上 下
1,784 / 2,806

石神家 税務調査

しおりを挟む
 夕食を終えて風呂に入り、酒を飲んだ。
 俺と蓮花、栞、鷹、桜花、椿姫、睡蓮、亜紀ちゃん、それにロボだ。
 ロボが飲める奴だと知らない栞と鷹が驚いた。
 夕飯で残ったもので鍋を作り、他に蓮花が幾つか肴を作った。
 楽しく話している中で、栞が言った。

 「ねえ、あなた」
 「なんだ?」
 「聞いてもしょうがないんだけどさ。今、あなたの資産って幾らあるの?」
 「あー」

 亜紀ちゃんが爆笑し、他の人間が訳も分からずになんなのかという顔をしていた。

 「こないだ、あー、10月の中旬だったな」
 「そうですよー」
 「税務署が突然うちに来てよ」
 「えぇー!」
 
 俺はその時の話をした。
 
 「後から分かったのは、野党の政治家たち、まあ落選した連中ばかりだけどな。そいつらがけしかけたらしいよ」
 「大変じゃない!」
 「俺は真面目に税金を納めてるけどさ。表に出せないものも多いだろ?」
 「不真面目だよね?」
 「うるせぇ!」

 栞の頭を軽くはたいた。

 「とにかく、予告なしに来やがってよ!」
 「それって、税務署で何かを掴んでたってことだよね?」
 「流石は悪の総本山「花岡家」の娘だな!」
 「違うよ!」

 元々は俺も大学の後輩の公認会計士を雇っていた。
 しかし、あまりにも資産が増えて動かしているので、幾つかの公認会計士と税理士の事務所が入るようになった。
 申し訳ないが、彼らにも話せない資産が結構ある。
 個人が世界最大の軍事拠点を所有しているのだから、どうしようもない。
 数年前からロックハート家の紹介の人間も入っている。
 何とか整理されているのは、資金運用の天才「スナーク」がいるからだ。

 それでも、家にはヤバいものが沢山ある。

 特に最大級に困ったのは「レッドダイヤモンド」たちだ。
 クロピョンが何のつもりか次々にでかい塊を持って来るので、どうにもならない。
 幾つかは配ったが、貰った方も困ってしまう。
 だから大半は裏の研究棟などに押し込んでいる。
 もう自棄になって地質調査までさせた。

 「来やがった中心の人間が、税務署内でも最悪の評判の人間でさ。頭がおかしい奴なんだよ」
 「どういう人なの?」
 「狙ったら絶対に申告隠しを見つけてやるってなぁ」
 「凄い人なのね」
 「いや、大半は失敗で終わるんだよ。散々相手に迷惑を掛けた上に、謝罪までさせられるというなぁ。だから評判が悪いわけ」
 「あらあら」

 「《鼻毛(はなのけ)》って言う人なんですよ!」

 みんなが笑った。

 「まあ、苗字で嗤うのは悪いけどな。あいつはいいよ」
 「随分苦労させられたのね」
 「そうだよ。でもまあ、俺も本当に隠してるしな」
 「アハハハハハ!」

 俺は詳しい話をした。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 10月中旬の木曜日。
 朝食を食べていると、チャイムが鳴った。
 こんな時間に来る奴はいない。
 敵ならば、とっくに突っ込んで来る。
 誰だろうと思った。
 亜紀ちゃんが応答していた。

 「え?」
 「誰だ?」
 「税務署の人ですって」
 「なんだと!」

 俺は瞬時にヤバいもののことを考えた。
 対税務署については、スナークが上手くやってくれている。
 ただ、スナークに任せていない物もうちにはある。
 最大級は「レッドダイヤモンド」などだ。
 それと武器類。
 俺の部屋にはマグナム拳銃「ブリガディア」があり、また「虎王」などの刀剣もある。
 俺は子どもたちに命じて、レッドダイヤモンドや「虎王」以外の武器を「吉原龍子」の遺品部屋へ移動させた。
 他にも指示を次々に出した。
 
 「急げ! 俺が時間を稼ぐからな!」
 「「「「「はい!」」」」」

 俺はパジャマのままで外に出て、門へ向かった。




 税務署員は用意万端で、2トントラックを連ねて来ていた。
 問答無用で書類などを押収するつもりだ。
 鼻毛と名乗る人間が俺に名刺を渡して来た。

 「税務調査です。石神高虎さんですね」
 「ええ。でも私は個人ですので、任意の調査になるかと思いますが」
 「石神さん。あなたには重加算税の疑いが濃厚なのです。それも莫大な金額ですよ」
 「なんですって?」
 「だから強制調査で立ち入りをします。抵抗はなさらないで下さい」
 「困りますって! これから出勤なんですよ!」
 「あなたが居なくてもまったく構いません。我々で調査し、資料を持ち帰りますから」
 「あなたねぇ!」

 無駄とは分かっていたが、しばらく押し問答をする。
 亜紀ちゃんが出て来た。
 終わったということだ。

 「しょうがない。じゃあ中へどうぞ。お手柔らかにお願いしますよ」
 「アハハハハハ! 石神さん! 私は必ずあなたの隠している資産を暴き出しますよ!」
 「……」

 頭のおかしい人間であることは、先ほどの会話で分かっていた。
 こういう人間には何を言っても無駄だ。
 俺はすぐに税理士グループに連絡した。
 すぐに来ると言ってくれた。
 また一江にも電話した。
 
 「悪いな、急に税務署の連中が来てさ」
 「分かりました。こっちはちゃんとやっときますよ」

 税務署員たちは、最初に家の周囲を調べ、写真をガンガン撮って行く。
 特に増築部分とガレージだ。
 超高級車が幾つもある。
 そして言われるままに家の中へ入れた。
 20人近い人間たちが、俺たちの案内無く勝手に家の中を探っていく。
 「マルサ」の評判がいいわけがないことは、すぐに分かった。

 「見るのはいいけど、何かを破損したら弁償してもらいますからね」

 絨毯をめくったりしている。
 丁寧にやっているわけではない。

 御堂にも連絡した。
 うちに税務調査が入ったことを告げる。

 「分かった」

 御堂はそう言って電話を切った。

 「タカさん、後でお茶を用意しますね」
 「いらん! 水も出すな! トイレも使わせるんじゃねぇ!」

 俺の剣幕に亜紀ちゃんも驚いた。
 鼻毛が俺を見て笑っている。

 「そういう態度の人ね。みんな悪いことをしてましたよ」
 「そうかよ!」

 俺は着替えに自分の部屋へ戻った。
 鼻毛が数人を連れて付いて来る。

 「隠そうとしてもダメですよ。先にお部屋を拝見します」
 「なんだと!」
 「だって、今早速隠しに行くんでしょ?」
 「着替えだよ!」
 「そんなこと言ってもダメです。先に調べさせてもらいますよ」
 「お前たちは俺に着替えもさせないつもりか!」
 「我々の前で着替えればいいじゃないですか」
 「このやろう!」

 仕方なく、俺は連中のいる中で着替えた。

 「ほう、随分と高そうなスーツですね」
 「お前には関係ない!」
 「後で全部調べますからね」
 「勝手にしろ!」

 鼻毛たちは俺の部屋を隈なく漁って行く。
 ベッドの下、枕や布団の間など。
 
 「デスクの鍵を開けて下さい」
 「ふん!」

 開けてやった。

 鼻毛が真っ先に調べて行く。
 手紙や書類はすべてダンボール箱に納めて行く。
 アメリカとの密約などは、すべて移動しているはずだ。

 亜紀ちゃんが心配そうに来た。

 「酷いですね」
 「まったくだ」

 鼻毛たちは気にしていない。

 「金庫を開けて下さい」

 俺は黙って開けてやった。
 数億円と有価証券など、その他に奈津江などとの思い出の品が入っている。
 鼻毛が書類などがないか探している。

 「おや?」

 マチ付きの封筒を開いて中身を出した。

 「おやおや!」
 「!」

 俺の出演のAVだ。

 「アァー! こんなところに!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。
 前に亜紀ちゃんに壊された残り9枚だ。

 「石神さん、なんです、これ?」
 「わ、若い頃に出演した記念だよ!」
 「タカさん!」

 「おお! じゃあ、その出演料なども話してもらいますね!」
 「タカさん! まだあったんですか!」
 「おい、今それどこじゃねぇだろう!」

 「許しませんよ!」
 「なんでだよ!」

 税務調査どころでは無くなった。




 俺は心底ウンザリした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...