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野薔薇ちゃん 大阪入り

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 チャイムが鳴った。
 うちにはいろいろな人が来るようになった。
 梅田精肉店の同僚も遊びに来てくれるし、毎日「絶怒」の人は訓練で来てくれる。
 他にも市役所の人なんかも来る。
 私の家を、災害の避難場所にしたいと言ったら、すぐに担当の人が来ていろいろと打ち合わせたりした。

 「室内で多分500人程度は収容出来ます。庭にテントを張ってもいいし、長引くようであればプレハブの簡易住宅なども」
 「それは! 大変有難いお話です!」
 
 非常食や備品の手配を私がすると、市長さんまで来て感謝されてしまった。
 石神さんの言う通りにしているだけなのだけど。

 でも、今日のお客さんはちょっと違っていた。

 「はーい! アシュケナージですが、どなたですか?」

 インターホンで確認した。
 画像は小さな女の子だ。
 着物を着ている。

 「お父様より、風花様をお守りするように言われて来ました」
 「ああ!」

 石神さんから連絡があった。
 特別に、短期間私や梅田精肉店や私が大事にしている場所を守ってくれる方だと。
 人間ではないけど、信頼できる相手だと言っていた。
 自分のことを「お父様」と呼ぶけど、気にするなと言われていた。
 私はすぐに門を開け、玄関に出迎えに行った。

 「はじめまして。アシュケナージ風花です」
 「野薔薇と申します」

 丁寧に挨拶された。
 上のリヴィングに通して、紅茶を出した。

 「あの、こういうものも大丈夫ですか?」
 「はい。ありがとうございます」

 野薔薇ちゃんは嬉しそうに笑って紅茶に口を付けた。
 クッキーを出すと、それも美味しそうに食べてくれる。
 良かった、これから一緒にお食事が出来る。

 「石神さんには本当にお世話になっているの。今回もわざわざ素敵な人を護衛に付けてくれて」
 「ありがとうございます。必ずお守りしますね?」

 その時チャイムが鳴り、「絶怒」の人たちが今日の訓練でやってきた。
 門を開けるリモコンは持っているので、私に挨拶だけして、訓練を始めた。

 「風花様の近くにいる人たちですね?」
 「そうなの。「絶怒」という運送業とかの会社なんだけどね。みんな結構強いんだ」
 「さようでございますか。宜しければ、わたくしも確認しても?」
 「え? ああ、そうだよね。じゃあ庭に行こうか」

 私は野薔薇ちゃんを連れて、庭の訓練場へ向かった。
 野薔薇ちゃんが、私の手を握って来る。
 少し冷たいが、優しく私の手を持っている。
 私が微笑みかけると、野薔薇ちゃんも微笑んで私を見た。

 見た目には小学二年生くらいか。
 あどけない姿だが、目には深い知性があった。
 妖魔と聞いているので、見た目通りではないことは分かっている。

 


 「風花の姐さん! その子は?」

 「絶怒」のリーダーの東門さんが声を掛けて来た。

 「石神さんから、うちの護衛のために来てくれたの。野薔薇ちゃん」
 「え? この子が?」

 見た目ではそう思うだろう。
 野薔薇ちゃんは表情を冷たくし、東門さんに言った。

 「おい、雑魚」
 「え?」
 「お前らも守れとお父様がおっしゃった。だから守ってはやる」
 「へぇー! でもさ、俺らもそこそこ強いから。心配いらないよ?」
 「ほう、じゃあ少し試してやる」

 野薔薇ちゃんがそう言って、東門さんに向かって歩き出した。

 「行くぞ」
 「アハハハハハ!」

 東門さんが飛んでった。

 「東門さん!」

 壁にぶつかって動かなくなる。

 「おい!」

 一緒に練習していた「絶怒」の人たちが集まって来た。

 「お前! 何をした!」

 次の瞬間、全員が吹っ飛んで行った。
 東門さんと同じく、壁にぶつかって動かない。

 「野薔薇ちゃん! もうやめて!」
 「はい。大体分かりました。やっぱり使えない連中ですね」
 「……」

 私は野薔薇ちゃんにそこにいるように言い、「絶怒」の人たちの様子を見に行った。
 幸い脳震盪だけのようで、無事だった。
 東門さんは最初にダメージが抜けて立ち上がった。

 「おい、これはなんだ……」
 「まだ寝てて下さい! 何ともありませんか?」
 「ああ。手加減されたのは分かってます。でも、何をされたのかはさっぱり」

 野薔薇ちゃんが来た。

 「風花様の足元にも及ばないな。お前らに出来るのは、風花様の前に立って死ぬことだけだ」
 「!」
 「まあ、それが出来れば上等だな」
 
 「俺らはそのためにここにいるんだ」
 
 東門さんが真直ぐに野薔薇ちゃんを見て言った。

 「ほう」
 「俺らは石神さんが大好きだ。それにみんな、風花さんのことも大好きなんだ。だから俺らはそのために前に立つよ」
 「そうか」
 「何も出来ないほどに弱いっていうのは、もう十分に分かってる。だけどよ、弱いから何もしないなんて生き方は出来ねぇ。石神さんたちの敵は恐ろしい連中なんだろ? だったら俺らが前に並んで、少しでも攻撃を防いでみせるわ」
 「そうか。ならば時間があれば私が鍛えてやろう」
 「ああ、頼む!」

 よくは分からないけど、お互いに認め合ったのかな?
 東門さんたちは練習を再開し、私は野薔薇ちゃんと中へ入った。
 歩きながら、野薔薇ちゃんが嬉しそうに笑っているのに気付いた。

 


 「風花様」
 「なーに?」
 「風花様が守りたい人間、場所をお見せ下さい。わたくしが必ずお守りいたします」
 「はい。宜しくお願いします」

 「先ほどの連中も、ご安心してお任せ下さい」
 「うん! お願いね!」
 「お父様のために戦いたいと言う者であれば、わたくしが必ず」
 「うん!」

 私はすぐにと言う野薔薇ちゃんを案内した。
 梅田精肉店、定食「宝屋」さん、「絶怒運送」と「絶怒」のみなさんのいろいろな会社やお店、それと誰もいないけどお母さんのお墓。

 「分かりましたが、これだけでございますか?」
 「うん、大体はこんな感じかな」
 「思っていたよりも少ない……」

 野薔薇ちゃんが呟いた。

 「結構広い範囲だし、大勢の人間がいると思うんだけど?」
 「はい。わたくしはお母様から能力を分けて頂いておりますので。それにお父様の血と。ですので、もっと大勢で、もっと広い範囲もお守りできるのですが」
 「え!」

 「他にはございませんか?」
 「あのね、本当は梅田の、ううん、大阪の皆さんを全員守って欲しいの!」
 「かしこまりました」

 野薔薇ちゃんが嬉しそうに笑った。

 「私ね、大阪が大好きなの。ここで生まれて育ったから! みんなに良くしてもらって、今の私がいるのね? だから本当に出来るのならば、大阪を守って欲しい」
 「はい、必ず。風花様の大切なものは全てお守りいたします。先ほどご案内して下さった方々は特に」
 「ありがとう、野薔薇ちゃん!」
 
 野薔薇ちゃんが私を見て、また微笑んだ。

 「お父様の血が、わたくしに多くのものを守りたいという心にさせてくれています。ですので、それが出来るように、わたくしは生まれました」
 「そうなんだ!」

 よくは分からないが、野薔薇ちゃんは優しい子なのだと分かった。

 


 その晩、私が作った夕飯を、野薔薇ちゃんは美味しいと言って食べてくれた。
 お風呂を勧めると、喜んで入りに行った。
 その間に、石神さんに電話をした。

 「ああ、もうそっちへ着いたのか!」
 「はい! とってもいい子でありがとうございます」
 「いや、あいつは妖魔と言っても特殊だからなぁ」
 「はぁ。あの、石神さんのことを「お父様」と呼ぶのはどうしてなんでしょうか?」
 「あ、あ、あのね。まあ、そういうことなんだよ」
 「はい? えーと、石神さんとタヌ吉さんの間に生まれたということですよね?」
 「ま、まあね」

 石神さんが珍しく言い淀んでいる。
 いつもは即座に直言する人なのだが。

 「妖魔との間に、子どもが出来るんですか?」
 「うん。あ! あのさ! 妖魔との契は特別だからな!」
 「はい、そうでしょうね?」
 「ほら! 亜紀ちゃんにも言ったんだけど、こう突きを入れるっていうの?」
 「はい?」
 「どんどん突いてさ! シュッ、シュッ、そういうことだから!」
 「はい」

 またよく分からなかったが、そういうことらしい。
 まあ、野薔薇ちゃんは本当に可愛くて優しい子だから、どうでもいいか。
 お姉ちゃんが落ち着いたら、聞いてみよう。
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