上 下
1,787 / 2,840

蓮花研究所 ヒモダンス

しおりを挟む
 俺が税務調査の話を終え、全員が嗤っていた。

 「石神様に、何ということを! ザマァ!」

 蓮花が叫び、またみんなが笑った。

 「まあ、申告隠しで罪を問うというのは、昔からある追い落としの常套手段だ」
 「そうなの?」
 「多くの巨悪がそれで失脚した。人間というのは上に上がるとますます因業になって行くものだからな」
 「へぇー」

 アル・カポネの話をした。

 「栞や蓮花は知っていると思うけど、『アンタッチャブル』というドラマで有名になったじゃない」
 「え、知らない」
 
 栞が言う。
 なんでだよー。

 「アル・カポネはシカゴの暗黒街を牛耳っていたボスだ。余りにも大きな組織で、警察も手が出せなかった。政治家や官憲も買収していたからな。実質シカゴの支配者だ。官憲のエリオット・ネスらの捜査チームも頑張った。その記録が『アンタッチャブル』というドラマになったんだよ」
 「あなたって、旧い物をよく知ってるよね」
 「同年代だろう!」

 鷹が笑い、栞に睨まれた。

 「蓮花は知ってるよな?」
 「いえ、わたくしは若いもので存じません」

 蓮花を睨んだ。

 「でもな、結局カポネを逮捕したのは国税局の人間だったんだ」
 「そうなの!」
 「国税局や税務署というのは優秀な組織でな。金の流れを恐ろしい程に正確に掴む。まあ、実際には隠しようがないんだよ。物が存在すれば、その費用が掛かったのは明らかだからな。今は国税局もスーパーコンピューターですぐに解析する」
 「じゃあ、あなたのこともそれで分かったの?」
 「俺は税金はちゃんと納めてるよ! もちろんまあ、アレだけどな」
 「やっぱり怪しいじゃない!」
 「そうじゃねぇよ! 軍事関係に莫大な金を使っているけど、そっちは俺とは切り離されている。むしろ双子の資産運用が異常だ。でもそれだって、正当な稼ぎだからな」
 「じゃあ、どうして鼻毛はあなたを狙ったの?」
 「あいつは元々おかしい奴だったんだ。後から分かったことだけど、データを改竄して狙った相手を陥れたりもしていた。それで成績を上げて出世してたんだ」
 「賄賂もだね」
 「そうだ。ある程度の地位になってから、稼ぎまくった。それで自分は風俗やギャンブルに嵌ってな。税務署員はギャンブルなどは厳禁なんだけど、あいつはやってた」
 
 亜紀ちゃんが言った。

 「あいつ! 奈津江さんの大事なレシートを握りしめたんですよ!」
 「なにそれ?」

 栞は知らなかった。
 亜紀ちゃんが一生懸命に説明する。
 奈津江が俺とのデートのレシートを全部取っておいていた。
 栞も鷹も蓮花も感動していた。

 「許せないね!」
 「まったくです」
 「追い打ちをかけましょう!」

 三人が叫んだ。

 「まあ、もういいよ。今は全財産を喪って生活保護を受けているらしいけどな」
 「生活保護って、犯罪者でも受給できるの?」
 「出来るよ。それでも精神的におかしくなっているから、金の使い方も無茶苦茶で酷い状況だってさ」
 「じゃあ、もういいかー」
 
 俺はこれまで子どもたちにも話していなかったことを言った。

 「これも後からだけどな。鼻毛をけしかけた政治家連中は、「業」の枝がついていた」
 
 全員が驚いた。

 「おかしいとは思っていたんだ。日本での俺の立場は、自分で言うのもアレだけど、結構なものだからな」
 「そうですよ!」
 
 亜紀ちゃんが叫ぶ。

 「国税局ともなれば、トップの人間は当然知っている。それなのに、一介の税務署の課長風情がどうして俺の家の税務調査の許可を得られたのかと考えていた」
 「上に報告しなかったから?」
 「まあ、そういうことだけどな。それにしてもおかしい。石神家は特別だからな」
 「タカさんは最高です!」

 みんなで笑った。

 「巧妙に操作されていた。鼻毛の上司も弱みを握られていたんだ。そういう手配を整えた奴がいる。「業」も力業だけじゃないんだな」
 「気を付けないとね」
 「まあ、今回のことでも分かるように、俺に対しては搦め手も通用しないよ。今の日本にとっては「虎」の軍は欠かせないし、御堂もいるしな」
 「そうだね」

 「いざとなればタマを使うことも出来る。精神操作で大体のことは解決出来るしな」
 「あなたは相変わらず忙しいのね」
 「自分で決めたことだ。そうも言っていられないよ」

 それは全員がそうだった。

 「石神様は、本当に尊いお方です」

 蓮花がそう言い、「Ω」たちの宗教の話をした。

 「あのような者たちでさえ、石神様の尊さが分かるのです」

 みんなが興味を持った。

 「じゃあ、見に行くか?」
 
 みんな多少の気持ち悪さはあったが、好奇心が勝ったようだ。
 全員で片付けてから、「Ω繁殖場」へ行った。

 中へ入るのは面倒なので、監視通路の大きなガラス窓から中を覗いた。

 俺の姿に気付いた一匹が何かを叫んだようだった。
 すぐに全員がこちらを向いて整列した。


 《サッ!》


 一斉に右の前足を上に上げる。
 栞と鷹、桜花たちが驚いていた。
 亜紀ちゃんが大笑いする。

 「なんか、ちょっとカワイイですね!」
 「そうだよな!」

 栞が手を振ると、「Ω」たちが栞にも敬礼した。


 《サッ!》


 「あ! 私にもしてくれた!」
 「ああ、栞はこいつらのマザーだしな」
 「やめてよ!」

 栞のパンツが「Ω」を生んだ。
 成分の分析が済むまで、定期的にパンツを送ってもらった。

 「懐かしいですね」
 「まったくだ」

 蓮花と俺が言うと、栞が膨れた。
 亜紀ちゃんが対抗意識を燃やしたか、「ヒモダンス」を始めた。
 俺も一緒に踊り、全員で踊った。
 桜花たちも笑いながら一緒にやった。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 「Ω」たちがずっと見ていた。
 知能の高い「エグリゴリΩ」たちが覚えた。
 向こうでそれっぽい動きをする。

 みんなで笑って戻った。




 1か月後、蓮花から「Ω」たちの礼拝に、「ヒモダンス」が加わったと報告を受けた。

 へー。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...