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蓮花研究所 慰安旅行

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 9月中旬の日曜日早朝6時。
 
 「じゃあ、行ってくるな!」
 「はい! お願いします!」

 亜紀ちゃんに見送られ、俺は「飛行」で蓮花研究所へ向かった。
 今日は特別な日だ。
 あいつらが喜ぶ顔が目に浮かぶ。
 本当に楽しんで来て欲しい。

 あれは約2か月前。
 偶然蓮花から聞いた言葉だった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 「石神様、以上でございます。全て順調以上に進んでおります」
 「ジェシカが頑張っているようだな!」
 「はい! 本当に頼りになる人間です。それに他の研究所員も、もちろんブランたちも!」
 「いい仲間に囲まれたな」
 「はい!」

 定期的に聞いている蓮花からの報告だった。
 そこからは他愛無い近況というか、蓮花やみんなの楽しんでいる様子などを聞いた。

 「御堂様の東京ドームでのライブ以来、時々みんなで集まって映画やライブなどを見て居ります」
 「そうなのか! 楽しそうだな」
 「先日は前に大流行した『アナと雪の女王』を観ましたの。あれだけ話題になったのだから、みんなも楽しめるのではないかと」
 「そうか」
 
 研究所内の大食堂に、でかいスクリーンを設置して、御堂のライブを全員で観られるようにした。
 以前はブランと研究所員とは分けて生活していた。
 ブランが機密扱いだったためだ。
 しかし今では全員が一緒の食堂で食事をしている。
 だから拡張して、詰めればブランと全職員が集まれる部屋にしてある。
 そこで映像などを楽しんでいるらしい。

 「DランドのCMが流れましてね! 前鬼なんか感動して泣いてましたの!」
 「え?」
 「多分、以前に行ったことがあるんじゃないでしょうか。わたくしは行ったことはないのですが、楽しんでいる人を見て……」
 「おい!」
 「はい?」

 「前鬼が泣いてたのか!」
 「は、はい。あの、他のブランたちも楽しそうだと話しておりましたが」
 
 俺はショックを受けた。
 ブランたちが俺のために戦うなどと言ってくれるので、いい気になっていた。
 ブランたちを少しでも楽しませたいなどと思って、ピクニックに連れて行ったり、研究所へ行けばちょっと話したり食事を作ってやったり。
 そんなことで、俺は楽しませてやったと思い上がっていた。

 「あの、石神様?」
 「蓮花。全員を連れてDランドで遊ばせてやろう」
 「え! それは幾ら何でも!」
 「方法を考えよう。ブランたちはもう他の人間に混じっても大丈夫だろうが、やはり不味いこともあるかもしれない。それに、あそこは大人気の遊園地だ。アトラクションっていうのか、あれに何時間も並ぶらしいからな」
 「はい。わたくしも行ったことはございませんが、そういう話は聞いたことがございます」
 「だからさ。貸切で一日楽しんでもらおうぜ!」
 「はい?」
 「前にさ、アメリカの歌手が来て貸し切りにしたんだと。交渉は難しいが、やってみるよ」
 「石神様!」
 「俺は本当にダメな男だ。あいつらに旅行の一つも考えたことも無かった。前鬼は前に行ったことがあるんだろう。家族とでもな。それを思い出したんじゃないのか?」
 「そうでしょうが……」
 「また連絡する。ああ、ブランも研究所員も全員でな! もちろん蓮花もな!」
 「は、はい!」
 「進捗なんてどうでもいい! 一日休んで楽しんでくれ」
 「分かりました! じゃあ、宜しくお願い致します」

 俺はすぐにルーとハーを呼んで、計画を話した。
 二人とも大賛成で資金は任せて欲しいと言ってくれた。
 また一日の売上が約8億円ほどであること、休日、特に連休はもっと売上があるだろうこと。
 それに「みんなのDランド」を謡っていることから、貸切などには基本は応じないだろうということをすぐに調べてくれた。
 ならば、俺の持つ伝手を何でも使うことだ。

 アメリカ大統領、御堂総理大臣、そして俺の「虎」の軍最高司令官の立場を使った。
 「虎」の軍の研究員と特殊兵士たちの慰安ということで、機密保持のために貸切にして欲しいと。
 Dランドの経営者からはすぐに調整すると快諾を得られた。
 双子が株式を結構買ったことも効いた。
 貸切の費用は1日で100億円ということに決まった。
 飲食や買い物も全て実費で追加して支払う。

 9月15日の日曜日と決まった。
 蓮花に希望の日を聞き、その日がいいということになった。

 「石神様、それでここに残る人間なのですが」
 「ああ、俺が行くよ」
 「え!」
 「俺がその日は留守番をする。ああ、斬も誘うかな。あいつは幾ら何でもDランドじゃねぇしなぁ!」

 俺が笑うと蓮花が驚いていた。

 「でも、石神様は当然ブランたちと一緒にいらっしゃるのでは?」
 「俺は苦手なんだよ。ああ、子どもたちが一緒に行くよ。特に柳は大好きで詳しいらしいしな」
 「そんな、でも……」

 「お前が残るつもりだったんだろう! お前にも行けと言ったじゃないか。ああ! シャドウも連れてってやれよ!」
 「よろしいのですか!」
 「ああ。あいつこそ、山の中に放置で申し訳ないしなぁ」
 「ありがとうございます!」
 「お? お前も行く気になったか!」
 「はい!」

 蓮花はシャドウが大好きだ。

 話は決まり、準備の段取りを打ち合わせた。
 500人程の所帯なので、観光バスを連ねて行く。
 千万組の人間で大型二種の免許を持っている人間が大勢いるので頼むことにする。
 元々、組員の慰安旅行のために取得した者が多い。
 千万組でも3台持っているそうなので、運転手ごと借りる。
 他の8台についても、手配してもらった。
 
 あとは変装だ。
 色々考えたが、やり過ぎれば楽しむことに支障が出る。
 当日、タマに精神操作をしてもらうことにした。
 客の姿の記憶を消してもらうのだ。
 
 道中、現地での防衛に関してはまったく必要が無い。
 戦闘の専門家の集団がいるのだ。
 それでも責任者である蓮花が提案した。

 「念のため、デュール・ゲリエも配置したいのですが」
 「必要か?」
 「武装は一切出来ませんので」

 タマの仕事が増えた。

 当日の俺と斬の役割はほとんどない。
 まあ、襲撃があれば撃退するだけだ。
 研究所の維持管理はすべて量子コンピューターが行ない、手足となるロボットたちがいる。
 むしろ鍛錬に付き合わされるだろうことがウザい。
 
 大体のことは決まった。
 
 子どもたちが俺の所へ来た。
 俺が行かないことに多少の不満はあったようだが、蓮花研究所の防衛が必要なことで納得した。

 「お前らも楽しんで来ていいんだが、今回は不慣れなブランたちも楽しませてくれよ」
 「「「「「はい!」」」」」

 「タカさん」

 ハーが言った。

 「どうせなら、響子ちゃんとかも誘えないですか?」
 「ああ! あいつも外に出ない系の奴だったな!」
 「六花ちゃんとか鷹さんとかも」
 「おお、そうだな!」
 「タカさん、吹雪ちゃんはどうします?」
 「じゃあ、俺が預かるかなー」
 
 六花に話すと、「紅六花」の誰かに頼むと言った。

 「おい、わざわざ呼ぶのかよ」
 「大丈夫ですよ! 保育士をやってる奴にちゃんとお金を払って頼みます」
 「そうか」

 六花に会いたい人間ばかりだから大丈夫だろう。
 うちから子どもたちはハマーで出掛け、六花と響子と鷹は六花のグランエースで行く。
 蓮花は、発表したらブランや研究所員たちが大喜びだったと言った。
 俺も嬉しかった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 蓮花研究所に午前6時15分に着いた。
 上空から敷地内に降りる。

 俺の到着を知り、全員が駆け寄って来て礼を言われた。

 「いいって! 今日は楽しんで来てくれな!」

 蓮花が来て、改めて礼を言う。
 ジェシカとシャドウもいる。

 「みんな! 今日は蓮花の報告で実現したんだ! 命懸けで楽しんで来いよな!」

 みんなが笑い、拍手をした。
 蓮花がやめてくださいと言った。

 「ジェシカ、お前は働き過ぎだって蓮花が心配してるんだよ」
 「それは! 蓮花さんこそ!」
 「じゃあ、今日はゆっくりしながら遊んできてくれ。人間は休むことも重要だからな」
 「はい!」

 「シャドウ」
 「石神様、自分のような者まで、ありがとうございます」
 「いや、お前には一番楽しんで欲しいんだ。山小屋に押し込めていて済まないな」
 「そのようなことは! むしろあんなに快適な家に仕上げていただきまして」
 「まあ、とにかく遊んできてくれ」
 「はい!」

 千万組の運転手たちにも「頼む」と声を掛けていると、斬が来た。
 歩いて来たらしい。

 「よう! 斬! 今日は宜しくな!」
 「ふん!」

 蓮花たちは、次々とバスに乗り込み出発して行った。
 みんな窓を開けて手を振っていた。

 「お前も変わったことをするな」
 「お前の道場でも旅行とかしてるらしいじゃねぇか」
 
 HPで見た。

 「あれは世間を誤魔化すためじゃ」
 「俺もだよ!」
 「ふん!」

 俺は笑って斬の肩を叩き、食事にしようと言った。
 蓮花たちは9時ごろから夜の7時までDランドで遊ぶ。
 帰りは9時から10時頃だろう。
 
 食堂に、豪華な膳が用意してあった。
 俺が温めて斬にも食べさせる。

 「美味いな」
 「そうだろう! 蓮花の食事は最高なんだよ!」
 「そうだな」
 
 昼と夜は俺が好きな物を作ると言って、用意を断った。
 何も考えずに楽しんで欲しい。

 「じゃあ、今朝は早かったから、俺はちょっと寝るな!」
 「ふざけるな!」

 仕方ねぇ。
 俺は笑って外に出て、斬と組み手をした。
 長い一日になりそうだった。
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