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ジャンニーニの訪問

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 「ふりむきポンチ」をみんなでやった土曜日の午後。
 聖から電話が来た。

 「こっちを出発したぞ」
 「ああ、分かった。お前にも会いたかったけどな」
 「今はどうしても抜けられねぇ。悪いな」
 「いいさ。また来てくれな」
 「もちろんだぁ!」

 今日はジャンニーニとマリアたちが日本に来る。
 ジャンニーニを大好きな亜紀ちゃんたちは今朝から嬉しそうだった。
 まあ、だからあんなにはしゃいで下らないギャグも楽しんでやったのかもしれない。

 「亜紀ちゃん、ジャンニーニたちがもうすぐ着くってよ」
 「じゃあお迎えに行きましょう!」
 「おう」

 俺は笑って、みんなで「花見の家」に向かった。
 
 「ジャンニーニさん、楽しみですね!」
 「そうだな」

 まあ、俺も楽しい。
 まさか日本であいつに会えるとは思ってもいなかった。

 切っ掛けは、前回ニューヨークで会った時に、あいつに鰻の話をしたことだ。
 俺の鰻を子どもたちが喰ってしまったと話し、鰻に興味を持ったジャンニーニに、聖に頼んでニューヨークの店に連れて行ってもらった。
 そこでジャンニーニもマリアたちも鰻が気に入り、しょっちゅうその店に通うようになった。
 俺がその話を知り、日本には最高の鰻の店があるのだと話した。

 「是非行ってみてぇな!」
 「ああ、来いよ。案内してやる」
 「ほんとか!」

 嘘ではないが、話半分にそう言った。
 そうしたら、本当に予定が決まったと言ってきた。
 ただ、あいつは裏社会の有名人であり、出国も入国も一筋縄ではいかない。
 両国の司法に調整が必要であり、しかも監視が付く。
 もちろんあいつに正式には通達はされない。
 しかし、その調整のために、期日がずらされる可能性はある。
 だから、俺が「タイガー・ファング」を出した。
 それに、俺との関係をあまり知られたくはなかった。
 聖もジャンニーニも、「虎」の軍とは無関係な組織だ。
 そのように振る舞って入る。
 もちろん、情報を握っている人間もいるが、出来るだけは遠ざけておきたい。

 


 「花見の家」に着いた。
 ジャンニーニには護衛は連れて来るなと言ってある。
 家族だけで来なかったら、鰻の店には案内しないと言った。
 絶対に家族4人だけで来ると誓った。
 そんなに鰻が好きになったのかと、俺も嬉しかったが。

 「あ、来ましたよ!」

 「タイガー・ファング」が到着した。
 青嵐と紫嵐が先に降りて、俺に挨拶する。

 「悪いな、わざわざ来て貰って」
 「とんでもありません! また石神様にお会い出来て光栄です!」

 嬉しそうにそう言ってくれた。

 「また浜松まで運転を頼むな」
 「「はい!」」

 二人が機内に入って、ジャンニーニたちのハーネスなどを外して行く。
 俺たちは、モタついたところを見られたくないだろうと、外で待っていた。

 「トラ!」
 「よう! よく来たな!」

 ジャンニーニが俺にハグをしてくる。
 我慢した。

 マリア、マリオ、シルヴィアも降りて来た。
 三人ともハグをして歓迎する。

 「トラ、本当にありがとうな!」
 「いいって。お前たちが鰻を気に入ってくれたようで、俺も嬉しいよ」
 
 シルヴィアが俺の腕を取ったまま離れない。
 何度も俺に会いたかったと言っている。
 ジャンニーニも笑って許していた。

 みんなで歩いて家に戻った。
 俺の拡張した家に多少驚いていたが、ジャンニーニの屋敷の方が上だ。
 マリオがガレージの車を見て興奮していた。
 玄関でロボが出迎え、ジャンニーニたちが驚いていた。

 「ロボって言うんだ。俺の最愛のネコな」

 ロボが喜び、俺の足に絡まる。

 「綺麗なネコちゃんね」

 シルヴィアが手を伸ばすと、ロボがその手に額をこすりつけた。
 他の三人にも順番に足に身体をこすりつける。
 ロボの挨拶だ。

 リヴィングにコーヒーを淹れ、グラマシーニューヨークの杏仁豆腐を出した。
 ジャンニーニたちは、杏仁豆腐を美味いと言ってくれた。

 「いつもニューヨークで行っているあの店な、本来は「シラヤキ」は出してないって言うんだ」
 「そうなのか」
 「だから俺が毎回注文すると、嬉しそうなんだよ。「ツウ」の人が来てくれたってなぁ」
 「アハハハハハハ!」

 窓側にジャンニーニたちが、反対にうちの子どもたちが座っている。
 シルヴィアは俺に一番近い椅子に座っていた。

 「トラ、いい家ね!」
 「そうか、ありがとうな」
 「ここで暮らしているのね」
 「ああ、そうだよ」
 「いつか私も来るからね」
 「アハハハハハ!」
 
 「シルヴィア!」

 流石にジャンニーニが慌てている。

 「お前がもっといい女になったらな」
 「絶対になるから!」

 マリアが笑い、ジャンニーニが苦い顔をした。
 柳も戻って来た。

 「すいません、遅れてしまって!」

 ジャンニーニたちに挨拶する。

 3時になり、ロボを早乙女家に預けて出発した。
 ベントレーの改造リムジンで行く。
 普段は大勢の護衛に囲まれての移動なので、ジャンニーニたちが気軽に出発することに喜んだ。

 「トラたちがいてくれりゃ、何も心配はねぇよな」
 「そうだよ。お前たちは絶対に守るからな」
 「ありがとう、トラ」

 ジャンニーニはリムジンの中でずっと喋りっぱなしだった。
 俺に話し掛け、みんなに俺と聖のことをずっと話している。
 楽しそうだった。

 



 5時半頃に、店に着いた。
 ジャンニーニは感動していた。

 「トラ! ついに来たぞ!」
 「俺が連れて来たんだろう!」

 みんなが笑っていた。
 申し訳ないが、今日は無理を言って2時間貸切にしてもらっている。
 大将は遠慮していたが、2000万円を渡している。
 2時間の間に、じゃんじゃん作ってもらうようにした。

 最初にジャンニーニたちを紹介した。
 ジャンニーニが言っていることを通訳してやった。

 「日本一の鰻を俺が食べさせるというので、ニューヨークから飛んで来た。今日はお世話になりますと言ってます」
 「え、もっと長かったんじゃ?」

 うるせぇくらいに喋りまくるので、適当に言った。
 うちの子どもたちが笑っていた。

 途中で電話を入れたので、もう作り始めている。

 「トラ、ウナギをまだ見てねぇぞ?」
 
 ニューヨークの店では作る前に鰻の切り身を見せられるそうだ。

 「ここは超一流なんだ。最高の鰻を使っているから心配すんな」

 切り身からでは時間が掛かり過ぎる。
 まあ、客に格式を印象付けたい店なのだろう。
 外国人だと言ってあるので、座敷ではなく幾つかのテーブルを繋げてくれていた。
 
 「マリオ、シルヴィア、今日は食べ放題だ。好きなだけ喰ってくれ」
 「「はい!」」

 俺の隣にシルヴィアが座り、ジャンニーニたち三人は向かいに座る。
 うちの子どもたちは適当だ。
 すぐに鰻重が配られる。
 俺が指定して、鰻巻や肝串などは大皿に盛って出してくれる。
 また、外国人がいるのでと、小さな椀に茶漬けなども用意してもらった。
 白焼きもどんどん配られる。

 ジャンニーニが、一口鰻重を食べて叫んだ。

 「Oh my God!」

 「喰い」に入っていた子どもたちもジャンニーニを見る。
 
 「トラ! 俺は感動した! 俺の今までの苦労も悲しみも全部吹っ飛んだぁ!」
 「良かったな!」

 大将が叫び声が聞こえたので出て来た。
 ジャンニーニの言葉をそのまま伝えると、嬉しそうに礼を言い、厨房に戻った。
 マリアたちも感動していた。

 「どうだよ、シルヴィア?」
 「こんな美味しい物があるなんて!」
 
 俺は満腹になる前に色々食べておけと言った。
 シルヴィアに茶漬けを作ってやる。

 「あ、今度は優しい美味しさだね!」

 笑って、ジャンニーニやマリア、マリオにも作ってやった。
 うちの子どもたちは次々に来る鰻重に狂喜し、ガンガン食べている。

 「ジャンニーニ、日本一の店だって分かったか?」
 「もちろんだぁ! ここは世界最高の店だ!」

 まあ、良かった。
 俺はいつも通りに二重天井の鰻重と白焼きを食べ、あとはゆっくりと食べた。
 青嵐と紫嵐の所へ行き、声を掛ける。

 「石神様! 我々にまでこんなに美味しいものを!」
 「お前らにはいつも世話になっているからな。遠慮しないでどんどん食べてくれな」
 「「はい!」」

 多分遠慮しているから、二人に追加で鰻重と白焼きを頼んだ。
 子どもたちは何の心配も無い。
 普段出来ない、鰻大満足の食事に喜んでいる。

 一段落し、子どもたちもペースを落とした。
 大将が出て来て俺に話しかけた。

 「ところで、あの旦那さんはどういうお仕事で?」
 「あ、ああ。まあ、結構手広くいろんなことをしてるんですよ」
 「そうなんですか」
 「ちょっと前にね、うちの子どもたちがこんなだから。俺が家に帰ると、夢中で俺の鰻を喰ってやがって」
 「アハハハハハハ!」

 大将が大笑いした。

 「石神さんは鰻が大好きですもんね」
 「そうなんだよ。それでその話をニューヨークでジャンニーニに会った時に話したら興味を持ってね。ニューヨークでも店があるのを知って、そこで食べたら嵌ってね」
 「なるほど」
 「今日は日本一の鰻を食べさせると言って連れて来たんです」
 「ありがとうございます」

 俺たちは大満足で店を出た。




 帰りの車の中で、ジャンニーニはずっとニコニコして今の鰻が如何に美味かったかを話し続けた。
 仕方なく全員で笑って聞いてやった。

 「トラ! お前に文句を言いたいんだ!」
 「お前、なんだよ!」
 「もう、ニューヨークのあの店で喰えなくなったじゃないか!」
 「このやろう!」

 みんなで笑った。
 まあ、楽しんでくれようで良かった。
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