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蓮花研究所 シャドウと温泉

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 蓮花の研究所には11時前に着いた。
 今日は研究所員やブランたち全員で出迎えてくれる。
 栞と士王を歓迎してくれているのだ。
 俺たちに挨拶し、みんなが栞が抱いた士王に寄って来る。
 刺激を与えないように、あまり近くには来ない。
 少し離れた位置でみんなが見ていた。

 「随分と大きくなっただろう!」
 
 俺が言うと、みんなが喜んだ。
 しばらくお披露目をしてから、中へ入った。
 電動移動車に乗る。

 「みんな、楽しみにしておりました」
 「そうか」

 蓮花が嬉しそうに笑った。

 「花岡の御屋敷は如何でした?」
 「ああ、思った通り、散々相手させられたぜ」
 「斬様も、普段はお相手がいないでしょうから」
 「迷惑だぁ!」

 みんなが笑った。

 「早朝に起こされてよ。まだ暗いんだぜ?」
 「オホホホホ」

 すぐに蓮花が昼食を用意してくれた。
 栞のために、本格的な和食だ。

 ブリの照り焼き。
 イシガレイの唐揚げ。
 牛肉のしぐれ煮。
 ふろふき大根。
 あんこう鍋。
 その他の器物と子どもたちの「肉」。
 鷹が蓮花の腕前を褒め称えていた。

 「石神様、夕飯は本当におでんで宜しいのですか?」
 「ああ、アラスカじゃ食べられないからな」

 拡張した大食堂でみんなで食べるつもりだった。
 蓮花は幾つか他の鍋を作る許可を求めた。
 もちろん了承した。
  
 


 研究所は基本的に休みに入っている。
 来年の4日までだ。
 もちろん、機能が止まることはなく、防衛システムはもちろん、様々な仕事は交代で担って行く。
 「Ω」の世話などもそうだ。
 ブランたちの訓練は自由参加としているが、まあ大抵いつも通りやっているようだ。
 だから俺は簡単なマス・ゲームをするつもりでいた。

 「宝探し」だ。

 シャドウのいる山中で、1000個ほど宝を隠した。
 コインだ。
 以前に「ハッチ」がくれたコインが大量にあった。
 それを山中の木の上や石の下などに隠し、全員で探して歩く。
 大半はただ地面に置いたままだ。
 研究所員でも見つけられる。
 シャドウに頼んだ。
 「面白そうですね!」と、喜んで引き受けてくれた。 

 昼食を終え、子どもたちが研究所に残り、全員で山に向かった。
 全ての研究所員は無理だったが、ほとんどが参加出来た。
 蓮花が興奮していて、ジェシカがまた宥めていた。

 「わたくしが優勝いたします!」
 「蓮花さん!」
 「まあ、ガンバレ」

 栞も士王を子どもたちに預けて参加する。
 鷹も一緒だ。
 山道の入り口で俺が説明した。

 「コインは全部で1000枚ある。一番多く集めた人間が優勝で、5位まで俺から賞品を渡す。それと、特別なコインがある。それを見つけた人間には別途特別賞を与える」

 全員が喜んだ。
 賞品の内容は他愛無いものだ。
 楽しんでもらうことが目的だった。

 「石神様! なんて素敵なゲームでしょうか!」

 蓮花が感動していた。

 「ジェシカ、なるべく蓮花についてやっていてくれ」
 「はい、そのつもりです」
 「こいつ、崖から転げ落ちる奴だからな!」
 「はい!」
 「石神様!」

 俺の合図で全員が山に入った。
 最初は山道をほとんどの者が行くが、山道にはほとんど無い。
 自分の勘を頼りに、山を歩くことになる。
 俺は飛んで、一足先にシャドウの山荘へ行った。




 「よう!」
 「石神様!」

 シャドウが急に現われた俺に驚いていた。
 山道を通って来るものだと思っていたのだろう。
 いつも平伏して俺を迎える奴だ。
 だから一気に来た。
 ここには立て札に「コインなし」と書いてあるので、誰も来ないだろうからゆっくり出来る。

 「お前はいつも堅苦しいんだよ。気軽に来れないじゃないか」
 「それは申し訳ございません!」
 「だから堅苦しいって」

 俺は笑って中へ入れてもらった。

 「おお、温かいな!」
 「はい、石神様のお陰で、快適に過ごしております」
 「食糧はどうだ?」
 「はい、蓮花様が十分に運んで下さいまして」
 「何があるんだよ?」

 俺は興味を持って見せてもらった。
 冷蔵庫には肉の塊があり、魚の切り身なども冷凍してある。
 野菜類は自前で調達できるようだが、ニンジンやジャガイモなども段ボール箱で積まれていた。
 肉や魚は火を通して食べるように言っているので、電気コンロや調理器具、食器も揃っている。
 手づかみなのは仕方が無い。
 シャドウは蓮花が作ったであろう、ドテラを着ていた。
 蓮花と同じ、彼岸花の刺繍がある。
 お揃いということか。

 「何か不自由はしていないか?」
 「もう十分に。本当に助かっております」
 「そっか!」

 俺は持って来た魔法瓶の一つをシャドウのスープ皿によそった。
 
 「口に合うかわからんけどな。幾つかの貝のスープを作って来たんだ」
 「それはありがたい! 是非頂きます!}

 シャドウは器用にスープ皿を傾けて飲んだ。

 「これは! なんという美味しさでしょうか!」
 「おい、無理しないでいいぞ?」
 「本当に美味しいのです! ああ、これが料理というものなのですね!」

 塩コショウは入れていない。
 貝の滋味だけで味が出るようにした。
 あとは昆布出汁だ。
 俺は笑って自分の分のコーヒーを飲んだ。

 「随分片付けているんだな」
 「はい、有難くも頂いた家ですので、丁寧に使わせて頂いております」
 「そうか。蓮花も感心しているんだよ」
 「そうですか!」

 シャドウは蓮花の話題になると嬉しそうにする。
 しかし、本当に綺麗に使っている。
 ネズミに「掃除」の概念は無いので、シャドウの不思議な知性だろう。
 部屋の隅には、シャドウの手製だろう掃除用具のようなものが見えた。
 蓮花はタオルなどを渡しているようだが、シャドウはそれらをほとんど使わずに、木の枝や葉などで何かを作っていた。
 
 「寒い季節には温泉が最高でございますね」
 「おお、お前も風呂好きか!」
 「はい!」
 「じゃあ、折角だ。俺も入らせてもらおうかな」
 「え!」
 「一緒に入ろうぜ! どうせしばらくみんなは探しているんだからなぁ」
 「宜しいのですか! 私などと!」
 「もちろんだ!」

 俺は家の中で服を脱ぎ、温泉に入った。
 外は相当寒いが、温泉に入ると温かい。
 大体40度くらいか。
 少し温いが、長く浸かるには丁度いい。
 シャドウも恐る恐る入って来た。

 「気持ちいいな!」
 「はい!」

 シャドウも嬉しそうだ。
 
 「石神様の御身体はすさまじいですね」
 「ああ、子どもの頃から傷だらけなんだよ」
 「美しい御身体です」
 「そうか、ありがとうな」

 シャドウにどう見えているのかは分からない。
 でも、「美しい」と言ってくれた。
 しばらくのんびりと話していると、蓮花とジェシカが来た。

 「あら! 素敵なことをなさっているのですね!」
 「ワハハハハハハハ!」

 ジェシカが俺を見て恥ずかしそうにしている。

 「シャドウさん、一応おうちの中も見せて頂いて宜しいですか?」
 「もちろんです!」
 「おい、ここには無いんだぞ?」
 「石神様。ダメだと言われて諦める者は、石神様の御傍には居りません」

 シャドウが誇らしげに言った。

 「あ?」

 蓮花とジェシカがシャドウの家の中へ入って行った。
 大声が聞こえる。
 蓮花が外へ駆けて来た。

 「ありましたよ!」

 ジェシカも来て、二人で10枚を握っていた。

 「この1枚は他と違います!」
 「ああ、特別賞の奴だな」
 「なんと!」

 俺は笑ってシャドウに言った。

 「お前、蓮花が来ると確信していたな?」
 「アハハハハハ!」

 蓮花にあげたかったのだろう。
 必ず自分の所へ寄ると思っていたからだ。

 「まあいい。シャドウの言う通りだからな」
 「ありがとうございます」

 蓮花とジェシカは大喜びで他へ探しに行った。
 他の研究所員やブランたちも近くを通りかかり、俺たちににこやかに挨拶して行った。




 「みなさん、楽しそうですね」
 「お前のお陰だ、ありがとう」
 「いいえ、石神様の御心でございます」
 「お前にも楽しんでもらいたかったんだがな」
 「わたくしなどは」
 「今晩は夕食に来てくれな」
 「はい、必ず」

 俺たちは温泉で、また部屋の中で楽しく話した。
 蓮花がシャドウのことが大好きなのがよく分かった。
 高い知性に加え、本当に気立ての良い優しい奴だった。
 ゲームが終わるまで、俺たちは楽しく話した。 
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