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斬と記念写真
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翌朝はやっぱり5時に起こされた。
それを予期して、俺はロボと寝ていた。
「おい、こんなに早いのかよ」
「さっさと来い!」
「先にロボの御飯だ。こいつ、起きたら御飯を食べないと暴れるぞ」
「ふん!」
斬は俺を厨房へ連れて行き、好きなように作れと言った。
早くしろと何度も言った。
俺はササミを焼いてロボの皿に乗せた。
ロボが俺を見ている。
「これだけ?」という顔だ。
俺は笑って鯛の切り身をちょっと焼いてやった。
ロボが物凄い勢いで食べる。
「もういいか!」
「ああ、待たせたな」
道場へ行き、道着に着替えてから組み手をする。
二人ともウォームアップのつもりで最初は流して行く。
どちらがということもなく、次第に本気の組み手になっていった。
斬の気配が変わった。
俺に拳を当てようとしながら急接近する。
「てめぇ!」
俺は瞬時に後方へ跳んだ。
斬が追いかけて来る。
俺も斬と同様の技を使った。
激突する腕の間で激しい火花が散った。
斬が数メートル離れて止まった。
「お前も出来ていたか!」
「ふざけんな! 出来て無きゃ俺の身体がぶっ飛んでるぞ!」
「ふん!」
斬は全身に「螺旋」と「虚震花」をまとわせていた。
これまで、腕ばかりではなく足を使ってそれらの技を出すことは出来た。
しかし、全身にまとわせて、どこが触れても相手を破壊する技は無かった。
知らずに触れれば、身体が爆散する。
まったく加減の無い男だ。
「今日こそはと思っておったのに」
「お前な! どこの世界に祝言を上げた翌朝に新郎をぶっ殺すジジィがいるんだよ!」
「ふん!」
斬も手加減はするつもりは無かっただろうが、俺ならばなんとかするとは思っていただろう。
冗談じゃなく危ない奴だが。
「どうしてお前はこの技を考えた?」
「お前と同じだよ。防御と攻撃の一体化だ」
「お前の子どもたちも使えるのか?」
「いや、教えていない。制御が難しいからな。ヘタをすれば自分で自分の身体を爆発させる」
「そうか」
普通は考えてもやらない。
その危険性が余りにも大きいためだ。
俺の場合は特殊な事情がある。
しかし斬は普通の人間だ。
踏み込むには躊躇するはずだった。
「お前、無茶をするなよな」
「ふん! お前を超えるためならば何でもするんじゃ」
「ばか」
俺には「虎王」があった。
「虎王」を握っていれば、自分の身体のことが明確に分かる。
だから、この技を会得出来た。
斬は長年培ってきた体感だけで練り上げた。
本当に恐ろしい男だ。
だが、俺には分かっている。
斬は俺のため、そして士王のために新たな技を遺すつもりなのだ。
だから自分の破滅を考えずに挑んでいる。
俺を超えるためなどではない。
俺を支えたいのだ。
「今の技をよ、陰陽で起こすとどうなると思う?」
「ああ、凄まじい破壊力になるだろうな」
「それが双子の最終奥義だ。「スーパー・ノヴァ」というな。厳密にはもうちょっと違う技だが。それを使うことで互いに対消滅して敵を滅する」
「……」
「あいつらも覚悟があるんだよ」
「そうか」
「一度、使おうとしたことがある。洋上で初めてジェヴォーダンの群れに襲われた時だ。でも寸前に亜紀ちゃんが真に合った」
「そうか」
斬は目を閉じていた。
まだ13歳の少女たちが、自分と同じ覚悟を持っていた。
人間の深淵を感じていたのだろう。
その後も二人で組み手を続けた。
もう斬は恐ろしい技を出すことは無かった。
7時に朝食を食べた。
流石に普通だ。
焼き魚に出汁巻き卵、梅干しに漬物、山菜の佃煮など。
味噌汁は豆腐だった。
しかし、全ての食材が吟味され、丁寧に調理されていた。
子どもたちが手分けして掃除し、斬の屋敷を出た。
玄関の前で、記念写真を撮る。
士王を斬に抱かせた。
斬と士王、そして栞と斬と士王の写真も撮る。
斬が俺とも撮ってやると言ったので驚いた。
斬が、士王を栞に預けた。
俺と斬の二人で撮った。
「また来るぜ」
「いつでも来い」
俺たちは出発した。
「石神さん」
「なんだ?」
桜花たちが今度は運転席の後ろに座っている。
「夕べ、斬さんにお部屋へ呼ばれたんです」
「なんだと! 何もされなかっただろうな!」
三人が笑う。
「何も。お礼を言われました」
「そうか」
俺も笑った。
「栞様と士王様を守ってくれてありがとうと言われましたよ」
「あいつ、もうすぐ死ぬんだな」
「あなた!」
最後部でベンチに座っている栞が叫んだ。
「自分の持っている物はなんでもやるので、どうかこれからも守って欲しいと」
「じゃあ、この辺の土地は全部もらえよ」
桜花たちは笑ってとんでもないと言った。
「お傍にいさせてもらうだけで幸せなのだとお応えしました」
「千歳一隅のチャンスだったのにな!」
「せめてこれをと言われ、頂いた物がございます」
「おお」
桜花が写真を貰ったのだと言った。
「すいません。お見せする機会があそこでは無かったので」
「何の写真だったんだ?」
「はい。私たちの両親の写真でした」
「!」
ブランたちの過去は全て調べてある。
全員の係累は全て「業」に殺されていた。
遠い親戚などがいる者もいたが、今更会ってもどうしようもない係累だった。
桜花たちの両親は殺され、もう何も残ってはいないはずだった。
「業」は人間ばかりでなく、家屋や土地も徹底的に破壊していたからだ。
斬はどのような手段でか、三人の両親の写真を探し出した。
「有難いことでございます」
「そうだな」
「もう二度と見られはしないと思っておりました。それを斬様が」
「ああ、良かったな」
「栞!」
「はい!」
「アラスカに戻ったら、お前が額装してやってくれよ」
「うん、分かった!」
桜花たちが礼を言ってくる。
俺は写真が苦手だった。
親父とのことが原因だったが、やはり写真はいい。
写っている者たちは何も言わない。
しかし、多くのことを語り掛けてくれる。
いつまでも、俺たちに語り掛けてくれるのだ。
それを予期して、俺はロボと寝ていた。
「おい、こんなに早いのかよ」
「さっさと来い!」
「先にロボの御飯だ。こいつ、起きたら御飯を食べないと暴れるぞ」
「ふん!」
斬は俺を厨房へ連れて行き、好きなように作れと言った。
早くしろと何度も言った。
俺はササミを焼いてロボの皿に乗せた。
ロボが俺を見ている。
「これだけ?」という顔だ。
俺は笑って鯛の切り身をちょっと焼いてやった。
ロボが物凄い勢いで食べる。
「もういいか!」
「ああ、待たせたな」
道場へ行き、道着に着替えてから組み手をする。
二人ともウォームアップのつもりで最初は流して行く。
どちらがということもなく、次第に本気の組み手になっていった。
斬の気配が変わった。
俺に拳を当てようとしながら急接近する。
「てめぇ!」
俺は瞬時に後方へ跳んだ。
斬が追いかけて来る。
俺も斬と同様の技を使った。
激突する腕の間で激しい火花が散った。
斬が数メートル離れて止まった。
「お前も出来ていたか!」
「ふざけんな! 出来て無きゃ俺の身体がぶっ飛んでるぞ!」
「ふん!」
斬は全身に「螺旋」と「虚震花」をまとわせていた。
これまで、腕ばかりではなく足を使ってそれらの技を出すことは出来た。
しかし、全身にまとわせて、どこが触れても相手を破壊する技は無かった。
知らずに触れれば、身体が爆散する。
まったく加減の無い男だ。
「今日こそはと思っておったのに」
「お前な! どこの世界に祝言を上げた翌朝に新郎をぶっ殺すジジィがいるんだよ!」
「ふん!」
斬も手加減はするつもりは無かっただろうが、俺ならばなんとかするとは思っていただろう。
冗談じゃなく危ない奴だが。
「どうしてお前はこの技を考えた?」
「お前と同じだよ。防御と攻撃の一体化だ」
「お前の子どもたちも使えるのか?」
「いや、教えていない。制御が難しいからな。ヘタをすれば自分で自分の身体を爆発させる」
「そうか」
普通は考えてもやらない。
その危険性が余りにも大きいためだ。
俺の場合は特殊な事情がある。
しかし斬は普通の人間だ。
踏み込むには躊躇するはずだった。
「お前、無茶をするなよな」
「ふん! お前を超えるためならば何でもするんじゃ」
「ばか」
俺には「虎王」があった。
「虎王」を握っていれば、自分の身体のことが明確に分かる。
だから、この技を会得出来た。
斬は長年培ってきた体感だけで練り上げた。
本当に恐ろしい男だ。
だが、俺には分かっている。
斬は俺のため、そして士王のために新たな技を遺すつもりなのだ。
だから自分の破滅を考えずに挑んでいる。
俺を超えるためなどではない。
俺を支えたいのだ。
「今の技をよ、陰陽で起こすとどうなると思う?」
「ああ、凄まじい破壊力になるだろうな」
「それが双子の最終奥義だ。「スーパー・ノヴァ」というな。厳密にはもうちょっと違う技だが。それを使うことで互いに対消滅して敵を滅する」
「……」
「あいつらも覚悟があるんだよ」
「そうか」
「一度、使おうとしたことがある。洋上で初めてジェヴォーダンの群れに襲われた時だ。でも寸前に亜紀ちゃんが真に合った」
「そうか」
斬は目を閉じていた。
まだ13歳の少女たちが、自分と同じ覚悟を持っていた。
人間の深淵を感じていたのだろう。
その後も二人で組み手を続けた。
もう斬は恐ろしい技を出すことは無かった。
7時に朝食を食べた。
流石に普通だ。
焼き魚に出汁巻き卵、梅干しに漬物、山菜の佃煮など。
味噌汁は豆腐だった。
しかし、全ての食材が吟味され、丁寧に調理されていた。
子どもたちが手分けして掃除し、斬の屋敷を出た。
玄関の前で、記念写真を撮る。
士王を斬に抱かせた。
斬と士王、そして栞と斬と士王の写真も撮る。
斬が俺とも撮ってやると言ったので驚いた。
斬が、士王を栞に預けた。
俺と斬の二人で撮った。
「また来るぜ」
「いつでも来い」
俺たちは出発した。
「石神さん」
「なんだ?」
桜花たちが今度は運転席の後ろに座っている。
「夕べ、斬さんにお部屋へ呼ばれたんです」
「なんだと! 何もされなかっただろうな!」
三人が笑う。
「何も。お礼を言われました」
「そうか」
俺も笑った。
「栞様と士王様を守ってくれてありがとうと言われましたよ」
「あいつ、もうすぐ死ぬんだな」
「あなた!」
最後部でベンチに座っている栞が叫んだ。
「自分の持っている物はなんでもやるので、どうかこれからも守って欲しいと」
「じゃあ、この辺の土地は全部もらえよ」
桜花たちは笑ってとんでもないと言った。
「お傍にいさせてもらうだけで幸せなのだとお応えしました」
「千歳一隅のチャンスだったのにな!」
「せめてこれをと言われ、頂いた物がございます」
「おお」
桜花が写真を貰ったのだと言った。
「すいません。お見せする機会があそこでは無かったので」
「何の写真だったんだ?」
「はい。私たちの両親の写真でした」
「!」
ブランたちの過去は全て調べてある。
全員の係累は全て「業」に殺されていた。
遠い親戚などがいる者もいたが、今更会ってもどうしようもない係累だった。
桜花たちの両親は殺され、もう何も残ってはいないはずだった。
「業」は人間ばかりでなく、家屋や土地も徹底的に破壊していたからだ。
斬はどのような手段でか、三人の両親の写真を探し出した。
「有難いことでございます」
「そうだな」
「もう二度と見られはしないと思っておりました。それを斬様が」
「ああ、良かったな」
「栞!」
「はい!」
「アラスカに戻ったら、お前が額装してやってくれよ」
「うん、分かった!」
桜花たちが礼を言ってくる。
俺は写真が苦手だった。
親父とのことが原因だったが、やはり写真はいい。
写っている者たちは何も言わない。
しかし、多くのことを語り掛けてくれる。
いつまでも、俺たちに語り掛けてくれるのだ。
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