上 下
1,735 / 2,806

ピピの天国 Ⅱ

しおりを挟む
 ピピを葬った後で、久遠さんと家に入って紅茶を飲んだ。
 塔の最上階のガラス張りの部屋だ。
 一緒に、ピピの思い出を話した。
 なんとなく、それも弔いになるのではないかと二人で思っていた。
 本当に可愛らしい犬だった。

 《ワン》

 部屋の入り口で、鳴き声が聞こえた。
 驚いて二人で見たが、何もいなかった。
 気のせいだろうと二人で話した。
 ピピのことを話していたので、聞こえた気がしたのだと。




 でもその後も、時々鳴き声が聞こえるようになった。
 久遠さんも同じだ。
 家のどこにいても、聞こえる。
 毎日ではなく、週に1,2度ほど。
 決まったことは何もなく、突然聞こえる。
 怖くは無かったが、久遠さんが石神さんに相談した。
 土曜日に、石神さんが来てくれた。

 「そうか、ここが気に入ったのかもな」
 「どういうことなんだ?」
 「犬にだって魂はあるよ。自分のことを大事にしてくれて、それにこの場所も気に入ったんだろう。いい波動の土地と家だからな」
 「そうなのかな」
 「でも、成仏してないというのは良くないな。うーん、俺も専門じゃねぇしなぁ」
 「なんとかならないかな」
 
 石神さんはちょっと考えていた。

 「モハメド!」
 《はーいー》
 「お前、この家にいる白い犬のことは分かるか?」
 《はーいー。よくこの家をー、歩き回ってますねー》
 「そうか。成仏してねぇのかな」
 《そうですねー。ここが気に入ったのでー、ここにいたいようですー》

 「うーん」

 久遠さんが言った。

 「モハメドさん、ここにいるとピピにとって良くないんですかね?」
 《そうでもありませんけどー。でもー、しばらくしたらー、どこかへ行くつもりのようですよー》
 「そうなんですか!」
 《はーいー》

 石神さんも、それを聞いて安心したようだった。

 「じゃあ、しばらくはいさせてやれよ」
 「うん、分かった!」

 それからまた、時々ピピのものらしい鳴き声が聞こえた。
 久遠さんは聞こえると、「ピピ」と呼ぶようになった。
 しゃがんで見えない空間に手を伸ばして、撫でている。
 私も同じようにするようになった。
 怜花も、時々呼んでいることがあった。
 怜花には見えているのかもしれなかった。
 じゃれつかれているのか、嬉しそうに身体をよじって笑っていた。
 生前のピピがそうやって、怜花と遊んでいたのを思い出す。

 しばらく鳴き声を聞かないと、久遠さんはピピのお墓へ行って「たまにはまた来てくれ」と言っていた。



 6月になり、エーデルワイスが見事に咲き誇った。
 数日後の夜に、庭で白い光が灯った。
 防衛機構の警報が鳴り、私たちは慌てて怜花を抱えて地下へ移動しようとした。

 「雪野さん! あれ!」

 久遠さんが窓から庭を見ていた。
 エーデルワイスの花の前が光っている。
 私たちが驚いて見ていると、徐々に光が消えて元に戻った。

 《ワン!》

 ピピの声が聞こえた。





 石神さんたちが駆けつけて来た。

 「おい! なんで避難してないんだ!」

 怒られてしまったが、久遠さんが今見たものを石神さんに説明した。
 石神さんは驚いてモハメドさんを呼んだ。

 「モハメド!」
 《はーいー》
 「あれはなんだったんだ!」
 《はーいー。あの白い犬がー、行ったようですー》
 「!」

 皇紀君から連絡があり、解析の結果もう安全のようだと言ってくれた。

 みんなでエーデルワイスの花の所へ行った。
 石神さんが置いてくれた透明のガラスが、真っ白になっていた。

 「なんだ、これは……」

 石神さんが驚いていた。




 数日後、石神さんが来て、麗星さんに聞いてくれた話をしてくれた。

 「やはり、ピピが成仏したようなんだ」
 「そうか!」
 
 久遠さんが喜んでいた。

 「あの現象は、相当いい成仏だったようだよ。この世で思い切り幸せに過ごして、大満足で成仏したということだそうだ。良かったな」
 「ああ!」
 「それに、お前たちが見た光な。それはお前たちに感謝して、何かを遺して行ったということらしいぞ」
 「え?」
 「あの犬のこの世での幸福はここにあった。まあ、あの女も可愛がっていたのかもしれないが、お前たちがそれ以上にあの犬のためにしてやったということだ。だから大変感謝してあの世へ行った」
 「そうなのか?」

 石神さんは、本で読んだことがあると話してくれた。

 「飼い犬や飼い猫などは、特別な天国があるそうだ」
 「そうなのか」
 「ああ。死んでその天国でスヤスヤと眠っているんだ。そして飼い主が死ぬと迎えに来てくれて、ずっと幸せに一緒に過ごすそうだよ」
 「そうか……」

 素敵なお話だった。
 



 そんな天国があるといいと思った。
 私たちはピピとはほんの短い間だったけど、また一緒に過ごしたい。
 久遠さんは微笑んで、石神さんを見詰めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...