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別荘の日々は楽しい

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 六花は話の途中からもう泣いていた。
 響子が隣でどんどん唐揚げを食べさせた。
 子どもたちが残った唐揚げをみんな六花の前に置いた。

 「そのクリスマスの日にな、小鉄がフルーツポンチを作ったそうだ。ピカが初めてだと言って、食べて物凄く喜んだそうだよ」
 
 それを聞いて、早乙女が大声で泣き出した。
 雪野さんが背中を撫でて慰めていた。

 「ピカさんは、お母さんの復讐で行ったんじゃないですよね」
 「多分な。遺書にも書いてあったように、六花たちのためだろう。「ジャーヘッド」はでかい集団だった。ほとんど男たちだったしな。「紅六花」がまともにぶつかっていたら、ただじゃ済まなかっただろうな」

 みんなが黙っていた。

 「よしことはよく電話で話しているじゃないか。前に何かの話の流れで、「お前らは集団で喧嘩したことはないのか」って聞いたんだ。そうしたらこの話を教えてくれた」

 俺はまだ泣いている六花を抱き寄せた。
 響子は間に挟まって、六花を抱き締めた。

 「お前らな、みんな何かあったら俺に頼ってくれよな」
 
 全員が俺を見る。

 「俺は必ず何とかするからな。まあ、間に合わなかったらゴメンな」
 
 みんなが少し笑った。

 「ピカは立派な女だった。ほんの少し関わった「紅六花」のために、自分の命を擲った。だけどな、俺たちは仲間だ。いっしょにやろうな!」
 「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

 みんなでフルーツポンチを食べた。
 ルーとハーが一杯掬って、小さなテーブルを置いてそこに器を乗せた。
 陰膳だ。

 俺は脇に立てかけられていたギターを握った。
 モーツァルトの『レクイエム:ラクリモーザ』を奏でながら歌った。
 バセットヒェンをギターで昔必死に追い求め、自分なりに完成させた。


 ♪ Lacrimosa dies illa, qua resurget ex favilla judicandus homo reus: ♪ 


 俺は六花と響子、吹雪を連れて一緒に寝た。

 「またフルーツポンチを作りましょうね」
 「そうだな」
 「私も作るよ」
 「ありがとう、響子」

 六花が響子を抱き締めた。




 翌朝は8時に朝食を食べ、俺はロボと散歩に出た。
 「ばーん」をやらせるためだ。
 早乙女と雪野さんも付いて来た。

 ロボは嬉しがって、走って先に行っては戻って雪野さんの足に絡みついた。
 少し開けた場所に着いた。

 「ちょっと待て。「おーい! ハッチ!」」

 ハッチを呼んだ。
 すぐに空中から降りて来る。

 「お呼びですか、あるじさまー!」
 「いや、これからロボに「ばーん」をやらせるからよ。こないだは迷惑を掛けたからな」
 「お気遣い、ありがとうございます!」

 ロボが俺を見て「もういい?」という顔をする。
 俺は親指を立てて合図した。

 ロボの尾が割れ、激しい弧電が流れる。

 「おーい、いつも言うけどちっちゃめでなー」

 
 《ドッグォォォォーーーーン》


 観客が多いので、いつもよりも大きめだった。

 「お前よー」

 早乙女と雪野さんが拍手していた。
 ハッチも前足を叩いている。
 ロボが喜んでジルバを踊った。

 ハッチを帰し、俺たちは水筒に入れた紅茶を飲む。
 ロボにもミルクをやった。

 「ここはいいね」

 早乙女が言った。

 「まあ、こういう暮らしも悪くないよな」
 「うん」

 早乙女が黙った。
 本当にいつか、みんなでこうやって暮らせたら最高だろう。

 「でもな、俺たちにはやらなきゃいけないことがある」
 「そうだな」
 「だから、こういう時間を楽しめる」
 「そうだね」

 毎日がこうなれば、それはもう日常だ。
 有難くも、楽しくもなくなってしまう。
 美しい時間が腐敗してしまう。

 「でも、石神がいれば毎日退屈はしないだろうな」
 「お前の晩飯はメザシな」

 雪野さんが笑った。
 もちろん、早乙女も分かっている。
 今のとんでもない日常を、俺に気遣って楽しいと言ってくれているのだ。

 「お前らも別荘を持てるだろうけどなぁ」

 資金的には何の問題も無い。

 「じゃあ! あの別荘の隣に建てるよ!」
 「おい!」
 「雪野さん、どうかな?」
 「よろしいんじゃないですか?」

 「お前らよ! 家までうちの近くに住んでるくせに」
 「あれはお前がやったんだろう!」
 「ワハハハハハハ!」

 俺はいつでもうちの別荘を使えと言った。

 「うん、それが一番いいね。石神と一緒がいい」
 「お前も本当にそろそろ友達を作れよ」
 
 雪野さんが大笑いした。





 昼食はピクニックだ。
 この辺は昼間も木陰は涼しい。
 いつもの「倒木の広場」にみんなで向かう。
 俺と響子とロボ、雪野さんと怜花、吹雪は移動車に乗り、子どもたちが引く。
 早乙女と六花は歩きだ。
 乗ってもいいのだが、二人が歩きたがった。

 「何か、可愛そうだよ」
 「ん? 奴隷だぞ?」

 子どもたちが笑った。

 「倒木の広場」に着いて、子どもたちが手分けしてレジャーシートを敷き、食事を並べ始める。
 その間に六花はロボと遊ぶ。
 二人で走り回り、そのうちに組み手を始めた。
 ロボと組み手が出来るのは六花だけだ。
 用意が出来て六花を呼ぶと、額に肉球の痕を付けて六花が来た。
 ハーが笑って「Ω軟膏」を塗ってやる。

 おにぎり、稲荷寿司、その他唐揚げや卵焼き、ウインナー(うちはタコさん)などを食べる。
 
 「タカさん、どうしてうちのウインナーってタコさんなんですか?」
 
 亜紀ちゃんが聞いて来る。
 子どもたちは普段はそのまま焼いているだけだ。
 外で食べる場合は、俺の指定でタコさんにしている。

 「子どもの頃にさ。お袋が「高虎あ! スゴイの教えてもらっちゃった!」って言ったんだよ」
 「はい!」
 「それがこのタコさんウインナーでな。俺も「スゴイな!」って言ったら、その後ずっとウインナーはこれになったんだよ」

 みんなが笑った。

 「今晩は是非、そのお話を!」
 「もう全部終わったよ!」

 ルーがオチンチンウインナーの話を雪野さんにした。

 「前にタカさんが作ってさ! 本当に困ったの!」
 「ウソつけ! お前ら大笑いして齧ってただろう!」

 雪野さんが爆笑した。

 「やっぱり「柱」さんのあの芸って石神が」
 「違ぇよ!」

 のんびりと楽しんだ後、俺はみんなを帰した。

 「ちょっと六花と「訓練」して帰るから」
 「「ギャハハハハハハ!」」

 双子が下品に笑い、俺に頭を引っぱたかれた。
 早乙女と雪野さんは荷台に上がって、不思議そうな顔をしていた。




 六花はまた気を喪い、俺がいつも通り担いで戻った。
 まあ、別荘の日々は楽しい。
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