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アラスカの山神 Ⅱ

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 ロックハート家で朝食を頂き、俺たちは「セイントPMC」へ向かった。
 聖とスージーがまた待っていてくれる。

 「トラ、夕べも楽しかったな」
 「ああ、また飲もうや」

 それだけの挨拶で、俺たちは飛び立った。
 夕べ、俺たちは十分に語り合った。
 俺たちには絆がある。
 だから、もういい。
 俺は「タイガー・ファング」へ乗り込んだ。

 10分後に、もうアラスカのヘッジホッグへ着く。
 別れの趣も何もあったものじゃない。
 聖に電話した。

 「聖! 着いたぞー!」
 「トラぁ! わざわざ電話してくれたのかぁー!」

 聖が物凄く喜んだ。
 まあ、いい奴だ。

 着陸場からすぐに栞の居住区画へ向かう。

 「あー、戻って来ちゃったー」
 「お前の家だろう」
 「そうだけどさー」

 桜花たちがクスクス笑っている。

 「響子はロックハート家にいれば良かったじゃんか」
 「タカトラは放っておくとどんどん他の女を作るからね!」
 「おい!」

 六花がまたろくでもないことを吹き込んだらしい。
 シルヴィアのことか。
 何か言おうとすると、六花がニコニコして響子の手を引いて行った。

 栞の居住区画へ入り、桜花たちが荷物の収納がてら住居の点検をしていく。
 十日も留守にしていた。
 亜紀ちゃんにコーヒーを淹れてもらう。

 「なんだかんだ、ここはやっぱり落ち着くよ」
 「そうか」
 「でも日本はやっぱり良かったな」
 「そうだな」

 桜花たちが昼食は日本で仕入れた蕎麦にすると言ったが、断った。

 「限りがあるんだから、お前たちで食べろよ。こっちで手に入りやすいもので何か作ってくれ」
 「はい!」

 トマトソースのパスタになった。
 冷凍していたホタテとサーモン入りだ。
 俺は昼食後に、六花と「訓練」に出ると言った。
 栞も鷹も魅力的なのだが、六花と四六時中一緒にいて、欲情しないわけがない。
 双子が「ギャハハハハハ」と笑った。

 ハンヴィで基地の外へ出て、前に亜紀ちゃんたちが狩人のソロンさんと行った山へ入る。
 隣で六花がニコニコしていた。

 麓の駐車場でハンヴィを降りて、俺が荷物を担いで一緒に山道を登って行く。
 六花はいつものフールトゥに「道具」を入れている。
 二人ともセーターにボンバージャケットを着ているが、結構寒い。
 やはりアラスカは日本とは違う。
 二人で走って登った。

 中腹の少し上で、少し平らな場所を見つけた。
 周囲に林があって、風も防いでくれる。
 寒いのでテントを持って来た。
 ワンタッチで開く便利なものだ。
 中でヒーターを焚いて、温まるのを待った。
 下に毛布を何枚も敷いた。
 もう六花は脱いでいる。
 
 「おい、まだ寒いだろう」
 「早くー!」

 俺も急いで脱いだ。
 汗を掻く程激しい訓練をした。





 携帯コンロでコーヒーを沸かす。
 六花は気を喪っているので、毛布にくるんだ。

 コーヒーが出来たので、六花に声を掛ける。

 「おい、飲めるか?」
 「うーん」

 ボウっとした顔で起きる。
 毛布を自分で巻いて起き上がった。
 二人でコーヒーを飲んだ。

 「この山でよ。亜紀ちゃんが山の神を殺しちゃったらしいんだよ」
 「そうなんですか」
 「まあ、もちろん知らないでな。ヒグマだったらしいけど、額に白い星の形に毛が生えてたんだとよ」
 「へぇー」

 別に何のつもりもない会話だった。
 六花の意識をはっきりさせるためだけのものだ。

 「後から聞いてさ。狩人のソロンさんに謝りに行った」
 「大変ですねー」
 「うん。物凄い残念がっててさ。まあ、ケガレガミを退治したのとで帳消しにしてくれたけどなぁ」
 「はー」
 「ソロンさんが物凄く楽しみにしてたんだよ。あれは申し訳なかったぜ」
 「そうですね」

 コーヒーを飲み終え、六花が戻るまで二人でイチャイチャした。
 
 「そろそろ帰るか」
 「はい!」

 服を着て外へ出た。
 俺がテントを畳む間、六花は岩に腰かけている。
 
 林の向こうから気配があった。
 俺が振り向くと、若いヒグマが駆け寄って来た。
 冬眠に失敗した個体だろう。
 エサが少なく、気が荒れているはずだ。
 六花はまだ多少ボウっとしている。
 俺は走ってヒグマを突き飛ばした。
 ヒグマは仰向けに引っ繰り返る。
 殺すつもりは無く、戦意を喪失させて逃がすつもりだった。
 いきなり反撃を喰らったのだから、逃げ出すに違いない。

 「六花! ヒグマだ!」
 「はい!」

 六花がやっと反応する。
 後ろを向いて、引っ繰り返ったヒグマを見た。
 2メートルに届かない、若いヒグマだ。

 「動きませんね?」
 「そうだな」

 強力な攻撃はしていない。
 本当に突き飛ばしただけだ。
 六花が近付いた。

 「おい、危ないぞ!」
 
 まあ、意識のはっきりしている六花ならば、もっと巨大な熊でも大丈夫だが。

 「なんか、カワイイですよ?」
 「おい」

 俺も近づいた。
 六花が大きなお腹をつんつんする。

 「起きませんね?」

 俺は頭の方に回った。
 注意は怠らない。
 何の反応も無い。
 大きな舌を口から出している。

 「あ」

 頭の下から血が流れていた。
 持ち上げると、尖った岩が後頭部を貫いていた。

 「あちゃー」
 「死んじゃったんですか」
 「ああ、可愛そうなことをしたなぁ」
 「はい」

 そんなつもりは無かったのだが、まあ六花を襲おうとした奴だ。
 運が無かったのだ。

 「あ」
 「ん?」
 「トラ、そこ」

 六花が指さす。

 「!」

 死んだヒグマの額に、白い星型の毛があった。

 「「……」」

 二人で埋めてやった。





 帰りの山道。
 
 「今度さ」
 「はい」
 「ブリーチ持って来てさ」
 「はい」
 「熊捕まえて、星形に脱色しようぜ」
 「いいんですかね」
 「分かんねぇ」

 まだやってない。
 まだ誰にも話してない。
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