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「堕乱我」狩り Ⅱ

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 山の中へ入ると、間もなく林の中へ進んで行った。
 入ってから、初めてそこが道であることが分かる。
 日本には山が多い。
 背骨のように中心に山があり、だから海浜へ向かっての河川が多く、それが日本を「水の国」として発展させてきた。
 全国で水耕地が多いのも、そういう理由だ。
 世界でも珍しい地形の国なのだ。
 他の国では、水の確保に苦労して来た。
 今でもそういう地域は幾らでもある。
 しかし、日本ではどこでも水が手に入る。
 しかも清流が多かった。
 まあ、今では汚れた場所も多いが。

 その代わり、日本の水は軟水だ。
 中央の山から急流で流れ去ってしまうためだ。
 ヨーロッパはカルシウム大地と呼ばれるほど、地中にカルシウム成分が多い。
 だから硬水になる。
 西洋人の骨格が大柄なのも、それに起因している。
 日本人にカルシウムとミネラルが不足しがちなのは仕方がない。
 明治時代に日本を訪れた外国人が、日本人の歯の悪さを驚いて記録しているものがある。
 まあ、今では洋食文化が多いので、日本人も大柄な人間も増えてはいる。

 日本人はだから、「山」を大切にしてきた。
 山岳信仰がこれほど多い民族はいない。
 修験道が古くからあるのも、「山」を特別視してきたためだ。
 そして、日本人は「山」のことを知り、山がただの物質ではないことを知った。
 今回の「道」もその一つだ。
 日本には太古から「高速道路」があったのだ。
 ある「道」を進めば、街道を進むよりもずっと速く目的地に着ける。
 物理的な距離の問題ではない。
 もちろん一部の人間しか知らないことだし、現代では走って移動する人間もいないので、ほとんど知られなくなった。
 俺も知識として知っているだけで、実際に踏み込んだのは今回が初めてだ。

 「おい、虎白。なんかいねぇな」
 「そうだなぁ。今回は時間が掛かるかもしんねぇな」
 
 前で虎白さんたちが話していた。
 双子が前に出る。

 「虎白さん! 私たちが索敵しようか?」
 「おお、嬢ちゃんら、出来んのかよ?」
 「うん! やってみるね!」

 ハーが両手を伸ばして周辺を探った。

 「あっち!」
 「おし! 行くぞ!」

 みんなで移動した。





 「虎白」
 「おう。いるな」
 「じゃあ、行くか!」

 「待って!」

 ルーとハーが止めた。

 「どうした?」
 「両側の森の中に、沢山いるよ」
 「挟撃しようとしてるんだと思う」
 「マジか!」
 「「うん!」」
 
 「おし! じゃあ行くぞ!」
 「「え?」」

 話を聞いていないのかと思った。
 虎白さんたちはそのまま、目の前の「堕乱我」たちに突っ込んで行く。
 「堕乱我」は体長が様々で、50センチくらいの奴から1メートルくらいまで。
 コウモリに似ているが、翼と腕は分離している。
 腕は人間のようで、ただし手に鋭い鉤爪があった。
 口はコウモリと同じで脇に裂けて大きく、鋭い牙もあった。

 虎白さんたちは全員鞘を置いて、剥き身の刀身を握って走って行った。

 「堕乱我」が気付いて向かってくる。
 空中へ浮かぶが、それほど飛翔力は無いようだった。
 
 「いいか! なるべく奥義は使うな!」

 虎白さんが叫び、全員が応じた。

 「刀が折れた奴は戻って交換な!」

 また全員が応じる。

 「高虎! お前も来い!」
 「は、はい!」

 呼ばれたので俺も突っ込む。
 「流星剣」を握った。

 「お前らは遠慮なく「花岡」をぶち込め! こっちに来たらな!」
 「「はーい!」」

 まあ、双子は大丈夫だろう。

 既に虎白さんたちは「堕乱我」を攻撃し、次々に屠って行く。
 俺の傍に寄って来た。

 「爪と牙に気を付けろ。やられると肉が腐るからな!」
 「はい! あの!」
 「どうせ、またあの万能薬を持って来たんだろう。あれで多分大丈夫だ!」
 「分かりました! あの!」
 「俺が止めるまで斬りまくれ!」
 「はい! あの!」
 
 「てめぇ! なんだよ!」
 「そういうことは事前に言って欲しいかって。俺、初めてなんで」

 いきなり頭を殴られた。

 「ぐずぐずしてっとてめぇも的にすっぞ!」
 「すいません! 当主の高虎でしたぁ!」

 また殴られそうだったので、急いで「堕乱我」に斬り込んで行った。
 数は大体50体くらいか。
 しかし、双子の索敵で更に両側に大勢の個体がいるらしい。
 俺は戦況を見て虎白さんたちに合わせようと考えていた。
 場合によっては「花岡」の殲滅技を使う。

 



 しかし、その心配は無用だった。
 50体を短時間で斃し切っていた。
 
 「死骸を片付けますか?」

 俺が聞くと、虎白さんが刀の先で示した。
 死骸が崩れている。

 「こいつら、死ぬとすぐにグズグズになんのよ。片付ける必要はねぇ」
 「はい! 失礼しましたぁ!」

 だから教えてくれって。

 虎白さんたちは笑ってルーとハーのいる場所へ戻ろうとした。
 全員が笑顔で笑い、話している。
 その時、両脇からプレッシャーが来た。
 同時に、虎白さんたちが笑いながら散っていく。

 「ワハハハハハハ! 油断したと思ったかぁ!」
 「皆殺しだぁ!」
 「斬り放題だぜぇ!」
 「オラァ! こっちこい! 斬ってやっからよ!」
 
 ゲラゲラ笑いながら、刀を振るって行く。
 両脇から多分1000体以上の「堕乱我」が来た。
 それがどんどん削られて行く。
 みんな目の前の獲物を斬り裂き、奥へ向かって行く。
 連携は最初から無かったが、これはまずいと思った。
 各個撃破にしては、俺たちの人数は圧倒的に少ない。
 そのうちに取り囲まれると俺は思った。

 「虎白さん! 一旦戻って下さい!」

 俺が大声で叫んだ。
 返事は無かった。

 「虎白さん! 集まらないと不味い!」
 
 俺の声は響いているはずだが、誰も戻って来なかった。
 その代わり、遠くで笑い声が聞こえた。

 『ギャハハハハハハハ!』

 俺は駆け出して、虎白さんの向かった方角へ急いだ。

 「ギャハハハハハ! 楽しいぜ、こりゃぁよ!」

 虎白さんが縦横に舞い、死骸の山を築いていた。
 俺も離れた「堕乱我」」を斬っていく。
 「堕乱我」が俺を取り囲み始める。
 俺も舞って片付けて行く。
 無数の死骸を作りつつ、俺も楽しくなってきた。

 「ギャハハハハハ!」
 
 虎白さんが俺を一瞥し、満足そうに笑っていた。

 「楽しいっすね!」
 「そうだろうがぁ!」

 「「ギャハハハハハハ!」」

 どんどん斃して行ったが、突然虎白さんが叫んだ。

 「たんまぁー!」

 俺が見ると、虎白さんの刀が折れていた。

 「虎白さん!」
 
 俺は駆け寄ろうとしたが、虎白さんが「堕乱我」に囲まれ、一斉に襲われた。

 《無限斬!》

 数十の「堕乱我」が細切れにされて吹っ飛んだ。

 「!」

 「たんまだって言っただろうがぁ! おい、高虎! ちょっと刀を取りに行ってくる!」
 「は、はい!」
 「おい! それまであんまし斬るなよな!」
 「はい?」
 「俺の分も残しとけぇ!」
 「はい!」

 


 今の虎白さんの技って。
 あれって、磯良の技じゃねぇのか?

 俺は考える余裕もなく、群がって来る「堕乱我」を斬って行った。
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