上 下
1,661 / 2,806

blutschwert

しおりを挟む
 9月第2週の金曜日の晩。
 今週はオペが立て込んでいて、流石の俺も大分疲れていた。
 最終日の金曜日は、一江が気を遣ってくれ、7時には家に帰れた。
 亜紀ちゃんと柳が激励してくれ、食事の用意をし、一緒に風呂に入ろうと誘って来た。
 別に風呂は一人でいいのだが。
 まあ、心配もしていたのだろう。

 「オチンチンを診ればタカさんの体調が分かりますから!」
 「ワハハハハハハ!」

 まじか。

 俺が鯛のポワレとカニとジャコとナスのみそ炒め、双子特製「黄金のスープ」(金色の皿入り)を食べ終え、コーヒーを飲んでいた時。
 俺のスマホが鳴った。
 相手は柿崎だった。

 「どうした?」
 「石神さん! すみません! 店で暴れている男たちがいまして」
 「なんだ?」

 柿崎に任せている歌舞伎町のキャバレーの方だった。
 外国人の男二人が暴れ、ケツモチの千万組の男たちも潰されたそうだ。
 警察とも思ったが、長い刀を振るっていて、柿崎は警察でも対応が難しいのではないかと言っていた。
 柿崎も素人ではない。
 相手の異常な力を感じているのだろう。

 「分かった、すぐに向かう」
 「え! 石神さんご自身ですか!」
 「そうだよ。文句あるか?」
 「い、いいえ! とんでもございません!」

 俺は風呂を呼びに来た亜紀ちゃんと柳に、出掛けると話した。

 「えー! 折角準備してましたのにー!」
 「じゃあ、一緒に来るか?」
 「はい!」

 柳も同行すると言った。
 ハマーに乗り込む。

 走りながら、二人にキャバレーで客の外国人が暴れているのだと伝えた。

 「刀を持っているらしい」
 「へぇー」

 千万組の男たちがバウンサー(用心棒)を担っており、実力はそこそこある。
 但し、「花岡」の使用は厳禁にしているので、真の実力を発揮することはない。
 命に関わる場合だけだ。
 しかし、屈強な男たちに任せているので、それが潰されたとなると、相手は相当な実力者だ。
 
 「刀を持って入店したんですかね?」
 「そうなんだろうよ。まあ、何かに偽装してたんだろうな」
 「はぁ」

 ゴルフバッグか何かだろうと俺は予想していた。
 しかし、偽装してのことであれば、最初から店で暴れるつもりだったということだ。

 10分で到着し、俺たちは近くの駐車場にハマーを入れて店に向かった。




 ドアボーイが俺を見つけて駆け寄って来た。

 「状況は?」
 「はい! 今は店の女の子を回りに置いて飲んでます」
 「随分と余裕だな。千万組の連中は?」
 「はい。みなさん運び出されて。ちょっと斬られてる方もいますが、みんな素手で気絶させられました」
 「ほう」

 襲撃とは少々異なるようだった。
 死人は出ていない。
 俺たちは店の中へ入った。

 柿崎や店のスタッフ、女たちは入り口に集まっていた。
 客たちは全員逃がしたそうだ。
 柿崎が来て詳しいことを話す。

 「開店と同時に入って来ました。最初は大人しく飲んでいたんですが、女の子が身体を触られて叫んで。注意しに行った店員をぶっ飛ばして、それから大暴れで」
 「そうか。千万組の連中も歯が立たなかったんだな」
 「はい。あっという間に。それにどこからか刀を抜き出しまして」
 「荷物は?」
 「無かったはずです。手ぶらで来ましたから」
 「おい、しっかりしろ」
 「すみません!」

 刀はどこから出した?

 俺は店の奥にいる男たちの席に向かった。

 「お、またバウンサーが来たぞ」
 「いや、今度は女連れだ! どっちもカワイイぜ!」

 ドイツ語のようだった。
 一人は長い金髪を後ろで縛っている。
 目は青く、典型的なゲルマン系だ。
 身長は座っているが、恐らく俺と同じくらいある。
 痩せている。
 もう一人は茶色の毛髪で、こっちは脇を剃り上げた短髪。
 瞳は緑色で顎髭を生やしている。
 身長は170センチほどだが、横幅が凄い。

 店の女が3人、全裸にされていた。
 男たちは身体を触りまくっている。
 周辺のテーブルとソファが倒され、幾つかのテーブルやソファは斬り裂かれていた。
 刀は見えない。
 
 「お前ら、随分なことをしてくれたな」
 
 俺もドイツ語で話した。

 「お前がイシガミか」
 「!」

 俺の名前を知っている。

 「何者だ」

 二人の男が立ち上がり、瞬時に刀を手にしていた。
 赤黒く輝く刀身。
 今、こいつらはどこから刀を出した?

 「「花岡」を使え!」
 
 俺が叫ぶと同時に亜紀ちゃんが飛び出した。
 金髪の男を襲う。
 俺は茶髪の方を相手にした。

 凄まじい剣技だった。
 ただ、「虎地獄」を経験した俺には通じない。
 石神家の剣士の方が上だ。

 俺は斬り掛かる刀に「螺旋花」を撃った。
 刀をへし折るつもりだったが、刀が霧散した。
 茶髪も驚いている。
 俺はそのまま迫って茶髪に「龍牙」をぶち込んだ。
 右手の五指から波動が放たれ、茶髪の胴体を突き抜けて行く。
 血が背中に伸びて行った。
 急所はかわした。

 亜紀ちゃんは凄まじい金髪の剣を避けながら、「金剛花」を使って捌いて行く。
 僅かな隙を衝いて、柳が金髪の横腹に蹴りを入れた。
 金髪がぶっ飛ぶ。
 柳の蹴りを喰らったからには無事では済まない。
 しかし、金髪は苦しそうな顔をしながらも立ち上がった。
 亜紀ちゃんと柳が驚いている。
 
 俺の目の前で、茶髪も起き上がる。
 口から血を流しているのは、肺が何カ所か貫かれたためだ。
 形相が変わった。
 顔中に皺が寄り、醜悪なものになっていく。

 「エリアス!」

 金髪が叫んだ。
 エリアスと呼ばれた茶髪が金髪を見る。

 「やめろ! 撤退だ!」
 「ハインリヒ!」
 
 「お前ら、逃げられると思うのか?」

 「イシガミ、やはり強いな。今日はここまでだ」
 
 ハインリヒと呼ばれた金髪が言った瞬間、周囲が真っ暗になった。
 電灯が消えた闇ではない。
 濃密な、完全な暗黒が突如現われた。

 「「「!」」」

 気配が遠ざかって行くのが分かった。
 俺は闇の中でも戦える。
 しかし、ハインリヒとエリアスは逃げて行った。

 すぐに明るくなって元の店内に戻り、二人の男は消えていた。
 亜紀ちゃんが寄って来た。

 「タカさん、なんだったんですかね?」
 「さあな」
 
 分かるわけが無い。

 「あいつら、許さん」
 「はい!」
 「俺の店で無銭飲食をしやがった」
 「はい?」

 俺は柿崎を呼んで、あいつらが飲み食いした分を計算させた。
 高い酒は置いていないが、正規の金額で8万円。
 5時開店で「2000円ポッキリ」コースを頼み、テーブルチャージ2万円と女の子のサービス料3万円、コース外の注文(女の子のドリンク)が各1万円の合計3万円。
 その他、テーブルやソファの弁償で20万円。
 
 「女の子のお触りは?」
 「罰金100万円です」
 「3人分だよな?」
 「はい! 300万円です!」
 「裸にしたろう」
 「その分は規定にありませんが」
 「すぐ作れ! 1回1000万円だぁ!」
 「はい!」

 33,282,000円

 「無銭飲食は一人1億円だったな」
 「すぐ作ります!」
 
 2億円追加。



 柿崎が事務所ですぐに請求書を作って来た。
 絶対に支払わせてやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...