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諸見との再会

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 俺は千石ともう少し話したかったので、電動移動車で響子と六花を先に帰した。
 俺が浮気などしないと分かって、響子も大人しく帰った。
 
 二時間後に栞の居住区に戻ると、響子は士王と吹雪と一緒に眠っていた。
 もうすぐ夕飯なので、丁度六花が三人を起こしていた。
 子どもたちと桜花たちで食事を作り始めている。
 皇紀は他の施設に早速行ったようだ。
 今回は滞在時間が短いので、皇紀はそのまま作業に専念するだろう。
 あいつも忙しい人間になった。
 まだ16歳だが、責任を担う男になっていた。

 「遅かったね」
 「ああ、千石とすっかり話し込んだ」
 「いい人なのね」
 「まあな。一概には言えないけどな」
 「そうなんだ」

 俺がいない間に、ソロンさんがまた肉を持って来てくれたらしい。
 ちょっと心が痛む。

 夕飯はカリブーの肉を使ったシチューとサーモンステーキだった。
 まあ、アラスカらしくて俺たちにはいい。
 他に蕪の煮物や海老の焼き物が出る。
 
 「後で「ほんとの虎の穴」に行こう。だからあんまり喰い過ぎるなよな」
 
 子どもたちが俺を見ている。

 「お前らはもっと喰え!」

 みんなが笑った。

 


 食事を終え、桜花たちが留守番をすると言った。
 
 「バカ言うな! お前らはまだ休暇中だ!」

 だから士王と吹雪、ロボも連れて行く。
 電動移動車で「ほんとの虎の穴」へ行く。
 雑賀さんが大歓迎で迎えてくれた。

 「正月なのに申し訳ないです」
 「アハハハハ! ここじゃ関係ないですよ」

 日本人も多いが、正月気分でいる人間は少ない。
 軍事基地であるために、全員が休むことは無いためだ。
 諸見と綾も来た。
 俺が呼んだからだ。

 「もーろーみー!」
 「石神さん!」

 俺が抱き着くと、諸見が困っていた。
 俺の諸見好きをみんなが知っているので笑っている。

 「お前! ちょっと痩せたんじゃぇねのか!」
 「そんなことありませんよ!」
 「綾! どうなんだよ!」
 「体重はむしろ若干増えたかと」
 「そうか!」

 俺が綾の頭を撫でた。

 「お前が諸見を大事にしてくれてるんだな」
 「はい! それが私の生きている意味ですから!」

 綾が自分を「生きている」と言い、諸見が嬉しそうにしていた。
 乾さんや羽入と同様に、諸見も綾を人間と見ている。

 諸見と綾に、士王と吹雪を見せた。
 栞が抱くように言い、諸見が緊張しながらも士王と吹雪を抱いた。

 「ああ、可愛らしいですね」
 「そうだろう!」

 綾は危なげなく二人を抱いた。

 「流石は石神様の御子です」
 「ん?」
 「お二人とも、堂々とされていますね。私には分かります」
 「そうか!」

 俺が喜んで見せると、綾が嬉しそうに笑った。
 俺は諸見と綾を、俺の向かいに座らせた。
 諸見は酒が飲めないので、アルコール抜きのカクテルを作ってもらう。
 双子も別なカクテルを作ってもらった。
 俺たちは雑賀さんにお任せでカクテルを頼む。
 全員が別々のものを出されたので驚いた。
 時間差もほとんどない。

 乾杯して、料理と酒を楽しんだ。




 「トラ、千石さんとはどんな話をしたんですか?」
 
 六花が気になっていたようで、俺に聞いた。

 「ああ、千石の生い立ちのようなものを聞かせてもらったんだ」
 「そうなんですか」
 「あの人、あんまり自分のことは話したがらないと思っていたんだけど」

 前に会っている栞が言った。

 「そうだな。自慢できるようなものでもないし、却って不信感を買うような内容もあるしな」
 「どうしてあなたに話したのかなー」
 「多分、聞いてもらいたかったんだろうよ」
 「え?」
 「自分が罪深い人間であることを、俺に知っておいて欲しかったんだろう。ここで根を張って暮らす決意が固まったんだ。それでだよ」
 「あなたに全てを知って欲しいと?」
 「そういうことだな。あいつは間違いなく「虎」の軍の中枢の一つになる。俺たちが「業」に数で負けていたことが、千石のお陰で随分と盛り返せるはずだ」
 「どんどんみんな強くなっているよね?」

 栞は時折兵士の訓練もしている。
 「花岡家」の娘であるため、指導も上手い。

 「諸見のことを千石が褒めていたぞ」
 「そんな! 自分なんてまだまだ」

 諸見が恥ずかしそうに否定した。

 「お前はいつまで経っても「槍雷」くらいしか使えなかっただろう。それが今じゃどうだよ」
 「あれはまだ使えるうちには。でも、確かに千石さんのお陰で自分としても前に進んではいますが」
 
 綾が諸見を褒められたことで、嬉しそうにしている。

 「綾、こいつは強くなったぞ」
 「はい! 私にも分かります!」
 「そうだろう?」

 綾が諸見の手を握った。

 「石神様、一つお聞きしたいのですが」
 「なんだ?」
 「諸見様は、いつか戦場に出るのでしょうか?」

 綾が心配そうに俺を見ていた。
 俺は笑って言った。

 「さっき、その話題が出たんだけどな。俺は諸見を戦士にはしないつもりなんだ」
 「え!」
 「諸見には建設の方が向いている。東雲や他の連中からも、諸見が如何に真面目に取り組んで建設の仕事をこなしてくれているのかはよく聞いているんだ」
 「そうですか!」

 綾が安心して嬉しそうに言った。

 「もちろん、今後海外の基地拠点を作ってもらうこともあるだろう。その時に、防衛任務には就いてもらうかもしれないけどな。戦争をしているのだから、危険なこともあるだろう」
 「はい」
 「でも、基本的には建設任務だ。諸見、頼むぞ」
 「は、はい!」

 諸見が真面目な顔をして返事をした。
 綾がまだ諸見の手を握っている。

 「千石にも聞いたけどな。諸見の今の実力でも、まず死ぬようなことはないだろうよ」
 「そうですか! ありがとうございます!」
 「礼を言われるようなことじゃないんだけどな」

 諸見も困ったように笑った。
 響子が隣で俺の腕を取って振り向かせた。
 半泣きになっている。

 「おい、なんだよ!」
 「ううん! 嬉しいの!」
 「ヘンな奴だな」

 俺は響子の肩を抱き寄せて、バターで炒めたホタテを切って食べさせた。

 「諸見がまた虎の鏝絵を描いてくれたんだよな」
 「いえ、あれは東雲さんに言われて」
 「見事なものだったよ。こないだ見させてもらった」
 「お恥ずかしい腕前で申し訳ありません」
 「まあ、うちの中庭のものには劣るけどな!」

 諸見が恥ずかしそうにまた笑った。

 「あれは、自分の最高の出来です。あんなものですが」

 亜紀ちゃんと双子が猛反発する。
 如何に諸見の虎が素晴らしいかを力説し、諸見をまた恥ずかしがらせた。

 「ああ、あの鏝絵の前で、クリスマスにみんなで写真を撮ったんだ。後で送るな!」
 「ありがとうございます!」
 
 俺はニヤリと笑った。

 「ぶったまげるものが写ったんだ。お前、驚くぞ!」
 「そうなんですか!」

 レイが現われたことはまだ言わない。
 諸見も喜んでくれるだろう。




 響子が諸見に「良かったね!」と嬉しそうに言っていた。
 訳も分からずに、諸見もまた嬉しそうに礼を言っていた。

 「綾さんを大事にして下さい!」
 「はい! 必ず!」

 響子はもしかすると、諸見のことを「夢見」で見ていたのかもしれない。
 俺は聞かないつもりだったが、恐らく良くないことが見えたのだろう。
 そして、それが変わったのかもしれない。
 千石のお陰だと俺は感じた。

 俺は千石のことをみんなに話した。
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