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ハスハ
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御堂家での二日目。
朝食の後で、俺は御堂を外へ連れ出した。
子どもたちはいつものように掃除をしている。
子どもたち、特に柳には聞かれたくなかった。
反対に、ダフニスとクロエを一緒に連れて行く。
離れた場所の東屋に腰かけた。
「御堂、柳が妖魔に狙われているらしい」
「うん、こないだも聞いたね」
御堂は落ち着いている。
「申し訳ないんだが、俺にもどういう理由でなのかは分からないんだ。麗星に聞いたら、「鬼猿」に関しては以前に操られかけたことがあるかららしんだけどな」
「そうなんだ」
「でも、「鬼猿」もそんじょそこらにいるわけじゃない。今回のことは非常に稀なケースということになる」
「うん」
「だから俺は、柳は妖魔を引き寄せやすいのではないかと考えているんだ」
「なるほど」
御堂は考えていた。
「ほら、柳が小学二年生の時に、ここの蔵で「切り裂き人形」を見つけただろう?」
「え? ああ! 今思い出したよ!」
御堂も忘れていたようだった。
俺も柳もすっかり忘れていたのだ。
「そうだった! あの時は柳のことを考えると生きた心地がしなかったよ」
「ああ。俺も柳も最近思い出したんだ。あの翌日に、柳は川で溺れかけた」
「うん! 石神が傷だらけになって助けてくれたんだよね!」
「俺が身代わりになったということじゃないのかな」
「石神!」
御堂がショックを受けていた。
「そうだよ。何で僕は忘れてしまっていたのか」
「多分、妖魔の力なんだろうよ。だから逆に、どうして最近思い出せたのかも分からないけどな」
「そうだね!」
俺は一拍置いた。
「あの時もそうだった。柳は絶対に出せない場所からあの「切り裂き人形」を持って来たんだ」
「そうか! 柳にはそういう力があるか、若しくはそういうものを引き寄せやすいということか」
流石に御堂は理解が早い。
「うちの中で「鬼猿」を見つけた時も同じだ。柳は鍵の掛かった部屋から、その人形を持ち出していた」
「石神、それは……」
「そして今回だ。恐らく、もう操られ掛けていたんだろう。だからロボが気付いた」
「ロボちゃんか」
「そうだ。柳の匂いなのか波動なのかは分からん。でも感知したので、柳に一緒に付いて行ってくれた」
「本当に助かったよ」
「そうだよな。三度でもいい加減多いが、他にそういうことが無かったかお前に確認したかったんだ」
御堂がまた考えていた。
咄嗟に出て来る記憶は無いのだろう。
しばらくして、口を開いた。
「これが関係しているのかは分からないけど」
「なんだ?」
「澪が柳を妊娠中に、夢を見たと言っていたんだ」
「どんな?」
御堂が俺を見た。
「澪が布団で寝ていると、足元の方で何かが蹲っていたそうだ。黒い大きな獣だったそうだよ」
「どのくらいの大きさか分かるか?」
「部屋の間口一杯だったというから、多分4,5メートルだと思う」
「大きいな」
「姿はよくは分からなかったらしい。でも、その獣が「お前はその子を産みたいか」と聞いたそうだ」
「なんだと!」
「澪はもちろん「産みたいです」と言った。すると獣が「ならば喰われぬように注意しろ」と言った。澪がどういうことか聞こうとしたけど、獣はいなくなっていたんだ」
「それで澪さんは?」
「目が覚めたそうだよ。部屋中に獣の匂いが籠もっていたんだ。昼間に体調を崩して寝ている時のことだった」
「オロチがいるのに、そいつは部屋に入って来たということか」
「そうだね。敵では無かったのかもしれない」
「言ってる内容もそうだな」
「うん」
やはり柳が妖魔に狙われているのだ。
「御堂、俺の勘なんだが」
「なんだい?」
「多分、これまでも柳は襲われていたんじゃないかと思うよ」
「え!」
「でも、ここにはオロチがいる。だから守られていたんじゃないかな?」
「それじゃ、「斬り裂き人形」は?」
「あれは特別だ。御堂家に災いをもたらす権能が与えられていたんじゃないかと思う」
「そんな……」
「御堂家に何人も犠牲者が出ているのだろう? だったらそういうことだよ。だからオロチにも守れない」
「そういうことか……」
御堂家は歴史の長い旧家だ。
いろいろなことがあるのだろう。
「この一帯はクロピョンに命じて、霊的防衛に関して最高の土地に作り変えた」
「え?」
「アラスカもそうやったんだよ。麗星に言わせると「神々が住んでもおかしくない」と言ってたぞ」
「なんだって!」
「アハハハハ! だから、ここはそういう点に関しては結構強い」
「そう言えば、親父がやけに調子が良くなったと言っていたよ」
「間違いなく、土地の浄化を受けているんだろうな」
「そうだったのか」
御堂の顔が明るくなった。
「柳をここに置いておけば安全なんだろうけどな」
「ダメだよ、石神。柳はもう歩き出したんだ。ここを出て行った人間だよ」
「ああ、俺も手放すつもりはないさ」
「うん」
俺がそう言うと、御堂は嬉しそうに笑った。
「だからな、御堂。柳にはガーディアンを付けようと思っているんだ」
「うん」
「お前にはアザゼルがいる。それにこのダフニスとクロエもいる。恐らくお前を害する存在はほとんどいない」
「ああ、ありがとう」
「柳には自衛の力があるから、デュール・ゲリエは必要ないだろう。霊的防衛のためのガーディアンだ」
「うん、分かった」
俺はアザゼルを呼んだ。
「アザゼル!」
御堂の後ろに黒き翼を持つアザゼルが現われた。
「聞いての通りだ。御堂の娘の柳に、妖魔から守れる者を付けたい。誰か心当たりはないか?」
「ならば「ハスハ」を呼ぼう」
「ハスハ?」
「「前を向く者」の守護者だ。必ず守るだろう」
「ほう、そうなのか」
「では呼ぶぞ」
「ああ、頼む」
アザゼルが消える前に、微笑んだ。
「お前たちの戦いは楽しみだ」
「よく見ていろ」
「ああ、そうしよう」
アザゼルが消えた。
「石神、どうなったんだ?」
「聞いての通りだ」
「いや、何も聞こえなかったぞ。アザゼルは来たのか?」
「?」
俺はダフニスとクロエに、アザゼルを見たか尋ねた。
二人とも見ていないと答えた。
「石神が誰かと話しているのは分かった。でも、僕には何も見えなかったし、声も聞こえなかったよ」
「そうなのか」
俺は御堂に「ハスハ」という守護者をアザゼルに呼んでもらうことになったと話した。
「前を向く者」の守護者だということも伝えた。
「それで、いつから来るんだ?」
「あ、ああ。それはよく分からないんだ」
「え?」
「あのさ、お前についているアザゼルって、ちょっと上級妖魔とも違うみたいなんだよ。話は出来るんだよ。だけどな、ちょっと話し難いと言うかさ。会話をしているのがコワイって言うのかなぁ」
「石神がか?」
「おい、俺は普通の人間だぞ!」
「アハハハハハ!」
俺たちは母屋に戻り、柳を呼んだ。
「なんですかー?」
柳が庭に出て来る。
「お前にガーディアンを付けるからな」
「はい?」
「ハスハ、来ているか?」
「はい、ここに」
柳の隣に小さな少女が現われた。
白いローブのような裾の長い服を着ている。
身長は130センチほど。
現われてすぐに、柳の手を握った。
「え!」
「ハスハ、この柳を守ってくれるか?」
「はい、そのために参りました」
「そうか、宜しく頼む」
「かしこまりました」
「石神さん!」
「柳、お前からも頼めよ」
「私、誰かに手を握られてるんですけど! でも、何も見えないんですけど!」
「え?」
「誰がいるんですかー!」
「ハスハだよ!」
「だから、それ誰ぇー!」
「ハスハ、柳に姿を見せてやってくれ」
「まだ無理ですね」
「じゃあ、声だけでも」
「それもまだ無理です」
「……」
「ま、まあ、そういうことだから」
「どういうことぉー!」
「以上!」
ハスハの姿が消えた。
「タカさーん! お昼の支度ができましたー!」
亜紀ちゃんが縁側から呼んでいた。
「おお! すぐにいくぞー!」
俺は呆然と立つ御堂と柳の手を引いて家の中へ入った。
「いしがみさーん!」
「お昼はなにかな?」
「だからぁー!」
「ワハハハハハ!」
俺って、ヘンな奴に思われてないよね?
一人で何もない空間に独り言言ってないよね?
お昼は冷やしほうとうだった。
美味しかった。
御堂と柳が時々俺の方を見ていた。
朝食の後で、俺は御堂を外へ連れ出した。
子どもたちはいつものように掃除をしている。
子どもたち、特に柳には聞かれたくなかった。
反対に、ダフニスとクロエを一緒に連れて行く。
離れた場所の東屋に腰かけた。
「御堂、柳が妖魔に狙われているらしい」
「うん、こないだも聞いたね」
御堂は落ち着いている。
「申し訳ないんだが、俺にもどういう理由でなのかは分からないんだ。麗星に聞いたら、「鬼猿」に関しては以前に操られかけたことがあるかららしんだけどな」
「そうなんだ」
「でも、「鬼猿」もそんじょそこらにいるわけじゃない。今回のことは非常に稀なケースということになる」
「うん」
「だから俺は、柳は妖魔を引き寄せやすいのではないかと考えているんだ」
「なるほど」
御堂は考えていた。
「ほら、柳が小学二年生の時に、ここの蔵で「切り裂き人形」を見つけただろう?」
「え? ああ! 今思い出したよ!」
御堂も忘れていたようだった。
俺も柳もすっかり忘れていたのだ。
「そうだった! あの時は柳のことを考えると生きた心地がしなかったよ」
「ああ。俺も柳も最近思い出したんだ。あの翌日に、柳は川で溺れかけた」
「うん! 石神が傷だらけになって助けてくれたんだよね!」
「俺が身代わりになったということじゃないのかな」
「石神!」
御堂がショックを受けていた。
「そうだよ。何で僕は忘れてしまっていたのか」
「多分、妖魔の力なんだろうよ。だから逆に、どうして最近思い出せたのかも分からないけどな」
「そうだね!」
俺は一拍置いた。
「あの時もそうだった。柳は絶対に出せない場所からあの「切り裂き人形」を持って来たんだ」
「そうか! 柳にはそういう力があるか、若しくはそういうものを引き寄せやすいということか」
流石に御堂は理解が早い。
「うちの中で「鬼猿」を見つけた時も同じだ。柳は鍵の掛かった部屋から、その人形を持ち出していた」
「石神、それは……」
「そして今回だ。恐らく、もう操られ掛けていたんだろう。だからロボが気付いた」
「ロボちゃんか」
「そうだ。柳の匂いなのか波動なのかは分からん。でも感知したので、柳に一緒に付いて行ってくれた」
「本当に助かったよ」
「そうだよな。三度でもいい加減多いが、他にそういうことが無かったかお前に確認したかったんだ」
御堂がまた考えていた。
咄嗟に出て来る記憶は無いのだろう。
しばらくして、口を開いた。
「これが関係しているのかは分からないけど」
「なんだ?」
「澪が柳を妊娠中に、夢を見たと言っていたんだ」
「どんな?」
御堂が俺を見た。
「澪が布団で寝ていると、足元の方で何かが蹲っていたそうだ。黒い大きな獣だったそうだよ」
「どのくらいの大きさか分かるか?」
「部屋の間口一杯だったというから、多分4,5メートルだと思う」
「大きいな」
「姿はよくは分からなかったらしい。でも、その獣が「お前はその子を産みたいか」と聞いたそうだ」
「なんだと!」
「澪はもちろん「産みたいです」と言った。すると獣が「ならば喰われぬように注意しろ」と言った。澪がどういうことか聞こうとしたけど、獣はいなくなっていたんだ」
「それで澪さんは?」
「目が覚めたそうだよ。部屋中に獣の匂いが籠もっていたんだ。昼間に体調を崩して寝ている時のことだった」
「オロチがいるのに、そいつは部屋に入って来たということか」
「そうだね。敵では無かったのかもしれない」
「言ってる内容もそうだな」
「うん」
やはり柳が妖魔に狙われているのだ。
「御堂、俺の勘なんだが」
「なんだい?」
「多分、これまでも柳は襲われていたんじゃないかと思うよ」
「え!」
「でも、ここにはオロチがいる。だから守られていたんじゃないかな?」
「それじゃ、「斬り裂き人形」は?」
「あれは特別だ。御堂家に災いをもたらす権能が与えられていたんじゃないかと思う」
「そんな……」
「御堂家に何人も犠牲者が出ているのだろう? だったらそういうことだよ。だからオロチにも守れない」
「そういうことか……」
御堂家は歴史の長い旧家だ。
いろいろなことがあるのだろう。
「この一帯はクロピョンに命じて、霊的防衛に関して最高の土地に作り変えた」
「え?」
「アラスカもそうやったんだよ。麗星に言わせると「神々が住んでもおかしくない」と言ってたぞ」
「なんだって!」
「アハハハハ! だから、ここはそういう点に関しては結構強い」
「そう言えば、親父がやけに調子が良くなったと言っていたよ」
「間違いなく、土地の浄化を受けているんだろうな」
「そうだったのか」
御堂の顔が明るくなった。
「柳をここに置いておけば安全なんだろうけどな」
「ダメだよ、石神。柳はもう歩き出したんだ。ここを出て行った人間だよ」
「ああ、俺も手放すつもりはないさ」
「うん」
俺がそう言うと、御堂は嬉しそうに笑った。
「だからな、御堂。柳にはガーディアンを付けようと思っているんだ」
「うん」
「お前にはアザゼルがいる。それにこのダフニスとクロエもいる。恐らくお前を害する存在はほとんどいない」
「ああ、ありがとう」
「柳には自衛の力があるから、デュール・ゲリエは必要ないだろう。霊的防衛のためのガーディアンだ」
「うん、分かった」
俺はアザゼルを呼んだ。
「アザゼル!」
御堂の後ろに黒き翼を持つアザゼルが現われた。
「聞いての通りだ。御堂の娘の柳に、妖魔から守れる者を付けたい。誰か心当たりはないか?」
「ならば「ハスハ」を呼ぼう」
「ハスハ?」
「「前を向く者」の守護者だ。必ず守るだろう」
「ほう、そうなのか」
「では呼ぶぞ」
「ああ、頼む」
アザゼルが消える前に、微笑んだ。
「お前たちの戦いは楽しみだ」
「よく見ていろ」
「ああ、そうしよう」
アザゼルが消えた。
「石神、どうなったんだ?」
「聞いての通りだ」
「いや、何も聞こえなかったぞ。アザゼルは来たのか?」
「?」
俺はダフニスとクロエに、アザゼルを見たか尋ねた。
二人とも見ていないと答えた。
「石神が誰かと話しているのは分かった。でも、僕には何も見えなかったし、声も聞こえなかったよ」
「そうなのか」
俺は御堂に「ハスハ」という守護者をアザゼルに呼んでもらうことになったと話した。
「前を向く者」の守護者だということも伝えた。
「それで、いつから来るんだ?」
「あ、ああ。それはよく分からないんだ」
「え?」
「あのさ、お前についているアザゼルって、ちょっと上級妖魔とも違うみたいなんだよ。話は出来るんだよ。だけどな、ちょっと話し難いと言うかさ。会話をしているのがコワイって言うのかなぁ」
「石神がか?」
「おい、俺は普通の人間だぞ!」
「アハハハハハ!」
俺たちは母屋に戻り、柳を呼んだ。
「なんですかー?」
柳が庭に出て来る。
「お前にガーディアンを付けるからな」
「はい?」
「ハスハ、来ているか?」
「はい、ここに」
柳の隣に小さな少女が現われた。
白いローブのような裾の長い服を着ている。
身長は130センチほど。
現われてすぐに、柳の手を握った。
「え!」
「ハスハ、この柳を守ってくれるか?」
「はい、そのために参りました」
「そうか、宜しく頼む」
「かしこまりました」
「石神さん!」
「柳、お前からも頼めよ」
「私、誰かに手を握られてるんですけど! でも、何も見えないんですけど!」
「え?」
「誰がいるんですかー!」
「ハスハだよ!」
「だから、それ誰ぇー!」
「ハスハ、柳に姿を見せてやってくれ」
「まだ無理ですね」
「じゃあ、声だけでも」
「それもまだ無理です」
「……」
「ま、まあ、そういうことだから」
「どういうことぉー!」
「以上!」
ハスハの姿が消えた。
「タカさーん! お昼の支度ができましたー!」
亜紀ちゃんが縁側から呼んでいた。
「おお! すぐにいくぞー!」
俺は呆然と立つ御堂と柳の手を引いて家の中へ入った。
「いしがみさーん!」
「お昼はなにかな?」
「だからぁー!」
「ワハハハハハ!」
俺って、ヘンな奴に思われてないよね?
一人で何もない空間に独り言言ってないよね?
お昼は冷やしほうとうだった。
美味しかった。
御堂と柳が時々俺の方を見ていた。
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