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元旦 帰宅

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 桜花たちの話が終わった。
 参った。

 「お前らよ、何でその話を俺にした?」
 「石神様!」
 「あー、寝てりゃ良かったー!」
 「「「石神様!」」」

 俺は頭を抱えた。

 「そんな話を聞いたらよ、ますます断り辛いじゃないか!」
 
 三人が笑った。

 「笑うんじゃねぇ!」

 ますます笑った。

 「まあ、門土のためだっていうのは分かってたけどよ。そう詳しく聞いちゃうとなー」
 「良いではありませんか」
 「石神様は別にギタリストになるわけではないのでしょう?」
 「だからだよ!」
 「だったらお気楽に」

 言った椿姫の顔を睨んだ。

 「あのなぁ! 橘弥生だぞ? お気楽に弾けるわけねぇだろうがぁ!」
 「「「あぁ!」」」

 「前回だってなぁ! 俺が必死で抵抗したから俺の家で簡単な装置で済ませてくれたけどな。でも、俺がちょっとでもとちったり気を抜いたりしたら、物スゲェ顔をすんだぜ! 俺の方から「もう一回やります!」って何度もテイクしてさ!」
 「「「アハハハハハハハ!」」」
 「それで門土が譜面に遺した曲を演奏して、俺が一生懸命に弾いてたらあの人が泣き出しちゃってよ! もう一度やらなきゃなんなかったんだ!」
 
 桜花たちが爆笑した。

 「俺のちっちゃなハートがもたねぇよ」
 「石神様はご立派です」
 「ばかやろう! もっと褒めろ!」

 三人が口々に褒めた。
 もうやめろと言った。

 「今度はよー、絶対どっかのスタジオを押さえて来るぜ」
 「そうなのですか?」
 「ああ、自分の演奏するピアノも絶対用意する。やる気満々で来るぞ」
 「別に良いでは無いですか。石神様はいつも通りにやれば……」
 「おい! あの世界的ピアニストの橘弥生なんだぞ! 半端な演奏は絶対に出来ねぇ!」
 「え、でもこれまでも何度かセッションをされたのでは?」
 「あれは余興的な雰囲気だったからだ! 途中でとちっても文句は言われない状況だしな!」
 「では、スタジオでは」
 「絶対に、あの人が満足するまでリテイクをしてくぞ! 俺がもたないんだって!」
 「さようでございますか」
 「そうだよ! 俺だけじゃねぇ。自分にだって鬼のように厳しい人なんだからな! お互いに最高の仕上がりにならなきゃ何十回やらされるやら」
 「大変でございますね」
 
 「お前らが火を点けたんだぁ!」

 三人が笑った。

 「私たちの読経をとても褒めて下さいましたよ?」
 「それもやらなきゃ良かったぜ」
 「石神様!」
 
 俺も笑った。
 自分の正直なところを話した。

 「まあな。何だか本当に門土がやって欲しがってるような気もするんだがな」
 「「「はい!」」」
 「アラスカでお前たちに話をしたことからな。何だか知らないけど、お前たちも異常に興味を持ってくれたじゃない」
 「そういえばそうですね?」
 「俺もこう言っちゃなんだけど、結構お前たちにはいろんな話をして来たよな? でも門土の話にはいつも以上に喰いついて来てよ。日本で墓参りをするのが夢になったなんてなぁ」
 「そうですね。本当にそうしたかったのですが、不思議なことかもしれませんね?」
 「そうだろ?」

 三人が改めて考え込んでいた。

 「しかも、お前らが墓参りに言ったら、橘弥生が偶然居合わせてさ。こんなことってあるか?」
 「じゃあ、本当に門土さんが!」
 「まーなー。さっきの話でもあったじゃない。橘弥生がCDを考えてて、亜紀ちゃんが偶然に京都で「ミュージック・フレンズ」の編集だった古賀さんと知り合ってさ。あの出会いからして普通じゃないよ。もしかしたら貢さんも乗っかって来てるのかなー」
 「きっとそうですよ!」
 「でも俺はやりたくない」
 「「「石神様!」」」

 また俺の味方はいなかった。

 3時を回っていた。

 「おい、そろそろ寝ようか」
 「あ! こんな時間だったんですね!」

 楽しく話していたので、誰も悪酔いはしていないようだった。
 みんなでキッチンに片付けて解散した。
 桜花たちも俺に挨拶して部屋へ下がった。

 俺はギターを持ってまた屋上へ上がった。
 照明を落として、夜の静寂を味わいながらギターを弾いた。

 「門土、勘弁してくれねぇか?」

 誰もいない空間に呟いた。
 門土の笑顔が浮かんだ。
 
 「なんだよ、ダメか」

 俺も笑った。
 明け方までギターを弾いた。





 翌朝、俺は9時頃に響子と一緒に起きた。
 桜花たちはちゃんと8時に朝食を摂ったらしい。
 俺が遅くまで付き合ってくれたと話し、誰も起こしには来なかった。

 ロボが朝食を食べて、ベッドにまた来た。
 俺の顔を前足でポンポンする。
 笑って起きた。
 響子も隣で目を覚ます。

 「タカトラ、おはよー」
 「おはよう。よく眠れたな」
 「うん!」

 一緒に洗面所へ行き、食堂へ降りた。
 みんなに挨拶され、響子と食事を摂った。

 「石神様、夕べは楽しかったです!」
 「おう! 俺もな!」

 桜花たちが礼を言いに来た。
 昼食の後で帰る予定で、子どもたちはもう掃除や洗濯を始めている。

 「あなた、夕べ遅かったんでしょ?」
 「ああ、桜花たちと話が盛り上がってな」
 「寝不足なんじゃない?」
 「大丈夫だよ」
 
 栞が心配して言って来た。

 「帰りは私が運転しよっか」
 「絶対辞めろ!」

 鷹が大笑いした。
 栞は運転したいらしいが。

 俺は桜花たちのために夕べ録画した紅白をディスクに焼いて渡した。
 凄く喜んで観るのが楽しみだと言った。
 ソファに桜花たちを座らせ、またテレビを観させた。
 俺はもうちょっと寝たかったが、もう子どもたちが俺の部屋の掃除をしている。
 2階の応接室のソファで休んだ。
 ロボが来て、一緒に寝た。

 


 昼食は鷹が雑煮を作ってくれた。
 やはり出汁が違う。
 俺はいつも通り餅抜きでもらった。

 「御蕎麦でも茹でましょうか?」
 「いいな!」

 物凄く美味かった。
 餅が大好きな六花が6つも食べた。
 食器を片付けて戸締りをする。
 
 助手席に鷹が座り、後ろに桜花たち。
 三列目に亜紀ちゃんと双子。
 後部のベンチシートに皇紀とロボ。
 六花のグランエースには響子と吹雪、栞と士王が乗る。

 夕べも雪が降ったので、俺が先行して慎重に走った。
 六花は轍を追って来る。
 高速は元旦とあって、空いていた。
 途中でサービスエリアに寄って、ゆっくりと帰った。

 家に着くと、いつものように大量の年賀状が届いている。
 双子が通信係なので、脇に抱えて家に入った。
 夕方の5時を過ぎていたので、急いで夕飯を作る。
 ウドンと天ぷらを揚げた。
 子どもたちは好きなように肉を焼けと言ってある。
 一応戻ったので、早乙女と左門に電話する。
 早乙女が、おせち料理を持って来ると言った。

 「ほんとかよ!」
 「ああ、石神の家では出掛けていて作っていないと思ったからな」
 「ありがとうな! 喜んで頂くよ」

 取りに行くと言ったが、早乙女達が運ぶと言った。
 それほど量は無いのだと。
 有難く礼を言い、良ければうどんを食べて行けと言った。

 10分後に早乙女が両手にでかい重箱を抱え、雪野さんが怜花を抱いて来た。
 新年の挨拶をする。

 「鷹さんの前でお恥ずかしいのですが」
 
 雪野さんが恐縮していたが、鷹が美味しいと言い、笑っていた。
 随分と豪華なおせち料理だった。
 伊勢海老が8尾も入っている。
 鮑もあり、大変だっただろう。

 「うちはうどんで申し訳ないな」
 「いいえ、鷹さんのお料理ですから!」
 
 二人は鷹の渾身の料理を尊敬するようになっていた。

 「あの、すいません。今日は亜紀ちゃんたちだけで」
 「「……」」

 それでも美味しいと言って食べていた。
 食べながら留守中のことを聞いたが、特に問題は無いようだった。
 夕べは「アドヴェロス」の鍋大会に顔を出して楽しんだようだ。



 いい正月になった。
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