲われた。
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