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石神家本家 Ⅵ

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 虎白さんがタカさんを担いだ。
 みんなで麓の屋敷に戻った。
 畳に布団が敷かれ、タカさんはそっと寝かされた。
 まだシュワシュワしてる。
 全然意識は無い。

 私とハーは冷たい麦茶を貰った。
 綺麗な女の人たちが運んでくれた。

 「今、風呂の用意をしてっから。ちょっと待ってな」
 「「はーい!」」

 虎白さんが優しい人なのはよく分かった。

 「あの、虎白さん。同田貫のことなんですけど」
 「ああ?」
 「あれは虎影さんが持ってたんですよね?」
 「そうだ。虎影の兄貴が家を出る時に持ってった」
 「だから虎白さんが当主になったって」
 「あ? ああ、違うよ! 俺は兄貴に家を押し付けられたけど、当主なんてもんじゃねぇ。ただの預かりだ」
 「え?」
 
 虎白さんは笑った。

 「石神家当主はあくまでも兄貴の虎影だよ」
 「でも、虎影さんは全然石神家にいなかったですよね?」
 「そんなことは関係ねぇ。逆にさ、そうじゃなかったら同田貫を持ってられるわけねぇじゃん」
 「はい?」
 「当主でもねぇ奴が持ってったら、一族みんなで取り返しに行くぜ。そうじゃないから誰も行かなかったってことだ」
 「そうなんですか!」

 ハーと一緒に驚いた。

 「虎影は行方が分からなくなった。しばらく待っちゃみたが、いつまでも当主不在は不味い。だから10年前に高虎に連絡したんだよ」
 「ああ、聞きました」
 「虎影の行方は分からないって言うもんだからよ。じゃあ、お前が当主だって言ったんだよ。あいつ滅茶苦茶抵抗しやがってなぁ」
 「はぁ」
 「俺らでフルボッコにしてやった。そして当主になるか、家宝の同田貫を探し出して本家に戻すかって問い詰めてな。絶対に当主にはならねぇって言いやがったから、じゃあちょっと待ってやるってなぁ」
 「そうだったんですね」
 
 何となく事情は分かった。
 タカさんは断ったんで、そこで終わったと思っていたのか。
 
 「数年後にまた連絡したら、もう繋がらねぇ。住所にも出向いたがいなかった。探すのに苦労したぜ」
 「あはははは」

 「まあ、実を言えばすぐに分かったんだけどな。でも、高虎のことをいろいろ調べ、虎影の兄貴のことも探したりで、いろんなことが分かっちまったからな。ちょっと間を置いたんだ。あいつもいろいろ整理することもあっただろうしよ」
 「虎影さんのことも?」
 「ああ。道間に騙されたんだよな。知ってるよ」

 「「……」」

 私たちの口からは何も言えなかった。

 「高虎は知らなかったようだしな。俺らがまたあいつに当主になれって言えば、全部知らせなきゃならなかった。だからな」
 「「ありがとうございます!」」

 ハーと一緒に叫んで礼を言った。
 畳に頭を擦り付けた。
 タカさんの心を汲んで、そこまで待ってくれたことが有難かった。

 「でも、高虎ももう知っちまったんだろ?」
 「はい」
 「だからだよ。じゃあ、いよいよ決心してもらわねぇとな」
 「はい」

 私は疑問に思ったので、虎白さんに聞いてみた。

 「虎影さんの同田貫は、もう行方は分からないんでしょうか?」
 「タカさんが子どもの頃に折っちゃったって聞いてますけど?」

 「ああ! あれか!」

 虎白さんが大笑いした。
 部屋を出て、しばらくして一振りの刀を持って来た。

 「これだ」
 「「エェー!」」

 葵の御紋がある黒塗りの鞘。
 間違いなく、これが石神家の家宝の同田貫だろう。
 虎白さんが笑って抜いて見せてくれた。

 「よっと」

 途中で折れた刀身を抜き、鞘を逆さにして、奥の折れた刀身を落として見せる。

 「ほらな。これが石神家の同田貫だ。虎影が送ってくれたんだよ。手紙に自分が折ったって書いてあった。大事に保管しろってな」
 「そんな!」
 「もう自分は当主じゃないからってなぁ。そうはいくかって」

 「じゃあ、タカさんに同田貫を持ってきたらって言ったのは?」
 「無理じゃん」

 また虎白さんが大笑いした。
 他の人たちも笑っている。

 「高虎には絶対に当主になってもらうつもりだからな。それ以外の道はねぇよ」

 私とハーも大笑いした。

 「高虎が当主で、その子どもでもできりゃ、そいつがまた当主になんだろうよ」
 「あ! タカさん、子どもが生まれたんですよ!」
 「まじか!」

 虎白さんと他のみなさんが大騒ぎになる。

 「丁度虎白さんから電話が来た時です。もうすぐ生まれるって連絡で。タカさん、そっちへ向かう準備をしてたんですよ」
 「なんてこったぁー!」
 
 虎白さんが叫び、全員が動揺した。
 寝ているタカさんを蹴り飛ばす。

 「おい、高虎! なんでそんな重要なことを言わねぇ!」
 「こいつ! バカ過ぎだろう!」

 何人かが蹴る。
 またタカさんの身体から血が流れた。

 「おい! 起きろ! すぐに行くぞ!」

 「「えぇー!」」

 私とハーが叫ぶと、虎白さんがこっちを向いた。

 「おい、嬢ちゃんたち! 場所は分かるか!」
 「「はい!」」
 「どこだ!」
 「栃木です!」
 「おし! おい! 車を準備しろ! 高虎の車は誰か運転しろ!」

 全員が動き出す。
 あれ?
 みんなお酒を飲んでたけど?

 若い人たちが出て来た。
 ああ、なるほど。

 ハマーの他に4台の車が用意された。
 私とハーはハマーのナビを入れた。

 五台に25人と私たちが分乗し、六花ちゃんのいる「紅六花ビル」に向かった。
 ハマーにも虎白さんとあと7人が乗る。
 運転席の後ろのシートで、私とハーでタカさんを支えて座らせた。
 毛布を巻いている。
 まだまだ、シュワシュワだ。

 「おい、虎白! 後ろの荷台に酒が満載だぞ!」
 「なんだと! 高虎の奴! 隠してやがったか!」
 
 慌てて、タカさんが全部飲んでもらおうと持って来たことを話した。
 さっきまでは運びきれないのでまだここにあるのだと。

 「そうだったか! おい、みんなに配れ!」
 「おう!」

 瓶や函を並走する車に走りながら配って行く。

 「「……」」

 私とハーは「しょうがないね」と言い合った。





 4時間ほどで「紅六花ビル」に着いた。
 まだ、夜中の3時。
 辺りは真っ暗だ。

 私とハーで、ビルのチャイムを押した。
 何度か押すと、タケさんが返事をした。

 「ルーです!」
 「ルーちゃん!」
 「はい! 今タカさんを連れて来ました!」
 「すぐ開けるから!」

 ちょっと待つと、タケさんがガウンを羽織って出て来た。

 「こんな時間に……なんなの!」

 石神家のみなさんがいるので驚く。

 「あの、タカさんの石神家の本家のみなさんで」
 「え?」
 
 説明しようとすると、虎白さんたちが雪崩れ込んで来た。

 「何階だ!」
 「あ、あの!」
 「早く子どもの顔が見てぇ!」
 「え、でも」
 「何階だ!」
 「8階だよ!」

 私が答えると、みんながエレベーターに乗り込む。
 定員一杯で上に上がった。
 私もハーも乗り遅れた。
 大変だ!

 次のエレベーターでタカさんを抱えて乗り込む。

 8階に着くと、六花ちゃんが叫んでいた。

 「だれぇー!」
 「おう! こんばんは! 高虎の叔父の虎白だ」
 「だれぇー!」

 「おい、なんて綺麗な人だよ!」
 「外人さんか?」
 「でも、日本語だぜ?」

 私とハーが部屋に飛び込んだ。

 「ルーちゃん! ハーちゃん!」
 「六花ちゃん! 安心して!」

 タカさんをベッドに横たえた。

 「石神先生ぇー! イヤァー!」

 六花ちゃんが絶叫する。
 大変なことになった。
 タカさんは血まみれだ。

 「あのね! 大丈夫だから!」
 「この人たちにやられたけど、良くなるから!」

 「敵だぁ!」
 
 六花ちゃんがベッドに立ち上がって構える。

 「待てぇ!」
 「おい、落ち着けって!」

 虎白さんたちが慌てる。
 みんな日本刀を腰に挿したままだった。
 それを見て、ますます六花ちゃんが激高した。

 「よくも私の「虎」をぉー! 「グングニール」!」

 私とハーで飛びついて辞めさせた。

 六花ちゃんを落ち着かせるのに、1時間くらい掛かった。

 なんとかみんなに吹雪ちゃんを見せて、下に降りてもらった。
 私たちは六花ちゃんとタケさんに謝って、駐車場に降りた。

 「あの、今回はここまでということで」
 「おう! じゃあ、高虎によろしくな!」
 「はい」
 「俺らは帰るからよ! 嬢ちゃんたちにも世話になったな」
 「いえ、全然」

 みんなでハマーに積んだお酒を全部降ろして持ってった。

 「「……」」




 

 タカさんは丸一日眠って、目を覚ました。
 六花ちゃんのオッパイを飲んだ。

 「一番オッパイですよー!」
 「エヘヘヘヘヘ」

 嬉しそうだった。
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