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蓮花研究所 ヒモダンス

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 俺が税務調査の話を終え、全員が嗤っていた。

 「石神様に、何ということを! ザマァ!」

 蓮花が叫び、またみんなが笑った。

 「まあ、申告隠しで罪を問うというのは、昔からある追い落としの常套手段だ」
 「そうなの?」
 「多くの巨悪がそれで失脚した。人間というのは上に上がるとますます因業になって行くものだからな」
 「へぇー」

 アル・カポネの話をした。

 「栞や蓮花は知っていると思うけど、『アンタッチャブル』というドラマで有名になったじゃない」
 「え、知らない」
 
 栞が言う。
 なんでだよー。

 「アル・カポネはシカゴの暗黒街を牛耳っていたボスだ。余りにも大きな組織で、警察も手が出せなかった。政治家や官憲も買収していたからな。実質シカゴの支配者だ。官憲のエリオット・ネスらの捜査チームも頑張った。その記録が『アンタッチャブル』というドラマになったんだよ」
 「あなたって、旧い物をよく知ってるよね」
 「同年代だろう!」

 鷹が笑い、栞に睨まれた。

 「蓮花は知ってるよな?」
 「いえ、わたくしは若いもので存じません」

 蓮花を睨んだ。

 「でもな、結局カポネを逮捕したのは国税局の人間だったんだ」
 「そうなの!」
 「国税局や税務署というのは優秀な組織でな。金の流れを恐ろしい程に正確に掴む。まあ、実際には隠しようがないんだよ。物が存在すれば、その費用が掛かったのは明らかだからな。今は国税局もスーパーコンピューターですぐに解析する」
 「じゃあ、あなたのこともそれで分かったの?」
 「俺は税金はちゃんと納めてるよ! もちろんまあ、アレだけどな」
 「やっぱり怪しいじゃない!」
 「そうじゃねぇよ! 軍事関係に莫大な金を使っているけど、そっちは俺とは切り離されている。むしろ双子の資産運用が異常だ。でもそれだって、正当な稼ぎだからな」
 「じゃあ、どうして鼻毛はあなたを狙ったの?」
 「あいつは元々おかしい奴だったんだ。後から分かったことだけど、データを改竄して狙った相手を陥れたりもしていた。それで成績を上げて出世してたんだ」
 「賄賂もだね」
 「そうだ。ある程度の地位になってから、稼ぎまくった。それで自分は風俗やギャンブルに嵌ってな。税務署員はギャンブルなどは厳禁なんだけど、あいつはやってた」
 
 亜紀ちゃんが言った。

 「あいつ! 奈津江さんの大事なレシートを握りしめたんですよ!」
 「なにそれ?」

 栞は知らなかった。
 亜紀ちゃんが一生懸命に説明する。
 奈津江が俺とのデートのレシートを全部取っておいていた。
 栞も鷹も蓮花も感動していた。

 「許せないね!」
 「まったくです」
 「追い打ちをかけましょう!」

 三人が叫んだ。

 「まあ、もういいよ。今は全財産を喪って生活保護を受けているらしいけどな」
 「生活保護って、犯罪者でも受給できるの?」
 「出来るよ。それでも精神的におかしくなっているから、金の使い方も無茶苦茶で酷い状況だってさ」
 「じゃあ、もういいかー」
 
 俺はこれまで子どもたちにも話していなかったことを言った。

 「これも後からだけどな。鼻毛をけしかけた政治家連中は、「業」の枝がついていた」
 
 全員が驚いた。

 「おかしいとは思っていたんだ。日本での俺の立場は、自分で言うのもアレだけど、結構なものだからな」
 「そうですよ!」
 
 亜紀ちゃんが叫ぶ。

 「国税局ともなれば、トップの人間は当然知っている。それなのに、一介の税務署の課長風情がどうして俺の家の税務調査の許可を得られたのかと考えていた」
 「上に報告しなかったから?」
 「まあ、そういうことだけどな。それにしてもおかしい。石神家は特別だからな」
 「タカさんは最高です!」

 みんなで笑った。

 「巧妙に操作されていた。鼻毛の上司も弱みを握られていたんだ。そういう手配を整えた奴がいる。「業」も力業だけじゃないんだな」
 「気を付けないとね」
 「まあ、今回のことでも分かるように、俺に対しては搦め手も通用しないよ。今の日本にとっては「虎」の軍は欠かせないし、御堂もいるしな」
 「そうだね」

 「いざとなればタマを使うことも出来る。精神操作で大体のことは解決出来るしな」
 「あなたは相変わらず忙しいのね」
 「自分で決めたことだ。そうも言っていられないよ」

 それは全員がそうだった。

 「石神様は、本当に尊いお方です」

 蓮花がそう言い、「Ω」たちの宗教の話をした。

 「あのような者たちでさえ、石神様の尊さが分かるのです」

 みんなが興味を持った。

 「じゃあ、見に行くか?」
 
 みんな多少の気持ち悪さはあったが、好奇心が勝ったようだ。
 全員で片付けてから、「Ω繁殖場」へ行った。

 中へ入るのは面倒なので、監視通路の大きなガラス窓から中を覗いた。

 俺の姿に気付いた一匹が何かを叫んだようだった。
 すぐに全員がこちらを向いて整列した。


 《サッ!》


 一斉に右の前足を上に上げる。
 栞と鷹、桜花たちが驚いていた。
 亜紀ちゃんが大笑いする。

 「なんか、ちょっとカワイイですね!」
 「そうだよな!」

 栞が手を振ると、「Ω」たちが栞にも敬礼した。


 《サッ!》


 「あ! 私にもしてくれた!」
 「ああ、栞はこいつらのマザーだしな」
 「やめてよ!」

 栞のパンツが「Ω」を生んだ。
 成分の分析が済むまで、定期的にパンツを送ってもらった。

 「懐かしいですね」
 「まったくだ」

 蓮花と俺が言うと、栞が膨れた。
 亜紀ちゃんが対抗意識を燃やしたか、「ヒモダンス」を始めた。
 俺も一緒に踊り、全員で踊った。
 桜花たちも笑いながら一緒にやった。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 「Ω」たちがずっと見ていた。
 知能の高い「エグリゴリΩ」たちが覚えた。
 向こうでそれっぽい動きをする。

 みんなで笑って戻った。




 1か月後、蓮花から「Ω」たちの礼拝に、「ヒモダンス」が加わったと報告を受けた。

 へー。
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