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「堕乱我」狩り Ⅲ
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「「虎白さん!」」
石神家のみんなの笑い声が響いている中で、虎白さんが戻って来た。
私たちはあそこにいても仕方が無いので、ハマーに戻っていた。
中でお菓子を食べていた。
「よう! こっちはなんともねぇか?」
「何体か来ましたが、撃破しました!」
「おう! スゴイな!」
虎白さんが私とハーの頭を撫でてくれた。
「ちょっと刀が折れちまってよ」
「そうなんですか」
「えーと、おお! 虎徹じゃねぇか!」
「タカさんが持って来ました」
「よし! 借りるぞ!」
虎白さんが御機嫌で、虎徹の刀身を見た。
「あの、タカさんは?」
「ああ、楽しんでるよ!」
「そうですか!」
じゃあいい。
このくらいの敵なら、幾ら来てもタカさんなら平気だろう。
「じゃあ、戻るな! お前らも無理しないでいいからな!」
「あの! 夕飯の用意をしておきましょうか?」
「おお! お前ら最高だな!」
「「エヘヘヘヘ!」」
「じゃあ頼むわ! ああ、車から食材なんかは幾らでも出して使ってくれ」
「「分かりましたー!」」
虎白さんが走って行った。
「いつまでやるのかなー」
「なんか、5万体くらいいるよね」
「今2割くらいかな」
「じゃあ、あと5時間くらい?」
「うーん、待ちきれないね」
「先に食べちゃおう!」
「うん!」
タカさん、がんばー。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
虎白さんは戻って来なかった。
多分、ここは少なくなったので、別な場所へ向かったのだろう。
Gショックの時計を見た。
体感の通り、もう1時間戦っている。
先ほどよりも数が減ってペースは緩んだが、それでも休む間もなく攻撃して来る。
まだまだ体力は大丈夫だが、このままもう1時間もすれば疲労も溜まるだろう。
「どうするか」
俺は一気に殲滅することを考えていた。
慣れない剣での戦いに、ジリ貧になることを恐れた。
「虎白さんに確認したいな」
しかし、どこにいるのか分からない。
俺は取り敢えず、移動しながら応戦していった。
あの人は俺に何も教えないくせに、俺が勝手をすれば絶対に怒る。
あの人が怒るとコワイ。
石神家の剣士たちは、多分この状況を目一杯楽しんでいる。
まあ、俺もその感覚はよく分かるが、敵は油断できない。
牙と鉤爪を喰らえばとんでもないことになるらしい。
だから俺はプレッシャーの強い方向へ進んで行った。
恐らく、強い剣士はそっちにいる。
虎白さんたちも尋常じゃない。
俺と同じく、プレッシャーを感じることは出来るはずだ。
ハーやルーほどのものではないにせよ、戦場の経験は豊富なはずだった。
ならば。
俺は濃厚なプレッシャーに向かって行った。
誰かが戦っている音が聞こえた。
俺はそっちへ急いだ。
しかし、虎白さんではなかった。
「あの! 虎白さんを見ませんでしたかー!」
俺も戦いながら近づいて声を掛ける。
「ギャハハハハハハハ!」
「……」
無理っぽかった。
またプレッシャーの強い方角へ進む。
別な人がいた。
「虎白さんを……」
「ギャハハハハハハハ!」
「……」
仕方がない。
俺はまた移動して行った。
段々と、「堕乱我」の強さも増して行った。
体長も2メートルを超える個体もいる。
俺も剣を振るって行くが、「流星剣」でなければとっくに折れていただろう。
周囲に、石神家の人間の気配は無かった。
「不味いかな」
俺は強力な個体の集まる場所へ出てしまったことに気付いた。
まだ俺には余裕があるが、そのうちに大技を使わなければならない可能性を考えた。
「仕方ねぇ! 説明しねぇあの人が悪いんだぁ!」
俺は肚をくくって、よりプレッシャーの強い方向へ向かった。
一層強力で巨大な個体が無数に襲ってくる。
もう、攻撃を喰らわずに済ませることは出来ないと感じた。
《流星斬》
俺は「流星剣」の秘奥義を出した。
刀身を振るった方向へ無数の斬撃が見舞う。
俺の前に、広大な道が出来、その途上に無数の「堕乱我」の死骸が落ちていた。
「やったか」
俺はそのまま生き残った「堕乱我」を屠って行く。
俺の攻撃に放心したか、「堕乱我」の動きが鈍っていた。
周辺の「堕乱我」がいなくなった。
俺は《流星斬》を振るった先へ歩いて行った。
最大5メートルを超える個体も死んでいた。
「虎白さんたちは、大丈夫かな」
ちょっと心配になった。
30分も進むと、池があった。
直径30メートル程。
意外と澄んだ水だった。
そこに、体長10メートルの「堕乱我」の死骸があった。
他の「堕乱我」が黒い体毛であったのと違い、その死骸は真っ白だった。
「なんだ、こいつ?」
「堕乱我」がまったくいなくなったので、俺は池の畔で一休みしていた。
やはり、疲労があった。
30分もそうしていると、大勢が駆けて来る音がした。
「高虎ぁー!」
「あ! 虎白さん! 御無事だったんですね!」
俺は笑って手を振った。
良かった、他の人たちも無事なようだった。
虎白さんが、真っ先に俺の前に走って来た。
「高虎!」
「良かった! みなさん怪我もなくて!」
いきなりぶん殴られた。
数メートル吹っ飛ぶ。
「てめぇ!」
「なんですか!」
「何で「大堕乱我」をぶっ殺したんだぁ!」
「はい?」
虎白さんがゲキ怒だ。
「突然「堕乱我」がみんな死んじまったからよ! まさかと思ってここに来たら! てめぇ、高虎!」
「なんなんですかぁ!」
「お前がやったのか!」
「へ?」
俺は虎白さんが指さしている、でかい白い「堕乱我」を見た。
一瞬で事態を把握した。
この「大堕乱我」という奴が、全ての「堕乱我」の大元だったらしい。
こいつを殺すと全部死ぬ。
「俺がここに来た時にはもう」
「なんだと!」
「老衰だと思いますよ。俺、ほら、医者だから」
「うるせぇ!」
他の石神家の剣士たちが、来年からの楽しみが無くなったとか言っていた。
俺の背中に汗が流れた。
「おい、高虎」
「はい!」
「無数の刀疵があんだけど」
「そうですか!」
「俺、「大堕乱我」は殺すなって言ったよな?」
「え?」
「ほら、最初にお前に言い聞かせたじゃん」
「そんな!」
「言っただろうがぁ!」
「……はい!」
全員にボコボコにされた。
動けなくなったので、太い枝に縄で縛られて運ばれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「よう! 嬢ちゃんら!」
「「お帰りなさーい!」」
虎白さんたちが帰って来た。
もう夕方の5時だ。
丁度食事が出来上がったところだった。
「早かったですね!」
「ああ、ちょっとトラブルがあってな」
「タカさんは?」
「それよりも、夕飯の獲物を獲って来たんだよ」
「そうなんですか! 私たちもシカとかイノシシとか」
「そうか。俺たちはトラ猿を獲って来た」
「へぇー」
後ろに木の枝に吊るされたタカさんが見えた。
「「タカさん!」」
「さー、捌くかぁー!」
「「やめてあげてー!」」
タカさんに「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませた。
ハーと食べながら交代で「手かざし」をした。
またシュワシュワだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺が目を覚ますと、宴会だった。
「タカさん、起きた?」
「大丈夫?」
双子が俺の両側で「手かざし」をしてくれていた。
「おう、何とか今回も生き延びたな」
「「アハハハハハ!」」
ルーが俺に汁物を持って来てくれた。
ハーは肉の残りを探しに行った。
「食べられる?」
「ああ、お前らのお陰だ。またありがとうな」
「ううん!」
ルーが笑った。
美しい顔になった。
ハーが皿に焼いた肉を持って来てくれる。
「お前らは十分に食べたか?」
「「うん!」」
「俺が死に掛けてるのにか?」
「「うん!」」
三人で笑った。
虎白さんがこっちに来た。
「おう、ようやく目が覚めたか」
「やり過ぎですよ!」
「ワハハハハハハ!」
良かった。
もう怒ってない。
「てめぇよ。やってくれたなぁ」
「しょうがないじゃないですか! 全然俺に教えてくれなかったんですから!」
「まあ、そうだったな」
虎白さんが笑った。
「毎年の俺らの数少ないお楽しみだったんだけどな。しょうがねぇ」
「そうだったんですね」
「ほら、俺らって年がら年中仲間同士で斬り合いだろ? こうやって外に出て思い切りぶっ殺すのは滅多にねぇから」
「それはすみませんでした」
「いいよ。また探すさ」
申し訳ないことをした。
「来年からは、俺が何か頼みますよ」
「ほんとか!」
「はい。敵には不自由してないですから」
「そりゃいいや! 流石は当主だな!」
「思ってないくせに!」
「ワハハハハハハ!」
虎白さんが酒を持って来てくれた。
「おい、高虎。お前、楽しんだか?」
「まあ、そうですね。楽しかったですよ」
「そうか。それなら良かった」
「はぁ」
ボコボコにされたが。
「さっきも言ったけどよ。俺らって楽しみ事が少ないんだ」
「そうですか」
「だからよ。お前を誘って楽しいことなんか、こんなものしかなくってな」
「え?」
「悪かったな」
「虎白さん!」
そういうことだったのか。
全然考えてもみなかった。
この人たちは、俺を楽しませようと思って誘ってくれたのだった。
「楽しかったですよ、本当に」
「そうかよ」
俺も笑った。
「虎白さん」
「なんだ、嬢ちゃん?」
「さっき持ってった虎徹は?」
「あ!」
「なんです?」
俺は聞いていなかったが、ハーが説明してくれた。
「あー、あれよ」
「はい」
「途中で折れちまってな。捨てて来た」
「「「えぇー!」」」
虎白さんが怒った顔をした。
「しょうがねぇだろう! 今回はやけにあいつらの数が多かったんだからよ!」
「虎白さん!」
「あんだよ!」
「あの虎徹は俺の家の家宝だったんですよ!」
「嘘つけ!」
頭を引っぱたかれた。
「分かったよ! うちの本家で探してやる」
「いいですよ」
「なに?」
「同田貫を折っちゃったのを、水に流してくれたじゃないですか」
「あ、ああ」
「だからいいですって」
「同田貫の件は終わってねぇんだが」
「なんですか!」
「なんだよ!」
虎白さんが笑った。
「まあ、酒でも飲めよ。嬢ちゃんらは悪いな」
「いいえ。楽しいですよ」
「そうか。ならよかったや」
虎白さんが離れた。
俺は少しだけ飲んで、双子とハマーで眠った。
誰にも邪魔されず、ぐっすりと眠った。
石神家のみんなの笑い声が響いている中で、虎白さんが戻って来た。
私たちはあそこにいても仕方が無いので、ハマーに戻っていた。
中でお菓子を食べていた。
「よう! こっちはなんともねぇか?」
「何体か来ましたが、撃破しました!」
「おう! スゴイな!」
虎白さんが私とハーの頭を撫でてくれた。
「ちょっと刀が折れちまってよ」
「そうなんですか」
「えーと、おお! 虎徹じゃねぇか!」
「タカさんが持って来ました」
「よし! 借りるぞ!」
虎白さんが御機嫌で、虎徹の刀身を見た。
「あの、タカさんは?」
「ああ、楽しんでるよ!」
「そうですか!」
じゃあいい。
このくらいの敵なら、幾ら来てもタカさんなら平気だろう。
「じゃあ、戻るな! お前らも無理しないでいいからな!」
「あの! 夕飯の用意をしておきましょうか?」
「おお! お前ら最高だな!」
「「エヘヘヘヘ!」」
「じゃあ頼むわ! ああ、車から食材なんかは幾らでも出して使ってくれ」
「「分かりましたー!」」
虎白さんが走って行った。
「いつまでやるのかなー」
「なんか、5万体くらいいるよね」
「今2割くらいかな」
「じゃあ、あと5時間くらい?」
「うーん、待ちきれないね」
「先に食べちゃおう!」
「うん!」
タカさん、がんばー。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
虎白さんは戻って来なかった。
多分、ここは少なくなったので、別な場所へ向かったのだろう。
Gショックの時計を見た。
体感の通り、もう1時間戦っている。
先ほどよりも数が減ってペースは緩んだが、それでも休む間もなく攻撃して来る。
まだまだ体力は大丈夫だが、このままもう1時間もすれば疲労も溜まるだろう。
「どうするか」
俺は一気に殲滅することを考えていた。
慣れない剣での戦いに、ジリ貧になることを恐れた。
「虎白さんに確認したいな」
しかし、どこにいるのか分からない。
俺は取り敢えず、移動しながら応戦していった。
あの人は俺に何も教えないくせに、俺が勝手をすれば絶対に怒る。
あの人が怒るとコワイ。
石神家の剣士たちは、多分この状況を目一杯楽しんでいる。
まあ、俺もその感覚はよく分かるが、敵は油断できない。
牙と鉤爪を喰らえばとんでもないことになるらしい。
だから俺はプレッシャーの強い方向へ進んで行った。
恐らく、強い剣士はそっちにいる。
虎白さんたちも尋常じゃない。
俺と同じく、プレッシャーを感じることは出来るはずだ。
ハーやルーほどのものではないにせよ、戦場の経験は豊富なはずだった。
ならば。
俺は濃厚なプレッシャーに向かって行った。
誰かが戦っている音が聞こえた。
俺はそっちへ急いだ。
しかし、虎白さんではなかった。
「あの! 虎白さんを見ませんでしたかー!」
俺も戦いながら近づいて声を掛ける。
「ギャハハハハハハハ!」
「……」
無理っぽかった。
またプレッシャーの強い方角へ進む。
別な人がいた。
「虎白さんを……」
「ギャハハハハハハハ!」
「……」
仕方がない。
俺はまた移動して行った。
段々と、「堕乱我」の強さも増して行った。
体長も2メートルを超える個体もいる。
俺も剣を振るって行くが、「流星剣」でなければとっくに折れていただろう。
周囲に、石神家の人間の気配は無かった。
「不味いかな」
俺は強力な個体の集まる場所へ出てしまったことに気付いた。
まだ俺には余裕があるが、そのうちに大技を使わなければならない可能性を考えた。
「仕方ねぇ! 説明しねぇあの人が悪いんだぁ!」
俺は肚をくくって、よりプレッシャーの強い方向へ向かった。
一層強力で巨大な個体が無数に襲ってくる。
もう、攻撃を喰らわずに済ませることは出来ないと感じた。
《流星斬》
俺は「流星剣」の秘奥義を出した。
刀身を振るった方向へ無数の斬撃が見舞う。
俺の前に、広大な道が出来、その途上に無数の「堕乱我」の死骸が落ちていた。
「やったか」
俺はそのまま生き残った「堕乱我」を屠って行く。
俺の攻撃に放心したか、「堕乱我」の動きが鈍っていた。
周辺の「堕乱我」がいなくなった。
俺は《流星斬》を振るった先へ歩いて行った。
最大5メートルを超える個体も死んでいた。
「虎白さんたちは、大丈夫かな」
ちょっと心配になった。
30分も進むと、池があった。
直径30メートル程。
意外と澄んだ水だった。
そこに、体長10メートルの「堕乱我」の死骸があった。
他の「堕乱我」が黒い体毛であったのと違い、その死骸は真っ白だった。
「なんだ、こいつ?」
「堕乱我」がまったくいなくなったので、俺は池の畔で一休みしていた。
やはり、疲労があった。
30分もそうしていると、大勢が駆けて来る音がした。
「高虎ぁー!」
「あ! 虎白さん! 御無事だったんですね!」
俺は笑って手を振った。
良かった、他の人たちも無事なようだった。
虎白さんが、真っ先に俺の前に走って来た。
「高虎!」
「良かった! みなさん怪我もなくて!」
いきなりぶん殴られた。
数メートル吹っ飛ぶ。
「てめぇ!」
「なんですか!」
「何で「大堕乱我」をぶっ殺したんだぁ!」
「はい?」
虎白さんがゲキ怒だ。
「突然「堕乱我」がみんな死んじまったからよ! まさかと思ってここに来たら! てめぇ、高虎!」
「なんなんですかぁ!」
「お前がやったのか!」
「へ?」
俺は虎白さんが指さしている、でかい白い「堕乱我」を見た。
一瞬で事態を把握した。
この「大堕乱我」という奴が、全ての「堕乱我」の大元だったらしい。
こいつを殺すと全部死ぬ。
「俺がここに来た時にはもう」
「なんだと!」
「老衰だと思いますよ。俺、ほら、医者だから」
「うるせぇ!」
他の石神家の剣士たちが、来年からの楽しみが無くなったとか言っていた。
俺の背中に汗が流れた。
「おい、高虎」
「はい!」
「無数の刀疵があんだけど」
「そうですか!」
「俺、「大堕乱我」は殺すなって言ったよな?」
「え?」
「ほら、最初にお前に言い聞かせたじゃん」
「そんな!」
「言っただろうがぁ!」
「……はい!」
全員にボコボコにされた。
動けなくなったので、太い枝に縄で縛られて運ばれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「よう! 嬢ちゃんら!」
「「お帰りなさーい!」」
虎白さんたちが帰って来た。
もう夕方の5時だ。
丁度食事が出来上がったところだった。
「早かったですね!」
「ああ、ちょっとトラブルがあってな」
「タカさんは?」
「それよりも、夕飯の獲物を獲って来たんだよ」
「そうなんですか! 私たちもシカとかイノシシとか」
「そうか。俺たちはトラ猿を獲って来た」
「へぇー」
後ろに木の枝に吊るされたタカさんが見えた。
「「タカさん!」」
「さー、捌くかぁー!」
「「やめてあげてー!」」
タカさんに「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませた。
ハーと食べながら交代で「手かざし」をした。
またシュワシュワだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺が目を覚ますと、宴会だった。
「タカさん、起きた?」
「大丈夫?」
双子が俺の両側で「手かざし」をしてくれていた。
「おう、何とか今回も生き延びたな」
「「アハハハハハ!」」
ルーが俺に汁物を持って来てくれた。
ハーは肉の残りを探しに行った。
「食べられる?」
「ああ、お前らのお陰だ。またありがとうな」
「ううん!」
ルーが笑った。
美しい顔になった。
ハーが皿に焼いた肉を持って来てくれる。
「お前らは十分に食べたか?」
「「うん!」」
「俺が死に掛けてるのにか?」
「「うん!」」
三人で笑った。
虎白さんがこっちに来た。
「おう、ようやく目が覚めたか」
「やり過ぎですよ!」
「ワハハハハハハ!」
良かった。
もう怒ってない。
「てめぇよ。やってくれたなぁ」
「しょうがないじゃないですか! 全然俺に教えてくれなかったんですから!」
「まあ、そうだったな」
虎白さんが笑った。
「毎年の俺らの数少ないお楽しみだったんだけどな。しょうがねぇ」
「そうだったんですね」
「ほら、俺らって年がら年中仲間同士で斬り合いだろ? こうやって外に出て思い切りぶっ殺すのは滅多にねぇから」
「それはすみませんでした」
「いいよ。また探すさ」
申し訳ないことをした。
「来年からは、俺が何か頼みますよ」
「ほんとか!」
「はい。敵には不自由してないですから」
「そりゃいいや! 流石は当主だな!」
「思ってないくせに!」
「ワハハハハハハ!」
虎白さんが酒を持って来てくれた。
「おい、高虎。お前、楽しんだか?」
「まあ、そうですね。楽しかったですよ」
「そうか。それなら良かった」
「はぁ」
ボコボコにされたが。
「さっきも言ったけどよ。俺らって楽しみ事が少ないんだ」
「そうですか」
「だからよ。お前を誘って楽しいことなんか、こんなものしかなくってな」
「え?」
「悪かったな」
「虎白さん!」
そういうことだったのか。
全然考えてもみなかった。
この人たちは、俺を楽しませようと思って誘ってくれたのだった。
「楽しかったですよ、本当に」
「そうかよ」
俺も笑った。
「虎白さん」
「なんだ、嬢ちゃん?」
「さっき持ってった虎徹は?」
「あ!」
「なんです?」
俺は聞いていなかったが、ハーが説明してくれた。
「あー、あれよ」
「はい」
「途中で折れちまってな。捨てて来た」
「「「えぇー!」」」
虎白さんが怒った顔をした。
「しょうがねぇだろう! 今回はやけにあいつらの数が多かったんだからよ!」
「虎白さん!」
「あんだよ!」
「あの虎徹は俺の家の家宝だったんですよ!」
「嘘つけ!」
頭を引っぱたかれた。
「分かったよ! うちの本家で探してやる」
「いいですよ」
「なに?」
「同田貫を折っちゃったのを、水に流してくれたじゃないですか」
「あ、ああ」
「だからいいですって」
「同田貫の件は終わってねぇんだが」
「なんですか!」
「なんだよ!」
虎白さんが笑った。
「まあ、酒でも飲めよ。嬢ちゃんらは悪いな」
「いいえ。楽しいですよ」
「そうか。ならよかったや」
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