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御堂とのセッション

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 夕飯は、当然バーベキューだ。
 食材のうち、肉はうちで持って来た。
 散々遠慮され、良い肉を御堂家で10キロほど用意してもらい、残り80キロをうちで用意した。
 その他海鮮などは、勝手に持って来ている。

 ジェイたちをしごき終わり、子どもたちが準備を始める。
 澪さんには総監督の立場で、ゆっくりしてもらった。
 最近は菊子さんも澪さんを認め、ある程度自由裁量でやらせてくれている。
 御堂と一緒に忙しくなったことも理解してくれているのだ。

 俺は正利の部屋へ行き、久し振りに話した。

 「俺もよく知らなかったんだけどよ。石神の本家って、剣術集団だったんだよ」
 「そうなんですか!」
 「江戸時代まで旗本で、剣術が凄い一族だってことは知ってたんだよ。だけど明治以降も相変わらず刀でガンガンやっててさ」
 「すごいですね!」
 「おう。この令和の時代になってもやってたとはなぁ」
 「アハハハハハ!」

 俺は呼び出されて無茶苦茶に斬られ、結局当主にならされたのだと話した。

 「もう、死にそうになってさ。俺も流石に泣いたよ」
 「石神さんがですか?」
 「そうだよ! 本当にあいつら頭がおかしんだよ!」
 「アハハハハハ!」

 当主なのに全然敬われないと言うと、正利が爆笑した。

 「毎回さ、電話なんかでも「当主の高虎でした!」とかって言うの。でも、石神家の当主って全然偉くねぇんだってさ」
 「どういうものなんですかねぇ」
 「知らねぇ。もうどうでもいいや」
 「アハハハハハ!」

 俺は軽くやろうと言って、正利と庭に出た。
 竹刀を借りて撃ち合った。

 「もう、本当に全然通じないですね!」
 「お前も石神家に行ってみるか?」
 「結構です!」

 そのままバーベキューの場所へ行った。




 正巳さんが嬉しそうに肉を焼き始める。
 俺と御堂、澪さん、菊子さんでゆったりと食べた。

 「澪さん、今日は奴隷がいますから、ゆっくりして下さいね」
 「ウフフフフ、ありがとうございます」

 菊子さんの前だから、俺が言った。
 菊子さんも笑っていた。

 子どもたちは正巳さんの前で思い切り食べているので、俺が端でロボの肉を焼いた。
 ホタテも焼いて、皿に入れてやる。
 ロボの好物だ。

 「東京で石神さんと一緒で良かったね」

 菊子さんが言う。

 「まあ、前よりもずっと会えるようにはなったけど、それでも月に何度かだよね」
 「そうだよなぁ。お前はいつも忙しいからな」
 「柳ともほとんど会えないしね」
 「俺が連れて行けばいいんだけどな。でも俺たちも深夜に会うことが多いしな」
 「うん」

 御堂が笑った。

 「でも、こないだ石神が食事に柳を連れて来てくれたんだ」
 「そうなんですか?」

 澪さんが嬉しそうな顔をしている。

 「あれは御堂に俺が無理を言ったんですよ。ちょっとうちで俺の不手際で柳を落ち込ませてしまったんです。すいません」
 「おい、石神のせいじゃないだろう。むしろ柳がロボちゃんと上手く出来なかったんじゃないか」
 「いや、俺のせいだよ。うちの子どもたちもみんな柳に謝ったんだ」

 俺はみんなが出掛けて、柳とロボだけを家に残してしまったのだと話した。
 その結果、ロボがわがままで柳の食事を台無しにしてしまった。
 
 「俺が柳にロボの扱いを教えていなかったせいなんだ」
 「そんなことはないよ」
 「柳がどんなに悲しい思いをしたのかと思うと、今も辛いよ」
 「石神さん、大丈夫ですよ」

 澪さんが言い、御堂が微笑んで話した。

 「それで石神がさ、僕に必死に頼んで来たんだ」
 「だって、お前は毎日忙しいだろう」
 「そんなことはないよ。石神のためなら時間を作るって」
 「柳のためだぁ!」

 みんなが笑った。

 「まあ、石神と会うのは殆ど仕事の話だからね」
 「そうでもないだろう。俺には区別は無いよ」
 「ああ、僕もそうだね。石神と一緒にいるのはいつも楽しいよ」
 「そうだよな!」

 「あなたは石神さんが本当にお好きですよね」
 「そうだね」

 御堂と澪さんが顔を合わせて笑った。

 子どもたちが満足して、ゆっくり食べ始めた。
 正巳さんが大満足で戻って来る。
 俺が正巳さんのために、焼き始める。

 「石神さん! 今年もありがとう!」
 「今年は一泊ですいませんね」
 「なんの! まあ、でもまたいつでも来て下さい」
 「はい、是非!」





 辺りはすっかり暗くなり、俺は子どもたちに言って大振りの薪を組ませた。
 それが灯になるようにだ。

 子どもたちが片づけを始め、澪さんが酒の用意をした。
 テーブルを移動し、焚火の近くへ集める。
 俺のためにワイルドターキーが用意され、正巳さんと菊子さんは冷酒を飲んだ。

 「御堂、久し振りにセッションをしよう」
 「え! もう全然弾いてないぞ」
 「いいよ。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」なら大丈夫だろう?」
 「うーん。じゃあやるか」

 亜紀ちゃんと柳がギターとヴァイオリンを取りに行った。
 俺と御堂がみんなに向いた。

 「御堂、ゆっくりと弾いてくれ。俺が合わせていくから」
 「分かった」

 御堂がゆったりと旋律を奏で始めた。
 俺は単音で静かに合わせて行き、徐々に和音を刻んで行く。
 御堂が静かに退いて行き、俺のギターソロが高まって行く。
 御堂はスタッカートを見事に鳴らしながら、俺のソロに入って来る。
 二人で顔を見合わせて笑った。
 いい感じだ。
 俺が速弾きで駆け上がり、御堂が共に奏で、御堂が静かに退いて終わった。

 みんなが拍手してくれる。
 御堂が恥ずかしそうに離れたテーブルにヴァイオリンを置いた。
 俺も同じテーブルにギターを立てる。

 「俺たちはやっぱり息がぴったりだな!」
 「そうだね」

 御堂が照れて笑っていた。

 「タカさん! 次のCDは御堂さんとセッションですね!」

 亜紀ちゃんが嬉しそうに言う。

 「次のCDなんて出さねぇ!」
 「取り敢えず、橘弥生さんに連絡しときますね」
 「やめろ!」

 御堂が笑っていた。

 「僕なんかはダメだけど、石神のCDは欲しいなぁ」
 「御堂さん! そうでしょ!」
 「うん」
 「おい!」

 「タカさんに何度もお願いしてるのに、全然その気になってくれないんですよ」
 「ならねぇよ!」
 「みなさーん! タカさんの次のCD! 聴きたいですよねー!」

 全員が拍手した。
 亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。

 「もう座れ!」

 無理矢理座らせ、肉を食べさせる。
 御堂と澪さんが楽しそうに話していた。

 「石神、僕ももうちょっと練習しておくよ」
 「いいよ!」

 みんなが笑った。





 実は、また橘弥生から執拗にCDの録音を迫られていた。
 
 「今は配信の時代ですよ」
 「そんなこと分かってるわよ! それも含めてのことに決まっているでしょう!」
 
 バカにされたと、物凄く怒られた。
 いつまで逃げ切れるか分からないが、必死に抵抗している。

 俺には味方はいない。
 俺はただ、ギターを弾きたいだけなのだが。
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