富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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斬の詫び

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 スージーを見送った日曜日の午後。
 斬から電話が来た。

 「なんだ、どうした?」
 「お前に会いたい」
 「おう! いよいよ死ぬか!」
 「ふん!」

 こいつが早朝以外に電話をして来たのは初めてだ。

 「なんだよ、何かあったのか?」
 「直接会って話したい」
 「電話じゃ無理なのか?」
 「そうだ」
 「早い方がいいか?」
 「お前の都合の良い時でいい」
 「それなら、今晩来いよ。大丈夫か?」

 俺の都合に合わせると言っていたが、何か早く話したいのだろうと思った。

 「構わない。すぐに行く」
 「俺から行こうか?」
 「いや、わしが出向くべきことだ」
 「そうか。じゃあ待ってるぞ」
 「すまん」

 電話が切れた。
 あいつ、すまんって言ったぞ。
 なんなんだ?





 ということで、子どもたちに斬が来ることを話した。
 驚いてはいたが、以前のような緊張はない。
 一緒に戦い、特に亜紀ちゃんを助けてくれた人間だからだ。

 「タカさん! 斬さんが来てますよ!」
 「早いな!」

 電話を切って、30分も経っていない。
 晩に来いと言ったはずだが、あいつが非常識な奴だと忘れていた。

 「おい! 夜に来いって言っただろう!」
 「すまん」

 斬が頭を下げた。
 信じられないことが起きている。

 「お前、今「すまん」って言った?」
 「そうじゃ。お前がだらけた生活をしておるのを忘れておった」
 「てめぇ!」

 まあ、非常識な男だ。
 俺はコーヒーを亜紀ちゃんに頼んだ。

 「こいつは水でいいぞ」

 亜紀ちゃんが二人分のコーヒーを淹れて来た。
 「飛行」で来たことは分かっている。
 新幹線がもどかしかったのだろう。
 いつもの着物と袴であり、音速は超えずに来たと思える。
 一息ついたら、地下で話を聞こうと思っていた。
 どういう用件かは分からないが、斬は俺と話したがっている。
 子どもたちには伏せた方がいいかもしれないからだ。

 「こんな早くによ。やっぱり急ぎの要件だったのか」
 「そうではない。詫びに来たのだ」
 「なんだ?」

 斬が椅子から立ち、床に伏せた。

 「おい!」
 「申し訳なかった! 今回の件、わしは何一つ役に立てなかった」
 「何の話だよ!」
 「お前が襲われたというのに。何一つ!」

 流石に分かった。
 一連の爆弾魔の件を詫びに来たということか。

 「そればかりか、お前に手間を取らせてしまった。わしなどのことを気に掛けてくれた。本当に申し訳ない」
 「あー」
 「お前は「花岡」の当主だ。それなのに「花岡」を名乗りながら、わしは何一つできんかった」
 「もういいって」

 俺は笑って斬を立たせた。

 「詫びは受け入れた。もうそれでいい」
 「しかし!」
 「お前は死んでもやりたくなかったことをした。それでいいよ」
 「お前に詫びたかったのだ! どうしてもお前に!」
 「分かったよ。十分だ。今後も頼むぜ」
 「……」

 斬は俺に言われて椅子に座った。
 コーヒーを飲めと言うと、素直に飲んだ。

 「じゃあ命令だ。お前は今日は泊って行け」
 「分かった。世話になる」
 「おう! ああ、ハー!」
 「はい!」
 
 ハーが何事かと俺を見る。

 「夕飯に新鮮な卵が欲しい。斬を連れて取って来てくれ」
 「はーい!」

 ハーと斬が出て行った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ここだよ!」
 「なんじゃ?」
 「うちのニワトリがいるの。6羽ね」
 「そうか」
 「ちょっとおっきいの」
 「そうか」
 「襲ってくるから倒してね。あ、殺さないでよ!」
 「分かった」

 鋼鉄製のドアを開けて、斬さんと一緒入った。
 知らない人間の臭いを感じたか、コッコたちはドア脇に潜んでいた。
 斬さんは、どういうわけかちょっと気が抜けていたと思う。
 いつもの刃みたいに冷たくて鋭い頭じゃなかった。

 いきなり斬さんが顔を蹴られた。
 6羽の一斉攻撃だった。
 今まで1羽が基本だったけど、斬さんの実力がコッコたちにも分かったのだろう。

 「あ……」

 次の瞬間、斬さんが動いて6羽を地面に沈めた。

 「流石だね!」
 「ふん!」

 斬さんに卵の場所を教え、私はコッコたちに「手かざし」をした。
 二人で卵を持って帰った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ワハハハハハハハハハハハ!」

 斬が真っ赤になって俺を睨んだ。

 「お前! なんだよ、その顔の痣は!」
 「ふん!」

 左の頬に、コッコたちの足の形に痣が出来ていた。

 「お前! 「花岡」を極めたんじゃねぇの?」
 「うるさい! あんなものがいるのなら最初に教えろ!」
 「あー、お前なら何のこともねぇと思ってたからな。お前、弱かったんだな」
 「お前!」
 「悪かった。今度はもっと気を遣うようにするよ」
 「ふん!」

 亜紀ちゃんが笑いながら卵を調理した。
 金華ハムと一緒に炒め、ハムエッグを作る。

 「おい、食べろよ。まだ昼飯を喰ってないんだろう」
 
 仏頂面の斬だったが、俺に言われて箸で食べた。
 人殺しのくせに、所作が美しい。

 「美味いな」
 「そうだろう? 特別なニワトリだからな」
 「化け物だろう」
 「ああ、お前にとってはな!」
 「ふん!」

 斬が俺を睨んだが、黙って食べた。

 


 一番頭を下げたくない俺に、遠路詫びに来た。
 すぐに帰りたかっただろうに、俺が言ったので一泊することにした。
 頑固で純粋な奴だ。
 まあ、喜ばせてやる。
 楽しい週末になった。
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