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みんなで冬の別荘 Ⅲ 鷹の小料理屋

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 鷹と桜花たち、子どもたちが夕飯の支度を始める。
 大勢いるので、子どもたちはウッドデッキで作業した。
 桜花たちは積極的に鷹に指示を仰いでいる。
 楽しそうだ。
 澪さんも手伝おうとしたが、今日はゆっくりして欲しいと頼んだ。

 俺は御堂や澪さん、栞、響子、六花とテーブルでゆっくりしていた。
 俺のスマホが鳴った。
 聖からだった。

 「よう!」
 「トラ! 元気か!」
 「もちろんだ!」
 「あー、さっきハインリヒたちを回収して来た」
 「そうか、ご苦労だったな!」
 
 聖の「セイントPMC」に、ハインリヒとエリアスの《ボルーチ・バロータ》潜入の後方支援を頼んでいた。
 失敗に終わる可能性が高く、脱出して来た二人を保護し、回収するためだ。

 「やっぱり失敗だったよ。ハインリヒが下半身を潰された。トラの「Ω」のお陰で何とか逃げ延びて来た」
 「そうか、しょうがないな」
 「あの拠点は「ハイヴ」ではなかった。一応破壊しといたけどな」
 「ありがとうな。まあ、これで振り出しに戻ったわけか」
 
 ハインリヒたちは《ボルーチ・バロータ》の拠点には行ったが、俺たちが望む「ハイヴ」と呼ばれる生体兵器の工場では無かったようだ。

 「話を聞くと、敵にも思考が読める奴がいるらしい。ハインリヒたちも全てバレた上で殺されそうになった」
 「よく逃げ出したな」
 「ああ、結構やる連中だ。エリアスって方はちょっと面が変わってたぞ」
 「そうか」

 やはりまだ俺たちに隠している能力があるらしい。
 恐らくは、身体能力を向上させるものだろうと俺は予想した。
 俺が日本で二人を拷問にかけた時にも、エリアスがその状態になろうとしていた。
 ハインヒリが必死に止めていたのは、そういうことなのだろう。

 「年が明けたらそっちへ行く。その時にゆっくり聞かせてもらおう」
 「ああ、二人はここに拘束しておくよ」
 「頼む」

 電話を切った。
 御堂を誘って部屋を出た。
 俺の部屋へ行く。

 「ロシアに潜入していた二人が《ボルーチ・バロータ》の潜入に失敗した」
 「そうか、残念だな」
 「しょうがないさ。元々無茶だとは思っていたんだ」
 
 ブルートシュヴェルトの連中がどうしてもやりたいと言って来た。
 「ハイヴ」というジェヴォーダンなどを育成する工場があることまでは掴んでいた。
 そこが分かれば、俺たちの戦力で急襲するつもりだった。
 《ボルーチ・バロータ》は、「ハイヴ」を本部拠点としているらしい。
 しかし、ハインリヒたちが向かったのは別なものだったようだ。

 「今後、俺たちの力で衛星が飛ばせるようになる」
 「ああ、ミユキさんのチームだね」
 「そうだ。まだ先になるけど、ミユキは絶対にやるよ」
 「うん、僕も信じている」

 リヴィングへ戻ると、いい匂いがしていた。
 今日はバーベキューだが、鷹が別途日本料理を作っている。
 桜花たちはアラスカでも作れるように、鷹に一生懸命に習っている。
 蓮花が鍛えたはずだが、全部を教えることは出来なかった。
 料理以外にも、桜花たちは優先して学ばなければならないことが多かった。
 今日はいい機会になったのだろう。
 鷹は向こうへ行っても桜花たちに教えていただろうが、今日は一層本気で教えられる。
 基本的なことを学ぶ機会は少ない。

 「お兄ちゃんが近く講師をするの」
 「そうなんですか!」
 「あなたたちも通ってみたら?」
 「はい! 栞様に相談します!」

 楽しそうにやっている。
 ロボは士王と吹雪とじゃれていた。
 響子がヒモたわしを持って来て、士王に引かせる。
 ロボが飛び付いて、士王を喜ばせた。

 栞は六花と子育て話をしている。
 澪さんが先輩としてまた話している。
 そちらも楽しそうだった。

 「石神、いいね」
 「そうだな」

 夕飯の支度が出来、まずはバーベキューを楽しむために、みんなでウッドデッキへ出た。

 8人掛けのテーブルが4台出ている。
 一つは俺と御堂、澪さん、栞、響子、六花、鷹。
 もう一つに桜花、椿姫、睡蓮、亜紀ちゃん、皇紀、ルー、ハー、柳。
 士王と吹雪は寒いのでリヴィングにいる。
 まあ、子どもたちはしばらく立ち食いだが。

 俺が中心に1台のバーベキュー台で焼き、子どもたちは自由にやらせる。
 俺たちは肉や野菜の他、ホイル焼きなども仕込む。
 床暖房を入れているので、ウッドデッキにいればそれほどは寒くない。
 御堂と澪さんには赤外線ヒーターを当てている。
 特に澪さんは今日は一歩も動かさない。

 「たまにはゆっくりして食べて下さいね!」
 「ありがとうございます!」

 澪さんが嬉しそうに御堂と食べていた。
 バーベキューをそこそこ食べてから、俺たちはリヴィングへ移動した。

 「割烹「鷹」へ行くぞ!」

 鷹たちの作った料理を堪能する。

 鷹が早速鮨を握り始める。
 みんな唸りながら食べた。

 「将来は二人で小料理屋を開くんだ」
 「僕は毎日通うって言ったよね!}
 「御堂と澪さんは全部タダな!」
 
 みんなで笑った。

 鯛の幽庵焼き。
 鮑の柚子胡椒のステーキ。
 ヤマトイモのみそ焼き。
 タケノコと厚揚げのヤマト煮。
 食花と豆腐の盛り付け。
 牛フィレのわさび醤油ステーキ。
 その他御造りと各種器。

 通常の人間たちがほとんどなので、一つ一つの量は多くない。
 俺と六花は結構ボリュームがある。

 「家に帰りたくないね」
 「そうですね」

 御堂と澪さんが楽しそうに話している。

 「おお! ずっと一緒にいろよ!」

 二人が笑った。
 桜花たちも楽しそうに食べながら料理の話をしていた。

 「栞様! この料理は全部覚えましたから!」
 「ありがとう!」
 「タコ料理も鷹さんにいろいろお聞きしました」
 「う、ありがとう」

 自業自得だ。
 いつ告白するのやら。
 まあ、鷹の料理ならタコもまた美味いだろう。

 「石神先生! お寿司は如何ですか?」
 「マグロの赤身を貰おうかな!」
 「はい!」

 鷹が嬉しそうに握ってくれる。
 それを貰ってから、一緒に座れと言った。

 「鷹の料理は最高だな!」
 「今日は桜花さんたちにも手伝って頂きましたから」
 「ああ、この三人も相当美味いんだけどな」
 「いいえ! 鷹さんには全然届きません!」
 「まあ、年季が違うからなぁ。士王くらいの年にはもう包丁を握ってたからな」
 「握ってませんよ!」

 みんなで笑った。
 響子は特別に七輪で焼いてもらった焼き鳥を六花と嬉しそうに食べていた。
 士王も鷹の握り寿司を美味そうに食べている。
 士王には、酢飯を軽くしている。
 子どもの舌に合わせているのだ。
 そういう所も、鷹は流石だった。

 「石神と鷹さんの小料理屋は楽しみだね」
 「おう! お前の家の隣に建てるからな!」
 「アハハハハハ!」

 


 本当にそんな日が来て欲しい。
 俺たちの学生時代の夢は叶わなかった。
 しかし、夢を語ることが出来なくなったわけではない。
 夢は実現しなくてもいい。
 それを語ることが全てなのだ。

 鷹が嬉しそうに笑って俺を見ていた。
 それでいいのだ。
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