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石神家 税務調査

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 夕食を終えて風呂に入り、酒を飲んだ。
 俺と蓮花、栞、鷹、桜花、椿姫、睡蓮、亜紀ちゃん、それにロボだ。
 ロボが飲める奴だと知らない栞と鷹が驚いた。
 夕飯で残ったもので鍋を作り、他に蓮花が幾つか肴を作った。
 楽しく話している中で、栞が言った。

 「ねえ、あなた」
 「なんだ?」
 「聞いてもしょうがないんだけどさ。今、あなたの資産って幾らあるの?」
 「あー」

 亜紀ちゃんが爆笑し、他の人間が訳も分からずになんなのかという顔をしていた。

 「こないだ、あー、10月の中旬だったな」
 「そうですよー」
 「税務署が突然うちに来てよ」
 「えぇー!」
 
 俺はその時の話をした。
 
 「後から分かったのは、野党の政治家たち、まあ落選した連中ばかりだけどな。そいつらがけしかけたらしいよ」
 「大変じゃない!」
 「俺は真面目に税金を納めてるけどさ。表に出せないものも多いだろ?」
 「不真面目だよね?」
 「うるせぇ!」

 栞の頭を軽くはたいた。

 「とにかく、予告なしに来やがってよ!」
 「それって、税務署で何かを掴んでたってことだよね?」
 「流石は悪の総本山「花岡家」の娘だな!」
 「違うよ!」

 元々は俺も大学の後輩の公認会計士を雇っていた。
 しかし、あまりにも資産が増えて動かしているので、幾つかの公認会計士と税理士の事務所が入るようになった。
 申し訳ないが、彼らにも話せない資産が結構ある。
 個人が世界最大の軍事拠点を所有しているのだから、どうしようもない。
 数年前からロックハート家の紹介の人間も入っている。
 何とか整理されているのは、資金運用の天才「スナーク」がいるからだ。

 それでも、家にはヤバいものが沢山ある。

 特に最大級に困ったのは「レッドダイヤモンド」たちだ。
 クロピョンが何のつもりか次々にでかい塊を持って来るので、どうにもならない。
 幾つかは配ったが、貰った方も困ってしまう。
 だから大半は裏の研究棟などに押し込んでいる。
 もう自棄になって地質調査までさせた。

 「来やがった中心の人間が、税務署内でも最悪の評判の人間でさ。頭がおかしい奴なんだよ」
 「どういう人なの?」
 「狙ったら絶対に申告隠しを見つけてやるってなぁ」
 「凄い人なのね」
 「いや、大半は失敗で終わるんだよ。散々相手に迷惑を掛けた上に、謝罪までさせられるというなぁ。だから評判が悪いわけ」
 「あらあら」

 「《鼻毛(はなのけ)》って言う人なんですよ!」

 みんなが笑った。

 「まあ、苗字で嗤うのは悪いけどな。あいつはいいよ」
 「随分苦労させられたのね」
 「そうだよ。でもまあ、俺も本当に隠してるしな」
 「アハハハハハ!」

 俺は詳しい話をした。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 10月中旬の木曜日。
 朝食を食べていると、チャイムが鳴った。
 こんな時間に来る奴はいない。
 敵ならば、とっくに突っ込んで来る。
 誰だろうと思った。
 亜紀ちゃんが応答していた。

 「え?」
 「誰だ?」
 「税務署の人ですって」
 「なんだと!」

 俺は瞬時にヤバいもののことを考えた。
 対税務署については、スナークが上手くやってくれている。
 ただ、スナークに任せていない物もうちにはある。
 最大級は「レッドダイヤモンド」などだ。
 それと武器類。
 俺の部屋にはマグナム拳銃「ブリガディア」があり、また「虎王」などの刀剣もある。
 俺は子どもたちに命じて、レッドダイヤモンドや「虎王」以外の武器を「吉原龍子」の遺品部屋へ移動させた。
 他にも指示を次々に出した。
 
 「急げ! 俺が時間を稼ぐからな!」
 「「「「「はい!」」」」」

 俺はパジャマのままで外に出て、門へ向かった。




 税務署員は用意万端で、2トントラックを連ねて来ていた。
 問答無用で書類などを押収するつもりだ。
 鼻毛と名乗る人間が俺に名刺を渡して来た。

 「税務調査です。石神高虎さんですね」
 「ええ。でも私は個人ですので、任意の調査になるかと思いますが」
 「石神さん。あなたには重加算税の疑いが濃厚なのです。それも莫大な金額ですよ」
 「なんですって?」
 「だから強制調査で立ち入りをします。抵抗はなさらないで下さい」
 「困りますって! これから出勤なんですよ!」
 「あなたが居なくてもまったく構いません。我々で調査し、資料を持ち帰りますから」
 「あなたねぇ!」

 無駄とは分かっていたが、しばらく押し問答をする。
 亜紀ちゃんが出て来た。
 終わったということだ。

 「しょうがない。じゃあ中へどうぞ。お手柔らかにお願いしますよ」
 「アハハハハハ! 石神さん! 私は必ずあなたの隠している資産を暴き出しますよ!」
 「……」

 頭のおかしい人間であることは、先ほどの会話で分かっていた。
 こういう人間には何を言っても無駄だ。
 俺はすぐに税理士グループに連絡した。
 すぐに来ると言ってくれた。
 また一江にも電話した。
 
 「悪いな、急に税務署の連中が来てさ」
 「分かりました。こっちはちゃんとやっときますよ」

 税務署員たちは、最初に家の周囲を調べ、写真をガンガン撮って行く。
 特に増築部分とガレージだ。
 超高級車が幾つもある。
 そして言われるままに家の中へ入れた。
 20人近い人間たちが、俺たちの案内無く勝手に家の中を探っていく。
 「マルサ」の評判がいいわけがないことは、すぐに分かった。

 「見るのはいいけど、何かを破損したら弁償してもらいますからね」

 絨毯をめくったりしている。
 丁寧にやっているわけではない。

 御堂にも連絡した。
 うちに税務調査が入ったことを告げる。

 「分かった」

 御堂はそう言って電話を切った。

 「タカさん、後でお茶を用意しますね」
 「いらん! 水も出すな! トイレも使わせるんじゃねぇ!」

 俺の剣幕に亜紀ちゃんも驚いた。
 鼻毛が俺を見て笑っている。

 「そういう態度の人ね。みんな悪いことをしてましたよ」
 「そうかよ!」

 俺は着替えに自分の部屋へ戻った。
 鼻毛が数人を連れて付いて来る。

 「隠そうとしてもダメですよ。先にお部屋を拝見します」
 「なんだと!」
 「だって、今早速隠しに行くんでしょ?」
 「着替えだよ!」
 「そんなこと言ってもダメです。先に調べさせてもらいますよ」
 「お前たちは俺に着替えもさせないつもりか!」
 「我々の前で着替えればいいじゃないですか」
 「このやろう!」

 仕方なく、俺は連中のいる中で着替えた。

 「ほう、随分と高そうなスーツですね」
 「お前には関係ない!」
 「後で全部調べますからね」
 「勝手にしろ!」

 鼻毛たちは俺の部屋を隈なく漁って行く。
 ベッドの下、枕や布団の間など。
 
 「デスクの鍵を開けて下さい」
 「ふん!」

 開けてやった。

 鼻毛が真っ先に調べて行く。
 手紙や書類はすべてダンボール箱に納めて行く。
 アメリカとの密約などは、すべて移動しているはずだ。

 亜紀ちゃんが心配そうに来た。

 「酷いですね」
 「まったくだ」

 鼻毛たちは気にしていない。

 「金庫を開けて下さい」

 俺は黙って開けてやった。
 数億円と有価証券など、その他に奈津江などとの思い出の品が入っている。
 鼻毛が書類などがないか探している。

 「おや?」

 マチ付きの封筒を開いて中身を出した。

 「おやおや!」
 「!」

 俺の出演のAVだ。

 「アァー! こんなところに!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。
 前に亜紀ちゃんに壊された残り9枚だ。

 「石神さん、なんです、これ?」
 「わ、若い頃に出演した記念だよ!」
 「タカさん!」

 「おお! じゃあ、その出演料なども話してもらいますね!」
 「タカさん! まだあったんですか!」
 「おい、今それどこじゃねぇだろう!」

 「許しませんよ!」
 「なんでだよ!」

 税務調査どころでは無くなった。




 俺は心底ウンザリした。 
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