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六花と吹雪

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 私は毎朝7時に起きる。
 休日も同じ時間に起きることが多い。
 生活のリズムを狂わせないように、自分で律している。

 それに、今は吹雪もいる。
 自分の勝手でしたいような生活は出来ない。

 私が起きて最初にすることは、ベッドの脇に置いているベビーベッドで眠っている吹雪を確認することだ。
 顔を見て体調の良し悪しを判断する。
 大抵目を覚ましているので、あやしながら額に手を充てて熱の有無を見る。
 そして顔を近づけて沢山のキスをする。
 手足を一生懸命に動かして喜ぶ。
 毎日可愛くて仕方が無い。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆❚(MAX)》


 「今日はどのお父さんにおはよーって言う?」

 私が言っていることが分かるのか、抱き上げられた吹雪は部屋中に貼られた石神先生のポスターを見渡し、どれかを指さす。
 
 「またこれかー。吹雪はこれが大好きだよね?」

 石神先生の真っ赤な特攻服を着た全身ポスターだ。
 私も大好きなものだった。
 
 「じゃあ、私もこれにしようかな!」

 私もそのポスターの前で「おはようございます」と言う。
 二人の朝の儀式だ。

 ベッドに戻って、私は胸をはだけて抱き上げて授乳させる。

 「今日はどっちのオッパイにするかなー?」

 吹雪は嬉しそうな顔をして手を伸ばしてこっちにすると示す。
 ちゃんと乳首を掴むのは、石神先生の血だろうと思う。
 胸に口を付ける。

 「一杯飲んでね!」

 そう言ってから、歌を歌う。
 吹雪が幸せそうに眼を閉じてオッパイを吸う。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆❚(MAX)》


 お腹が一杯になった吹雪をベッドに戻し、オムツの確認をする。
 オムツを替えてウェットティッシュで股間を拭ってやり、自分の朝食の準備をする。
 その間も大抵歌を歌っており、吹雪が嬉しそうに聴いているのを時々見る。
 最近は手を振ってやると吹雪も振るようになり、私は一層嬉しい。

 自分が朝食を食べている間も、脇に吹雪のベッドを置いてあやしている。
 家の中では、片時も吹雪を放っておくことがない。
 吹雪の顔を拭い、歯を磨く。
 手早くお弁当の準備をし、自分も洗顔をして着替えてメイクをする。
 その間もずっと吹雪は隣にいる。
 メイクの間、吹雪はじっと見詰めていることが多い。
 
 「綺麗になったかな?」

 吹雪はまた手足を暴れさせて喜ぶ。

 「ウフフフ」

 自分も着替え、吹雪を着替えさせる。
 今日の吹雪は「ロボパジャマ」にする。
 真っ白で全身に長い毛が覆っている。
 フードもついていて、ロボの頭になっている。
 石神先生がルーちゃんたちの経営する「RHU=HER」で特注してくれたものだ。
 非常に温かく、吹雪もお気に入りだ。

 「今日もカワイイね!」
 
 吹雪もニコニコしていた。




 吹雪を抱いて戸締りを確認し、マンションを出る。
 病院までは歩いて数分だ。
 でも寒いので吹雪を厚手のショールで包んで抱いている。
 その上でホテル・オークラの中を通り、少しでも外を歩かないようにする。
 時々レストランの顔見知りの方に挨拶される。
 毎回吹雪がカワイイと言ってくれるので嬉しい。

 泊り客らしい外国人の夫婦らしい方とエレベーターが一緒になった。

 「What a cutie Baby!」
 
 私は笑顔でお礼を言った。
 エレベーターを降りると、中から手を振ってくれていた。

 「吹雪、良かったね!」

 


 病院で吹雪を今日の保育担当の方に引き継ぐ。
 毎日担当の方が吹雪と私の体調を確認する。
 口頭での報告だが、吹雪と私の顔色を見ているし、吹雪は検温もする。

 「はい! 今日も二人とも元気ね!」

 私は笑顔で吹雪のことをお願いしますと言う。
 私はナース服に着替えて、響子の部屋へ行く。

 「吹雪ちゃん、元気?」
 「はい!」

 毎朝、響子が聞いて来る。
 響子がタイマーをセットする。
 私の授乳時間を知らせるもので、24時間の間に8回アラームをセット出来る。
 響子が探して見つけてくれたものだ。
 時間になると、響子の声で「六花! オッパイの時間だよ!」とアナウンスが流れ、上の小さな天使がクルクル回る。
 響子が、自分が眠ってしまうと教えられないと思ったからだ。
 響子の優しさが嬉しい。

 午前中は響子の洗濯物や布団干し、部屋の掃除などをする。
 合間に一緒に屋上に上がって遊んだりもする。
 最近は響子が熱を出したり体調を崩すことがないのが嬉しい。
 響子を護るようになったレイが、響子を丈夫にしてくれているようだ。
 時々響子にレイがどこにいるのかを聞いて、お礼を言っている。

 授乳の時間になると、響子の部屋の向かいの保育室へ行く。
 保育担当の方は、吹雪の体調が悪い日以外は常駐ではない。
 時々見回ってくれ、吹雪をあやしたりもしてくれる。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆     ❚(御機嫌)》

 
 「吹雪、オッパイの時間ですよー」

 吹雪にオッパイを選ばせる。
 頭を優しく撫でて行く。
 前は毎回響子も見に来ていたが、石神先生から母子の二人にしてやるように言われ、今は滅多に来ない。
 母親と子どもとの重要な時間なのだそうだ。
 私はいつでも吹雪と大切な時間を送ってはいるが。
 でも、やっぱりオッパイの時間は特別だと分かって来た。
 私の中で神様が創ってくれたお乳を、吹雪が嬉しそうに飲んでその命を支えて行く。
 私が吹雪を生かしている一助であることを実感出来る時間。

 「私もこうやって生かしてもらったんだなー」

 もう会えないお母さんにお礼を言う時間だ。




 響子の昼食が終わると、響子は眠る。
 私は吹雪を抱いて、食堂へ行く。
 お弁当を持って来ることが多く、食堂のテーブルで食べていると、大勢の人が見に来る。
 以前は独りで食べることも多かったが、今は大抵何人かが同じテーブルに座り、他の人も吹雪を見てカワイイと褒めてくれる。
 
 「天使みたいにカワイイよね!」
 「ありがとうございます!」

 石神先生に言われて、みんな吹雪に触らないようになった。
 今の時期は、母親との触れ合いが大切なのだということだった。
 だから、みんな見て褒めるだけにしてくれている。
 吹雪が手を伸ばしたら触ってもいいことになっている。

 「片手だけだ」

 そう石神先生は言った。
 抱き上げてはいけないということだった。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆  ❚(すごい御機嫌)》


 響子が眠る1時前から起きる3時までが、私の休憩時間だ。
 夜中も吹雪が起きていた時期は、もっと長い時間が休憩になっていた。
 響子の夕飯を片付けるまでが、私の勤務時間だ。

 勤務を終えると響子に挨拶して帰る。
 帰り道で、吹雪に沢山のキスをする。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆❚(MAX)》


 家に帰ると、吹雪をベッドに寝かせてから暖房を入れ、最初に自分の食事を作る。
 そして吹雪と一緒にお風呂に入る。

 「身体を洗ってあげるねー!」

 吹雪を柔らかいマットに寝かせて、全身を洗う。
 吹雪は嬉しがってまた手足を動かして暴れる。

 「もう! 大人しくして!」

 私も笑いながら吹雪を時々くすぐってやる。
 髪の毛を洗うために吹雪を仰向けにし、ハンカチを顔に乗せる。
 そうすると目を閉じてシャンプーが目に入ったりしないとナースの先輩から聞いた。
 丁寧に髪を洗ってあげる。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆❚(MAX)》

 
 一緒に湯船に浸かる。
 吹雪はあまり長く入れないので、途中で防水の揺り籠に入れて、冷やさないように気を付けながらお風呂を一緒に楽しむ。
 お風呂から出て、吹雪の身体を拭いて髪を乾かす。
 冬場なので、全身にクリームを塗ってあげる。
 また全身で喜ぶ。

 「食べちゃいたいくらいカワイイ!」

 吹雪の全身にキスをする。

 


 吹雪を温めておいた部屋に入れる。

 「ちょっとここで待っててね?」

 ドアを締めて自分の部屋へ行く。
 手早く石神先生の映像を出し、お道具を揃える。

 「あ……うーん……ハウッ!……アァー! もう! トラぁー! もっと!……はぁはぁ」

 スッキリしたので、吹雪を迎えに行く。


 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆       ❚(ちょっと低め)》


 吹雪を抱き上げて、しばらくベッドで一緒に遊ぶ。
 

 《吹雪御機嫌度:❚☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆❚(MAX)》

 
 「じゃあ、そろそろ寝ようか?」

 吹雪をベビーベッドに入れて布団を掛けて優しくポンポンする。
 吹雪が布団から手を伸ばして、私を求める。

 「ほらー、もう寝なきゃ」

 何度かそう言って宥めて、やっと吹雪が眠る。

「ウフフフ、おやすみ、吹雪」

 そっと額にキスをして私も眠る。




 何でもない日常に、幸せがあちこちで輝いている。
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