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石神家本家 Ⅴ

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 「ハー、このままじゃ不味いね」
 「うん。幾ら何でもタカさん、限界だよね」

 二人でお肉を食べながら相談した。

 「今は宴会だけど、またやるのかな」
 「多分ねー」

 虎白さんが、タカさんが持っていた「虎王」に近づいた。
 他に数人が付いて行く。

 「おい、あいつ「虎王」って叫んでたよな?」
 「ああ。これだな」
 
 一人の人が刀を持とうとした。

 「ダメだ! 高虎の奴、本当に「虎王」の主になりやがったんだ」
 
 別な人が、もう一本を持とうとした。

 「おい! こっちも本物だぞ! 伝の通り持ち上げられねぇ!」
 「「虎王」は一振りだけのはずだろう?」
 「だけど、同じだ! 俺らじゃ無理だぜ!」
 「どういうことだ?」

 他のみんなも集まって行った。

 「こっちは北斗七星がある。徳川から預かってたものだよな?」
 「こっちは五芒星だぞ! こんな「虎王」は知らねぇ!」

 ワイワイと騒いでいた。

 「俺らで「虎王」を持ったら、もう無敵だぞ」
 「無理だぜ。主が決まっちまったら、もう動かせねぇ」
 「おう! 高虎の手足をぶった切ってみるか!」
 「やめてやれ! やるなら首を刎ねてやれよ!」
 
 『ワハハハハハハハハ!』

 みんなで大笑いした。
 そして何人かが、寝ているタカさんに近づいて来た。
 私とハーが立ちはだかる。

 「虎白さん! もうタカさんをいじめないで!」
 「こっからは私たちが相手になるよ!」

 私とハーで向こうにいる虎白さんに叫んだ。

 「アハハハハ! 嬢ちゃんたちがやるってか!」
 「そりゃ面白そうだな!」
 「軽くやってみっか?」

 一人の男の人がおどけて刀を抜いた。




 その瞬間、私たちの後ろで恐ろしい圧力が爆発した。




 「高虎!」

 近づいて来た人たちが、思わず後ろに下がった。
 タカさんが、傷口が開くのも構わずに立ち上がっていた。
 瀕死の息だったのに!

 「タカさん! 寝てて!」
 
 タカさんがユラリと動いた。

 「こ、こ、こはく……さん」
 「おう! なんだ!」
 「こ……こい……つら……に手を出したら……しょう……ちしねぇ」

 タカさんが両手を挙げた。
 また身体のあちこちから血が噴き出す。
 右足がまともじゃない。
 多分大腿骨が砕かれているので、折れ曲がっている。
 それでも、タカさんはしっかりと立っていた。
 タカさんの両手に、「虎王」が飛んできて握られた。
 その両腕から、また血が滴った。

 「今度は本気か!」
 「そ……だ……」

 全員が刀の柄に手を置いていた。
 私たちは涙を流しながら構えた。
 絶対にタカさんを守る!

 「ガァッハハハハハハハハハハハハーーー!」

 虎白さんが上を向いて大笑いした。

 「安心しろ、嬢ちゃんたち! もう何もしねぇ。「虎地獄」は終わりだ」
 「ほんとか!」
 「本当だ。ああ、もう終わってたんだよ。だからみんなで酒を飲んでた」
 「「え?」」

 「そいつがよ! 何だかキレちまって、あんな騒ぎになったんだ。おい! 高虎! お前、ちゃんと寝てろ!」

 後ろでタカさんが倒れる音が聞こえた。
 ハーと急いで駆け寄る。
 虎白さんと数人が近付いて来た。
 殺気は無い。

 虎白さんが、優しくタカさんの頭を撫でながら話してくれた。




 「こいつよ、俺らに何百回斬られても、絶対に俺らを斬ろうとしなかった」
 「「え!」」
 「全部受け太刀よ! ほら、見てみろ。誰も怪我してねぇだろう?」

 ハーと一緒に他の人たちを改めて見てみた。
 本当に全員、ちょっとの傷もない。

 「バカなんだろうな。俺らが本気を出させようと、何度も内臓までぶっ刺したのによ。まあ、持って来たすげぇ薬を頼りにしてたってのもあるかもしれねぇけどな。でも、それだって万能じゃねぇだろう」
 「そうです」
 「だよな? それでもこいつ、何もしねぇ」

 虎白さんが笑っていた。

 「さっきのだってよ。まあ、頭にも来たんだろうけど、いい加減に終わらせねぇと自分もどうにかなっちまうと思ったのかもな。人間ってよ、あんまり追いつめられるととんでもねぇことを考えちまうからな」
 「「……」」

 「虎白さん、どうしてこんなにまでタカさんを……」
 「あ? ああ! 何だよ、最初に言ったじゃねぇか。石神家の当主になってもらうためだよ」
 「「エェッーーーー!」」
 「だからみんなして、奥義を叩き込んでたじゃん」
 「ほんとに叩いてましたよね」
 「そうだよ! みんなああやって覚えるんだから」
 「無茶苦茶ですね」
 「そう言うなって。石神の血は、そうやって技を覚えるようになってんだ」

 虎白さんがウソを言っていないことが分かった。
 本当に綺麗な光の人だった。

 「まあ、全部覚えたようだぞ?」
 「え?」
 「高虎だよ! 本人は気付いてねぇかもだけどな!」

 みんなが大笑いしていた。

 「しかしよ! そんなことより」
 「「そんなこと……」」
 「高虎が、まさか「虎王」の主になってたとはなぁ」

 虎白さんは、長らく「虎王」の行方は誰も知らなかったと話してくれた。

 「徳川からの借り物だったけどな。虎之介の代で「虎王」に認められて「主」になっちまったから。そっからは石神で預かってたんだ」
 「そうなんですか!」
 「でもよ、幕末に突然地面から黒い腕が出て来てな。「虎王」を握って消えちまった」
 「それは……」
 「それ以来、行方知れずよ。探そうったって、どこをどうすればいいのか。それを高虎が持ってたとはな」
 「諏訪大社から、ある旧家に渡ったと聞いてますけど」
 「ああ、なるほどな! あそこはいろいろ日本の運命に関わるものが集まるらしいからな! そうか、そういうことか」
 
 「虎白、高虎は「虎王」を使わなかったよな?」
 
 誰かが言った。

 「ああ、「虎王」を使われたら、幾ら俺たちだってひとたまりもねぇ」
 「どういうことですか?」
 「「虎王」は攻撃すると途轍も無い防御を張るんだよ。攻防一体とかってレベルじゃねぇ。「極星結界」って言ってな。相手を攻撃すると、主を守る硬い結界が拡がるんだ」
 「そうなんですか!」

 「だけど、こいつは俺らをやっぱり攻撃しなかった。まあ、「虎王」だから、俺らの刀も何本もぶった斬られたけどなぁ」

 虎白さんが、タカさんの身体を見て言った。

 「おい! みんな! 高虎の身体を見てみろ! こいつ、こんなに疵だらけだぜ!」

 みんながタカさんを取り囲んだ。
 服はもうほとんど身体に貼りついていない。
 タカさんの肉体が露わになっていた。

 「まったくバカだぜ! こんなになるまで誰かを守って来たんだな」
 「やっぱ石神だな!」
 「ちげぇねぇ!」

 みんなが笑ってタカさんの身体を褒め称えていた。

 「「虎地獄」で一回も返さねぇ奴はいなかっただろう」
 「ビビってなかったな」
 「フリだけだったな」
 
 私はハーと抱き合って泣いた。
 タカさんは、やっぱスゴイ人だった!




 虎白さんを押しのけて、タカさんに抱き着いた。
 タカさんがほんとにちっちゃな声で呟いていることに気付いた。
 ハーと一緒に唇に耳を近づける。

 「ほんと、もうやめて……ごめんなさい……殺さないで……」

 「「……」」

 あれ?
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