上 下
1,601 / 2,806

大阪へ

しおりを挟む
 8月中旬。
 俺は夏休みを取った。
 今年は2週間の長期休暇で、そのせいで一江と大森は3日ずつしか休みが取れなくなった。

 「悪いな」
 「全然思ってないでしょう?」
 「まあな」

 一江が不貞腐れた顔をしたが、笑った。

 「部長がいろいろ忙しいのは知ってますからね」
 「俺はまだ医者なんだけどな」

 一江が一瞬真面目な顔をして俺を見た。

 「ずっと医者をして下さいよ」
 「そうだな」

 休み前の最後の15日の金曜日の夕方。
 俺は先に上がり、廊下の端で部下たちに頭を下げて帰った。
 




 明日から風花の所へ行き、大阪で本格的な防衛システムを構築する準備と、六花と吹雪を風花に見せる予定だ。
 俺と六花、吹雪、そしてよしこ、皇紀とロボを連れて行く。
 亜紀ちゃんたちは「カタ研」の連中と青森に合宿に行く。
 青森での防衛システムの拠点を視察する目的もある。
 お互いに二泊の予定だった。
 俺たちは京都の道間家でもう一泊するが。
 その他にもアラスカとニューヨーク、蓮花研究所、御堂家などという、俺たちの重要な拠点がある。
 これから本格的に忙しくなって行く。
 別荘にも行きたいが、今年は確定の予定には入れていない。
 全ての用事が済んだら行こうということになっている。

 金曜の晩に、俺と亜紀ちゃん、柳で酒を飲んだ。

 「明日からタカさんとは別行動ですね」
 「お前ら、あんまりハッチャケるなよな」
 「大丈夫ですよー!」
 「青森にはスパイダーマンはいねぇからな!」
 「あ、そうだったか!」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。

 「おい、柳。大丈夫だろうなぁ」
 「アハハハハハ!」

 柳が笑っている。
 もう、すっかり石神家の毒に冒されている。

 「大阪は響子ちゃんも行けるんですよね?」
 「ああ。どうしようかとも思ったんだけどな。よしこがリムジンを運転してくれることになったから。何とかな」
 「楽しそうですね」
 「お前らも楽しんで来いよ。暴れないでな!」
 「「アハハハハハハ!」」

 「木村にいろいろ頼んどいたから。宿や食事の手配なんかもな。お前らの食事の説明が大変だったぞ」
 
 二人が爆笑する。

 「佐藤先輩にも連絡してもらえました?」
 「ああ。時間を作ってくれるそうだよ。でも別にお前らが会ってもしょうがないだろう」
 「ダメですよ! 絶対に会いたい人なんですから!」
 「そうかよ。まあ宜しく伝えてくれ。また絶対に俺が会いに行くからってな」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと柳は唐揚げをばくばく食べている。

 「みんな車で行くんだろう?」
 「はい」
 「運転は大丈夫か? 結構な距離だぞ」
 「私と柳さんで交代で。坂上さんと上坂さんも交代で運転しますから大丈夫ですよ」
 「まあ、お前らはともかく、普通の人がいるんだから気を付けてな」
 「「はい!」」

 亜紀ちゃんと柳はたこ焼きをばくばく食べている。

 「おい」
 「はい?」
 「お前らが泊まるのは星野リゾートのホテルなんだ。そうやって気軽に飯が食えるわけじゃないからな」
 「分かってますよ! アンシェントホテルと同じですよね?」

 亜紀ちゃんは以前に泊ったホテルの名前を挙げた。

 「そうだ。ああ、佐藤先輩と木村が一日目の夜に行ってくれるそうだから、歓迎してくれな」
 「わかりましたぁー!」
 「あんまりお前らに飲ませないように頼んではいるけどな。多分潰されるからな」
 「アハハハハハハ!」

 どこで飲むのかは知らん。
 まあ、木村が手配してくれるだろう。
 俺も折角楽しみにしている旅行に説教ばかり言いたくはない。
 「堕乱我」狩りの話などをして、二人を笑わせて解散した。




 翌日の土曜日朝7時。
 俺は皇紀とリムジンに乗り、出発した。
 亜紀ちゃんたちは既に出ている。
 ロボは後ろの広い空間で喜んでいる。
 皇紀が助手席に座っていた。

 「早く風花に会いたいだろう!」
 「アハハハハハ!」

 皇紀は15歳だが、この数か月でぐんぐん大人びて来ていた。
 もう仕事を始め、自分の責任を全力で果たそうとしているからだ。
 親に甘えている同年代の子どもとは違う。
 別に甘えるのが悪いわけではないが、昔の人間が同じ頃にはもう「成人」していたことを思うと、それもよく分かる。
 子どもというのは環境で子どもでいるだけだ。
 人間はいつだって人間なのだ。

 「ちゃんと夜は一緒にいさせてやるからな」
 「いいですよ!」
 「道具は持って来ているな?」
 「何もないですよ!」
 「なんだよ。じゃあ、六花からちょっと借りてやるよ」
 「いいですって!」

 下らない話をしているうちに、病院に着いた。
 資材搬入用の駐車場に向かう。
 響子の部屋には、もう六花とよしこが来ていた。
 吹雪が俺を見て手を伸ばして来るので、握ってやった。
 額にキスをする。

 「響子の準備は大丈夫か?」
 「はい! 歯を磨いてからまた寝てますが」
 「こいつとロボはいつも寝てるからなぁ」
 「アハハハハハ!」
 「よしこ、運転を頼むな。俺も替わるから」
 「大丈夫ですよ。大型は慣れてますから」
 「そうか。でも長距離だからな。俺も運転するよ」
 「はい!」

 俺が響子を抱いて出た。
 皇紀とよしこがみんなの荷物を持つ。

 リムジンに入り、皇紀が荷物を固定し、よしこに操縦を教える。

 「トラックと同じ感覚だけどな。車高が低いから気を付けてな」
 「はい」
 「しばらく俺が隣に座るから」
 「すいません」

 響子と吹雪が今日のために用意した簡易ベッドに寝かされ、身体に薄掛けを掛けられてハーネスで緩く固定される。
 六花が二人の前に座り、皇紀はその向かいのシートに座った。
 ロボは吹雪と響子の間に入って一緒に横になる。
 よしこが静かに車を動かした。
 問題無さそうだ。

 みんな食事をしていなかったので、東名高速に乗ったところで最初の海老名サービスエリアに寄った。
 響子も起きて着替えた。
 みんなで食事をする。 
 響子はつくねの串を見つけて喜んで食べた。
 他の人間はおにぎりを食べる。

 「タカトラ! 美味しいよ!」
 「良かったな! 俺が準備した甲斐があるよ」
 「えー、ウソだよ!」
 「お前、ほんとうに騙されなくなったな」
 「もう!」

 みんなが笑った。
 六花がソフトクリームが食べたいと言い、みんなで買う。
 響子はちょっとだけだ。
 六花にもらって喜んでいた。

 皇紀が助手席に座って出発した。
 六花が吹雪に授乳するためだ。
 俺はロボに焙ったエンガワを食べさせた。

 「六花も横になってろよ。まだ先は長いからな」
 「大丈夫ですよ」

 響子が六花の隣でニコニコして吹雪が母乳を飲むのを見ていた。

 「お前もちょっと飲むか?」
 「え、いいよ!」
 「なんだよ、遠慮すんなよ」
 「子どもじゃないもん!」

 「石神先生は一番オッパイを飲みましたよね」
 「おい!」
 「タカトラのエッチ!」
 「違うって!」

 六花が笑っていた。

 「石神先生はお母様が大好きでしたから」
 「あー、そっか」
 「思い出していただきたかったんです」
 「もうやめろって!」

 六花と響子が笑った。

 「吹雪は二番オッパイです」
 「おい」

 六花が何を言いたいのか分かっている。
 最愛の吹雪の上に、俺を置いている。

 「じゃあ、響子は0番な!」
 「なによ、それ!」
 
 みんなで笑った。




 俺は全員を守ってやる。
 誓いを新たにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...