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道間家のハイファ
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道間家に戻った。
帰りの車で、吹雪は俺の腕の中で眠った。
「吹雪ちゃん、幸せそうですね」
よしこが言った。
「まあ、幸せになって欲しいけどな。でも俺たちは、愛情を注ぐことしか出来ないよ」
「はい」
六花も笑って俺に身体を寄せた。
道間家の中で、俺たちは少し休ませてもらった。
ここでは、あまり出歩かない方がいい。
特に俺は、妖魔たちを混乱させるらしい。
六花とよしこを少し寝かせ、俺はロボと縁側に出た。
ロボも庭に出ようとはしない。
何かを察しているのだろう。
多分、俺よりも妖魔が怖がる。
「綺麗な庭だにゃー」
ロボが俺の顔を見詰め、膝に頭を預けた。
少し暑いが、寒がりのロボには丁度いいのかもしれない。
麗星が来た。
「お休みになってはいらっしゃらなかったのですね」
「ああ、なんとなく。ここは雰囲気がいいんで、ちょっともったいなくてね」
「さようでございますか」
麗星が俺の隣に座った。
「折角いらしていただいたのに、天狼の顔もお見せ出来ずに申し訳ございません」
「いいよ。道間家には仕来りがあることは分かっているし」
「無意味なことではございません。必ず、天狼を守るためでございます」
「分かってるよ。俺は離れていたって、天狼の父親であることは確かだしな」
「はい! それはもう!」
麗星が嬉しそうに笑った。
「今はわたくしも会えませんの」
「そうなのか?」
「はい。最も重要な時期でして」
「授乳などは?」
「それはわたくしのものを与えております」
「じゃあ、特別に世話をする人がいるということか」
「はい」
どういう人間なのかは教えてもらえなかった。
「しばらく致しましたら、また会えるようになりますので。今だけはどうか」
「分かった」
麗星が俺に手を重ねた。
軽くキスをした。
「お慕いしております」
「俺も」
また唇を重ねた。
麗星が俺が暇を持て余しているだろうと、自分のアルバムを持って来た。
説明しながら見せてくれる。
あまりの悪戯の酷さに、ちょっと退いた。
夕飯の準備が出来たと言われ、六花たちを起こして食堂へ行った。
豪勢な京懐石で、六花が大喜びした。
よしこも本格的な京懐石はあまり馴染みが無く、感動していた。
「よしこは結構いいものを食べているだろう」
「そんな! こんな本格的な日本料理なんて、滅多に食べませんよ!」
「六花は自分で作れるもんな」
「ヴァイ!」
こいつの自信がどこから来るのかは、誰も知らない。
食事の後、風呂を勧められ、俺は六花と一緒に入った。
麗星が一緒に入りたがると思っていたが、遠慮していた。
やはり、天狼に合わせられないことを苦にしているのだろう。
あの図々しい女が、それほど気を遣っていた。
吹雪を先に上げて、よしこに預けた。
俺たちも早めに上がる。
よしこも風呂を頂き、酒が用意された。
六花が飲まないので、よしこも遠慮していた。
「お前はちょっと飲めよ」
「そうだよ、よしこ、遠慮するな!」
「はい!」
よしこが俺から冷酒を注がれ、嬉しそうに飲んだ。
みんなで楽しく話をした。
俺は石神本家のあれこれを話すと、みんなが爆笑した。
「石神さんは、コワイものが無いんだと思ってましたが」
「あるって言ってるだろう! あの石神家だけは半端じゃねぇ! それと小島将軍な!」
麗星は知っているようだ。
「日本のフィクサーだからなぁ。他にもコワイひとは一杯いるよ」
麗星と五平所が、突然立ち上がった。
「何故! 五平所!」
「はい!」
五平所が部屋を出て行く。
「あなた様!」
「どうした!」
麗星の並々ならぬ緊張で、俺も深刻な事態になっていることを悟った。
俺の感知能力も、何かが近付いて来るのを感じている。
敵意のプレッシャーは無いが、尋常なものではない。
「妖魔か!」
「そうなのですが、害は絶対にありません。ですがお気をつけ下さい」
麗星が身構えている。
よく知ってはいるが、説明が難しい相手らしい。
「来る!」
麗星が部屋の外へ出た。
俺も後に続く。
「ハイファ! 何故ここへ来るのですか!」
廊下の奥へ向かって叫んだ。
薄暗い廊下の向こうに、何かがいる。
ゆっくりと近づいて来た。
廊下の向こうで、五平所らしい男が倒れていた。
「ハイファ! 答えなさい!」
俺は黙って麗星の隣に立っていた。
物凄い波動を感じる。
しばらくすると、一人の白い着物を着た女の姿がゆっくりと近づいて来る。
「天狼を連れ出したのですか!」
麗星が叫んだ。
「いけませんん! 天狼をすぐに結界の中へ戻しなさい!」
「麗星様、「双虎王」の主様がいらしております」
「承知しています! すぐに結界へ戻りなさい!」
「いいえ、「双虎王」の主様なのです。その御意向に沿わなければなりません」
「ダメです! すぐに!」
女は足を止めずに近づいて来た。
この世のものとは思えない、美しい女だった。
切れ長の瞳が大きく、細く濃い眉とやけに赤い頬紅が鋭く額に向かって描かれている。
人間の化粧ではない。
「ハイファ! 何故!」
「これは運命でございます。全て、この日のために道間家は続いて参ったのです」
「なにを……」
女が天狼を抱いて俺の前まで来て膝を折った。
「お目にかかることをお許し下さい」
「ハイファと言ったか」
「はい。この道間家に長く居ついておる者でございます」
「天狼は外へ出してはならないのではないのか?」
「それは「双虎王」の主様以外の場合でございます。ようやく天の歯車が回りました。わたくしはこの日のために、道間家に居りました」
「どういうことだ?」
「道間家は、もう道間家ではありませぬ」
「何?」
「道間家は「双虎王」の主様の血筋として、今後大きく栄えることとなります」
よく分からない。
「一つだけ聞く」
「なんなりと」
「天狼は結界の中にいる必要があると聞いた。お前が連れ出して、支障は無いのか?」
「はい。「双虎王」の主様にまみえることが、最も重要でございます」
そう言って、ハイファは俺に天狼を掲げた。
俺は抱き上げた。
その瞬間、天狼の身体が眩しく光った。
「これで、天狼は「天狼」となりました。時が参りました」
ハイファがそう言って俺を見た。
口元に笑顔を浮かべ、それはまた人間のものではなかった。
帰りの車で、吹雪は俺の腕の中で眠った。
「吹雪ちゃん、幸せそうですね」
よしこが言った。
「まあ、幸せになって欲しいけどな。でも俺たちは、愛情を注ぐことしか出来ないよ」
「はい」
六花も笑って俺に身体を寄せた。
道間家の中で、俺たちは少し休ませてもらった。
ここでは、あまり出歩かない方がいい。
特に俺は、妖魔たちを混乱させるらしい。
六花とよしこを少し寝かせ、俺はロボと縁側に出た。
ロボも庭に出ようとはしない。
何かを察しているのだろう。
多分、俺よりも妖魔が怖がる。
「綺麗な庭だにゃー」
ロボが俺の顔を見詰め、膝に頭を預けた。
少し暑いが、寒がりのロボには丁度いいのかもしれない。
麗星が来た。
「お休みになってはいらっしゃらなかったのですね」
「ああ、なんとなく。ここは雰囲気がいいんで、ちょっともったいなくてね」
「さようでございますか」
麗星が俺の隣に座った。
「折角いらしていただいたのに、天狼の顔もお見せ出来ずに申し訳ございません」
「いいよ。道間家には仕来りがあることは分かっているし」
「無意味なことではございません。必ず、天狼を守るためでございます」
「分かってるよ。俺は離れていたって、天狼の父親であることは確かだしな」
「はい! それはもう!」
麗星が嬉しそうに笑った。
「今はわたくしも会えませんの」
「そうなのか?」
「はい。最も重要な時期でして」
「授乳などは?」
「それはわたくしのものを与えております」
「じゃあ、特別に世話をする人がいるということか」
「はい」
どういう人間なのかは教えてもらえなかった。
「しばらく致しましたら、また会えるようになりますので。今だけはどうか」
「分かった」
麗星が俺に手を重ねた。
軽くキスをした。
「お慕いしております」
「俺も」
また唇を重ねた。
麗星が俺が暇を持て余しているだろうと、自分のアルバムを持って来た。
説明しながら見せてくれる。
あまりの悪戯の酷さに、ちょっと退いた。
夕飯の準備が出来たと言われ、六花たちを起こして食堂へ行った。
豪勢な京懐石で、六花が大喜びした。
よしこも本格的な京懐石はあまり馴染みが無く、感動していた。
「よしこは結構いいものを食べているだろう」
「そんな! こんな本格的な日本料理なんて、滅多に食べませんよ!」
「六花は自分で作れるもんな」
「ヴァイ!」
こいつの自信がどこから来るのかは、誰も知らない。
食事の後、風呂を勧められ、俺は六花と一緒に入った。
麗星が一緒に入りたがると思っていたが、遠慮していた。
やはり、天狼に合わせられないことを苦にしているのだろう。
あの図々しい女が、それほど気を遣っていた。
吹雪を先に上げて、よしこに預けた。
俺たちも早めに上がる。
よしこも風呂を頂き、酒が用意された。
六花が飲まないので、よしこも遠慮していた。
「お前はちょっと飲めよ」
「そうだよ、よしこ、遠慮するな!」
「はい!」
よしこが俺から冷酒を注がれ、嬉しそうに飲んだ。
みんなで楽しく話をした。
俺は石神本家のあれこれを話すと、みんなが爆笑した。
「石神さんは、コワイものが無いんだと思ってましたが」
「あるって言ってるだろう! あの石神家だけは半端じゃねぇ! それと小島将軍な!」
麗星は知っているようだ。
「日本のフィクサーだからなぁ。他にもコワイひとは一杯いるよ」
麗星と五平所が、突然立ち上がった。
「何故! 五平所!」
「はい!」
五平所が部屋を出て行く。
「あなた様!」
「どうした!」
麗星の並々ならぬ緊張で、俺も深刻な事態になっていることを悟った。
俺の感知能力も、何かが近付いて来るのを感じている。
敵意のプレッシャーは無いが、尋常なものではない。
「妖魔か!」
「そうなのですが、害は絶対にありません。ですがお気をつけ下さい」
麗星が身構えている。
よく知ってはいるが、説明が難しい相手らしい。
「来る!」
麗星が部屋の外へ出た。
俺も後に続く。
「ハイファ! 何故ここへ来るのですか!」
廊下の奥へ向かって叫んだ。
薄暗い廊下の向こうに、何かがいる。
ゆっくりと近づいて来た。
廊下の向こうで、五平所らしい男が倒れていた。
「ハイファ! 答えなさい!」
俺は黙って麗星の隣に立っていた。
物凄い波動を感じる。
しばらくすると、一人の白い着物を着た女の姿がゆっくりと近づいて来る。
「天狼を連れ出したのですか!」
麗星が叫んだ。
「いけませんん! 天狼をすぐに結界の中へ戻しなさい!」
「麗星様、「双虎王」の主様がいらしております」
「承知しています! すぐに結界へ戻りなさい!」
「いいえ、「双虎王」の主様なのです。その御意向に沿わなければなりません」
「ダメです! すぐに!」
女は足を止めずに近づいて来た。
この世のものとは思えない、美しい女だった。
切れ長の瞳が大きく、細く濃い眉とやけに赤い頬紅が鋭く額に向かって描かれている。
人間の化粧ではない。
「ハイファ! 何故!」
「これは運命でございます。全て、この日のために道間家は続いて参ったのです」
「なにを……」
女が天狼を抱いて俺の前まで来て膝を折った。
「お目にかかることをお許し下さい」
「ハイファと言ったか」
「はい。この道間家に長く居ついておる者でございます」
「天狼は外へ出してはならないのではないのか?」
「それは「双虎王」の主様以外の場合でございます。ようやく天の歯車が回りました。わたくしはこの日のために、道間家に居りました」
「どういうことだ?」
「道間家は、もう道間家ではありませぬ」
「何?」
「道間家は「双虎王」の主様の血筋として、今後大きく栄えることとなります」
よく分からない。
「一つだけ聞く」
「なんなりと」
「天狼は結界の中にいる必要があると聞いた。お前が連れ出して、支障は無いのか?」
「はい。「双虎王」の主様にまみえることが、最も重要でございます」
そう言って、ハイファは俺に天狼を掲げた。
俺は抱き上げた。
その瞬間、天狼の身体が眩しく光った。
「これで、天狼は「天狼」となりました。時が参りました」
ハイファがそう言って俺を見た。
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