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眠る天使

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 「トラ!」

 聖が玄関で迎えてくれた。
 その後ろに家事アンドロイドのクレアが笑って立っていた。

 「「「「こんばんはー!」」」」
 「おう! よく来た! まあ入れよ」

 広いリヴィングでアンジーが聖雅と一緒に待っていた。
 みんなで挨拶し、聖雅を抱き締める。

 「そっちの綺麗なレディは、久し振りだな」
 
 六花とは新宿の中央公園で蓮華の襲撃の際に一緒に戦っている。
 聖は戦場で一緒になった人間を忘れない。
 その人間が勇敢に戦ったのであれば、信頼する。

 「はい、お久し振りです」

 全員が並べられたソファに座り、クレアが酒とつまみを持って来た。
 ワイルドターキーだ。
 双子と六花はオレンジエードを貰う。

 「今日はロックハートの人間と打ち合わせるつもりだったんだけどな。早く済んだんで、ここに来たんだ」
 「大歓迎だぜ!」
 「このバカ娘が食事中にバラしやがってよ」
 「よくやった! ブサ!」
 「もう!」

 聖はご機嫌だった。
 アンジーも俺たちと一緒に飲む。

 「クレアはどうだ?」

 俺がアンジーに聞いた。

 「最高よ! 家事は完璧だし、セイガのことも可愛がってくれるし! 私はすっかり楽になっちゃった」
 「そうか、良かったよ」
 「トラ、ありがとうな」
 「いいって。お前たちのためなんだ。なんでもねぇよ」
 「うん!」

 聖雅がアンジーにべったりだ。
 それを見れば、アンジーが何もしないで寝ているわけではないことが分かる。

 「吹雪は連れて来なかったのか?」
 「ああ、もう寝る時間だからな」
 「かあちゃんと離れても良かったのか?」
 「大丈夫だ。うちには最高の子守りネコがいるからな」
 「あいつか!」
  
 聖が大笑いした。
 俺たちは楽しく話した。
 クレアの作る料理は美味かった。

 豚のリエットに添えられたシャドークイーンのポテトチップス。
 色鮮やかな上に舌で蕩ける美味さだった。
 恐らくバーナーでこんがりとさせたペンネにはオリーブの実が添えられ、一緒に口に入れると芳香が拡がる。
 イモの煮ころがしがあった。
 聖から、俺の好物だと聞いたのだろう。

 俺は何気なく、聖に「ミディアン騎士団」を知っているか尋ねた。

 「ああ、あいつらか」
 「知ってるのか?」
 「少しはな。教皇庁の表の組織だが、裏の仕事が多い連中だ。スージーに聞いたけど、トラはあいつらとぶつかったんだよな」
 「そうだ。なかなか正体が掴めなかったんだけどよ。まさか教皇庁だなんてなぁ」
 「イスラムの連中が滅多に教皇庁を狙わないのは、あいつらがいるせいだって言われてる」
 「そんなに凄い連中なのか」
 「結構な軍事教練を受けてるらしいぜ。それとスージーから聞いたけど、奇怪な技か」
 「そうだ。うちの本家が明治時代にぶつかったらしいけどな」
 「トラの家?」
 「ああ、500人で来て全滅させたってよ」
 「ワハハハハハハ!」
 
 聖が大笑いした。

 「みんな刀と弓でぶった切ってさ。ああ、最後は逃げてく中で白旗振ってたらしいよ」
 「そうか」
 「そいつも弓でぶっ殺したって」
 「ワハハハハハハハハハハ!」

 聖が爆笑した。
 亜紀ちゃんがアンジーに通訳すると、アンジーが聖雅の耳を塞いで首を横に振った。

 「アンジー、聖雅を抱かせてくれよ」

 アンジーが俺に聖雅を渡した。
 聖雅はじっと俺を見て、微笑んだ。

 「なんで殺伐としたトラに懐いてるのかしら」
 「トラが優しいからだよ」

 アンジーも微笑んでいた。

 「そうね」

 俺はグレゴリオ聖歌の『Ecce virgo concipiet』を歌った。
 麗しの聖母マリアがキリストを身ごもって生む歌だ。
 聖雅が俺に嬉しそうに笑って見ていた。
 みんな黙って聴いていた。

 ♪ Ecce virgo concipiet et pariet filium et vocabitur nomen eius Emmanuhel ♪

 聖雅が気持ちよさそうに眠った。

 「あら、寝ちゃったわ」
 「そうだな」

 俺はアンジーに聖雅を返し、そろそろ帰ると言った。

 「じゃあ、また明日の昼にな」
 「ああ」
 「突然に悪かったな、アンジー」
 「ううん。来てくれてありがとう」

 「クレアも元気でな」
 「はい、石神様」

 俺たちは外へ出た。




 「タカさん、どっかでもっと飲みましょうよ!」
 「帰るよ」
 「えー!」
 
 「タカさん、クリームメロンソーダが飲みたい!」
 「エミーの店であるかもよ?」

 双子が言ったので笑った。

 「じゃあ、一杯だけだぞ!」
 「「「「わーい!」」」」

 結局、エミーの店で2時間も飲んだ。
 クリームメロンソーダは無かったので、コークフロートを飲んで双子は満足した。
 六花にもバドを半分だけ飲ませた。

 ロックハートの屋敷に戻り、みんなで風呂に入った。
 俺の部屋で、響子とロボが吹雪の両側で寝ていた。
 響子が俺たちに気付いて起きて、吹雪が泣きそうになるとロボが顔を舐めて泣き止ませたと言った。

 「最高の子守りネコだからな!」
 「アハハハハ!」

 その日は四人で寝た。
 吹雪と一緒に寝られて、響子は嬉しそうだった。
 いつまでもクスクス笑って眠らない。

 「おい、いい加減に寝ろよ」
 「うん。でも、なんか眠く無くなっちゃった」
 「お前、いつでもクークーじゃんか」
 「アハハハハ!」

 時差の関係で神経が落ち着かないのだろう。

 「石神先生、またさっきの歌を歌って下さいよ」
 「あれか」

 ♪ Ecce virgo concipiet et pariet filium et vocabitur nomen eius Emmanuhel ♪

 「きれい……」

 響子がいつの間にか眠った。

 「最高の子守りトラですね!」
 「おう!」

 


 吹雪が幸せそうに眠っている。
 俺は六花と見詰め合い、やがて眠った。
 眠る天使たち。
 俺は幸せだった。
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