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双子の手紙
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マクシミリアンが帰った後。
子どもたちも散々食べて大満足だった。
家長として、家族の腹を満たしてやるのは幸せだ。
風呂から上がると、双子が「山中家倉庫」から出て来た。
何か台紙に挟んでいるものを持ちだしている。
「なんだ?」
「初めて見たの」
「なんかいい波動だったの」
「へぇ」
俺も知らない。
山中のデスクに仕舞ってあったようだ。
二人で山中の研究資料を見てみようと思ったらしい。
大事そうに仕舞ってあったので、持ち出したということだった。
綺麗な厚紙で挟んでいる。
可愛らしいリボンが結んであった。
リヴィングで、三人で開けた。
「手紙?」
「汚い字だよ」
画用紙だろうが、クレヨンで描かれた絵と文字。
裏側に、もうちょっと長い文章がクレヨンで書かれていた。
鉛筆の跡があり、どうやらそれをなぞっている。
《おとうさん おかあさん いつもありがとう だいすき じゃーね》
「なんだこりゃ?」
表の絵は二人の男女に見える。
多分、山中と奥さんなのだろう。
家の絵があり、二人がその前で並んで立っている。
画用紙は折り畳まれた跡があった。
三人で面白がって見ていた。
亜紀ちゃんが風呂から上がって、リヴィングに来た。
「何見てるのー?」
近づいて来て、大笑いした。
「あー! これー!」
「なーに、亜紀ちゃん!」
「知ってるの?」
「何よ、覚えてないの?」
「「ん?」」
「あんたたちが書いたんじゃない、この手紙」
「「え?」」
「大変だったよねー」
「なになに?」
「おぼえてないよ!」
亜紀ちゃんが笑って話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「とどいたー!」
亜紀、小学四年生。
授業で全員で手紙を書くことを教えられた。
皇紀は小学一年生、ルーとハーは4歳だ。
「亜紀ちゃん、良かったね!」
「うん! お母さん、読んでー!」
「楽しみだなー! 亜紀ちゃんの初めての手紙だもんね!」
「そうだよ!」
ルーとハーが興味深げに見ていた。
亜紀とお母さんが楽しそうにしている。
「わー! 一杯書いてある!」
「書けるだけ書いたの。裏側もあるんだよ!」
「ほんとだ!」
日頃の両親への感謝などが書いてあった。
その晩、帰って来た父親にも見せた。
涙を流しながら喜んだ。
「亜紀ちゃん! ありがとうな!」
「大事にしてね!」
「絶対そうする!」
ルーとハーは何に感動しているのか分からなかった。
翌朝、母親から「手紙」のことを教わった。
「亜紀ちゃんがね、生まれて初めて書いた手紙なの。嬉しかったなー」
「「そーなんだ!」」
早速、二人で手紙を書こうと言い合った。
「あら! あなたたちも書いてくれるの?」
「「うん!」」
母親は喜んで、どんな手紙にするかと三人で話し合った。
二人の絵を描くことに決まった。
絵を描くのが好きな二人だった。
文面はどうするか。
二人の希望を聞いて、母親が笑った。
その通りにしようと言った。
午後に三人で一緒に手紙を書いた。
母親は字を知らない二人のために、鉛筆でうすく書いてそれをなぞらせた。
ルーとハーが満足するものに仕上がった。
三人で喜んだ。
「手紙ってどうするの?」
「お父さんが帰ってきたら見せてあげましょう」
「「うん」」
何か亜紀と違う。
亜紀は直接見せたのではなく、どこかから届いた。
なんだ、あれ?
亜紀が小学校から戻ったので聞いてみた。
「あー、手紙はポストに入れるんだよ。そうすると郵便屋さんが届けてくれるの」
「「そーなんだー!」」
頼りになる皇紀を連れ出した。
ポストに案内してもらう。
「こいつかー!」
「まっかでエラそうだな!」
「……」
投函口に届かない。
皇紀に頼んだ。
「入らないよー」
「しっかりしろ!」
「こんじょうだせ!」
二人で皇紀の尻を蹴った。
皇紀が折り畳んで入れた。
「じゃーな!」
「すぐとどけろよ!」
「……」
三人で帰った。
「あれ? あの子たちが書いた手紙は?」
母親は手紙が見えなくなったので不思議がった。
仕事から帰って来た夫に話した。
「ルーとハーがね、手紙を書いたの」
「ほんとか!」
「でもねぇ、どこかに見えなくなっちゃって」
「なんだよ~」
ルーとハーは毎日待った。
「今日は来るかな?」
「絶対来るよ!」
来なかった。
「今日は来るよね」
「あたりまえじゃん!」
来なかった。
「いい加減、今日だよね」
「怒るよ!」
来るわけが無かった。
郵便配達の人間を待ち構えた。
「おい!」
「なんだ?」
「私たちの手紙は!」
「え、えーと、無いね」
「いい加減にしろよ!」
「おまえ、なにやってんだよ!」
「おい!」
生意気な子どもに頭に来ていた配達員だったが、毎日ずっと待っていることが分かり、不憫に思って来た。
「あのさ、手紙はいつ出したの?」
一週間前だと聞いた。
「おかしいね」
「あそこのポストだよ!」
「なんでこないの!」
玄関で話している声が聞こえ、母親が家から出て来た。
「あの、どうしたんですか?」
「いえ、この子たちが一週間前に出した手紙を待っているようで」
「え!」
宛名も住所も無い。
切手も貼っていない。
母親が説明し、配達員が笑った。
「じゃあ、無理だよね。お嬢ちゃんたち、残念だけど届かないよ」
途端に双子が泣き出した。
「一生懸命にかいたのにー!」
「おかあさんたちを喜ばせたかったのにー!」
「おとうさんとおかあさんをかいたのよ!」
「このおうちもかいたのに!」
「おとうさん おかあさん ありがとうって!」
「いっぱいかいたのに!」
母親が宥め、配達員は仕事に戻った。
その夜に帰った父親に、その出来事を話した。
「なんだって! それは可愛そうだよ!」
「ええ。でもどうしようもなくて」
翌日、父親は出勤前に郵便局に行った。
そこは配達はしておらず、本局を教えてもらった。
仕事の帰りに本局へ寄った。
本局は遅くまで営業している。
「それはちょっとねー。宛名も何も無いんじゃ、配達のしようがないですよ」
「でも、それならとってあるんじゃ!」
「宛先不明のものは、また別な場所へ行くんですよ。探しようはないですねぇ」
何とか出来ないかと話したが、どうしようもなかった。
数日後。
チャイムが鳴り、母親がドアを開けた。
先日の配達員が立っていた。
「これじゃないですか!」
ニコニコして、折り畳まれた画用紙を差し出した。
「はい! 確かにこれです! でも、もう見つからないと主人から聞きましたが?」
「ええ、ちょっと気になって。休みの日に還付不能郵便の保管局に行って来たんです」
「え!」
「そこでこれを見つけて。本当はダメなんですけど、僕が事情を話したら渡してもらえました」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、これで」
「あ、あの! 切手代を」
「結構ですよ! 僕も楽しめた。お嬢さんたちに良かったねって伝えて下さい」
「本当にありがとうございました!」
その夜に帰って来た父親が、また涙を流して喜んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お父さん、本当に嬉しそうだったよ!」
「そうなんだ!」
「覚えて無くて申し訳ない!」
みんなで笑った。
「おい、その配達員を探そう! どこかの郵便局長にするぞ!」
「無理ですよ!」
「いや、御堂にやってもらう」
「ダメですって!」
またみんなで笑った。
「山中、嬉しかっただろうなぁ」
「泣いてましたよ」
「そうだろう。これは堪らないよなぁ」
「二人は忘れてましたけどね」
「「ワハハハハハハ!」」
俺はちょっと気になった。
「あれ、亜紀ちゃんの手紙は?」
「あー。自分たちの手紙が届かないんで、二人にビリビリに破かれて捨てられました」
「酷いことするな!」
「まったく!」
「「覚えてないよー!」」
「お前ら、ロボのウンチ喰え!」
「やだよ!」
「ロボのウンチは汚くない!」
「じゃあ、タカさん食べてよ!」
ロボが恥ずかしそうに部屋を出て行った。
子どもたちも散々食べて大満足だった。
家長として、家族の腹を満たしてやるのは幸せだ。
風呂から上がると、双子が「山中家倉庫」から出て来た。
何か台紙に挟んでいるものを持ちだしている。
「なんだ?」
「初めて見たの」
「なんかいい波動だったの」
「へぇ」
俺も知らない。
山中のデスクに仕舞ってあったようだ。
二人で山中の研究資料を見てみようと思ったらしい。
大事そうに仕舞ってあったので、持ち出したということだった。
綺麗な厚紙で挟んでいる。
可愛らしいリボンが結んであった。
リヴィングで、三人で開けた。
「手紙?」
「汚い字だよ」
画用紙だろうが、クレヨンで描かれた絵と文字。
裏側に、もうちょっと長い文章がクレヨンで書かれていた。
鉛筆の跡があり、どうやらそれをなぞっている。
《おとうさん おかあさん いつもありがとう だいすき じゃーね》
「なんだこりゃ?」
表の絵は二人の男女に見える。
多分、山中と奥さんなのだろう。
家の絵があり、二人がその前で並んで立っている。
画用紙は折り畳まれた跡があった。
三人で面白がって見ていた。
亜紀ちゃんが風呂から上がって、リヴィングに来た。
「何見てるのー?」
近づいて来て、大笑いした。
「あー! これー!」
「なーに、亜紀ちゃん!」
「知ってるの?」
「何よ、覚えてないの?」
「「ん?」」
「あんたたちが書いたんじゃない、この手紙」
「「え?」」
「大変だったよねー」
「なになに?」
「おぼえてないよ!」
亜紀ちゃんが笑って話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「とどいたー!」
亜紀、小学四年生。
授業で全員で手紙を書くことを教えられた。
皇紀は小学一年生、ルーとハーは4歳だ。
「亜紀ちゃん、良かったね!」
「うん! お母さん、読んでー!」
「楽しみだなー! 亜紀ちゃんの初めての手紙だもんね!」
「そうだよ!」
ルーとハーが興味深げに見ていた。
亜紀とお母さんが楽しそうにしている。
「わー! 一杯書いてある!」
「書けるだけ書いたの。裏側もあるんだよ!」
「ほんとだ!」
日頃の両親への感謝などが書いてあった。
その晩、帰って来た父親にも見せた。
涙を流しながら喜んだ。
「亜紀ちゃん! ありがとうな!」
「大事にしてね!」
「絶対そうする!」
ルーとハーは何に感動しているのか分からなかった。
翌朝、母親から「手紙」のことを教わった。
「亜紀ちゃんがね、生まれて初めて書いた手紙なの。嬉しかったなー」
「「そーなんだ!」」
早速、二人で手紙を書こうと言い合った。
「あら! あなたたちも書いてくれるの?」
「「うん!」」
母親は喜んで、どんな手紙にするかと三人で話し合った。
二人の絵を描くことに決まった。
絵を描くのが好きな二人だった。
文面はどうするか。
二人の希望を聞いて、母親が笑った。
その通りにしようと言った。
午後に三人で一緒に手紙を書いた。
母親は字を知らない二人のために、鉛筆でうすく書いてそれをなぞらせた。
ルーとハーが満足するものに仕上がった。
三人で喜んだ。
「手紙ってどうするの?」
「お父さんが帰ってきたら見せてあげましょう」
「「うん」」
何か亜紀と違う。
亜紀は直接見せたのではなく、どこかから届いた。
なんだ、あれ?
亜紀が小学校から戻ったので聞いてみた。
「あー、手紙はポストに入れるんだよ。そうすると郵便屋さんが届けてくれるの」
「「そーなんだー!」」
頼りになる皇紀を連れ出した。
ポストに案内してもらう。
「こいつかー!」
「まっかでエラそうだな!」
「……」
投函口に届かない。
皇紀に頼んだ。
「入らないよー」
「しっかりしろ!」
「こんじょうだせ!」
二人で皇紀の尻を蹴った。
皇紀が折り畳んで入れた。
「じゃーな!」
「すぐとどけろよ!」
「……」
三人で帰った。
「あれ? あの子たちが書いた手紙は?」
母親は手紙が見えなくなったので不思議がった。
仕事から帰って来た夫に話した。
「ルーとハーがね、手紙を書いたの」
「ほんとか!」
「でもねぇ、どこかに見えなくなっちゃって」
「なんだよ~」
ルーとハーは毎日待った。
「今日は来るかな?」
「絶対来るよ!」
来なかった。
「今日は来るよね」
「あたりまえじゃん!」
来なかった。
「いい加減、今日だよね」
「怒るよ!」
来るわけが無かった。
郵便配達の人間を待ち構えた。
「おい!」
「なんだ?」
「私たちの手紙は!」
「え、えーと、無いね」
「いい加減にしろよ!」
「おまえ、なにやってんだよ!」
「おい!」
生意気な子どもに頭に来ていた配達員だったが、毎日ずっと待っていることが分かり、不憫に思って来た。
「あのさ、手紙はいつ出したの?」
一週間前だと聞いた。
「おかしいね」
「あそこのポストだよ!」
「なんでこないの!」
玄関で話している声が聞こえ、母親が家から出て来た。
「あの、どうしたんですか?」
「いえ、この子たちが一週間前に出した手紙を待っているようで」
「え!」
宛名も住所も無い。
切手も貼っていない。
母親が説明し、配達員が笑った。
「じゃあ、無理だよね。お嬢ちゃんたち、残念だけど届かないよ」
途端に双子が泣き出した。
「一生懸命にかいたのにー!」
「おかあさんたちを喜ばせたかったのにー!」
「おとうさんとおかあさんをかいたのよ!」
「このおうちもかいたのに!」
「おとうさん おかあさん ありがとうって!」
「いっぱいかいたのに!」
母親が宥め、配達員は仕事に戻った。
その夜に帰った父親に、その出来事を話した。
「なんだって! それは可愛そうだよ!」
「ええ。でもどうしようもなくて」
翌日、父親は出勤前に郵便局に行った。
そこは配達はしておらず、本局を教えてもらった。
仕事の帰りに本局へ寄った。
本局は遅くまで営業している。
「それはちょっとねー。宛名も何も無いんじゃ、配達のしようがないですよ」
「でも、それならとってあるんじゃ!」
「宛先不明のものは、また別な場所へ行くんですよ。探しようはないですねぇ」
何とか出来ないかと話したが、どうしようもなかった。
数日後。
チャイムが鳴り、母親がドアを開けた。
先日の配達員が立っていた。
「これじゃないですか!」
ニコニコして、折り畳まれた画用紙を差し出した。
「はい! 確かにこれです! でも、もう見つからないと主人から聞きましたが?」
「ええ、ちょっと気になって。休みの日に還付不能郵便の保管局に行って来たんです」
「え!」
「そこでこれを見つけて。本当はダメなんですけど、僕が事情を話したら渡してもらえました」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、これで」
「あ、あの! 切手代を」
「結構ですよ! 僕も楽しめた。お嬢さんたちに良かったねって伝えて下さい」
「本当にありがとうございました!」
その夜に帰って来た父親が、また涙を流して喜んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お父さん、本当に嬉しそうだったよ!」
「そうなんだ!」
「覚えて無くて申し訳ない!」
みんなで笑った。
「おい、その配達員を探そう! どこかの郵便局長にするぞ!」
「無理ですよ!」
「いや、御堂にやってもらう」
「ダメですって!」
またみんなで笑った。
「山中、嬉しかっただろうなぁ」
「泣いてましたよ」
「そうだろう。これは堪らないよなぁ」
「二人は忘れてましたけどね」
「「ワハハハハハハ!」」
俺はちょっと気になった。
「あれ、亜紀ちゃんの手紙は?」
「あー。自分たちの手紙が届かないんで、二人にビリビリに破かれて捨てられました」
「酷いことするな!」
「まったく!」
「「覚えてないよー!」」
「お前ら、ロボのウンチ喰え!」
「やだよ!」
「ロボのウンチは汚くない!」
「じゃあ、タカさん食べてよ!」
ロボが恥ずかしそうに部屋を出て行った。
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