上 下
1,622 / 2,877

蓮花研究所 犯人捜し

しおりを挟む
 8月22日土曜日。
 予定の休暇の半ばだ。
 俺たちは7時に出発し、蓮花の研究所へ向かう。
 当然だが、車内の雰囲気は悪い。
 夕べ俺の分の鰻を喰いやがったからだ。
 一応は俺が許したとはいえ、明るい雰囲気になるはずもない。
 俺の機嫌も良いはずはない。
 子どもたちは後ろでおにぎりなどを食べている。
 亜紀ちゃんは助手席で俺の専用の朝食を持っている。
 稲荷寿司だ。
 自分は何も口にしていない。

 「おい、亜紀ちゃんも食べろよ」
 「はい」
 
 皇紀が後ろからおにぎりを5個渡した。
 亜紀ちゃんが受け取って食べて行った。
 やはりお腹が空いていたようで、たちまち食べた。
 足りないだろうと思った。

 「もうちょっと頂戴!」
 「「「?」」」
 「ねぇ!」
 「もう無いよ?」
 「……」

 俺は笑った。

 「ちょっとは俺の心の痛みが分かったかよ?」
 「はい」

 無意識に俺の弁当の結び目を解こうとして、途中でハッと気付いた。
 自分の業の深さに泣きそうな顔になった。

 「それを喰えよ」
 「絶対に出来ません!」
 「いいよ。俺は途中のサービスエリアで何か喰うから」
 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんはそれでも食べないと言ったが、俺が無理に食べさせた。
 亜紀ちゃんは俺を見ながら、涙目で全部食べた。

 


 俺はいつもの「鬼平江戸処」に寄った。
 毎回一度下道に降りて行く。
 子どもたちが大好きだからだ。
 みんなに適当に食べて、45分以内にハマーに戻るように言った。
 俺は蕎麦屋に入って天ぷら蕎麦を食べた。
 店を出ると、子どもたちの姿が見えない。
 いつもなら、あちこちではしゃぎながら食べているのだが。
 まあ、大体分かったので、俺は屋台でメンチカツや焼き鳥などを買った。
 ソフトクリームも人数分買う。
 結構な荷物になった。

 俺がハマーに近づくと、子どもたちが降りて走って来た。

 「タカさん!」
 「なんだよ、お前ら何も喰わなかったのか?」
 「はい……」
 
 荷物を渡し、亜紀ちゃんの頭をはたく。

 「ばかやろう! お前らがここで喰わないと蓮花が苦労するだろう!」
 
 俺はみんなで喰えと言った。
 いつものはしゃぎ方ではなかったが、時々笑いながら食べていた。



 蓮花の研究所には、11時過ぎに着いた。
 もう俺たちを認識し、自動で門が開く。
 200キロ時点で、もう俺たちの接近を分かっていたはずだ。

 蓮花とジェシカ、ミユキたちが玄関で出迎えてくれた。

 「お待ちしておりました」
 
 ミユキや前鬼、後鬼も挨拶してくる。
 子どもたちが電動移送車に荷物を積み、自分たちもそこへ乗った。
 俺と蓮花が乗っているティーグフには誰も乗らない。

 「何かございましたか?」

 子どもたちの表情がいつもと違うので、蓮花が俺に聞いて来た。

 「ああ、夕べ俺の注文した鰻を喰いやがってよ。それでまだ気にしてんだ」
 「まあ!」
 「ちょっと遅れて家に帰ったら、夢中になってて俺の分まで喰いやがった」
 「オホホホホホホ!」

 蓮花が大笑いした。

 「まったく、俺は許したのにこいつらが気不味くってよ。散々なドライブだったぜ」
 「大変でございましたね」
 「本当にな」

 俺たちの会話は子どもたちにも聞こえている。
 ミユキたちも笑っていた。

 「よりにもよって、石神様の御飯を奪うだなんて」
 「そうだよなぁ」
 「わたくしも許せません。みなさんには、ここでのお食事は覚悟して頂きます」
 「ああ、宜しくな」

 子どもたちがまた涙目になっていた。
 文句は出ない。

 荷物を部屋へ運び、そのまま食堂に行った。
 もう蓮花が準備してくれている。
 豪華な膳が運ばれる。
 俺の前に、ふりかけの瓶が置かれた。

 「このふりかけは石神様だけのものです! 悪いみなさんには差し上げませんよ!」

 俺は笑ってふりかけをご飯に掛けて食べた。
 蓮花なりの、もう気にするなという心遣いだ。
 子どもたちも嬉しそうに笑って、蓮花の美味しい食事を頂いた。

 「ジェシカ、元気か?」
 「はい、石神さん! 毎日楽しくやってますよ!」
 「それならいい。蓮花の食事はちょっと美味し過ぎるからな」
 「そうなんです! 困ってるんですよ!」

 みんなが笑った。

 「いつもは石神様の御宅と同じく、メザシにしてます」
 「そうか! メザシは身体にいいからな!」
 「はい、お安いですし」
 「大事なとこだな!」

 食事を終え、蓮花がコーヒーを運んで来る。

 「じゃあ、今回のスケジュールな! 俺と皇紀は蓮花とジェシカと一緒に研究開発の視察だ。亜紀ちゃんとルー、ハーはミユキたちと模擬戦。ルー! 大丈夫だな!」
 「はい!」

 ルーに戦略を立てさせ、それを試す予定だった。

 俺たちは研究施設へ向かった。




 「皇紀様、それでどなたが石神様の鰻を食べたのですか?」

 蓮花が満面の笑みで皇紀に聞いた。

 「え、それはよく分からなくて」
 「そんなことはございませんでしょう。さあ、お吐きなさい」
 「蓮花さん!」

 蓮花がおかしそうに笑っていた。

 「喋らないと、わたくしが皇紀様が「亜紀様が食べたと言っていた」と言いますよ?」
 「それは絶対にダメですよ! 僕が殺されます!」
 「では、誰なのか言いなさい」
 「本当に分からないんですって!」

 俺は笑って蓮花にそこまでにしろと言った。
 蓮花も突っ込みながら、皇紀にもう気にするなと言いたかったのだ。

 「あの、本当にいつものようにみんなで争って食べてましたので。タカさん、すみませんでした」
 「もういいよ。だからいつまでもウジウジするな」
 「はい!」

 蓮花はしつこく皇紀に小声で、「本当はどなたが」と聞いていた。

 「石神様は、誰だとお思いです?」
 「もうよせよ」
 「いいえ! わたくしが必ずや、犯人を挙げてみせますから!」

 俺とジェシカで大笑いした。 
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...