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妖魔、大移動 Ⅱ

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 10分で早乙女が来た。
 まあ、家が近いから早い。

 「ハンターも呼ぶか?」
 「そうだなー、殺してもいいのかもなー」
 「石神さん、ちょっと可哀想なのでは?」
 「あー、じゃあ柳に任せるかー」
 「やめてください!」

 「てめぇ、俺の前で善人ぶるんじゃねぇ!」
 「すみませんでしたー!」

 まったく面倒なことになった。

 「ちょっと麗星に電話してみるな!」

 早乙女と亜紀ちゃんたちが待った。

 「麗星!」
 「あなたさまー!」
 「ちょっとさ、お前にまた相談したいことがあるんだ」
 「すぐに参ります!」
 「いや、電話でいいよ。こないださ、「ウンコ」、ああ、お前は「ウンチ」って言う派だったな! だからその「ウンチの妖魔」がさ、今行き場を喪っちゃってんだ」
 「……」

 「だからさ、道間家で使役してみないかなーって」
 「いえ、結構でございます」
 「そう?」
 「はい」

 電話を切った。

 「麗星はいらないってさ」
 「「「「……」」」」

 「じゃあ、最初の案の通りに早乙女家かぁ」
 「おい! 絶対に断る!」
 「あいつ、確かピピって名前だったよな?」
 「え!」
 「早乙女さん、またタカさんのウソですからね」

 亜紀ちゃんがバラす。

 「石神!」

 亜紀ちゃんの頭をはたいた。

 仕方が無いので、とにかく出掛けることにした。





 柳が臭いが困るからと、70リットルのゴミ袋を4枚用意した。
 段ボール箱がすっぽりと入る大きさだ。

 「あいつによー。ちゃんと俺が清掃業者が入るから気を付けろって言ったよな?」
 「そうだよね」

 ハーが覚えていた。

 「何やってたんだよなぁ」
 「石神、それはちょっと感心しないな」
 「あー! こいつも善人ぶってるぜー!」
 「おい!」

 早乙女は、妖魔を発見したら知らせて欲しいと言った。
 勝手に他所のマンションに放置など、人間として不味いと。
 まあ、その通りだが。

 「俺に知らせてくれれば良かったのに」
 「そうだったな」
 「俺はお前のために何かをやるために、「アドヴェロス」を作ったんだぞ?」
 「ああ、悪かったよ」

 早乙女は懇々と俺に不味かったという話をする。
 面白くないが、正論なので黙って説教された。

 杉並のマンションに着いた。
 場所は分かっているので、まっすぐに浄化槽へ向かう。
 ハーが段ボール箱を持ち、柳がゴミ袋を持った。
 亜紀ちゃんは長い柄のついた網を持っている。

 亜紀ちゃんが網を置き、浄化槽を開く。
 マンホールタイプだ。
 早乙女がライトを中へ向けた。
 物凄く臭い。

 「いしがみさまー!」

 声がした。

 「おい! お前にはちゃんと業者が来たら隠れるように言っただろう!」
 「はい。でも身体が大きくなっちゃって、逃げ場所がなくて」
 「なに?」

 嫌だったが、俺は仕方なくしゃがんでマンホールから中を覗いた。

 「……」

 前は10センチほどだったあいつが、今は1メートルほどになっていた。

 「お前、太った?」
 「はい、ここの環境が素晴らしくて!」
 「そう……」

 俺は立ち上がった。
 小声で早乙女に相談する。

 「早乙女、やっぱ殺すか」
 「石神!」

 子どもたちもライトを当てて見た。

 「柳、アルファードにギリギリ乗るかな」
 「絶対に嫌ですからね!」
 「でも、そのために乗って来たじゃん」
 
 柳が本気で抵抗した。
 半泣きで俺の胸をポコポコ叩く。
 まあ、そうだろう。

 「おい、その大きさじゃここから出られないよな?」
 「それは何とか出来ます。でも、ここから出て行かなければならないのですか?」
 「ああ。やっぱよ、お前がいると住人が困るらしいんだ」
 「そうですかー」

 「ウンコの妖魔」は、身体を解いて少しずつ伸ばしながら、何とかマンホールから出て来た。
 地上でまたトグロを巻く。
 物凄く臭い。

 「亜紀ちゃん、運べ」
 「!」

 亜紀ちゃんが、持って来た網を「ウンコの妖魔」の下に入れる。
 持ち上げようとして、網の柄が折れた。

 「「「「「……」」」」」

 一応ゴム手袋を持って来たので、子どもたちで持ち上げる。
 三人が一気に涙を流し始めた。

 「「「くっさいよー!」」」

 それでも「ウンコの妖魔」を運んだ。
 早乙女がマンホールの蓋を閉めた。

 アルファードの所まで来る。

 「よし! 後ろを開けるからな」
 「石神さん! 絶対ダメですってぇ!」

 柳が怒鳴った後で咳き込んだ。

 「しょうがねぇ。ルーフに上げろ!」
 「「「えぇ!」」」

 「それしかねぇだろう!」

 子どもたちが一層泣きながらルーフに持ち上げた。
 ハーの頭にちょっと汁が零れた。

 「ギャァァァァァァ!」

 うるさいので頭を引っぱたこうとしたが、やめた。
 ゴム手袋をゴミ袋に入れて、出発した。

 「どこへ行くんですか!」
 「「アドヴェロス」だ」
 「石神!」

 「だって! お前らの案件だろうがぁ!」
 「元々お前の家のものだろう!」

 早乙女と怒鳴り合った。
 子どもたちは憔悴している。
 俺を見ている柳に、とにかく行けと言った。
 途中で早乙女が泣き出した。

 「俺は石神のために……」
 「そうだよな!」

 様々な思いが錯綜しているのだろう。
 どうでもいいが。
 それよりも、近くを走っている他の車がみんなギョッとしていた。
 作り物と思ったか、大笑いしている人もいる。
 柳も本気で泣き出した。
 時々、信号待ちで俺を真っ赤な目で睨んだ。


 


 取り敢えず、「ウンコの妖魔」は「アドヴェロス」の敷地の浄化槽へ入れられた。
 早乙女が泣き縋るので、後日御堂に相談し、大きな下水道を改造して移動させた。
 下水道の中に特別な退避部屋を作り、作業員たちが近付いた場合はそこへ入るようにさせた。
 
 移動は「アドヴェロス」の人間にやらせた。
 うちから防疫服を支給した。
 
 



 あの日、柳はガソリンスタンドでアルファードを洗車し、家に帰ってから亜紀ちゃんとまた車を洗った。
 
 「ごめんね、ごめんね」と柳が言い続けていたと、亜紀ちゃんから聞いた。

 「そうだよな。俺だったら絶対しねぇもん」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが怒ったが、お前もそうだろうと言うと、納得した。
 まあ、ごくろうさんでした。
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