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「御幸」打ち上げ

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 話し終わって亜紀ちゃんがまた興奮している。

 「た、タカさん!」
 「おう」
 「あの事件って、新聞に載ったんですか!」
 「ああ、そうだよ」

 「何で教えてくれなかったんですかー!」

 亜紀ちゃんが俺の肩をポコポコする。

 「おい、今の話と関係ねぇだろう!」
 「だってぇー!」

 亜紀ちゃんが皇紀たちに、明日絶対に新聞記事を探すと言っていた。
 ミユキが大笑いしていた。

 「楽しかったよね」
 「そうだよな!」
 「おばあさん、平気だったの?」
 「あー、全然平気。死んだのは俺が成人した後だからな」
 「そうなんだ、よかったー」
 「あの人、100まで生きそうだったんだけどなぁ」
 「お幾つだったの?」
 「98歳。惜しかったな」

 ミユキが笑っていた。

 「あの時の指輪ね、ずっと持ってるんだ」
 「そうなのか!」
 「一番大事な指輪」
 「あれがかよ」

 ミユキはニコニコしていた。

 「毎晩ね、寝る前に一度付けるの」
 「おい」
 「そうするとね、ぐっすり眠れるんだ」
 「そうか」





 またしばらく話し、ミユキの最近のことを聞いた。

 「今はね、国産のロケットで人工衛星を飛ばそうとしているの」
 「おお! すげぇな!」

 日本のロケット技術は遅れている。
 しかし、人工衛星まで飛ばそうとしていることに驚いた。

 「でもね、資金面でちょっとね。技術的なこともまだあるんだけど、それも含めて資金が足りないの」
 「え?」

 ルーとハーが俺を見ている。
 皇紀はもっとだ。

 「人工衛星の機能は決まっているのか?」
 「それは出資者の意向に沿うものをと考えているの。私たちは人工衛星の技術を確立したいから」
 「そうか」

 俺は少し考えた。
 俺たちには霊素観測レーダーを搭載した人工衛星が必要だった。
 多大なエネルギーを必要とするが、「ヴォイド機関」があるからそこはクリアできる。
 言い換えれば、それを搭載することで、俺たちの詳しい話をしなければならないということだった。
 素人の相手ではない。
 ミユキたちにもある程度は事情を話さなければならない。
 俺は決心した。

 「その資金は俺が出そう」
 「え?」
 「俺の希望する装置を積んでくれるなら、資金は任せて欲しい」
 
 ミユキが驚いていた。

 「石神くん! ちょっとのお金じゃないの。数千億円以上は必要なんだよ!」
 
 「ハー、今の金融資金は幾らになってる?」
 
 ハーがスマホで確認した。

 「3京兆円ですかね。ドルとかユーロ建てのものもありますけど」
 「おお、また増えたなー」
 「即座に用意出来る現金は100兆円と思って下さい」
 「だそうだ」
 「エェェェェェェーーー!」

 ミユキが立ち上がって両手を口に当てて叫んだ

 「取り敢えず、1兆円はすぐに振り込めるよ」
 「石神くん! 何いってんのぉぉー!」
 「ああ、資金だけでなく、資材や必要なら資源も用意出来る。レアメタルでも何でも言ってくれ」
 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 ミユキは落ち着こうと深呼吸をする。

 「ちょっと待ってて」

 一度「幻想空間」を出て、ウサギのぬいぐるみと指輪を持って来た。
 無言で俺に指輪を見せて、薬指に嵌めた。
 ウサギを抱いて、また深呼吸する。

 「待ってね、あの、本当に資金を用意出来るの?」
 「ああ、本当だ」
 「本当なのね。それで希望する装置って何?」
 「霊素観測レーダーだ。アメリカに頼もうかと思っていたけど、ミユキたちの方が信頼出来るからな」
 「レイソ観測……」

 ミユキは初耳だ。

 「妖魔を観測出来る機械と言えば分かるか?」
 「え!」
 「日本は何度も襲われている。だから広範囲を観測出来るレーダーが必要なんだよ」
 「それって……」
 「「虎」の軍に必要なんだ」
 「!」

 俺はこの段階では詳しいことは話せないと言った。
 ミユキも独断で決めることは出来ないだろう。
 それに国立の行政組織だ。
 一般企業のように柔軟には動けないかもしれない。
 今後は御堂と連携して当たることになるだろう。

 「石神くん、本当に有難いお話なんだけど、私も正直に言うね。日本のロケット開発技術はアメリカなどと比べたら、まだまだ拙いの。石神くんがアメリカを頼れる人間ならば、そっちの方がいいと思う」

 ミユキは本当に正直に話してくれた。
 俺への友情の故だ。

 「ミユキ、もしもミユキを中心として、データを共有しない隔離された部署が出来れば、俺たちも技術供与が出来る」
 「技術供与?」
 「マッハ500まで出せるエンジンがある」
 「!」
 「地球の脱出速度を上回るよな?」
 「そ、それはもちろん!」
 「酸素を必要としない。まだ大気圏内でしか使ったことはないが、宇宙空間でも使えるはずだ」
 「石神くん! 一体なんなの!」
 「今はまだ何も出せない。今後の話し合いだ」
 「……」

 ミユキは黙っていた。
 頭の中で、様々なことが考えられているだろう。
 とても信じられる話でもないはずだ。

 「ミユキはプラズマジェットの推進の原理は分かるか?」
 「うん。でも莫大な電力が必要で、実現は難しいと聞いているわ」
 「皇紀、飛行実験の動画を持って来てくれ」
 「はい!」

 皇紀がモニターとPCを抱えて来る。
 ミユキに「ダイガー・ファング」のプロトタイプの実験映像を見せた。

 蓮花研究所からアラスカへの飛行だ。
 機体を追って上から並走している映像だった。
 カメラを構えた俺だ。

 途中でハワイ島を通過するのが一瞬見える。
 この時はマッハ200で飛行した。
 
 「なにこれ……」
 
 専門家のミユキならば分かる。
 尋常では無いスピードで飛行している。

 「本物なのね」
 「そうだ。既に技術は確立して、実際に何度も飛行している」
 「石神くんは……」
 
 俺は唇に指を当てた。

 「今は話せない。だけど、話せるようになりたい」
 「分かった」

 ミユキは、俺が「虎」の軍に深く関わる人間だと分かっただろう。

 「石神くんは、やっぱりとんでもない人だね」
 「そうでもないさ」

 ミユキがようやく笑った。
 俺はグラスを当てて、酒を飲みほした。

 「じゃあ、上の人間を説得してくれな」
 「うん、必ず」

 ミユキが明るく笑った。

 「また、石神くんと一緒にやれるんだね」
 「そうなるといいな!」
 「うん!」





 後日。
 改めてミユキがJAXAの上の人間を連れて来た。
 御堂や関連の大臣や官僚も同席の上で正式に話し合った。
 JAXAで「虎」の軍に協力する部門が設立され、衛星打ち上げのプロジェクトが発足した。
 ミユキはそこの責任者となり、重要な一つの技術部署が「虎」の軍の極秘の技術を取り扱うようになった。
 ミユキの他5人の部署だ。
 ミユキたちに断り、タマによる精神操作をさせてもらった。
 技術情報を漏洩しないための措置だ。
 
 そして1年後。
 霊素観測レーダー衛星「御幸」が打ち上げられた。






 その打ち上げを俺も見学し、ミユキが隣に立っていた。
 ミユキが俺の手を握り、嬉しそうに笑っていた。
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