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斬の屋敷にて

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 12月28日。
 朝の7時に家を出た。
 ハマーに全員乗っている。
 俺の隣に亜紀ちゃん。
 後ろに栞と士王と鷹。
 皇紀と双子、桜花たちは最後部のベンチだ。
 ロボは響子ベッド。
 ロボは桜花たちと楽しそうに遊んでいる。
 柳は実家へ帰らせた。

 朝食は喰いたい人間が喰えと言っている。
 子どもたち以外は、途中のサービスエリアで食べる予定だった。

 「今日は斬の家だ!」
 「「「「はい!」」」」
 「最初に挨拶代わりに「轟閃花」を全力で撃て!」
 「「「「はい!」」」」 

 「あなた! 絶対やめてね!」

 栞が怒る。

 「あー、屋敷が無くなりゃ泊まらないで済むのになー」
 「あなた!」

 まあ、約束したからしょうがない。
 栞も久し振りに実家に泊りたいだろう。
 
 斬からは昼食を用意していると言われている。
 それも約束のうちだ。
 子どもたちの「喰い」は分かっている奴だ。
 まあ、何とかなるだろう。
 サービスエリアでは、いつもより食わせるつもりだが。



 サービスエリアで、子どもたちが一斉に散る。
 いつもながら、見事な統制だ。
 桜花たちが楽しそうに見ていた。
 俺たちはカレーや蕎麦を食べた。

 「よく食べるわよね」

 栞が感心して言う。

 「こないだ御堂の家に行くのに、御堂と一緒に来たんだよ」
 「うん」
 「あれだけ食べてからうちに来てたのかって、びっくりしてた」
 「そうだよねー」

 「栞の家は大丈夫かよ?」
 「大丈夫だよ。結構大勢集まっての宴会とかあるから」
 「マジか!」
 「何よ! 「花岡家」は名門なんだからね!」
 「そりゃそうか」
 「おじいちゃんはお酒を飲まないから、すぐに引っ込んじゃうけど」
 「そうしないと、みんな楽しめないしな」
 「あなた!」

 俺は笑って、斬と二人で何度か飯を食った話をした。

 「そんなことがあったの!」
 「ああ。結構いろいろ話したよ。あいつの奥さんの話まで聞いた」
 「えぇ!」
 「惚れてたようだな。まあ、そうは絶対に言わないけどな」
 「まさか、あなたに話すなんて」

 栞は本当に驚いていた。
 自分も聞いたことが無いと言っていた。

 「自分がガンであることに気付いていたようだな。だから雅さんを連れて、花火大会へ行ったらしい。斬に頼み込んでな」
 「そうだったのね」

 俺は聞いた話をした。
 栞が涙ぐみ、桜花たちも泣いていた。

 「今度花火大会にでも連れ出すか」
 「そうね」

 亜紀ちゃんが吹っ飛んで来た。

 「タカさん! 私たちが連れて行きますから!}
 
 俺は笑って、気にせずに喰えと言った。

 サービスエリアを出て、斬の屋敷には11時半頃に着いた。




 車門を開けて中へ入ると、斬が庭を回って来た。

 「よく来たな」
 「ああ、一晩世話になる」
 「ふん!」

 士王を見ると、顔が変わった。
 ニコニコじいちゃんだ。
 士王も斬には懐いている。
 ちょこちょこと早足で抱き着きに行く。
 斬が一層顔を綻ばせた。
 抱き上げてやる。

 「士王! よく来たなぁ!」
 「うん! 楽しみだった!」

 よく出来た子だ。

 中へ入り、広い座敷に案内される。
 膳はもう置かれ、子どもたちの前には大きなテーブルが配置されていた。

 「おい、食事を作るのを手伝うぞ?」
 「いらん。もう用意は出来ている」

 斬がそう言うと、すぐに座敷に大量の料理が運ばれて来た。
 10人ほどの人間が配膳していく。

 「おい、誰だよ、この人たちは!」
 「門下の人間じゃ。今日はお前たちが来るので集めておいた」
 「ほー」

 そう言えば、道場だったか。

 「料理の上手い人間がいる。今日は楽しめ」
 「分かった。ありがとうな!」
 「ふん!」

 料理は本当に美味かった。
 和食で、膳には寒ブリの焼き物や貝の煮物、様々な器が並んでいる。
 子どもたちには別途、ステーキやボタン鍋などがある。
 非常に豪華だ。
 栞が、料亭をやっている門下生がいると教えてくれた。
 道理で本格的なはずだ。
 家庭料理ではない。
 斬は、士王がホタテの煮物が美味しいと言うと喜んで自分の分をやった。
 士王が礼を言ってニコニコして食べる。

 子どもたちへの料理は尽きることなく、次々と出て来た。
 配膳の人間が、笑顔でどんどん子どもたちの膳の上に乗せて行く。
 みんな大喜びだ。

 「斬、ありがとうな」
 「なに、わしも楽しい」
 「へー」

 本当に笑っていた。
 鷹も笑顔で、時々驚くような表情で料理を口に運んでいた。
 やはり、作っているのは一流の料理人なのだろう。
 
 子どもたちが大満足で食事を終えた。
 滅多にないことだ。




 食後は覚悟していた通り、斬に道場に呼ばれた。
 子どもたちも道着に着替える。
 桜花たちもやりたがり、道着を借りた。
 
 俺と斬が最初に組み手をし、子どもたちも斬とやった。
 斬が、亜紀ちゃんの仕上がりを褒め、皇紀や双子にはアドバイスもしてくれた。
 流石に的確で、子どもたちも喜んだ。
 桜花たちとは組み手をせずに、互いにやらせる中で指導してくれた。

 「桜花、お前は器用貧乏になるな。剛力を身に付けよ」
 「椿姫、お前は水平になりがちだ。もっと天地を向け」
 「睡蓮、お前はいつも必殺技を考えすぎだ。それは捨てて必ず相手を斃す覚悟を持て」

 非常にためになる指導だった。
 桜花たちにもそれが分かった。

 3時間も斬は続け、ここまでにすると言った。
 珍しく早い。
 
 俺たちはシャワーを浴びて着替えるつもりだった。
 



 斬が俺と鷹を呼び止めた。
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