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双子のサーフィン

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 双子が寝込んだ日曜日。
 今週は祝日があって、明日も休みだ。
 朝食の後で響子の所へ顔を出し、六花と三人でオークラの山里で食事をした。

 「ルーとハーがインフルエンザで寝込んじゃってさ」
 「ほんとにー!」
 
 俺と六花はうな重と鮨のおまかせコース、響子は鮨のおまかせの量を減らし、焼き鳥を特別に焼いてもらう。
 俺と六花で「食べ過ぎだ」と焼き鳥を取ろうとすると怒った。

 「昨日から双子とキャンプに行く予定だったんだけどな。中止だ」
 「残念ね」
 「まあ、俺は響子と一緒の方がいいしな」
 「ダメだよ! 今度また行ってね」
 「ああ」

 響子の焼き鳥が本当に美味そうだったので、六花と一緒に俺たちも注文した。
 ねぎ間で3本ずつ焼いてもらう。

 「タカトラ、食べすぎだよ」
 「あ?」
 「私に寄越しなさい」
 
 俺は笑って1本やった。
 響子がニコニコして食べた。

 「お前、本当によく食べるようになったな」
 「うん!」

 六花が半分食べた1本を俺にくれた。

 「おお! 三方半分損だな!」
 「「?」」

 大岡越前のギャグは通じなかった。
 まあ、響子は損してねぇ。

 響子を寝かせ、六花のマンションで軽く「訓練」をして家に帰った。





 ルーとハーは熱が下がり、37度ちょっとだ。
 まだ身体がだるいようだ。
 咳は出なくなったので、みんなで3時のお茶を飲む。
 俺がオークラで買ったショートケーキを食べる。

 「タカさん、午前中にヘンな電話があったんですよ」
 「なんだ?」

 亜紀ちゃんが「日本サーファー協会」と名乗る人間から電話を受けたと言った。

 「ルーとハーと話したいということだったんですが」
 「折り返しにしたか?」
 「はい。今日はお休みらしいんですが、至急連絡を取りたいということで、個人の携帯の番号を聞きました」
 「そうか」

 うちはいろいろな電話が掛かって来る。
 大抵俺の関連で、子どもたちも承知しているものが多い。
 ただ、時折不明な相手もいる。
 先日はローマ教皇庁大使からなどあった。
 俺が不在の場合は、折り返しにすることになっている。
 ただ、今回は双子宛だ。
 亜紀ちゃんが機転を利かせて折り返しにした。
 双子にも聞いてみたが、覚えは無いと言う。

 「うーん」

 俺は少し考えて思い出した。

 「ああ! おい、お前ら去年、ハワイで派手なショーをやっただろう!」
 「「ああ!」」

 他の子どもたちも思い出した。

 「ネットでも大変な騒ぎになったしなぁ。探してたんじゃねぇのか?」
 「そっか!」
 「なるほどね!」

 俺はお茶の後で電話をした。
 中年の男性が出た。

 「平城(ひらき)と言います。日本サーファー協会(JPSA)の理事の一人でして」
 「そうですか。私は二人の父親で石神と言います。御用件を伺えますか?」

 平城という男が話したのは、やはりハワイに修学旅行に行った折に双子がワイキキで派手なパフォーマンスをしたことだった。

 「ずっと探していたんです。大勢の日本人の子どもがいたということで、多分修学旅行ではないかと。そこからいろいろ学校へ問い合わせたり……」

 まあ、大分苦労したようだ。

 「それで、あの華麗なライディングをされるお二人に、是非お話をしたいと」
 「まあ、分かりました。でもまだ二人は中学生でね。サーフィンも専門にやっているわけでもなくて」
 「え! 小さなころからやっていたのでは?」
 「そうじゃないんですよ」

 悪い人間ではなさそうだし、本当に日本のサーフィン競技を盛り上げて行きたいという情熱を感じた。
 俺が一度会うと言うと感謝され、サーファーたちが撮ったルーとハーの映像を何百回も観て感動したという話をされた。




 翌週の火曜日。
 俺はインフルエンザの治った双子を病院に呼び、タクシーで日本サーファー協会へ向かった。
 夕方の6時だ。
 明治神宮の近くなのですぐに着いた。

 「終わったら明治記念館で腹いっぱい喰え」
 「「やったぁー!」」

 遅い時間だったが、協会長と理事の平城、それに他にも何人かの理事や支部長が待っていた。
 俺たちは挨拶し、何人かと名刺交換をした。
 会議室へ案内され、お茶を出された。

 「このような場所で申し訳ありません。人数が多くなってしまいまして」
 「構いませんが、どのようなお話なんでしょうか?」

 まず全員が口々に双子のサーフィンの技術の高さを褒め称えた。
 二人の美しさにも驚嘆していた。
 そりゃそうだろう。

 「もう、何度も観ましたが、未だに信じられない。特に最後はホホジロザメを斃して、それに乗ってライディングをしている」
 「数十メートルもエアーで飛んでましたよ!」
 「まるで空中を滑空するような技って、なんですか!」

 俺も詳しくは知らなかった。
 両側に座った双子に聞いた。

 「お前らよ……」
 「「エヘヘヘヘヘ」」

 最後は探偵事務所まで雇って調べたらしい。
 今は個人情報は厳しい。
 協会長が改めて言った。

 「それでですね、お二人に是非うちの会員になっていただきたく」
 「はぁ」
 
 もう世界大会での優勝も夢ではないと言われた。
 双子がやりたいのなら、止めるつもりはない。

 「おい、お前ら、どうすんだ?」
 「うーん、あんまし興味ないかな」
 「みんなを楽しませるためにやっただけだからね」
 「そっか」

 協会長たちが慌てた。
 何度も食い下がって俺たちに頼み込む。

 「あの、石神さんもサーフィンを?」
 「タカさんはもっと凄いよ!」
 「おい!」

 双子が余計なことを言ったので、ますます引き留められた。
 仕方なく、俺もある程度は折れた。

 名前だけ協会の会員に登録すること。
 一度パフォーマンスをやり、その撮影の映像を俺の許可の上で配給、配信することを認めること。
 
 まあ、それで世界一のサーファーが日本にいることを発信できる。
 それが俺たちのギリギリの折合いだった。




 日時は今週末の午前10時。
 場所はハワイのワイキキビーチ。
 俺たちの独占で1時間ほど使うことが条件だった。
 サーファーのメッカである場所なので、協会は慌てた。
 しかし、何とかすると約束した。

 まあ、別に他の人間がいてもいいのだが。
 とにかく、そういうことになった。



 
 7時過ぎに協会を出て、三人で明治記念館のレストランへ行った。

 「遅くなっちまったな!」
 
 二人はペコペコだ。
 閉店してた。
 明治神宮の閉門と同時に終わるようだ。
 二人が泣き出しそうな顔になった。
 急いで一江に電話し、近くの焼き肉屋を探してもらった。

 「「焼肉うしごろし」だってよ!」
 「「すごいね!」」

 「うしごろ」だった。
 幾つかのコースを10人前ずつ頼み、他に好きな肉を注文した。
 俺は日本酒を飲み、双子はマンゴージュースを飲んだ
 店の人に驚かれ、店長がニコニコして挨拶に来た。

 「わたしたちもね! よくイノシシとかシカとか殺して食べてるの!」
 「ワハハハハハ!」

 ハーの頭を引っぱたいて黙って喰えと言った。

 


 楽しく食べながら、二人に計画を話した。
 双子が爆笑した。
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