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「紅六花」のピカ Ⅱ

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 「タケさん! これは何ですか!」
 「あ? 今日はクリスマス・イブだろ?」
 「そ、そうですけど!」

 テーブルに、豪華な食事とケーキがあった。
 
 「あたしらの手料理で申し訳ないけどな」
 「そんな! 私の分はいりませんから!」
 「何言ってんだよ。うちにいるんだから遠慮しないでどんどん喰ってくれよ」
 「でも、あたしなんて何にもしてない居候なのに……」

 「バーカ! お前は「紅六花」のピカだろう!」

 タケは笑って立っているピカをテーブルに付かせた。

 「後で総長も来てくれるってさ」
 「そうなんですか!」

 ピカが遠慮しながら食べているので、タケが無理矢理食べさせた。
 六花は9時頃に来た。

 「悪かった! クリスマスの荷物が多くて遅くなった!」
 「何言ってんですか! 入ってどんどん食べて下さいよ!」

 六花がキッチンに入り、ピカと小鉄が直立して迎えた。

 「ほら、お前らも座れ! 総長は空腹なんだから!」
 
 しかし六花は座らなかった。
 ピカを向いて頭を下げた。

 「ピカ、済まない! お前を守ってやると約束したのに、まだ「ジャーヘッド」と話が付いていないんだ」
 「総長! そんな!」
 「必ずお前を守る。それだけは必ずだ」
 「いいんです! あたしなんて、そんな価値がある人間じゃ」
 
 六花がピカの肩を掴んだ。

 「ピカ! あたしらは価値があるから手を貸すんじゃない! お前があたしらを頼ってくれたからだ!」
 「そんな! 総長!」

 ピカが泣き出した。
 タケが宥めてみんなを席に座らせた。
 六花が笑顔で食事を始めた。
 本当に空腹だったようで、凄まじい勢いだ。

 「小鉄! また美味しくなったな!」
 「ありがとうございます!」

 タケがピカに、いずれ死んだ両親の中華料理屋を再開するつもりなのだと話した。

 「あの! あ、あたしにそのお店を手伝わせて下さい!」
 「まあ、じゃあ頼むな」

 みんなで笑った。

 「総長! 今日はうちに総長が来るっていうんで、いろんな食材をみんなから貰ってますから! だからお金は受け取りませんよ!」
 「そうはいかないよ! こんなに美味しい物をご馳走してもらったんだ!」
 「ダメですって! だったら、こんどあたしらに何か奢って下さい!」
 「よし!」
 
 タケと小鉄が笑った。

 「でもさ、ラーメンとかでもいい?」
 「いいですよ! 大好きです!」
 「じゃ、じゃあ! チャーシューを追加していいから!」
 「分かりました!」
 
 六花は勉強のために、ギリギリの金で生活していた。

 「六花さん、僕は卵の方が」
 「そ、そうか!」

 六花がニコニコした。
 みんなで楽しく話し、ピカも笑っていた。

 「ピカ、お前にみんなからプレゼントだ」
 「え?」

 タケが六花に大きな包を渡した。

 「みんなでちょっとずつ金を出し合った。これでお前も正式に「紅六花」のメンバーだ」

 ピカが言われて包を開いた。
 純白の「紅六花」の特攻服だった。
 ピカが大声で泣いた。

 温かな時間が流れた。





 12月27日。
 よしこがタケに電話で知らせた。

 「ピカのお袋さんが襲われた!」
 「なんだと!」
 「「ジャーヘッド」が50人も引き連れて、ピカの家に行ったようだ。お袋さんが重傷だ!」

 タケはピカを連れてすぐに病院へ向かった。
 ピカは動揺して何も喋らない。

 「「ジャーヘッド」から、よしこにピカを渡すように連絡があったそうだ。よしこが断ると、「じゃあ、家を見て来い」と言われた。すぐに行ったら、お前のかあちゃんが倒れていた」
 「……」

 病院に着くと、ピカの母親は手術中だった。
 よしこが付き添っていた。
 一命は取り留めたが、全身の骨が30か所以上折られ、右の腎臓が破裂、他の臓器も幾つかダメージを負っていた。
 硬いライダーブーツで徹底的に蹴られたのだろう。
 恐らく、ピカの居場所を話さなかったためだ。

 「かあちゃん!」

 ピカが泣いてベッドに顔を埋めた。
 タケとよしこはいつまでもピカの傍にいた。




 二日後。
 「紅六花」の全メンバーがタケと小鉄の店の駐車場に集まった。
 まだ店は開いていないが、みんなで手入れだけはしている。
 六花も来た。

 「みんな! 知っている通り、あたしらの大事なメンバーのピカのお袋さんが襲われた! よしこが何度も手打ちを申し入れてきたが、この始末だ!」

 怒号が響く。

 「戦争だ! 絶対に許せねぇ! あたしらを襲うならともかく! 何の関係もない人間が襲われた! あいつらに思い知らせるぞ!」
 
 ピカには黙っていた。
 母親の傍にいさせている。
 全員で「ジャーヘッド」の本拠のある町に向かった。
 そこの6階建てのビルが本拠地になっている。
 「紅六花」の60名の人間が立ち上がった。




 「総長! もうじきです」
 「うん!」

 場所を知っているよしこがクラウンを運転し、六花を後ろに乗せて走っていた。
 助手席にはタケがいる。

 「あそこで……おい! 燃えてんぞ!」
 
 六花も身を乗り出して前を見た。
 少し先で、6階建てのビルから激しい炎が上がっている。

 「よしこ! 急げ!」
 「はい!」

 よしこがアクセルを踏み込んだ。

 六花たちが到着すると同時に、消防車が集まって来た。
 消火活動の邪魔だと、移動させられた。
 後から来た仲間も全て離れて車を停める。

 みんなが激しく燃えるビルを眺めていた。
 警官がもっと離れるように怒鳴る。
 あまりの火勢に、消火活動も難航した。
 4時間もかけて鎮火し、ようやく消防隊員が中へ入って行く。
 救急車が次々に到着し、ビルの中から運び出された人間を収容して走って行った。
 数十人の人間が出されたが、その後全員の死亡が確認された。
  
 3階までは炎で焼かれ、その上の階では酸欠や一酸化炭素中毒で死んだようだ。
 誰一人生存者は無かった。
 ガソリンが撒かれたことが、その後の調査で分かった。
 一気に燃え上がったようだ。
 遺体の身元確認が勧められ、全員が「ジャーヘッド」の人間と分かった。
 幹部たちだった。
 その中で、一人だけ身元不明の遺体があった。
 六花とよしこが確認に行った。
 ピカの遺書が見つかったためだ。

 霊安室で、二人は一部だけ焼け残った、純白だった特攻服を確認した。
 「紅」の文字だけが残っていた。

 二人は絶叫して泣いた。




 《六花総長、よしこさん、タケさん、小鉄さん、そして他の「紅六花」のみなさん。大変お世話になりました。自分などを拾って下さり、何もお返しが出来ないままのこと、申し訳ありません。この特攻服を着て、自分が出来ることをします。お世話になりました。》

 


 その後、「紅六花」によって、「ジャーヘッド」は解散させられた。
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