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ロボの散歩友達 Ⅱ

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 テッテッテ

 トン

 バシバシバシバシ

 バキッ

 ゴトン

 あぐぅ

 テッテッテ




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 しばらく動くことも出来ずに泣いていた。
 ネコちゃんが戻って来て驚いた。
 何か大きな石を口に咥えている。

 ゴロン

 私の目の前にその石を置いた。
 見たことも無い真っ赤で綺麗な石だった。
 拳よりもずっと大きい。

 「これ、どうしたの?」

 ネコちゃんが前足で私の方へ転がす。

 「え、私にくれるの?」
 「にゃー」

 びっくりしたけど、そのことよりも、ネコちゃんが私のために持って来てくれたことが嬉しかった。
 私が泣いていたので慰めてくれたのだろう。

 「ありがとう!」

 ネコちゃんを抱き締めた。

 「私が泣いていたから持って来てくれたんだね」 
 「にゃー」

 ネコちゃんが走り去った。
 私は大きな赤い石を手に、ずっと見送っていた。
 ちょっと元気が出て来た。

 「でもなー。これって誰かの家のものでしょうに」

 駅前の交番に届けた。
 何かは分からなかったが、警察の人も一応預かってくれた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おい!」
 「どうしたんですか?」

 出勤前にガレージに行くと、シボレー・コルベットの屋根に取り付けたレッドダイヤモンドが無くなっていた。

 「コルベットのルーフのレッドダイヤモンドがねぇ!」
 「えぇ!」

 子どもたち全員が一緒に観に来る。
 皇紀が脚立を持って来て、気を付けながらルーフに乗った。

 「タカさん! これ毟り取られてますよ!」
 「なんだと!」
 「強引に金具を壊してます。ひどいな」
 「許さんぞ!」

 とにかく警察に届けろと言って、俺は出掛けた。
 他のレッドダイヤモンドとは違って、あれは最初に見つけたもので、カットを頼んだし、鑑定書もある。
 他のものは警察には話せないが、あれだけは違う。
 俺が病院に着いて間もなく、皇紀から電話が来た。

 「タカさん! レッドダイヤモンドが見つかりましたよ!」
 「なに、ほんとか!」
 「交番に夕べ届けられていたようです」
 「なんだ、盗難じゃなかったのか?」
 「ええ、よくは分かりませんが。親切に届けてくれた人がいるようです」
 「おお!」

 俺は警察署に電話し、早速取りに行くと言い、その届けてくれた人に是非お礼をしたいと言った。




 昼の休憩時間を使って、中野の警察署に出向いた。
 早乙女も手配してくれ、拾ってくれた方も来て頂いていた。
 俺は担当の警官に名刺を渡し、うちにあった鑑定書などを示して俺のものだと証明した。
 拾ってくれた方は30代の女性で、その人にも名刺を渡し、感謝した。

 「あの、私は全然。交番に届けただけですので」
 「いいえ! 本当にありがとうございました」

 真面目そうな女性はしきりに遠慮していた。

 「ネコちゃんが持って来てくれたんです」
 「え?」
 「真っ白で大きなネコちゃん。時々散歩してると会うんです」
 「え!」
 「カワイイネコちゃんなんですよ」
 「ああ」

 「私が話すことが分かるみたいなんです」
 「そうですか」

 警察が書類を整えている間に、女性と話していた。
 河合晴香さんと教えて頂いた。

 「それでですね、夕べは落ち込んでいて。ちょっと付き合っていた相手に騙されてお金も家財道具も全部無くなっちゃって。そういう話をしたら、あの綺麗な石を持って来てくれたんです」
 「なんですって!」

 俺は驚いた。
 そういうことだったか。
 ロボがコルベットのルーフからもぎ取ったのだ。

 「石神さん、それではこれで手続きは完了です」
 「はい、それではこの方にお礼を」
 「はぁ。でも宝石だとどのようになさいますか?」

 宝石は価額が難しい。
 通常は販売価格ではなく、中古の査定価格を参考にする。
 河合さんは何もいらないと言った。
 本当にネコからもらっただけだからと。

 「これはレッドダイヤモンドです。評価額は少なく見積もっても200億円です」
 「「えぇ!」」

 俺は立ち会った警察官に聞いた。

 「報労金の規定は、20%ですよね?」
 「え、ええ。最大でその通りです」
 「大事なものだったんです。ですから、40億円で宜しいですか?」
 「「エェー!」」

 河合さんと担当の警察官が驚いた。

 「本当にありがとうございました。すぐ手続きをいたします。現金は難しいので、振り込ませて頂きますので」
 「そんな! 絶対ダメですって!」
 「いいえ、絶対に受け取って頂きますから」

 俺はすぐにルーに電話し、河合さんから無理矢理振込先を聞き出し、そこへ40億円を振り込んだ。
 河合さんは放心し、床に座り込んでしまった。

 河合さんが落ち着いてから、警察署を一緒に出て、近くでコーヒーを飲んだ。

 「あの、石神さん、本当に困ります」
 「お困りだったんでしょう?」
 「え?」
 「ああ、すぐに引っ越された方がいい。相手の男のことを教えていただけますか?」

 河合さんは少しずつ話してくれた。
 俺が親身に聞いていくと、途中で泣き出してしまった。
 酷い男だった。
 風俗に落し、搾れるだけ金を分捕って行った。
 ロボが大事にしていた河合さんからだ。
 早乙女の家も気に入ってくれていた人だ。
 許せん。

 俺は千万組に男を探し出させ、ホモ専のウリの店に突っ込んだ。





 俺は早乙女の家の近くの土地を譲り、そこで河合さんは家を建てた。
 贅沢な家では無かった。
 少し広めだが、5LDKの間取りだ。
 河合さんはそこで猫を飼い始めた。
 
 ある時、ロボと散歩していると、偶然河合さんと会った。

 「あ!」
 「アハハハハハ!」

 「石神さんのお宅のネコちゃんだったんですね!」
 「はい、ロボって言うんですよ」
 「ロボちゃん!」
 「にゃー!」

 ロボが嬉しそうに河合さんの足にまとわりついた。

 「そういうことだったんですか」
 「うちの可愛いロボが何とかしたかったんですよ。だったら、俺も全力です」
 「!」

 「今後も、ロボと仲良くしてやって下さい」
 「はい!」

 河合さんに撫でられ、ロボが喜んでいる。

 「あの、石神さん」
 「はい?」
 「こんなことを聞いて申し訳ないんですが」
 「なんでしょうか?」
 「私、他に知り合いもいなくて。あの、何かお仕事は無いでしょうか?」
 「仕事ですか」
 「ええ。石神さんから一杯お金を頂いてしまいましたが、やっぱりちゃんと働かないとと思いまして。すいません、子どもの頃から頭が良くないんで、大したことは出来ないんですけど」
 「そうですか。確か前は事務仕事でしたよね?」
 「はい、不動産関係でしたが」
 「知り合いの不動産屋がいるんです。ちょっと聴いてみますよ」
 「本当ですか!」

 俺は高木の会社を紹介した。
 俺の依頼が増え、独りでやっていた高木も事務員を多く欲しがっていた。
 河合さんはそこで元気で働いている。
 高木に聞いたら、非常に真面目で信頼できる人だと言っていた。
 一生遊んで暮らせる金があるが、人間としてちゃんと生きて行きたいと思っている。
 本当に立派な人だ。




 「ロボ、お前が気に入る人はやっぱりいいな!」
 「にゃー!」

 時々散歩ですれ違い、楽しく話をする。
 いいご近所さんになった。
 
 レッドダイヤモンドはコルベットのルーフには戻さなかった。
 今はロボのおもちゃ箱に入れてある。
 また、こいつが使うかもしれない。
 それも楽しみだ。
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