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道間皇王

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 「あなたさま!」
 「ちょっと落ち着け! 大丈夫だから!」
 「そんなこと! すぐに抜かなければ!」
 
 麗星は必死になって「小柱」を抜こうとする。
 しかし、飛び出ている頭が掴めない。

 「どうしてぇー!」
 「無理なんだ。とにかく落ち着け」

 麗星が俺の胸を叩く。
 亜紀ちゃんもおろおろと見ているしかない。

 「あなたさまが! あんなものを持って来るから!」
 「悪かった! でも絶対に悪いものではない! 俺が必ず何とかする!」

 麗星が徐々に落ち着いて天狼を抱き上げて泣いている。
 五平所も来て、不安そうに見ている。

 天狼に異常は無い。
 スヤスヤと眠っている。
 そのことで、麗星も五平所も徐々に落ち着いて来た。
 しばらくして、二人の様子が変わった。

 「!」
 「お屋形様! これは!」

 俺と亜紀ちゃんには何も分からない。

 「五平所! すぐに結界を調べなさい! これはもしや……」
 「何かあったのか?」
 「しばらくお待ちを。結界が内側から変えられているようなのです」

 五平所が部屋を出ようとすると、突然大きな音が響いた。
 部屋の中に置いてある、燻んだ青みがかった鎧が崩れたのだ。

 「「!」」

 「「?」」

 五平所が床に散らばった鎧の方へ歩いて行く。
 
 「お屋形様!」
 「これは! 《道間皇王》!」

 「「なに?」」

 麗星と五平所が鎧を天狼のベッドの下に並べ始めた。
 そのまま天狼に向かって平伏する。

 「「?」」

 俺と亜紀ちゃんは訳も分からずに見ていた。

 「俺たちもやった方がいいのかな?」
 「さあ」

 しばらくすると、二人が立ち上がり、俺たちに向いた。

 「失礼しました。今、道間家に長らく伝えられている神義が起きましたので」
 「なんですか?」
 「あの鎧は、道間家の血筋の子どもが生まれると、必ず近くに置くことになっているのです」
 「はぁ」
 「あの鎧はどういうものか、強く結合していて外すことは出来ないのです」
 「へぇ」
 「しかし、《道間皇王》が誕生した時、その結びが解けて装着することが出来ると」
 「はい」

 麗星の後ろで五平所が両手を何度も上に上げている。
 もっと驚けということなのだろう。

 「「スゴイですね!」」
 「そうでございましょう! まさかわたくしも、自分の目でそれを見ようとは思いませんでした!」
 「「うわー!」」

 五平所が頭の上で〇を示す。

 「《道間皇王》は、道間家の到達点です。究極の存在であり、巨大な悪を滅する役割を担っています」
 「「それはスゴイ!」」
 「天狼という名もそうなのですが、それに加えて《道間皇王》の役割も担うとは! あなた様! わたくしはその母となったのでございます!」
 「良かったね!」
 「はい!」

 どうもよく分からんが、ノっておかなければならないようだった。

 「あ! タカさん!」
 「お!」

 亜紀ちゃんが指さし、見ると「小柱」が天狼から抜け出て、パタパタと空中を舞っていた。

 「出たか!」

 みんなで見ていた。
 案外カワイイと思った。

 「あの麗しい方のお陰だったのですね!」
 「え? さっき「あんなもの」って言ってた……」
 「わたくし、最初から分かっておりました」
 「「あんなもの」……」
 「神々しさが眩しいほどで。ああ、なんという!」
 「……」

 「小柱」が俺に向かって急降下してきた。

 「おい!」

 俺は手を前に翳して防ごうとしたが、「小柱」は俺の腕をすり抜けてまた胸の中へ埋まった。

 「お前! 出ろ!」
 「「「……」」」

 三人が俺を見ていた。
 
 「さあ! お食事にしましょうか!」
 「そ、そうですね」
 「どんな料理かなー!」
 「……」

 無視された。
 



 夕飯は真鯛の幽庵焼き。
 神戸牛のステーキ(亜紀ちゃん大量)。
 里芋の柚子味噌かけ。
 湯豆腐(京都の豆腐は違うなー)。
 その他各種器。
 キノコの炊き込みご飯。
 椀は俺の大好きなハマグリだ。

 俺と亜紀ちゃん、麗星と五平所の四人で食べる。

 「この後で別に宴を開きますので」
 「え!」
 「今道間家に関わる人間に集まるように連絡しております」
 「それはまた改めてでも。急じゃありませんか?」
 「いいえ! あなた様のいらっしゃる時でなければ!」
 「はぁ」

 《道間皇王》の祝いだそうだが。
 前回も俺が「天狼」などと名付けたばかりに、大宴会が開かれた。
 またやるのか。

 俺はその前に風呂に入りたいと言った。

 「ウフフフフ」

 麗星が笑い、俺と一緒に入って来た。
 二人で愛し合う。
 湯船に一緒に入った。


 「しかしあなた様。あなた様ははどうしてこうも道間家に良いことを運んで下さるのか」
 「俺のせいじゃないよ。お前が必死になって頑張っているからだろう」
 「そんなことは。もうお返し出来ないほどの御恩を頂いてしまいました」
 「そんなものは無いよ」
 「いいえ。ですので、もう返すことは諦めました」
 「そうか」
 「はい。これからは全身全霊であなた様のお役に立つつもりです」

 俺は麗星を抱き締めた。

 「俺がお前に惚れてるだけだ。お前は何も恩義など感じる必要はない」
 「わたくしも、あなた様のことが……」

 長いキスをした。





 宴ではまたみんなが楽しく騒ぎ、そういうのが大好きな亜紀ちゃんも嬉しそうだった。
 深夜まで盛り上がって飲んでいた。

 部屋に入ると、流石に俺もきつかった。
 相当飲まされた。

 ベッドに横になると、胸から「小柱」が出て空中を飛び始めた。

 「うぜぇ! お前も寝ろ!」

 「小柱」がまた俺の胸に潜る。

 「そこじゃなく、普通に寝ろ!」

 そのままだった。
 なんなんだ、こいつ?
 俺は自分の胸を撫でた。

 「まあよ。お前のお陰で道間家のみなさんが喜んでた。ありがとうな」

 「小柱」がまた抜け出して空中を舞った。

 「だからうぜぇ!」
 
 また胸に戻る。

 「もういい!」

 俺は笑いながら眠った。
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