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ミユキの来訪

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 翌日の土曜日。
 俺は南から教えてもらったミユキの電話番号に掛けた。
 一晩考えたが、やはり話したかった。

 「あの、石神ですけど」
 「石神くん!」

 電話の向こうでミユキが驚いていた。

 「夕べ、南から連絡先を聞いてさ」
 「うん……」

 ミユキは泣いていた。

 「おい、大丈夫か?」
 「嬉しくって! ずっと石神くんに会いたかった! 本当に声が聴けるなんて!」

 ミユキが号泣し、落ち着くまでしばらくかかった。

 「俺さ、前にテレビでミユキを観たんだ」
 「え!」
 「ほら、小惑星探査で大活躍だったんだろ? テレビを点けたら偶然にな。ミユキが誇らしくって、俺も嬉しかったんだよ」
 「ほんとに! あの取材を観たの!」
 「ああ、ウサギのぬいぐるみを抱いててさ。「トラちゃん」だって。笑ったぜ」
 「あ、あれは、あの、本当に大事にしてるの」
 「うん。俺も嬉しかった。雲竜寺で貰った奴だよな?」
 「そう! あの子がいたから頑張れたんだよ!」
 「そっか」

 俺たちは懐かしく話した。
 別れてからのことも話した。

 「今、石神君はどうしているの?」
 「ああ、俺も何とか医者になれたんだ。今も都内の病院で働いているよ」
 「そうなんだ!」

 ミユキが嬉しそうに言った。

 「南ともな。まあ、うちの娘が勝手に連絡を取りやがってさ」
 「うん、聞いてる。石神くんが友達のお子さんたちを引き取ったって」
 「ああ。親友だったからな」
 「やっぱり今でも優しいんだね、石神くんは」
 「そんなことは。まあ、ずっとトラブル続きかな」
 「アハハハハハハ!」

 1時間も楽しく話した。

 「ドラマでさ。一緒に雲竜寺を回った時とか、あとさ! 病院の屋上での会話とか! あれって、全部あの時のまま全部だったよね!」
 「ああ、俺が南に話したからな。まあ、元々はうちの娘が俺がたまたま話したことを全部記録してやがってよ」
 「そうなんだ! じゃあ、お子さんたちにも慕われてるんだね」
 「あ、奴隷だよ。今も家中の掃除をさせてる」
 「アハハハハハハ!」

 子どもたちのことも話した。
 ミユキに爆笑された。

 「石神くん、一度会えないかな」
 「まあな。でも俺も結構忙しいからな」
 「ダメ?」
 「うーん。会いたい気持ちはもちろんあるんだけどな。話せばこんなにも、幾らでも楽しい話がある」
 「そうだね」
 「でもな。子どもたちにも言っているんだ。俺は過去を懐かしむために生きているんじゃないって」
 「うん」

 ミユキの声が沈んだ。

 「あいつらさ、もう最愛の人間に会えないんだよ。そういうこともあってな」
 「そうか。分かる」
 「でも、あいつらときたら、俺に会わせようとするんだよ。南もそうだし、他にもやられたことがあるんだ」
 「そうなんだ」
 「ミユキの話は、ある事情がある女性がいてな。事故で記憶をなくしている人なんだ。その人にミユキの名前を俺が付けたことから子どもたちにもミユキの話をしたんだ」
 「え?」
 「俺が誇れる友達の名前だからな。その女性にも強く生きて欲しいと思ってな」
 「石神くん!」

 「ミユキはさ、俺が会いたいと思う、子どもたちも俺に会わせたいと思っている筆頭の一人なんだよ」
 「石神くん!」
 「一度会おうか。俺もやっぱり会いたいや」
 「うん! 是非そうして!」

 俺はミユキといつ頃会おうかと話そうとした。

 「明日! 明日はどう?」
 「え、まあ大丈夫だけど。でも、ミユキは遠くにいるんだろう?」
 「大丈夫! もうすぐに会いたいの!」
 「こっちへ来てくれるのか?」
 「うん。行かせて!」

 俺は笑って住所を教えた。
 飛行機で来るということなので、空港まで迎えに行くので、決まったら教えて欲しいと言った。

 ミユキが来ると言うと、亜紀ちゃんがまた大興奮になった。
 他の子どもたちも喜んだ。





 翌日。
 俺は羽田空港にミユキを迎えに行った。
 午後2時の到着便だ。
 亜紀ちゃんが一緒に来たがったが、アヴェンタドールで行くというと諦めた。

 「リムジンにしましょーよー」
 「ばかやろう!」

 


 羽田には1時半前に着いた。
 俺もミユキに会いたくて、早くなってしまった。
 時間通りに到着し、ミユキがゲートを潜って来る。
 俺は手を挙げてミユキを呼んだ。

 「石神くん!」

 ミユキがリモアのバッグを引いて走って来た。
 バーバリーのコートを着ている。

 「よく来てくれたな!」
 「うん! 突然でごめんね」
 
 荷物を俺が受け取り、二人で話しながら歩いた。

 「今日は泊って行ってくれな!」
 「うん。でもご迷惑じゃ」
 「大丈夫だ。部屋は一杯あるんだよ」
 「そうなんだ。お金持ちになったのね」
 「あの時はどうしようもない貧乏だったけどなぁ」
 「アハハハハハハ!」

 ミユキは顔の左側に火傷がある。
 しかし、俺の右を自然に歩いていた。

 駐車場に着いて、ミユキがアヴェンタドールに驚く。
 
 「しまった」
 「どうしたの?」
 「この車さ、荷物のスペースがほとんどないんだ」
 「え!」

 ミユキをシートに座らせ、リモアを抱えてもらった。

 「なんとかなったな!」
 「ウフフフ」

 


 俺の家に15分程で着く。
 また俺の家を見て驚いていた。

 「石神くんって、本当にスゴイお金持ちになったんだね」
 「まあ、ちょっとはあるかな」
 「都内でこんなお屋敷って、相当なんじゃないの?」
 「そうでもないさ」

 ガレージに車を仕舞うと、またそこの車たちに驚いていた。

 「なにあのおっきい車!」
 「ああ、リムジンな。ちょっと必要でさ」
 「何台あるの?」
 「今見ている通りだよ」
 「うーん。どれもスゴイ車だよね」
 「アルファードもあるぞ?」
 「ああ」
 「友達の娘のものだけどな」
 「……」

 玄関を開けると、もうロボが待っていた。
 アヴェンタドールの音だったからだ。

 「まあ! 可愛いネコ!」
 「ロボっていうんだ」
 「ロボちゃん!」

 ミユキがしゃがむと、ロボが飛び付いた。
 気に入ったようだ。
 俺はエレベーターでリヴィングにミユキを案内した。

 「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」

 子どもたちが待っていた。
 垂れ幕がある。

 《横倉ミユキ様 大歓迎!》

 「お前ら、こんなの作ったのか」
 「だって! あのミユキさんですよ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 ミユキが驚いていた。
 俺は亜紀ちゃんから順に子どもたちを紹介する。

 「奴隷だから名前を覚える必要はないからな。「おい」って呼べばいいから」
 「アハハハハハハ!」

 少し早いが、三時のお茶にした。
 今日は紅茶にオーベルジュ・ド・リル トーキョーのショートケーキを出した。
 
 「一杯いるんだね!」
 「まあ、毎日騒々しいよ」
 「そんな! 楽しそうだよ」
 
 子どもたちがミユキに次々に話しかけて来る。
 俺から聞いているミユキの話が大好きだからだ。

 「こないだ、猪俣の姪って人が来たんですよ!」
 「えぇ!」
 「トイレでヤキ入れようとしたら、タカさんに殴られました」
 「アハハハハハハ!」

 ミユキが猪俣先生のことを話してくれた。

 「途中で変わっちゃったけどね。最初は石神くんを可愛がってたんだよ」
 「そうなんですか!」
 「頭もいいし、性格もさっぱりしてたからね。あのね、同級生を窓から投げちゃったことがあったの」
 「知ってます! 木林さんに悪戯した奴ですよね!」
 「よく知ってるね! そう、あの時にね、石神くんを必死で庇ったのが猪俣先生だったの。友達思いで、咄嗟に怒ったからだって」
 「そうなんですか」
 「本当はいい先生だったんだよ」
 「でもー」
 「まあ、あの先生のお陰で私は石神くんと仲良くなれたからね。感謝してるんだ」
 「そんなー」

 ミユキが笑っていた。

 「その前からね、石神くんはずっと私のことを守ってくれてたの。私の顔ってこんなだから、よくからかわれたりいじめもね。でも、いつも石神くんがからかう人たちを追い払ってくれて。私は全然気持ち悪くないってね」
 「そうなんですか」
 「恥ずかしかったけど、嬉しかったな。最初はね、私を庇ってそう言ってくれてるんだって思ってた。でもね、本当にそう思ってくれてるんだって分かって。私、だからこれまで頑張って来れたんだよ」
 「タカさんですからね!」
 「そう!」

 みんなが笑った。




 懐かしいミユキがいる。
 もうミユキは自分の顔のことを気にしていなかった。
 俺も最高に嬉しかった。
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