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アラスカの蓮花 Ⅱ

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 翌朝、俺は5時に起きた。
 リヴィングに行くと、やはり斬が起きていて自分で茶を淹れて飲んでいた。

 「遅いぞ」
 「ふん!」

 俺が斬の真似をすると斬が笑った。

 「組み手に付き合え」
 「そのつもりで早起きしてやったんだよ!」
 「ふん!」

 着替えて訓練場に行った。

 「どこへ行くにも、これに乗るのか」
 「バカ広いからな。歩いてたら時間がもったいない」
 
 5分で野外訓練場に着いた。
 もちろん幾つもある中の一つだ。
 主に幹部連中が使う場所だった。
 栞や桜花たちも使っている。

 「組み手か?」
 「ああ」

 打ち合わせも無く、俺たちは始めた。
 もうお互いの力量は分かっているので、最初から飛ばした。
 高速起動で技を繰り出し、それを防ぐ。
 思い切り出来る相手なので、お互いに楽しい。
 俺も斬も、いつしか笑いながら技を撃ち込んで行った。

 大技も使うが、もう初動ですぐに止められる。
 「花岡」は二人とも通じない。
 自然に単純な格闘技の技の応酬になっていく。
 斬の身体がブレて消える。
 視界には捉えられないが、俺は余裕をもって防御し、カウンターを狙う。
 斬もそれは予期して、お互いに決定打が出ない。
 俺もリズムを変えながら斬の身体に撃ち込もうとする。
 しかし、斬も俺の攻撃は悉く防いでいく。

 30分もやり合い、終わった。
 冷たいコーヒーを用意して、テーブルに座った。

 「ふん! まだお前の本気は出せなかったか」
 「無理するな。お前はもう年寄りだ」
 「何を言う!」
 「アハハハハ! でも、最近なんか若返ったんじゃねぇのか?」
 「そう見えるか?」
 「ああ。でも俺の方が若いけどな!」
 
 斬が微笑んでいた。

 「お前には感謝する。あの粉末のおかげだ。まだまだわしも先がありそうだ」
 「だから無理するなって」

 斬が笑った。

 「お前、本当に幾つになったんだよ」
 「お前な、人間というのは生まれたら死ぬまで生きるだけよ! 年齢など無い」
 「うわー、すげぇいいこと言うな!」
 「ふん!」

 二人で栞の居住区に戻った。

 シャワーを浴びると、栞たちも起きて来て朝食を摂った。
 蓮花には言い聞かせていて、手伝わせなかった。

 「たまには全部人任せはどうだ?」
 「何か落ち着きませんですけど」
 「栞はすっかり慣れちゃったよな?」
 「わ、私だってたまにはやってるよ!」
 「桜花、正直に言え」
 「はい。月に一度は、私たちに作って下さいます」
 「月一!」
 「も、もうちょっとやるよ!」
 「お前なぁ、士王の教育にもなるんだからな!」
 「分かってるよ!」

 みんなで笑う。
 斬までが笑っていた。

 「斬、笑い事じゃねぇぞ」
 「そうじゃな。士王には母親の味が必要だ」
 「な!」
 「わ、分かったよ!」





 食事が終わり、千両たちも誘って、ハマーで原野に出た。
 千万組の中で手の空いている者も一緒に来たので、100人くらいになった。

 「蓮花、すげぇものを見せてやるよ」
 「はい?」
 「栞、ハーネスは付けたか?」
 「もうやらないよ!」

 俺は笑って千両と桜、斬にハーネスを付けた。

 「なんだ?」
 
 「ワキン! ミミクン!」

 俺が呼ぶと高空からワキンが、地平線から巨大なミミクンが来た。

 「ワキン! こいつらを遊覧飛行に連れてってくれ!」
 《かしこまりました、我が主》

 「ミミクン! いつものコースだ! 全員乗って大丈夫か?」
 《問題ありません、我が主》

 俺は蓮花を抱えてミミクンの上に跳んだ。
 他の千万組の連中も続いて乗る。
 栞が士王を抱いて俺の隣に来た。

 「おい! お前!」

 斬の叫び声が聞こえた。
 振り向くと、千両と斬がワキンに上空へ連れて行かれた。

 「おお、行ったな!」
 
 みんなで大笑いした。
 蓮花は俺にしがみつきながら、人間が味わうはずのない「散策」を楽しんでいた。
 度々俺の顔にしがみつき、嬌声を上げて喜んだ。

 「おい、騒ぎすぎだぞ!」
 「石神様! 楽しゅうございます!」

 本当に嬉しそうにしている蓮花を見て、俺も楽しかった。
 ここへ連れて来て良かったと思った。

 ミミクンに景色の綺麗な場所を回ってもらい、戻ると斬と千両が地面に両手を付いていた。

 「お前ぇ!」
 「楽しかったろ?」
 「あの鳥! 「花岡」が通じん!」
 「ワハハハハハ!」

 千両は普通の顔をしている。
 大した根性だ。

 「千両! また冥途の土産だったな!」
 「はい!」

 桜は予想通り、気絶していた。

 



 昼食後、俺たちは日本へ戻る。

 「千両、どうだった?」
 「はい、皆に会えて楽しゅうございました」
 「また連れて来るからな」
 「はい、よろしくお願い致します」
 「桜は?」
 「はい、自分も本当に有難く」
 「お前はそのうち、本当にここに詰めるかもしれんからな」
 「はい! いつでも!」
 「それに、今他の土地にも拠点を計画している。間違いなく桜には一つを任せるつもりだ」
 「はい!」
 
 桜が嬉しそうに笑った。

 「おい、あれを見ろよ」

 斬が士王を栞に手渡した。
 小さく手を振っている。

 「あいつ、戦場で何千人ぶっ殺したのよ」
 「「ワハハハハハハ!」」

 「蓮花はどうだった?」
 「はい、この世とは思えないほどの驚きと楽しさを味わってございます」
 「そうか!」
 「元はしがないOLでしたのに」
 「ワハハハハハハハ!」




 

 《人は正しきものを強くできなかった、だから強いものを正しいとしたのである。 
 ( Et ainsi ne pouvant faire que ce qui est juste fut fort,
  on a fait que ce qui est fort fut juste.) 》 ブーレーズ・パスカル『パンセ』より 

 俺たちは間違っているのかもしれない。
 だが、俺たちにはこの道しかない。 
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