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シベリア大脱走 Ⅱ
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ルーからすぐに状況を聞いた。
収容所長になっているアレクサンドロに会いに行くために歩きながらだ。
アレクサンドロは元ロシア陸軍の将校で、「虎」の軍の協力者になった人物だ。
「業」の浸食に気付き、俺たちに接触してきた。
タマによって、精神を確認している。
「まだ敵勢力は一度も来ていません。だけど、嫌な気配は強まってます」
「そうか。ハーと索敵を頼むな。もうすぐ霊素探知レーダーを積んだ哨戒機もアラスカから来るはずだ」
「はい、護衛機は?」
「広域殲滅装備のデュール・ゲリエが100体。あのレーダーは絶対に奪われるわけには行かないからな」
「なるほど」
「明朝5時からC17が来る。予定を短縮して40分間隔だ。それにも同じ装備のデュール・ゲリエ50体が護衛で来る」
「はい!」
「護衛のデュール・ゲリエは、この拠点防衛には加わらない。あれも敵に渡すわけには行かないからな」
「はい!」
「ここの防衛勢力は俺たちだけだ。俺、亜紀ちゃん、ルー、ハー、柳、羽入、紅。C17に登場するマリーンも多少の手伝いはするが、あくまでも輸送がメインの任務だ」
「はい!」
丁度アラスカから準備を整えた柳たちも来る。
俺はルーに全員を招集し、アレクサンドロと一緒にブリーフィングをすると言った。
収容所は巨大な鉄筋の建物が10棟建っている。
資材は「クロピョン便」だ。
だから運搬で足が付くことは無かった。
建設機械ですら、それで賄えた。
5階建ての単純な構造だ。
強度的に十分な構造なだけで、広い部屋が6つ区切ってあるだけ。
一部屋に40人前後が入り、一棟で1000人を収容する。
厨房、食堂、シャワー室、それに各階にトイレ。
それだけの施設だ。
表向きは周囲に高い塀で囲んでおり、仮にそこを抜けても密林があるだけで、脱走は出来ないとされている。
実際の収容所や刑務所よりはましなものだが、いつまでも暮らすのは厳しいだろう。
ロシアも衛星で確認はしているはずだが、ちゃんとした収容所の名目で建設されたものなので、これまでは何も問題は無かった。
しかし、いずれは発覚すると思っていた。
建設中にも関わらず、人間の移送をしていたからだ。
亡命希望者であることは、どこかでバレたのだろう。
軍の出動は、実際には厳しい。
シベリアの森林を通る道が狭いためだ。
航空戦力を使えばすぐだが、ロシア政府は収容者の確保を考えている。
だから地上部隊の到着が優先されるはずだ。
皆殺しにするのならば、話は別だが。
もちろんロシア軍などは俺たちがどうにでも出来る。
実際の戦闘は、「業」の軍勢だ。
どこまで出して来るのかは全く分からない。
ジェヴォーダンを100くらいはと考えているが、それもこれまでの戦闘データで算出しただけで、確実なものではない。
「バイオノイド」と俺たちが名付けた「業」の改造兵士とはまだ本格的には交戦したことはない。
ただ、オロチのブレスなどで一蹴出来たので、それほどの不安は抱いていない。
問題は妖魔だ。
「虎」の軍の出撃を見越しているだろうから、強力な妖魔を繰り出して来る可能性は高い。
「水晶騎士」や「弓使い」、それに先日羽入たちが遭遇した「ヴェオウルフ」など。
妖魔化した人間もいるだろう。
強い妖魔は俺たちで対処するが、妖魔化した人間は羽入たちの出番だ。
俺が最も警戒しているのは、一度だけ遭遇した超長距離攻撃が可能な妖魔だ。
あの攻撃を無防備に喰らえば、俺たちも危ない。
「愛国義兵団」との戦闘で、そいつは幼体だったにも関わらず、強烈な熱線を吐いた。
俺は、あの成体の威力を警戒していた。
そして、俺の戦場の勘が、それが登場することを知らせていた。
暗くなって来た。
夕飯の時間になり、俺たちも交代で食事を摂る。
流石に子どもたちも、ここでは異常な大食いはしない。
俺はルーとハーを交代で、一時間置きに50キロ先まで哨戒した。
俺は毎回の出撃だ。
異常事態に即座に対応するためだった。
俺は大丈夫だが、断続的な出撃と休憩は双子には厳しいだろう。
しかし、霊素レーダーを積んだ哨戒機が来るまでは油断できない。
アラスカでジェシカがデュール・ゲリエのセッティングをしている。
その時間次第だった。
500体のデュール・ゲリエのセッティングは、どうしても明朝のC17と同時刻になる予定だった。
深夜2時。
哨戒から戻った俺に、柳が駆け寄って来た。
「石神さん! アラスカから入電! 哨戒機が来るそうです!」
「なに! 随分と早いじゃないか!」
「はい!」
柳が嬉しそうに笑った。
一緒にいたルーも大笑いする。
「よし! ハーにデータリンクを指示してくれ」
「はい!」
柳とルーが走って行った。
2時間後、特別哨戒機「ウラール」が来た。
全長200メートルの巨体で、下部に円形の「霊素レーダー」を積んでいる。
プラズマジェット推進で、最高速度マッハ2。
エンジンに関しては、既にプラズマジェットの技術が知られている。
しかし、人類は理論的なものしか実現していない。
だから俺たちは人類ではない連中の技術を使っている。
実際にはもっと高性能のエンジンを組めるのだが、あまりにも現在の科学力と乖離することを考え、ここまでの性能にしている。
「大銀河連合」の技術だ。
俺は中心の収容所の屋上に設置した量子コンピューターを操作しているハーたちの所へ行った。
「あ、タカさん! 今データリンクが終わりました」
「おう! どうだ?」
「えーと……アレ?」
「どうしたんだよ」
可愛らしく顔を傾けるハーに、笑顔で聞いた。
「もしかしてー、もう来てる?」
「あんだとー!」
「でも、おかしいよ!」
「何がだよ?」
「数が! えーと、え!」
「早く言え!」
「2億3千万以上」
「「「なんだとぉー!」」」
全員で叫んだ。
「で、でも! まだ距離は500キロあるよ!」
俺たちの哨戒範囲を大きく逸脱していた。
しかし、今発見できなければとんでもないことになっただろう。
発見してもとんでもないのだが。
「戦闘要員、総員集合! ここに来させろ!」
「「「はい!」」」
「ハーは残れ!」
「あ、はい!」
流石にみんな動揺している。
柳とルーがすっ飛んで行った。
5分後。
全員が揃った。
アレクサンドロと各棟を管理している責任者も来る。
俺は状況を説明し、出来るだけアラスカの輸送機を急がせると言った。
各棟にはすぐに脱出準備を始めるように命じる。
アレクサンドロたちは走って行った。
「敵の数がとにかく多い。今から出撃するぞ! 手あたり次第にぶっ殺せ!」
「「「「「はい!」」」」」
「羽入と紅は拠点防衛だ! 俺たちが殺し漏らした奴を仕留めろ!」
「「はい!」」
「他の人間は1時間の殲滅戦だ。とにかく今は数を減らせ! もう、破壊許容は無視していい」
「「「はい!」」」
「俺は「虎王」を使う。状況によっては解放するからな!」
「「「はい!」」」
「ハー! 蓮花に連絡! 武神「月光狼」の出撃準備をしておけ!」
「はい!」
「アラスカにも連絡! デュール・ゲリエの輸送機護衛は30! 余剰分をここへ寄越せ! ジェヴォーダンと「バイオノイド」の殲滅に当たらせろ!」
「はい!」
デュール・ゲリエは防衛戦で使わないつもりだったが、状況が激変した。
俺は羽入と紅に向いた。
「お前らはバディだ」
「「はい!」」
二人は肩を組んで笑った。
一緒に戦い、一緒に死ぬ覚悟を持った二人だった。
亜紀ちゃんが獰猛な笑みを浮かべて、遙か彼方を見ていた。
収容所長になっているアレクサンドロに会いに行くために歩きながらだ。
アレクサンドロは元ロシア陸軍の将校で、「虎」の軍の協力者になった人物だ。
「業」の浸食に気付き、俺たちに接触してきた。
タマによって、精神を確認している。
「まだ敵勢力は一度も来ていません。だけど、嫌な気配は強まってます」
「そうか。ハーと索敵を頼むな。もうすぐ霊素探知レーダーを積んだ哨戒機もアラスカから来るはずだ」
「はい、護衛機は?」
「広域殲滅装備のデュール・ゲリエが100体。あのレーダーは絶対に奪われるわけには行かないからな」
「なるほど」
「明朝5時からC17が来る。予定を短縮して40分間隔だ。それにも同じ装備のデュール・ゲリエ50体が護衛で来る」
「はい!」
「護衛のデュール・ゲリエは、この拠点防衛には加わらない。あれも敵に渡すわけには行かないからな」
「はい!」
「ここの防衛勢力は俺たちだけだ。俺、亜紀ちゃん、ルー、ハー、柳、羽入、紅。C17に登場するマリーンも多少の手伝いはするが、あくまでも輸送がメインの任務だ」
「はい!」
丁度アラスカから準備を整えた柳たちも来る。
俺はルーに全員を招集し、アレクサンドロと一緒にブリーフィングをすると言った。
収容所は巨大な鉄筋の建物が10棟建っている。
資材は「クロピョン便」だ。
だから運搬で足が付くことは無かった。
建設機械ですら、それで賄えた。
5階建ての単純な構造だ。
強度的に十分な構造なだけで、広い部屋が6つ区切ってあるだけ。
一部屋に40人前後が入り、一棟で1000人を収容する。
厨房、食堂、シャワー室、それに各階にトイレ。
それだけの施設だ。
表向きは周囲に高い塀で囲んでおり、仮にそこを抜けても密林があるだけで、脱走は出来ないとされている。
実際の収容所や刑務所よりはましなものだが、いつまでも暮らすのは厳しいだろう。
ロシアも衛星で確認はしているはずだが、ちゃんとした収容所の名目で建設されたものなので、これまでは何も問題は無かった。
しかし、いずれは発覚すると思っていた。
建設中にも関わらず、人間の移送をしていたからだ。
亡命希望者であることは、どこかでバレたのだろう。
軍の出動は、実際には厳しい。
シベリアの森林を通る道が狭いためだ。
航空戦力を使えばすぐだが、ロシア政府は収容者の確保を考えている。
だから地上部隊の到着が優先されるはずだ。
皆殺しにするのならば、話は別だが。
もちろんロシア軍などは俺たちがどうにでも出来る。
実際の戦闘は、「業」の軍勢だ。
どこまで出して来るのかは全く分からない。
ジェヴォーダンを100くらいはと考えているが、それもこれまでの戦闘データで算出しただけで、確実なものではない。
「バイオノイド」と俺たちが名付けた「業」の改造兵士とはまだ本格的には交戦したことはない。
ただ、オロチのブレスなどで一蹴出来たので、それほどの不安は抱いていない。
問題は妖魔だ。
「虎」の軍の出撃を見越しているだろうから、強力な妖魔を繰り出して来る可能性は高い。
「水晶騎士」や「弓使い」、それに先日羽入たちが遭遇した「ヴェオウルフ」など。
妖魔化した人間もいるだろう。
強い妖魔は俺たちで対処するが、妖魔化した人間は羽入たちの出番だ。
俺が最も警戒しているのは、一度だけ遭遇した超長距離攻撃が可能な妖魔だ。
あの攻撃を無防備に喰らえば、俺たちも危ない。
「愛国義兵団」との戦闘で、そいつは幼体だったにも関わらず、強烈な熱線を吐いた。
俺は、あの成体の威力を警戒していた。
そして、俺の戦場の勘が、それが登場することを知らせていた。
暗くなって来た。
夕飯の時間になり、俺たちも交代で食事を摂る。
流石に子どもたちも、ここでは異常な大食いはしない。
俺はルーとハーを交代で、一時間置きに50キロ先まで哨戒した。
俺は毎回の出撃だ。
異常事態に即座に対応するためだった。
俺は大丈夫だが、断続的な出撃と休憩は双子には厳しいだろう。
しかし、霊素レーダーを積んだ哨戒機が来るまでは油断できない。
アラスカでジェシカがデュール・ゲリエのセッティングをしている。
その時間次第だった。
500体のデュール・ゲリエのセッティングは、どうしても明朝のC17と同時刻になる予定だった。
深夜2時。
哨戒から戻った俺に、柳が駆け寄って来た。
「石神さん! アラスカから入電! 哨戒機が来るそうです!」
「なに! 随分と早いじゃないか!」
「はい!」
柳が嬉しそうに笑った。
一緒にいたルーも大笑いする。
「よし! ハーにデータリンクを指示してくれ」
「はい!」
柳とルーが走って行った。
2時間後、特別哨戒機「ウラール」が来た。
全長200メートルの巨体で、下部に円形の「霊素レーダー」を積んでいる。
プラズマジェット推進で、最高速度マッハ2。
エンジンに関しては、既にプラズマジェットの技術が知られている。
しかし、人類は理論的なものしか実現していない。
だから俺たちは人類ではない連中の技術を使っている。
実際にはもっと高性能のエンジンを組めるのだが、あまりにも現在の科学力と乖離することを考え、ここまでの性能にしている。
「大銀河連合」の技術だ。
俺は中心の収容所の屋上に設置した量子コンピューターを操作しているハーたちの所へ行った。
「あ、タカさん! 今データリンクが終わりました」
「おう! どうだ?」
「えーと……アレ?」
「どうしたんだよ」
可愛らしく顔を傾けるハーに、笑顔で聞いた。
「もしかしてー、もう来てる?」
「あんだとー!」
「でも、おかしいよ!」
「何がだよ?」
「数が! えーと、え!」
「早く言え!」
「2億3千万以上」
「「「なんだとぉー!」」」
全員で叫んだ。
「で、でも! まだ距離は500キロあるよ!」
俺たちの哨戒範囲を大きく逸脱していた。
しかし、今発見できなければとんでもないことになっただろう。
発見してもとんでもないのだが。
「戦闘要員、総員集合! ここに来させろ!」
「「「はい!」」」
「ハーは残れ!」
「あ、はい!」
流石にみんな動揺している。
柳とルーがすっ飛んで行った。
5分後。
全員が揃った。
アレクサンドロと各棟を管理している責任者も来る。
俺は状況を説明し、出来るだけアラスカの輸送機を急がせると言った。
各棟にはすぐに脱出準備を始めるように命じる。
アレクサンドロたちは走って行った。
「敵の数がとにかく多い。今から出撃するぞ! 手あたり次第にぶっ殺せ!」
「「「「「はい!」」」」」
「羽入と紅は拠点防衛だ! 俺たちが殺し漏らした奴を仕留めろ!」
「「はい!」」
「他の人間は1時間の殲滅戦だ。とにかく今は数を減らせ! もう、破壊許容は無視していい」
「「「はい!」」」
「俺は「虎王」を使う。状況によっては解放するからな!」
「「「はい!」」」
「ハー! 蓮花に連絡! 武神「月光狼」の出撃準備をしておけ!」
「はい!」
「アラスカにも連絡! デュール・ゲリエの輸送機護衛は30! 余剰分をここへ寄越せ! ジェヴォーダンと「バイオノイド」の殲滅に当たらせろ!」
「はい!」
デュール・ゲリエは防衛戦で使わないつもりだったが、状況が激変した。
俺は羽入と紅に向いた。
「お前らはバディだ」
「「はい!」」
二人は肩を組んで笑った。
一緒に戦い、一緒に死ぬ覚悟を持った二人だった。
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