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大阪湾にて Ⅱ

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 大阪港の安治川河口付近から海を見ていた。

 「やっぱり入江ですから、沖合は見えにくいですね」
 「高さがあれば大丈夫だよ。もうそのつもりで土地を買収しちゃったしな」
 「そうですね」

 よしこは潮風に御機嫌になっていた。
 栃木だと、あまり感じる機会は少ないだろう。

 「海っていいですね!」
 「そうかよ」

 俺も皇紀も笑ってよしこを見ていた。
 よしこが海に向かって両手を拡げて目を閉じた。

 「何やってんだよ?」
 「ほら! 映画の『タイタニック』でこういうシーンがあったじゃないですか!」
 「ああ、あの映画、俺大嫌いなんだ」
 「へ?」
 「ヤりたいだけの唐変木と、ワガママ貴族の小娘が好き勝手になぁ。それでいざとなったら男を見殺しにしてよ」
 「はぁ」

 よしこがげんなりする。
 俺はタイタニック号を扱った名画の話をしてやった。
 『タイタニックの最期』と『SOSタイタニック』だ。

 「あの映画は偉大よなぁ! 本当の崇高な人間の姿が描かれているぞ」
 「あ、今度観ます」
 「おう!」

 よしこがしょんぼりした。
 その時、海面からアイツが顔を出しやがった。

 「あるじさまー」
 「あ! お前!」

 名前を忘れたが、その姿はちゃんと覚えている。
 思い出すまで「お前」で通すことに咄嗟に決めた。

 「なんだよ、どうしたんだ、こんな場所で」
 「はい! ちょっといつまでもお呼びがかからなかったものですから」
 「ああ、それで挨拶に来たのか!」
 「はい! あるじ様のお顔を拝見したく!」
 「おう! 健気でいいぞ!」

 よしこと皇紀が脅えている。
 何と言っても「半魚人」だ。

 「あ、アマゾンの半魚人!」

 よしこが叫んで、俺も「アマゾン」と名付けたことを思い出した。
 よしこの背中を叩いてやる。

 「よしこ! よくぞ!」
 「はい?」

 俺が前に話したせいか、『大アマゾンの半魚人』が最近DVD化された。
 トラちゃんびっくり。
 興奮して、よしこたちに話したことがあるので、観たのだろう。

 「おい、アマゾン」 
 「はい、あるじ様!」
 「今は特にやってもらいたいことも無いんだけどな。でも、お前の顔を見られて嬉しいぞ」 
 「そうですかぁ!」

 アマゾンが喜んだ。
 鱗顔でよく分からんが。

 「そう言えばよ、ちょっと前に俺の知り合いを助けてくれたそうだな」
 「はい?」

 俺はボートで波の音を録音していた顕さんの親友の話をした。

 「ああ! そんなことがありましたね!」
 「あの人は俺の大事な兄貴分の親友の方だったんだ」
 「そうだったんですか!」
 「ありがとうな!」

 俺は皇紀とよしこを紹介し、二人にもアマゾンと「シロピョン」の話をしてやった。

 「そう言えば、「シロピョン」は元気か?」
 「はい! 「王」ですから、何が起きてももう」
 「そうか。久しぶりに会いたいなー」
 「そうですか? じゃあ、お呼びしますね!」
 「おう!」

 答えた瞬間、俺は思い出した。

 「おい! 今のちょっとナシ!」
 「はい?」

 アマゾンは物凄いスピードで離れていたので、俺の声は聞き取れなかったようだ。

 「皇紀! まずいぞ!」
 「なんですか!」
 「最初に麗星と出会った時とよ!」
 
 俺は二人を連れて走りながら話した。

 「次は双子と江の島に行ってよ!」
 「どうしたんですか!」
 
 「「シロピョン」を呼んだら大洪水よ!」
 「ああ!」

 ジープのエンジンを掛けて発進した。
 沖合からでかい津波が来る。

 「間に合わねぇ! おい皇紀!」
 「はい!」
 「お前ジープを担いで「飛べ」!」
 「は、はい! タカさんは!」
 「俺は一応呼んじまったからな! 顔を見せて来る!」
 「わかりましたぁー!」

 ジープを停めて俺は外へ出て沖に「飛行」で飛んだ。
 皇紀はジープを担いで高台へ向かう。

 高さ100メートルの津波が押し寄せて来た。
 俺は海面に向かって「グングニール」を撃ち込む。
 加減は分からなかったが、何とか津波は弱まり、埋め立て地を浸水させた程度で収まった。

 「ふぅー」

 俺はそのまま沖合へ向かった。
 巨大な半円形の白いものが浮かんでいる。

 「しろぴょーん!」

 俺が声を掛けると、「シロピョン」から長い透明な触手が伸びた。
 左右に振られる。

 「よう! 元気そうで良かったぜ!」

 いちいち洪水を起こすなと言いたかったが、無理だろう。
 「クロピョン」とは仕様が違う。

 「今よ、太平洋側の防衛システムの検討をしてんだ。お前も良かったら日本の周辺を守ってくれよ」

 「シロピョン」は触手で「〇」を描いた。

 会話は出来ないが、その後も俺が一方的に話しかけ、何とか帰ってもらった。
 「シロピョン」は移動しながらずっと触手を振っていた。
 その少し後ろをアマゾンが泳いで行った。

 「それでは、あるじ様ぁー! またお会いしましょう!」
 「おう! 元気でなぁー!」

 早く帰りたい。




 大阪港に戻ると、多くの救急車や消防車、それに警察の車両が集まって来ていた。
 俺は見つからないように地上に降り、皇紀たちと合流した。
 ジープは無事だった。

 「おう、何とかなったな」
 「タカさん……」
 「よしこも無事だな?」
 「いしがみさん……」

 早乙女に連絡し、被害状況を調べてもらった。

 「おい、何があったんだ!」
 「あー、「業」の攻撃だなー」
 「お前は大丈夫なのか!」
 「もちろん! 何とか押し返したよ」
 「そうかー!」

 電話の向こうで早乙女が泣いていた。
 俺が無事で良かったと、10回以上言っていた。

 30分後、早乙女から電話が来て状況を聞いた。
 死者はいなかったが、300人くらいが怪我をしたようだ。
 高波に押し流されてのことだった。
 幸い、海に引き込まれた人間はおらず、重傷者もいなかった。
 施設は幾つか浸水して酷い状況らしい。

 俺は「虎」の軍からということで見舞金を大阪市に送った。
 被害者の治療代と施設の復興に充てて欲しいと伝えた。




 俺のせいかもしれないが、不可抗力だ。

 「怖かったな!」
 「そうですね!」
 「いしがみさん……」

 皇紀もよしこも納得してくれた。
 まー、全部「業」のせいにしてやった。
 ざまぁ。 
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