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竹流と石神家 Ⅱ

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 夕飯は竹流を歓迎してのバーベキューだった。
 庭のウッドデッキでやる。
 竹流の歓迎会だと言いながら、うちの子どもたちが竹流に何かを焼いてやるわけもない。
 俺が竹流に付き添って、一緒にいろいろと焼いて食べた。

 「普段は優しいし頼もしい連中なんだけどよ」
 「はい」
 「俺は毎日、こいつらの本性を見せられてるような気がするぜ」
 「アハハハハハ!」

 亜紀ちゃんたちが、チラリと俺を見てまた争いに戻った。

 「俺が弱い親父だったら、毎日飯が食えなくなっていただろうな」
 「すごいですよね」
 「おちおち寝込んでもいられねぇ」
 「アハハハハハ!」

 俺は竹流にホタテのバター焼きや、タラのアルミホイル焼きなどを作ってやった。
 竹流は感動して沢山食べてくれた。
 夕べ焼き肉屋に行った話をした。
 
 「600万円も喰うんだぜ!」
 「えぇ!」
 「俺、強くて金持ちの親父でなきゃダメなんだよ。俺って結構頑張ってるよな?」
 「アハハハハハ!」

 竹流が爆笑した。

 「でもな、一度たりともあいつらと別れたいと思ったことはねぇんだ」
 「はい!」
 「あいつらがいなきゃダメなんだ。お前もな」
 「はい!」

 前にやったチーズフォンデュ大会の話をした。
 また竹流が爆笑した。

 


 竹流と一緒に風呂に入り、竹流は俺の身体を見て驚いていた。
 
 「これが神様なんですね」
 「なんだ?」
 「いいえ。凄いです、やっぱり」
 「そうか」

 洗い終わって竹流を湯船に浸からせながら、俺は照明を落とした。
 月の映像と共に、グレゴリオ聖歌を流した。
 竹流が感動して月の様々な映像を眺めていた。

 風呂を上がって、他の子どもたちが順番に風呂へ入って行く。
 俺は竹流を誘ってロボと遊んだ。
 ロボのおもちゃ箱からヒモのついたたわしを取り出す。
 ロボが一番喜ぶ遊びで、二人で夢中で楽しんだ。

 子どもたちも風呂から上がり、「幻想空間」に移動した。
 俺はワイルドターキーを飲む。
 亜紀ちゃんも同じだ。
 柳はワインを。
 竹流、皇紀と双子は千疋屋のジュースを飲む。
 つまみは雪野ナス、巾着タマゴ、甘鯛の煮付け、ポルチーニ茸とエリンギのアヒージョ、冷奴、焼きハムと唐揚げ大量。
 
 竹流が「幻想空間」に圧倒されている。
 俺は竹流を隣に座らせた。
 みんなで乾杯し、好きなように食べさせる。
 俺は竹流に言った。

 「お前にな、お前の父親について話したかったんだ」
 「え?」
 「俺も偶然に知ったことだ。お前がもっと成長してから話そうと思っていたんだけどな。でも、お前は予想外に早く「男」になった。だから話しておこうと思ったんだ」
 「神様?」
 「子どもたちの前だが、話してもいいか?」

 竹流が少し考えていた。
 前に話したこともあるが、いろいろと錯綜するものもあるんだろう。

 「はい、お願いします」
 
 俺を真直ぐに見詰めて竹流が言った。

 俺は竹流に話し始めた。

 



 「最初の切っ掛けは、俺たちと一緒に戦ってくれている自衛官からだった。俺の弟なんだけどな」
 「え! 神様の弟!」
 「まあ、義理だけどな。その男がお前のお父さんに鍛えてもらったことがあると話したんだ」
 「そうなんですか!」
 「連城十五。凄まじい男だったそうだ。まるで戦うために生まれて来たような、な。俺の弟は「闘神」だと言っていたよ。自衛隊の中でもエリートで、最終的には最高峰の特殊作戦群という部隊を経て、極秘の機密部隊「裏鬼」という非正規戦闘の小隊の隊長になった」
 
 竹流は黙って聴いていた。
 初めて聞いた子どもたちが驚いている。

 「防衛省で特別な許可を得て、「裏鬼」の活動記録を閲覧した。本当に凄まじい戦歴だった。その内容は話せないけどな」

 竹流には辛い思い出かもしれないが、連城十五が20代で結婚し、竹流が生まれた話をした。

 「お前のお母さんは優しい人だった。だから自衛官として優秀な夫にはついていけなかったんだろうな。それは仕方ない」

 竹流が黙って頷いた。

 「お前が生まれてからしばらくして離婚した。だからお前は自分の父親の顔を知らない」
 「はい」

 「自衛官はみんな遺書を残しておくことを推奨される。連城十五も、遺書を残している」
 「え!」
 
 俺は一度部屋へ戻って、その遺書と連城十五の写真を持って戻った。
 秋田の交戦の後で、何とか自衛隊から譲り受けたものだ。
 竹流に渡す。
 竹流は遺書の入った封筒を開いた。
 ただ一つの和歌が書かれているのみだった。


 《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》


 毛筆で書かれ、達筆な手だった。
 
 「これは!」
 「これが連城十五という男がこの世に遺しておくべき全てだったんだ。お前のことだよな」
 「!」
 「別れても、ずっとお前のことを忘れたことは無かった。もう二度と会うことは無いだろうが、お前のことは忘れなかった。そういう人だったんだよ、お前の父親は」
 
 竹流が大粒の涙を零しながら身体を震わせた。
 俺は涙で濡らさないように写真と遺書を取り、テーブルへ置いた。

 「この写真はまだ若い頃のものだ。これしか手に入らなかった。相当な機密性の高い部隊だったからな。一切の記録から抹消されていた。これは集合写真の中のものを引き伸ばしたんだ。これ以上大きく出来なかった。すまんな」

 竹流は俺の持っている写真を見ていた。
 俺はそのまま連城十五の最期を話した。

 「ロシアに潜入する任務の中で部隊が行方不明になった。「業」にやられたんだ。そのまま部隊は全員が「業」によって精神と肉体を改造された。日本のある拠点に運ばれて、俺たちと交戦になった。俺がお前の父親を殺した」
 「!」
 「俺と戦い、死に際にまたあのヤマトタケルの和歌を口にした。その後で妖魔に言って僅かに残った記憶を探らせた。ロシアで作戦行動中に「業」に捕えられたことまでが分かった。他のことは無理だったよ。でもそれで俺は連城十五だったことを悟った」

 竹流が涙を拭った。
 真直ぐに連城十五の写真を見た。
 
 「悪いな、他の子どもたちにも知っておいて欲しかった。お前の兄弟だからな」
 「はい!」

 竹流が大きな声で返事をした。
 必死に乗り越えようとしていた。
 俺は遺書と写真を竹流の部屋へ持って行った。
 デスクの上に置く。

 「幻想空間」に戻って、みんなで飲んで食べた。
 みんな竹流にどんどん喰えと言った。

 俺はギターを持って来て、「ヤマトタケル」を思って即興曲を演奏した。
 
 「明日は「寮歌祭」だ。あそこではあんまし喰うんじゃねぇぞ!」

 みんなが笑った。
 竹流にも参加させる。
 普段は子どもたちと「紅六花」の連中としかほとんど話さない。
 本物の知性の人間たちと交流させたかった。




 「幻想空間」を解散し、それぞれの部屋へ入った。
 竹流は独りで泣くのだろうか。
 さっきは涙を拭って明るく振る舞っていた。
 あいつは子どもではなくなった。

 しかし、竹流は生きて行かなければならない。
 悲しいことは人生にはある。
 だから、前を向いて生きろ、竹流。
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