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アラスカの蓮花

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 蓮花の研究所には昼前に着いた。
 蓮花がいつもの彼岸花の着物ではなく、真っ白のレースの服を着ていた。

 「お前! いつもと違うじゃんか!」
 「そうでございますか?」
 「俺の前では常にあの服だって言って無かったか?」
 「さぁー」

 ミユキが大笑いしていた。
 蓮花が笑って俺の荷物を持ち、中へ入れた。
 ティーグフで食堂に行くと、斬と千両が待っていた。

 「よう! 遅くなったな!」
 「ふん! 今日はまともな時間に起きたようだな」
 「お前、分かんのかよ!」
 「当たり前じゃ」

 どうでもいいじゃんか。
 俺たちは蓮花の食事を食べた。
 斬も千両も、食事の所作が美しい。
 俺が好ましいと思う人間の重要なことだ。
 食事は神聖だ。
 だから、美しく食べようとしなければいけない。
 いい加減なものを喰う奴、だらしない喰い方をする奴は嫌いだ。
 まあ、うちの子どもたちの「喰い」は別だが。
 あれも、見方によっては美しい兄弟の愛情だ。
 「喰い」以外は、俺の躾で美しく喰える。

 「蓮花、その恰好で行くのか?」
 「はい!」
 「それも綺麗だけどな!」
 「はい!」

 食事の後で、すぐに出発だ。
 1時には「タイガー・ファング」が到着する。
 俺たちは急いで荷物を発着場へ運んだ。
 蓮花がでかいスーツケースを持って来たので、俺が運んでやる。
 青嵐と紫嵐と挨拶し、すぐに乗り込んだ。




 「タイガー・ファング」は10分でアラスカへ着いた。
 蓮花と千両のために、「虎の穴」の上空を旋回する。
 下の景色が、正面のスクリーンに映し出され、蓮花が喜んだ。

 「あれが「ヘッジホッグ」なのですね!」
 「そうだ。スゴイだろう!」
 「はい! いつか研究所にも」
 「ああ、準備は進めているからな」

 「あ! あちらが「アヴァロン」ですか!」
 「ああ、美しい街だろう?」
 「はい! なんという配列でしょうか!」
 「後で案内するからな。ああ、大きな都市だから全部は回れないけどなぁ」
 「はい! 楽しみです!」

 今は夜の7時だ。
 夜景になっているのが良かった。

 基地の発着場に降りた。
 電動移動車で栞の居住区へ行く。

 「あなたー! おじいちゃん! 蓮花!」

 栞がエレベーター前まで出迎えに来た。
 士王を抱いている。
 斬の顔が綻んだ。
 俺は蓮花によく見ておけと言うと、蓮花が大笑いした。

 「な! ほんとだったろ?」
 「はい! びっくりです!」

 斬は俺たちを見て一瞬顔を歪めたが、すぐに士王に笑顔を向けた。
 士王を抱き上げてあやしている。

 「おじーちゃん」
 「おお!」

 また蓮花と笑った。
 千両も微笑んでいた。

 部屋へ入り、士王をみんなで抱き上げる。
 千両も笑顔で抱いた。
 蓮花は嬉しそうに士王に話し掛け、士王も蓮花に笑顔で懐いた。
 桜花たちは顔をくしゃくしゃにしながら蓮花に抱き着いた。
 蓮花も目を潤ませた。

 「よし! 食事に行くぞ!」

 みんなで電動移動車に乗り、「ほんとの虎の穴」へ行く。
 千万組で来れる者は全員集まっている。

 俺たちが着くと、200名近い連中が待っていた。
 千両と桜を見て、大歓声を挙げた。

 俺と栞、蓮花、斬、桜花たちは同じテーブルを囲む。
 千両と桜は、千万組の中だ。
 酒と料理が運ばれ、大宴会になった。
 
 「みんな、楽しそうね」
 「ああ、久し振りだからなぁ。元々千両に惚れ込んでみんな集まってたのによ。俺が勝手にこんな地の果てまで連れて来ちまったからな」
 「ウフフフフ」
 「お前も楽しそうだな!」
 「ふん!」

 斬は士王の食事を自らやっていた。
 スプーンで掬って、口に持って行ってやる。
 士王も慣れていて、口に入れて行く。

 「斬、お前ここで暮らしたらどうだ?」
 「ふん! まだやることがあるわい」
 「まあ、いいけどよ」

 幸福になるために生きている男ではない。
 千両たちはこのまま宴会だが、俺は蓮花と桜花たちを連れて「アヴァロン」へ行った。
 栞と士王、斬は居住区へ戻る。

 「あんまり遅くならないでね」
 「ああ。じゃあ、頼むぞ、おじいちゃん!」
 「ふん!」

 俺がいてはしにくい話もあるはずだ。
 ゆっくりとしてもらいたい。





 電動移動車で「アヴァロン」に行き、一度降りて街を歩いた。

 「大分人も増えて、いろんな店がやってるんだよ」
 「はぁ! 本当に素敵な街ですね!」

 蓮花が喜んでいた。
 硝子を多用した建物が多い。
 高さも計算されて美しい景観になるように設計されている。
 道も歩道が広く、また所々に広場のような空間が余裕をもって設けられている。
 思わずベンチに座って時を過ごしたくなるような街並みだ。
 パピヨンに任せて本当に良かった。

 「街灯も素敵ですね」
 「そうだよな。通りによっても違うし、また商店やビルの灯も計算されていいんだよな」
 「はい」

 桜花たちも何度かは来ているだろうが、あまりゆっくりと歩くことは無いようだった。

 「士王がもうちょっと大きくなったら、一緒に来てくれな」
 「「「はい!」」」

 俺たちは広場に面したカフェに入った。
 大きなガラスに囲まれた造りで、広場が一望出来る。
 
 「何か、もったいないような時間ですね」
 「お前は働き過ぎだ! もうちょっと余裕を持て」
 「アハハハハハ!」

 「蓮花様、今日のお召し物は素敵ですね」
 「そう?」
 「はい。いつものお着物も宜しいのですが、洋装も素敵です」
 「ウフフフフ」

 「こいつ、若い頃はOLだったっていうんだからなぁ」
 「まあ! そうなんですか!」
 「な、驚くよな!」
 「じゃあ、スーツを着ていらしたんですか」
 「そうよ! おかしい?」
 「はい!」

 みんなで笑った。

 「研究所では普段は白衣ですけど」
 「まあ、着物はおかしいよなぁ」
 「石神様の前でだけです」
 「蓮花の着物はいいけどな」
 「ほんとうでございますか!」
 「ああ、似合ってるよ」
 「この服はどうですか!」
 「お前、今日は突っ込んで来るな」
 「それはもう! この日のために考え抜いて選んだものですので」
 「もちろん綺麗だよ」
 「オホホホホホ!」

 蓮花が浮かれていた。
 この女がこんなにも喜んでくれるとは思わなかった。
 今後の拠点の一つにもなるから、案内しておこうというつもりが大きかったのだが。
 まあ、少し分かる。
 自分たちが懸命にやってきたことが、こうやってちゃんと形になっていることが嬉しいのだ。
 無我夢中で走って来て、その景色を眺めている。
 俺たちは前に進んでいる。
 この美しい光景を生み出す、一助となったことが嬉しい。

 その後、「ほんとの虎の穴」に戻り、みんなで酒を飲んだ。
 蓮花は終始楽しそうだったし、桜花たちも笑って過ごした。
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