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ハーの病気
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11月1日の金曜日。
俺が8時に家に帰ると、ハーが熱を出していると聞いた。
「あいつにカゼを引くスキルがあったのか!」
熱は39度。
普段熱を出さない人間は、そのくらいになると辛い。
咳き込んで全身がだるく、関節の痛みがある。
カゼだ。
病院には行っていない。
恐らく、昨日渋谷の雑踏の中でうつされたのだろう。
ルーはなんともないようだ。
ハーが苦しんでいるので、みんな心配そうだ。
「今日は唐揚げ大会だったんですけど、全然食欲が無くて」
「そうか」
「ハーは30個しか食べなかったんですよ」
「……」
大丈夫そうだ。
俺は部屋へ様子を見に行く。
ルーが付いて来ようとするので、うつされるからと止めた。
俺もマスクをして入る。
「よう、どうだ?」
ハーが真っ赤な顔で俺を見た。
「だるいよー」
「そうか」
「くるしーよー」
「そうだろうな」
ゼーゼー言いながら咳き込む。
俺はライトで眼球を診て、舌を出させた。
「ノドは痛いか?」
「平気」
「咳と熱か」
「うん。あと全身がだるくて関節が痛い」
「それは熱のせいだ。悪寒はいつあった?」
「さっき。急に寒くなったの」
「そうか」
インフルエンザだろうと思った。
急激な高熱だからだ。
「食欲もないんだってな」
「うん」
まあ、そっちは大丈夫そうだ。
「下痢は?」
「まだ出してない」
「見せなくていいからな」
「アハハハハ」
タミフルを持っているが、まだ使わなくていいだろう。
たまには高熱を出させるのもいい。
「お前ら、全然病気しないからなぁ。医者としての出番が無かったぜ」
「アハハハハハ!」
「一応薬はあるからな。ちょっと様子を見てから使ってみよう。たまには病気も楽しめよ」
「うん!」
ハーが笑った。
俺を信頼している。
「ルーや他の人間にうつさないように、しばらく独りでいろ」
「うん、分かった」
「寂しいか?」
「平気だよ!」
「そうか」
風呂に入っていないようだったので、一緒に入った。
体温を高めることで体内の免疫機構が活性化する。
まあ、高熱が出るのもそういう自衛行動なのだ。
だから熱が出たら風呂にゆっくり入るのが正しい。
俺はマスク着用だ。
「タカさん、うつっちゃうよ」
「ばかやろう! 俺は今更インフルエンザなんかにやられねぇ!」
「病気の総合デパートだもんね」
「おう!」
インフルエンザは飛沫感染だ。
咳やくしゃみによって感染する。
俺は免疫力が普通の人間よりも高いので、マスクをしていればまず感染しない。
ハーとゆっくり湯船に入った。
「昨日ね、近くでゲホゲホしてる人がいた」
「おお、今度ぶっ殺しに行こうな」
「アハハハハハ!」
20分程一緒に入り、リヴィングに連れて行った。
「ぼーっとする」
「そうか」
俺は子どもたちを遠ざけ、ハーに冷やしたアスコルビン酸の溶液を飲ませた。
喉が渇いていたようで、500ミリリットルを一気に飲んだ。
「ハー、大丈夫?」
ルーが寄って来た。
「うん」
ハーが笑って言った。
まあ、辛いだろうが心配させたくないのだろう。
「ルー、今日は亜紀ちゃんと寝ろよ」
「はい」
ルーが寂しそうに言った。
そう言えば、こいつらは別々に寝たことはないのかもしれない。
ハーが咳き込んでくしゃみをした。
唾が飛んで、ロボの頭に当たった。
「フッシャァー!」
柳に「天下夢想地獄七階層キック」を見舞った。
柳がぶっ飛ぶ。
「なんでよぉー!」
ハーの熱を測った。
38度6分。
「よし、今日はもう寝ろ」
「はい」
ロボが寄って来たので、頭を拭いてやった。
翌朝。
ハーの熱は37度8分にまで下がっていた。
まだちょっと関節は痛いようだが、大分楽になったようだ。
みんなと時間をずらして朝食を食べる。
「手伝えなくてごめんね」
「いいよー!」
亜紀ちゃんが明るく言った。
掃除や洗濯などはハー抜きでやる。
別にそんなに大変なことはない。
俺はハーを誘って、また風呂に入った。
「お母さんの夢を見たの」
「そうか、良かったな!」
「うん! 私とルーが熱を出した時にね、お母さんがずっとついていてくれたの」
「そうか」
「懐かしかった。お母さんが優しかった」
「俺は全然放置だけどな!」
「アハハハハハ!」
ハーがちょっと咳き込んだ。
「お前ら、小さい頃はしょっちゅう熱出してたもんなぁ」
「そうなんだ」
「二人でいつもくっついてるからな。どっちかがカゼをひくと、必ずもう片方も熱を出す。セットだったよな」
「アハハハハハ!」
「毎回山中が俺のとこに来てよー。何とかしてくれって。大変だったぜ」
「お父さん、心配しただろうね」
「し過ぎだよ! 子どもなんて免疫力を高めるために、熱を出していいんだよ。まあ、山中も心配してたけど、奥さんもいつもつきっきりでなぁ。お前ら、元気だと暴れまくって、病気になると心配させやがって。まったくなぁ」
「……」
ハーが黙っていた。
「どうした?」
「うん。私たち、本当に大事にされてたんだね」
「当たり前だろう! あの山中と奥さんだぞ? 大事にしねぇわけねぇだろう!」
「そうだね!」
ハーの肩を抱き寄せた。
「タカさん、うつっちゃうよ」
「いいよ」
ハーがニコニコして俺の肩に頭を乗せた。
「俺は山中たちと違って、お前らをいろんな場所に連れてってやってるからな。アメリカとかロシアとかフィリピン、ああ、こないだドイツも行ったよなぁ」
「全部戦争じゃん!」
「「ワハハハハハ!」」
二人で笑った。
「まあ、俺なんかが山中たちに敵うわけねぇだろう。世界で一番お前たちを大事に思ってる人間たちだからな」
「うん。でも私はタカさんが好き」
「おい、ここは山中と奥さんが好きって言うとこだぞ?」
「アハハハハハ!」
風呂から上がると、ルーが脱衣所に立っていた。
ずっといたようだ。
「ハー!」
ルーがハーに抱き着き、キスをした。
「おい! お前!」
ルーが感染した。
その晩に高熱を出した。
一緒に風呂に入り、アスコルビン酸を飲ませた。
「まったく面倒を増やしやがって!」
「「アハハハハハ」」
ハーと一緒に笑った。
「私もお母さんの夢を見るの」
「そうかよ!」
ルーの頭をポンポンしてやった。
亜紀ちゃんたちが微笑んで見ていた。
もう感染したから、その晩は二人を一緒に寝かせた。
「じゃあ、いい夢を見ろよ」
「「うん!」」
まあ、こいつらはやっぱり一緒がいい。
セットなのだ。
辛いことも楽しいことも、いつだって一緒だ。
山中たちが、そうやって育てたのだ。
俺なんかに変えられるわけもない。
何度か二人の様子を見に行った。
夕べもそうしている。
二人がいい寝顔で眠っていた。
きっと、山中たちに夢の中で会っているのだろう。
幸せそうな寝顔だった。
俺が8時に家に帰ると、ハーが熱を出していると聞いた。
「あいつにカゼを引くスキルがあったのか!」
熱は39度。
普段熱を出さない人間は、そのくらいになると辛い。
咳き込んで全身がだるく、関節の痛みがある。
カゼだ。
病院には行っていない。
恐らく、昨日渋谷の雑踏の中でうつされたのだろう。
ルーはなんともないようだ。
ハーが苦しんでいるので、みんな心配そうだ。
「今日は唐揚げ大会だったんですけど、全然食欲が無くて」
「そうか」
「ハーは30個しか食べなかったんですよ」
「……」
大丈夫そうだ。
俺は部屋へ様子を見に行く。
ルーが付いて来ようとするので、うつされるからと止めた。
俺もマスクをして入る。
「よう、どうだ?」
ハーが真っ赤な顔で俺を見た。
「だるいよー」
「そうか」
「くるしーよー」
「そうだろうな」
ゼーゼー言いながら咳き込む。
俺はライトで眼球を診て、舌を出させた。
「ノドは痛いか?」
「平気」
「咳と熱か」
「うん。あと全身がだるくて関節が痛い」
「それは熱のせいだ。悪寒はいつあった?」
「さっき。急に寒くなったの」
「そうか」
インフルエンザだろうと思った。
急激な高熱だからだ。
「食欲もないんだってな」
「うん」
まあ、そっちは大丈夫そうだ。
「下痢は?」
「まだ出してない」
「見せなくていいからな」
「アハハハハ」
タミフルを持っているが、まだ使わなくていいだろう。
たまには高熱を出させるのもいい。
「お前ら、全然病気しないからなぁ。医者としての出番が無かったぜ」
「アハハハハハ!」
「一応薬はあるからな。ちょっと様子を見てから使ってみよう。たまには病気も楽しめよ」
「うん!」
ハーが笑った。
俺を信頼している。
「ルーや他の人間にうつさないように、しばらく独りでいろ」
「うん、分かった」
「寂しいか?」
「平気だよ!」
「そうか」
風呂に入っていないようだったので、一緒に入った。
体温を高めることで体内の免疫機構が活性化する。
まあ、高熱が出るのもそういう自衛行動なのだ。
だから熱が出たら風呂にゆっくり入るのが正しい。
俺はマスク着用だ。
「タカさん、うつっちゃうよ」
「ばかやろう! 俺は今更インフルエンザなんかにやられねぇ!」
「病気の総合デパートだもんね」
「おう!」
インフルエンザは飛沫感染だ。
咳やくしゃみによって感染する。
俺は免疫力が普通の人間よりも高いので、マスクをしていればまず感染しない。
ハーとゆっくり湯船に入った。
「昨日ね、近くでゲホゲホしてる人がいた」
「おお、今度ぶっ殺しに行こうな」
「アハハハハハ!」
20分程一緒に入り、リヴィングに連れて行った。
「ぼーっとする」
「そうか」
俺は子どもたちを遠ざけ、ハーに冷やしたアスコルビン酸の溶液を飲ませた。
喉が渇いていたようで、500ミリリットルを一気に飲んだ。
「ハー、大丈夫?」
ルーが寄って来た。
「うん」
ハーが笑って言った。
まあ、辛いだろうが心配させたくないのだろう。
「ルー、今日は亜紀ちゃんと寝ろよ」
「はい」
ルーが寂しそうに言った。
そう言えば、こいつらは別々に寝たことはないのかもしれない。
ハーが咳き込んでくしゃみをした。
唾が飛んで、ロボの頭に当たった。
「フッシャァー!」
柳に「天下夢想地獄七階層キック」を見舞った。
柳がぶっ飛ぶ。
「なんでよぉー!」
ハーの熱を測った。
38度6分。
「よし、今日はもう寝ろ」
「はい」
ロボが寄って来たので、頭を拭いてやった。
翌朝。
ハーの熱は37度8分にまで下がっていた。
まだちょっと関節は痛いようだが、大分楽になったようだ。
みんなと時間をずらして朝食を食べる。
「手伝えなくてごめんね」
「いいよー!」
亜紀ちゃんが明るく言った。
掃除や洗濯などはハー抜きでやる。
別にそんなに大変なことはない。
俺はハーを誘って、また風呂に入った。
「お母さんの夢を見たの」
「そうか、良かったな!」
「うん! 私とルーが熱を出した時にね、お母さんがずっとついていてくれたの」
「そうか」
「懐かしかった。お母さんが優しかった」
「俺は全然放置だけどな!」
「アハハハハハ!」
ハーがちょっと咳き込んだ。
「お前ら、小さい頃はしょっちゅう熱出してたもんなぁ」
「そうなんだ」
「二人でいつもくっついてるからな。どっちかがカゼをひくと、必ずもう片方も熱を出す。セットだったよな」
「アハハハハハ!」
「毎回山中が俺のとこに来てよー。何とかしてくれって。大変だったぜ」
「お父さん、心配しただろうね」
「し過ぎだよ! 子どもなんて免疫力を高めるために、熱を出していいんだよ。まあ、山中も心配してたけど、奥さんもいつもつきっきりでなぁ。お前ら、元気だと暴れまくって、病気になると心配させやがって。まったくなぁ」
「……」
ハーが黙っていた。
「どうした?」
「うん。私たち、本当に大事にされてたんだね」
「当たり前だろう! あの山中と奥さんだぞ? 大事にしねぇわけねぇだろう!」
「そうだね!」
ハーの肩を抱き寄せた。
「タカさん、うつっちゃうよ」
「いいよ」
ハーがニコニコして俺の肩に頭を乗せた。
「俺は山中たちと違って、お前らをいろんな場所に連れてってやってるからな。アメリカとかロシアとかフィリピン、ああ、こないだドイツも行ったよなぁ」
「全部戦争じゃん!」
「「ワハハハハハ!」」
二人で笑った。
「まあ、俺なんかが山中たちに敵うわけねぇだろう。世界で一番お前たちを大事に思ってる人間たちだからな」
「うん。でも私はタカさんが好き」
「おい、ここは山中と奥さんが好きって言うとこだぞ?」
「アハハハハハ!」
風呂から上がると、ルーが脱衣所に立っていた。
ずっといたようだ。
「ハー!」
ルーがハーに抱き着き、キスをした。
「おい! お前!」
ルーが感染した。
その晩に高熱を出した。
一緒に風呂に入り、アスコルビン酸を飲ませた。
「まったく面倒を増やしやがって!」
「「アハハハハハ」」
ハーと一緒に笑った。
「私もお母さんの夢を見るの」
「そうかよ!」
ルーの頭をポンポンしてやった。
亜紀ちゃんたちが微笑んで見ていた。
もう感染したから、その晩は二人を一緒に寝かせた。
「じゃあ、いい夢を見ろよ」
「「うん!」」
まあ、こいつらはやっぱり一緒がいい。
セットなのだ。
辛いことも楽しいことも、いつだって一緒だ。
山中たちが、そうやって育てたのだ。
俺なんかに変えられるわけもない。
何度か二人の様子を見に行った。
夕べもそうしている。
二人がいい寝顔で眠っていた。
きっと、山中たちに夢の中で会っているのだろう。
幸せそうな寝顔だった。
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