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その着せ替え人形はバトルをする Ⅱ

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 会場の屋上に出ると、レイヤーたちが楽しそうにポーズを決めたりしていた。
 互いに声を掛け、一緒に写真を撮ったり、また撮影専門の人間もいて、高そうなカメラ機材を手にレイヤーたちを撮っていた。
 俺たちは蓮花がカメラを持っている。
 でかいレンズを幾つも持って来たようで、それらはミユキが抱えていた。
 蓮花の指示で、素早くレンズ交換をする。

 「お前もやったのかよ」
 「はい!」

 ミユキは『サーモン係長』の中に出て来る「マッド・ホホジロ」のコスプレをしていた。
 俺が出したアイデアのキャラで、途方もない銃火器の攻撃力でサーモン係長をバラバラに吹っ飛ばす。
 サーモン料理で毎回死ぬというパターンを打ち破るキャラで、猪鹿コウモリには大好評だった。
 マフィアに飼われている暗殺者ということで、全身に数々の武器を提げている。

 「お前、その武器って本物か?」
 「もちろんでございます。普通の場所で「花岡」を見せるわけにも参りませんので」
 「……」

 まあ、リアルに見えていいかもしれない。

 俺たちは、隅の方で撮影を楽しんでいた。
 俺は何枚か鷹と一緒に写真を撮った。
 ラストシーンの、俺が膝をついてインテグラの手に口づけするシーンも撮った。

 「カッコイイ!」

 他のレイヤーたちが気付いて俺たちに近づいて来る。
 少々古いコスプレだったが、有名な作品なので知っている人間も多かった。
 俺や鷹に多くの人間が集まり、次に一江の物凄い装備に驚いていた。

 やがて子どもたちのコスにも人が集まり、同じ『異世界丹沢ゴーゴー』のコスのレイヤーたちが群がって来る。
 口々に、完成度の高さを褒められた。

 「その熊、本物みたいですよね!」(本物だ)
 「コウモリ姉妹! カワイイ!」(カワイイね)
 「なに! アイちゃん、尊すぎだよー!」(そうだろう!)
 「ネコ王ロボ! カワイイよー!」(もちろんだ!)

 ロボがジルバを踊り、ますます人気者になった。

 子どもたちがニコニコして、他のレイヤーたちと一緒に撮影をして行く。
 みんな礼儀正しい。
 亜紀ちゃんや双子は肌の露出も多いが、嫌らしい視線は無かった。
 コスを愛する人間たちなのだろう。

 次第に俺たちの周囲に人が集まって来た。
 撮影の合間に、質問もされる。
 
 後ろで動かないシャドウも話し掛けられる。

 「すいません、「公太郎」って何のキャラなんですか?」
 
 縦書きの名札なので、間違えて読まれていた。
 大体、今更ハム太郎なんて誰も知らない。
 俺もよくは知らん。

 「ああ、『異世界丹沢ゴーゴー』で近く出て来るんですよ」
 
 俺が適当なことを言うと大騒ぎになった。

 「知らなかった!」
 「あの作品に何かご関係が?」

 大アリなのだが。

 「作者の猪鹿先生とは少し。時々アイデアを出したりしてますよ」
 「そうなんですか!」

 まあ、ここだけの付き合いの連中だ。
 シャドウも乗って来た。

 「では、公太郎スピンをお見せしましょう」
 
 シャドウが空中に高速スピンで舞い上がった。
 20メートルも飛ぶ。
 やり過ぎだ。
 でも、蓮花が大喜びで写真を連写で撮っていた。
 地上に降りて来たシャドウと嬉しそうに話している。

 全員が拍手して褒め称えた。
 それを見て、自分たちも注目されようと子どもたちが行動し始めた。

 「熊アタァーック!」

 亜紀ちゃんが「ヘビ夫」の皇紀にぶち込み、皇紀が100メートルぶっ飛ぶ。

 「「コウモリ・シュート!」」

 双子が空中に「双雷花」を撃ち、ナゾの二重螺旋の巨大な光線を伸ばした。

 「お前ら! いい加減にしろ!」

 俺が頭を引っぱたき、辞めさせた。
 でも、みんなに褒め称えられていた。
 面白くねぇ。

 「アーカードさん、銃を持ってポーズしてくれませんか?」

 ニコンのD6にでかいレンズを付けた男性の撮影者が俺に声を掛けて来た。
 俺はニッコリと笑って、両腕を左右に伸ばして二丁の拳銃を突き出してやった。

 「カッコイイですよ!」

 幾つかポーズをリクエストされ、俺は気分よく応えてやった。
 六花も自分のスマホで一緒にバンバン撮って行く。

 「じゃあ、引き金を引いてみてください!」
 「おい、オモチャの銃なんだよ」
 「構いません! 本当に撃つ感じで」
 「分かったよ」

 俺は誰もいない方向に向かってジャッカルのトリガーを引いた。

 《ドゴォォォーーーン!》

 右手に物凄い衝撃が来た。
 みんな、俺の方を向いて呆然としている。

 「……」

 蓮花が、本物の銃を作っていた。

 「タカさん! 何やってんですか!」
 「俺じゃねぇ! 蓮花が!」
 
 亜紀ちゃんが飛んで来た。
 蓮花が、離れた場所で腕を交差し、「×」を示している。
 まさか撃つと思っていなかったのか。
 俺が駆け寄ると、必死に謝って来た。

 「石神様がお持ちになるものでしたので」
 「バカ!」
 「ニセモノを持たせるのに忍びなく」
 「アホか!」

 俺はカメラマンに火薬を仕込んでいたのだと無理な言い訳をした。
 
 「びっくりしましたよ」
 「俺もだ。聞いてなかったんでね」

 何とか納まった。
 
 もう帰ろうと思い、みんなの方を見た。
 一江が別なカメラマンに撮られている。

 嫌な予感がして、蓮花に近づいて聞いた。
 
 「おい、まさかハルコンネンⅡが稼働することはねぇだろうな?」
 「……」
 
 蓮花が脂汗を流していた。

 「おい!」
 「クモ子! 一江さんをお止めしなさい!」

 それまで目を閉じて動かなかったクモ子が、8本の足を高速稼働させ、一江に迫った。
 その異様な動きに、その場の全員が固まる。
 人間の足の動きではないからだ。

 クモ子は手に持った槍でハルコンネンⅡの砲塔を破壊し、一江を抱えて戻って来た。

 「ギャァァァァァァァァーーーー!」

 一江が絶叫した。

 「て、てっしゅぅーーー!」

 呆然としているレイヤーやカメラマンたちを無視し、全員がハルコンネンⅡの破片を拾い集めて走って逃げた。
 ロボが「ばーん」をしそうになっていた。
 必死で割れた尾を手で掴み、抱きかかえて走った。
 クモ子が響子を抱え、蓮花はシャドウに抱えられていた。
 一江がミユキに背負われている。
 六花は吹雪を抱え、キッチと大笑いしながら付いて来た。

 



 駐車場まで直行し、急いで逃げ帰った。
 
 俺の家に集まり、一応祝いのパーティのようなことをした。

 「石神様、申し訳ございませんでした」
 
 俺は笑って軽く蓮花の頭をはたいた。

 「おい、楽しかったな!」
 「はい!」

 蓮花が嬉しそうに笑った。
 まあ、こいつが楽しんでくれたのなら、別にいい。

 「石神先生! 次回は私も是非!」
 
 六花が言った。

 「もうやらねぇよ!」
 「エェー!」

 



 その晩、また双子と一緒に寝て、『ローゼンメイデン』を観た。

 「あ! オッドアイだよ!」

 翠星石だ。
 俺が最も好きなドール。

 「六花ちゃん、これいいよね!」
 「そうだな!」

 三人で楽しく話し合った。
 また、やるかもしれない。
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